常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第二十五陣

「これから世話になるぞ、ジロー」

「ああ、よろしく」

 

 差し出された手を握り返して、月島仁郎は笑みを浮かべた。

 

 あれから、色んな事が起きた。その中でも特に大きな出来事は二つ。

 一つは、コカビエルの回収へとやって来た存在。

 

 白竜皇。一誠のライバルを運命づけられた存在。神滅具『白竜皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を有した存在だ。

 自在に禁手する事も可能と、一誠の遥か先を行っておりそのタイミングで仁郎が倒れていた以上戦闘になればまず間違いなく全滅していた。

 幸い、相手は最低限の仕事を果たして去って行ったのだが、肝が冷える出来事だ。

 

 もう一つの出来事は、聖剣の回収と、そこからの別離。

 具体的には、ゼノヴィアが悪魔となった。

 原因は、神の不在を教会に問うてしまったから。当然、上層部は不都合を知る存在を容認できない。

 結果、仕事の成功と相殺。吹聴しない事を条件に、破門という形で教会を追い出される事になる。更に、イリナとは喧嘩別れの始末だ。

 そのままリアスの眷属となったゼノヴィア。だが、この猪突猛進っぷりで困ったのが彼女の住む場所だった。

 一応、資金面は王であるリアスからの支援がある。これに関しては、眷属の面倒を見る延長線上の話の為そこまっで揉める事は無い。

 問題は、住む場所だ。

 

 彼女が頼ったのは、仁郎。そして、仁郎はアッサリと頷き了承してしまった。

 部屋は余っている。金銭面は困窮していない。悪魔一人増えた所で特に困らないというのが、仁郎の主張。

 そしてゼノヴィアはというと、彼女は剣の師を求めたのだ。

 彼女から見て、月島仁郎の剣術は技術を持ち合わせながらもその本質は力による制圧と見た。

 実際、月島流剣術は剛剣を主体とした殺人剣だ。その破壊力は、恐らく現状の駒王町にある戦力の中でもトップクラス。

 

 彼女は、これだ!と思ったらしい。そして、長年の教会の規範から解き放たれた猪娘にブレーキは無い。

 

 広々とした月島邸に、一年振りの住人だ。

 仁郎が案内したのは、日当たりのいい和室の一つ。

 

「とりあえず、ここを使ってくれ。布団は干してるから、夜には使える筈だ」

「ああ、ありがとう」

「食事に関しては、アレルギーがあれば言ってくれ。好き嫌いは一考するが、基本は無視する」

「それも、了解した……時に、ジロー」

「ん?」

「お前は、童貞か?」

「ブッ!?い、いきなり何言いだすんだ!?」

 

 思わず吹き出してしまうのも仕方がない。

 だが、ゼノヴィアとて何も気が狂った訳でもない。いや、言っている事はスケベドラゴン(兵藤一誠)と大差ないのだが。

 

「いや、な。私は悪魔になっただろう?そこで、前々から興味はあった子作りという物をしてみたいと思うんだ」

「お、おおう……」

「そして、私は出来る事なら強い相手の子が欲しい。その点、ジローは素晴らしく強い。そして、お前の子種が欲しいと私は思う訳だ」

「…………」

 

 仁郎は眉間を揉んだ。ちょっと同居は早まったかもしれないと思ったり。

 何より、現状月島仁郎は人外からの求婚を()()()()()()()

 

「スゥー…………イッセーはどうだ?何なら、祐斗だって十分に強いと思うが」

「兵藤か……うむ、候補としては悪くないな。祐斗もかなり強かったことは認めよう」

「だろう?特にイッセーなら、喜んで飛びついてくるんじゃないか?」

「ふむ……そうかもしれないな。時にジロー」

「…………何だ?」

 

 すっかり警戒してしまった仁郎に対して、ゼノヴィアは胸の下で腕を組むようにして僅かに前のめりになりつつ彼の前に立つ。

 

「私は、部長や姫島先輩のようなボリュームこそ無いが、中々に綺麗な胸をしているとは思わないか?」

「……勘弁してくれ」

 

 仁郎、天井を仰ぐ。

 鍛えている事もあって、ゼノヴィアは中々に整った肢体の持ち主だ。当人が言うようにリアスや朱乃程のバストサイズは無くとも、それでもかなりの大きさの持ち主でもある。

 実力はどうあれ、感性は一般男子高校生のもの。覚悟ガンギマリな部分はあれども、スケベな部分も確かにある。

 

 かくして始まった、共同生活。前途多難である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強さは、一日にして成らず。これは、格闘技のみならず様々な分野で言える事だろう。例外はあるが。

 

「素振りというのも、存外馬鹿に出来ないものだな……!」

 

 長さ二メートル程の金属の棒を素振りしながら、ゼノヴィアは呻く。

 正しい軌道を正しい動きで正しくなぞる。それこそが、仁郎の考える剣術の一つの到達点だ。

 

 人間の動作には、常にロスが付き纏う。武術は特にそのロスを如何に少なくするかを追求する場合があった。

 この点において一つの答えが、動きの洗練さ。

 自然体、という言葉があるが動きの洗練さは、この自然体に限りなく近づけるための研磨と言える。

 

 仁郎がゼノヴィアに課したのは、素振り。

 彼自身がお手本を見せた上で、姿勢を矯正しつつ鍛錬棒を振らせる。

 因みに、最初は仁郎が常の素振りで使っている鍛錬棒を振る予定であった。

 だが、単純な話持ち上がらなかったのだ。重すぎて。この辺りは、長年の鍛錬による肉体改造の結果という事にしておこう。

 

 ゼノヴィアの素振りが安定してきた事を確認して、仁郎は自分の鍛錬へ。

 縁側に座禅を組んで座り込み、組んだ足の上には鞘に収まった状態の『常世ノ太刀』を寝かせるようにして置いてから手を組み目を閉じる。

 彼が試みているのは、コカビエル戦で聞こえた声の主との接触。

 別段荒唐無稽な話ではない。現に、神器に封じられているが会話ができる存在(赤龍帝の籠手)が身近にいる。

 座禅を組んだのは、意識の全てを神器へと向けて没入する為だ。今の今まで接触できなかった相手なのだから、この対応もおかしな話ではないだろう。

 

 落ちる、落ちる、落ち――――

 

「…………は?」

 

 暗闇の世界を超えたかと思えば、唐突に視界が開けた。

 最初に視界に入ったのは、ピンク色。

 

 仁郎は見た事もない空を落ちていた。

 ピンク色は、風に舞う桜吹雪から。その先にあるのは、漆喰の壁とそれから赤褐色の瓦が彩る天守閣。

 何より、その天守閣の上には天体の様な大きさの巨大な繭が鎮座していた。

 重力があるのかないのか、仁郎の体はその天守閣の中庭へと落下した。鯉の泳ぐ見事な日本庭園だ。

 衝撃も無く、五点着地などの緊急措置も必要ない事から現実ではない。そう当たりを付けた仁郎は、周囲を見渡した。

 お白洲というのがある。イメージとしては時代劇の罪人を裁く場を想像すればわかりやすいだろう。

 そんな、庭から木の階段で室内へと上がる場所。その上がった縁側に一人の男が立っている。

 

「会いたかったぞ、奈阿と月島の子よ」

 

 そう言って、白髪の美丈夫は笑みを浮かべる。

 不思議な格好だ。幾つかの時代が入り混じったかのような白い装束を身に纏っている。

 瞳には蝶が羽搏き、その背には巻かれて縮こまった筒のようなモノが左右二つずつ生えていた。

 

「近う寄れ、少し語るとしよう」

 

 美丈夫は縁側に腰を下ろすと、自身の隣を軽く叩く。

 全くもって状況を飲み込めないが、その言葉には抗う気にならない力がある。

 敵意なども感じられなかったため、仁郎は恐る恐るといった様子で美丈夫の傍らに腰を下ろした。

 並び、空を見上げれば青空とも夕焼け空とも取れない、淡い色合いの空が広がっている。

 

「まずは、名乗ろう。我は、“常世の蟲”と呼ばれていた」

「と、常世の蟲?」

「然様」

 

 その名乗りを受けて、仁郎はチラリと常世の蟲の背へと視線を向ける。

 彼は、蝶の羽化を写真であるが見た事がある。

 その時の蝶の翅は、絞られた雑巾の様に縮こまっていた。常世の蟲の背にあるモノは、それに近いと感じる。

 

「さて、何から語るとしようか」

 

 穏やかな時間の邂逅が、幕を上げる。

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