常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第二十四陣

 神々しさすら感じる。

 光刃を目の前にして、コカビエルは妙な苛立ちを覚えた。

 堕天使はその成り立ち上、神を嫌っている節がある。或いは、大なり小なり思う所がある。スケベ根性で堕ちた者も珍しくないが。

 苛立ち混じりに、その手に握る光の槍。

 

「何だ……何なんだ、貴様は」

「それが今、大事か?」

「ああ、重要だ。貴様が握るまで、真面に機能していなかった神器だぞ?ガラクタが武器となったのだ、神器にそれ程興味が無かろうとも気にはなる、そうだろう?」

 

 そう言われ、仁郎はチラリと手元とに視線を落とす。

 正直、彼にも何が起きているのか分からない。

 声が聞こえて、刀身が現れ、更に体の内側から今まで感じた事がない程に力が溢れてくる。

 自分の身体に何が起きているのかは、分からない。

 だがしかし、()()()()()()()()()()()()()

 

「どうでも良いだろう?自分がお前を斬って、それで仕舞いだ」

「………フッ、抜かせ小僧がッ!!!」

 

 戦闘開始。

 その一歩目で、仁郎は己の変化を如実に実感する事になる。

 

(!体が、羽のように軽い……!)

 

 ダメージを負って鈍っていた体が、百パーセント万全の時以上のフィジカルを発揮している。

 更に良いのが武器の強化だ。

 振り下ろされた一刀。それを防ぐように持ち上げられた光の槍。

 真正面から両者がぶつかり、真っ赤な火花を散らして押し合い――――

 

「ッ、何だと……!?」

 

 軽い驚愕と共に、コカビエルは飛び下がる。

 見れば、彼の光の槍は断ち切られていた。対して、『常世ノ太刀』を振り下ろした格好の仁郎は不敵な笑み。

 彼のこれまでの人外との戦闘は、常に武器の不利を背負ったものだった。だが、神器がちゃんと起動して顕現した刀身のお陰でこの不利を解消。ないしは、武器としての性能はこの場においてもトップクラスだろう。

 とはいえ、喜んでばかりもいられない。

 仁郎は発現したばかりの力の制御に四苦八苦。そして、月島流剣術は豪快さの中で全身の活力を如何に発揮するかが重要となる。

 手探りをしながら、コカビエルと切り結んでいく。

 

 突っ込んだ背中を見送り、リアスは直ぐに次の行動を起こしていた。

 

「イッセー!今すぐ倍加を始めて頂戴!そして、最大限になった所で私に譲渡するのよ!」

「えっ……は、はい!!」

 

 唐突な指示に固まった一誠。だが、直ぐに気を取り直して倍加を始める。

 突然の指示に、しかし疑問前に鋭い声が飛ぶ。

 

「朱乃、祐斗、小猫は、ジローのフォローに回って!無理に攻撃に参加するんじゃなくて、コカビエルの意識を逸らす程度で良いわ!ほら、行って!」

「で、ですが、部長。今のジロー君なら――――」

「ええ、今のジローならコカビエルにも勝てるかもしれないわね。でも、あの子はアーシアの治療を受けても()()()()()()()()

「「「!」」」

「激しく動けば、塞ぎかけの傷がまた開くかもしれない。だからお願い。あの子を死なせる訳にはいかないの」

 

 リアスの懸念はそこだった。

 コカビエルと同様に、仁郎の神器がその刀身を顕現させた姿を目の当たりにしてリアスは神々しさをやはり覚えた。その身体能力は自身が見た中でもトップクラスである事も分かった。

 その上で、危ういとも。

 一誠に熱を上げているとはいえ、それはそれ。彼女は眷属、もといオカルト研究部の面々を心の底から大切にしている。勿論、仁郎の事もだ。

 頼りになる後輩。自身の婚約破棄にも尽力してくれた恩人。恋愛感情は無くとも、親愛感情は溢れんばかりにある。

 駆け出した三人を見送って、リアスは呆然と座り込むアーシアの元へ。

 

「アーシア!」

「……部長さん………」

「無理に動かないで。貴女のショックは……完璧に分かるとは言えないけれど、それでも心に深い傷を負ったのは分かるわ。ただ、これだけは聞いて頂戴」

 

 そう言い、リアスはアーシアの両肩に手を置く。

 

「この戦いの後、貴女の力が必要なの。必須ね。だから、お願い。あの子たちの無事を祈っていて」

「祈る……で、でも、主は…………」

「ええ、そうね。でも違うの。私が言う祈りは、貴女自身の心の優しさよ」

 

 揺れていた聖女の瞳が、そこで初めて紅髪の悪魔の瞳とぶつかった。

 

「神じゃなくて良い。ただ、貴女が無事を祈ってくれるだけで良いの。待っていて頂戴」

 

 それだけ言って、リアスは立ち上がった。

 “祈る”という行為は、神や仏に対しての願いという意味と、もう一つ心からの望みや希望という意味合いもある。

 アーシア・アルジェントに戦う力はない。だが、その彼女の優しさは戦う者達への安らぎと力になる。

 そして、立ち上がるもう一人。

 

「リアス・グレモリー」

「何かしら」

 

 聖剣を手に立ち上がったゼノヴィアがリアスへと声を掛ける。

 

「私も、戦線に加えてもらおう」

「…………戦えるの?」

 

 リアスの優しさは止まる事を知らないらしい。その声色には、心配が滲む。

 だが、ゼノヴィアとて何もヤケッパチになっている訳ではなかった。

 

「ああ。ショックはある。だが、だからといってこのまま膝をついて何もしないのは、私の性分ではないからな」

「……分かったわ。でも、一つだけ言っておくわ」

「なんだ」

「死なないで。貴女が死んだら、悲しむ人も居るでしょう?」

「…………」

 

 その言葉に、ゼノヴィアは改めて自身の視野の狭さという物を痛感させられた。

 無論、悪魔の全てがリアスの様に愛情深い訳ではない。寧ろ、冷酷非道で自分勝手なものが多い方だろう。

 だが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ではないが悪魔として一括りに全てを消滅させるのはまた違うのではないか。そう思わされる。

 

 一方でコカビエルと戦う面々もまた激しさを増していた。

 

「月島流、富嶽虎逢断ち!!」

「チィッ!」

 

 振り上げられた光刃によって刻まれる三本の切り傷。

 これを、コカビエルは光の槍を盾に受けたが、その体は空へと弾かれた。

 黒い翼を大きく広げて、コカビエルは眼下を睨む。

 光の槍は斬られてしまうものの、それでも一発で豆腐の様に断ち切られる訳ではない。三十秒程度は持つ。一瞬の接触程度ならば問題ない。

 ただ、()()()()()()()()

 

「雷よッ!!」

 

 指先から紫電が走る。受ければ黒焦げになりそうな威力だが、最上級堕天使の翼を貫くには威力不足。

 

「バラキエルの娘か」

「ッ、あの人は関係ありません!!」

 

 怒りをそのまま威力に変えて。矢鱈目鱈に雷が走った。

 雷だけではない。

 

「ムッ」

 

 出鱈目な機動を描いて四方八方から回転しなが迫る聖魔剣。どこから掘り起こしたのか、土まみれの岩の塊。

 何れも、コカビエルにダメージを与えるには微々たるものだが、こうまで周りを騒がしくされれば気を散らされるという物。

 それは、隙となる。

 

「月島流――――」

 

 一筋の彗星が迫る。

 

「――――富嶽、天砕き!!」

 

 飛び上がりながら放たれる斬り上げが、コカビエルを襲う。

 直前で光の壁がこの一撃を阻んだが、ずっとそのままとはいかない。

 

「チィッ……!」(忌々しい!何故、こうまで神の気配を漂わせる……!)

 

 亀裂の入る光の壁。同時に、コカビエルの意識が迫ってくる仁郎へと集まった。

 瞬間、走るのは聖なる一撃。

 

「墜ちろ、堕天使!!」

 

 小猫のトスを受けて空高く飛び上がったゼノヴィアだ。

 彼女の振るう聖剣『デュランダル』は、世界最高峰の聖剣の一つ。

 特徴的なのは、その暴力的なまでの破壊力とそこに付随する聖なる力だろう。担い手次第だが、その切れ味は空間すらも切り裂くとか。

 もっとも、今代の担い手であるゼノヴィアはまだまだ未熟者。その膨大な聖なるオーラをそのままコカビエルの背後から、その背中へと叩きつけるに留まった。

 威力は十分。叩き落すには余りある。

 グラウンドに盛大な土埃が舞い起こった。

 

「………フンッ、浅知恵ではあるが及第点程度は加えてやろう」

 

 粉塵が振り払われ、コカビエルは自身の服についた汚れを払う。

 堕天使にも聖剣はかなりのダメージを与えるが、如何せん両者の間には実力差が聳え立っている。如何に強力な聖剣でもその実力は半分発揮できていれば良い方か。

 

「コカビエル!!」

 

 そこで声が響く。

 見れば、魔力によって輝きを宿した紅の髪を揺らしたリアスが叩き落されたコカビエルへと手を向けていた。

 『赤龍帝の籠手』には、倍加ともう一つ、譲渡の力を有している。

 この力は、他者へと一誠が倍加した力を渡す事が出来、単純ながらも強力なものだ。

 今のリアスは、この譲渡によって元の力の十数倍以上の力を発揮していた。

 

「滅びなさいッ!!」

 

 放たれるは、どす黒い魔力。

 バアル家に伝わる、滅びの魔力であり。その名の通り、ありとあらゆる存在を滅ぼす事が可能な破壊力特化の魔力特性。

 本来であれば、如何にリアスといえどもコカビエルには通じる事が無い一撃。だが、今の彼女は譲渡の力によって最上級悪魔クラスの出力を有する。

 迫る魔力を前に、コカビエルの選択は迎撃。

 両手に光の剣を出現させると両手で叩きつけるようにして、光の一撃を叩きつけていた。

 

「ぐぅぅぉぉぉぉおおおおおああああああああ!!!!」

 

 拮抗状態。滅びの魔力が光を喰いつくさんとし、光が魔力を浄化せんと輝きを強める。

 果たして、軍配が上がったのは――――後者だった。

 光の剣がグラウンドへと叩きつけられ、滅びの魔力が霧散する。

 

「………ふぅぅぅ……悪く無い一撃だった。成程、赤龍帝の籠手か。雑魚も使い様という事だな」

「ッ、まだよ!」

 

 再び放たれる滅びの魔力。だが、先程の倍加の後押しを受けた状態と比べれば雲泥の差。

 光の剣に切り払われて、コカビエルは空へと飛び上がった。

 

「終わらせるとしよう。そして、新たなる戦乱の幕開けだ!!」

 

 叫び、コカビエルは両手を大きく左右へと広げる。

 数多の光の槍。それが、今まさに雨あられと降り注ぎ――――

 

「月島流」

 

 別の()()降ってきた。

 慌てて空を見上げたコカビエル。その先で、黒い瞳と目が合った。

 高々と『常世ノ太刀』を掲げた仁郎が、今まさにコカビエルの元へと落ちてくる。

 咄嗟に、その両手に光の槍を携えてコカビエルは羽を翻した。

 落ちてくる白と昇る黒。

 

 激突。

 

――――超本気富嶽鉄槌割り!!!!

 

 振り下ろされた一撃は、グラウンドは愚か学園を覆う結界すらも揺らして砕き、浮かんでいた光の槍の雨すらも飲み込んで堕天使幹部を地へと叩き伏せる破壊力。

 コカビエルが叩き落されてグラウンドが陥没し、出来上がったクレーター。

 その中央で大の字で地面に半分埋まった堕天使幹部は白目を剥いてピクリとも動かない。

 傍らに着地した仁郎。思わず、膝をついてしまう。同時に、顕現していた光刃がまるで空気中に解けるようにして消えてしまった。

 

 フラフラとする意識の中、仁郎が最後に見たのは駆け寄ってくる仲間たちとそれから、

 空より降ってきた一条の白銀であった。

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