常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第二十三陣

 過去を断つ一撃。その一振りは、確かに祐斗にとって一つのケジメとなった。

 

 『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)

 

 それが、彼の到達した禁手(バランスブレイク)

 複数のイレギュラーが絡み合った結果至った、相反する二つの属性を宿した聖魔剣。

 

 その存在は、バルパー・ガリレイに良からぬ可能性を齎した。

 

 だが、

 

「「「ッ!?」」」

 

 突然の衝撃と巻き起こった粉塵が、彼の結論を遮った。

 何が起きたのか。その場に一同の視線が集まる。

 

「ッ、ここまで一方的なのは、父さん以来か………?」

 

 粉塵が晴れグラウンドに蹲るのは、かなりボロボロにやられた仁郎の姿っだ。

 右手に握る神器は負い紐が切れたせいで鞘が吹き飛び、その刀身の無い役立たずの様を露にしている。

 仁郎自身も五体切断のような取り返しのつかない重傷こそ負っていないものの、それでも頭から血を流し小さくない切り傷や打撲痕が見て取れる。

 吹っ飛んできた仁郎に続いて、この場にやって来たコカビエル。

 その体には、服の汚れがあれどもそれ位でダメージらしいダメージは一つも無かった。

 

「くっく……中々にやるな。だからこそ、惜しい。貴様の神器が真面に戦える代物であったのなら、俺ももっと楽しめただろうが」

 

 嘲笑うコカビエル。

 対して、グレモリー眷属には緊張が走る。

 仁郎の強さは、それだけ信頼を得ていた。ライザー戦でそれはもう鮮明に印象付けるほどに。

 そんな彼が、ほぼ一方的に押し込まれた。それだけで、士気を挫くには十分すぎた。

 

 もっとも、ソレが彼らに諦めるという選択肢を採らせる理由にはならなかったが。

 

「ほう?向かってくるか」

 

 傷を負った仁郎をアーシアに任せ、残りの面々はコカビエルと相対する。

 聖剣、聖魔剣、赤龍帝、滅びの魔力。錚々たる顔ぶれだろう。

 その中の一つを視認して、コカビエルはその目を細めた。

 

「それは……成程、ここでその影響が出るのか」

「ガッ!?コカ、ビエル……!?」

 

 呟きながら振るわれた手より、光の槍が飛びバルパー・ガリレイの胴を刺し貫く。そのまま光が強まり、外道はこの世からアッサリと消滅してしまう。

 まさかの仲間割れ。その真意を、リアスが問う。

 

「どういうつもり?」

「何がだ」

「バルパー・ガリレイの事よ」

「フッ……俺は、聖剣に興味があってな。その為に必要だったが……所詮は劣化品。統合した所で、本来の性質には程遠かった。それよりも、」

 

 スッと、コカビエルが指さす先。

 それは、聖魔剣を構えた祐斗である。

 

「その剣だ。お前たちは、何故そのような禁手が成立したのか知りたくはないか?」

「何の話だ」

「本来、『魔剣創造』の禁手は別のものだ。では、何故そのような事が起きるのか。お前たちは、かの子の大戦を知っているか?」

「…………お喋りなのね」

「くっく、所詮は余興だ。お前たち如き、何の障害にもならん。だが、冥土の土産という言葉もある。ほんの戯れだ」

 

 大袈裟に両手を広げるコカビエル。

 事実として、彼にとって目の前の悪魔たちも聖剣使いも、何れも木端でしかない。

 故に気紛れを齎した。

 

「あの大戦は、実に愉しいものだった。血で血を洗い、喉を潤す。消して、消し飛ばされて。殺して、殺されて。その果てに、俺達は多くの幹部を、悪魔は魔王を――――そして、天界は神を失った」

「「え――――」」

 

 反応が大きかったのは、信徒であるゼノヴィアと信仰を持つアーシアの二人。だが、彼女らだけでなく他の者達も小さく無い衝撃を受けていた。

 聖書の神の死。世界的に見て最大級の神格が存在しないという事実。

 コカビエルの言葉は続く。

 

「神は死んだ、という奴だ。過去の大戦で、魔王と同じく力を使い果たし聖書の神は死んだ。その結果の一つが、その聖魔剣だ。聖剣と魔剣の性質を併せ持つ?フッ、本来相反する力が一つの器に同居する事など無い。だが、禁手という形でそこに聖魔剣は存在する。即ち、聖と魔の境界線があやふやとなっている事だ。魔王と神の死によって!」

 

 滑稽だ。そう言わんばかりにコカビエルは、呵々大笑。

 神の死は、天界においてもトップシークレット。そして、その影響力を加味して悪魔側も堕天使側も外に吹聴する事はまず無い。

 宗教というのは、信仰対象が居て初めて意味を成す。そもそも、宗教の成り立ちがそういう物なのだから当然だが。

 その信仰対象が、死んでいる。これは、聖書陣営の根幹を破壊しかねない。

 信仰を集められない宗教は、その果てに待つのは消滅だ。ただでさえ、神の死によってそのシステムに不具合が多数発生しているというのに軸である信仰その物が無くなってしまえば、言わずもがな、である。

 現に、神への信仰を軸としていたアーシアとゼノヴィアはその瞳から光を消して絶望一色に染められていた。

 彼女らの様子に満足したのか、コカビエルは右手を持ち上げる。

 

「さあ、幕引きと行こうか。なぁに、貴様らが死んだ後にこの町も綺麗に消し飛ばしておいてやる」

 

 出現するのは光の槍。その穂先が狙いを定めるのは、

 

「弱いデュランダルの使い手など話にもならん。消えろ」

 

 膝をつく、ゼノヴィア。

 手首の動きに連動して放たれた破壊の一撃。

 情報のショックから抜け出せない現状、防ぐことは愚かその場から逃れる事も難しい。

 光が迫り、

 

「月島流、富嶽返しッ!!!」

 

 間に割り込む侍。

 柄頭を空へと向けるようにして腕を捻りながら、神器の柄を迫る光の槍の穂先へと合わせた。

 拮抗はしない。踏ん張る仁郎の体は見る間に押し込まれていく。

 

「~~~~ッ!ぐっ!!」

 

 ならば、作戦変更。

 受け止めるのではなく、受け流す。右ひじを跳ね上げるようにして上体を回し、受けていた光の槍を斜め上の空へと流したのだ。

 その反動で吹っ飛ぶ仁郎の身体。それは、目を見開いて堕天使の一撃を受け止めて自身を守った少年の背を見ていたゼノヴィアの方へ。

 咄嗟に、受け止めた。勢いあまって、もんどりうって転がってしまうが。

 

「ッ、悪い……ゼノヴィア」

「い、いや大丈夫だ………」

 

 ゼノヴィアの腕の中から起き上がる仁郎。

 返事をする青髪の戦士は、出会ってから纏っていた雰囲気を完全に失っていた。まるで、親とはぐれた子供のように頼りない。

 戦場に引き戻すのは酷。そう判断し、仁郎は立ち上がると刀身の無い柄を両手で握り、再度コカビエルと相対する。

 

「そんなガラクタで、まだ向かってくるか」

「向かってくるのが嫌なら、自分を殺す事だな。言っておくが、自分はしつこいぞ」

「……ああ、実感している」

 

 最低限のアーシアの治療を受けたとはいえ、その体は傷だらけである事は確か。今も、体の節々を鈍痛が襲っているのだから。

 それでも、月島仁郎の足は止まらない。

 コカビエルは、漸く興味を覚え始めていた。

 

「小僧。何故向かってくる。貴様と俺とでは、天と地ほどの差がある事は分かっているだろう」

「ああ」

「ならば何故だ。そもそもただの人間である貴様に、命を懸けて戦う道理があるのか?」

 

 コカビエルの指摘。

 確かに、種族や所属を見ても仁郎が命を懸ける筋合いは、本来ない。

 一応、共同戦線を張る為に動きはしたが、やはり本来は部外者である。

 痛みからの脂汗を流し、仁郎は眉を上げた。

 

「お前がこの町を潰すと言ったんだろう?」

「ああ、そうだな。だが、お前だけは命を救ってやってもいい。俺の闘争の手助けをさせてやろう」

 

 堕天使幹部からの勧誘。それは、確かに破格な物。それこそ、自己保身に長けているものならば喜んで食いつくかもしれない。

 ただ、生憎と(月島仁郎)()()()()()()()()()

 

「受けないと分かってる勧誘は、意味がないだろう?」

「フッ、そう言うな。これは、様式美という奴だ。何より、疑問を抱いているのは本当だからな」

「…………」

 

 命を懸ける。それを実際に行動へと移せる者が、いったいどれほど居るだろうか。

 仁郎は息を吐き出した。

 

「はぁ…………自分の、誓いの為だ」

「誓い?」

「そうだ。自分の背に庇う誰かが、恐怖で振るえないように。安心して過ごせるように」

 

 それは、誰よりも大きな背中を見てきた少年の矜持。

 

「友が、先輩が、命を懸けるのに、自分一人安全圏に居られるものか」

 

 守ると決めて、戦うと誓って、戦場に立ったのは全て仁郎の意思だ。

 種族的に見れば、誰よりも弱い。神器も使い物にならない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っくっく……ならば来い。その誓いと矜持ごと、捻り潰してやろう」

 

 言うなり、コカビエルの背後には百に迫る光の槍が現れる。

 たった一本ですら真面に止められないというのに、ソレが百に迫る数で穂先を向けてくる絶望。

 それでも、

 

「来いッ!!!!」

 

 一歩も引かない。

 例え死んでも、魂すらも磨り潰されても、それでも月島仁郎は最後の、最後の、最期まで引き下がる事は決してあり得ない。

 

『“死なせはせぬとも”』

 

 極限にまで引き延ばされた時間の中で、仁郎の内に声が響いた。

 

『“そなたが望まずとも、我はそなたの死を望まない”』

 

 その声に呼応するかのように、仁郎の握る柄。その(はばき)より光が溢れる。

 

『“奈阿と月島の子よ。共に行こう”』

 

 声が途切れ、引き伸ばされた時間が急速に戻ってきた。

 同時に、殺到する光の槍の群れが()()()()()()()()()()()

 その光景に目を見開いたのは、コカビエル。

 

「何だ、ソレは………」

 

 彼が見つめる先。そこに立つのは、一人の少年。

 

 手に握るのは環頭大刀拵えの柄。透かしの施された柄頭の装飾に、飾り気のない楕円形の鍔。

 

 そして何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 白色の光刃。蝶の翅を思わせる紋様が浮かび上がる、一メートル程の光の刃。

 その切っ先が今、コカビエルへと向けられていた。

 

「――――常住戦陣……!」

 

 『常世ノ太刀』――――刀身顕現。

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