常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第二十七陣

 休日。夏本番を前に暑い日差しが照り付ける。

 月島仁郎は、学園での()()()()に精を出していた。

 

「今日は……プール掃除か」

 

 掃除用具はプールに併設された用具室。荷物に関しては、濡れて良い格好と水着位だろう。

 

 彼がこんな作業をしているのは命令されたから――――()()()()

 元々は、仁郎自身が言い出した事。

 発端は、聖剣騒動の折のコカビエル戦。その最後の一撃。

 保護と隠蔽の為に張られていた結界を余波で破壊し、オマケにグラウンドには巨大なクレーター。校舎の方も結界と同じく衝撃の余波で窓が割れて、校舎そのものにも亀裂が走っていた。

 

 ぶっちゃけ、やり過ぎた。仁郎はそう判断した。

 一応、魔法でそれらは元通りとなったのだが、その労力を掛けてしまった迷惑料として生徒会に直接提案を行い、結果相手が折れる形で雑用を熟しているのだ。

 因みに、蒼那やリアスといった責任者二人の判断としては、コカビエルを倒したMVPである事を加味して仁郎に因る被害は相殺、ないしは寧ろ報酬を上乗せしても良いと考えていたりする。

 それだけ、堕天使幹部は強かった。そして、そんな強い存在を仕留めるには仁郎渾身の一撃が必要だったのだ。

 

 掃除の為に預かった鍵を指に掛けて回しながら、辿り着いたプール。

 そこには、

 

「おっ、来たな。よお、ジロー」

「イッセー?何してるんだ、ここで」

 

 片手を挙げた一誠に、仁郎は首を傾げる。

 だが、待っていたのは彼だけではない。

 

「俺だけじゃないぜ?皆居るからな」

「………本当に、どうした?」

 

 一誠が示したのは、日陰で。そこには、オカルト研究部の面々が勢揃いしている。

 何故か、家にいる筈のゼノヴィアまで居た。

 

「…………?」

「名目上は、ジロー。お前の手伝い、というかオカルト研究部の点数補填だな。ほら、ライザーと戦う前に合宿しただろ?その時の分の補完だってさ」

「あー、成程?で、本題は?」

「デカい事件も終わったから羽休めにプールで遊ぼうって事らしい」

「そっちの方がシックリくるな」

 

 一誠の言葉に、仁郎は頷いた。

 元より、自発的な奉仕作業で、尚且つ鍛錬代わりのプール掃除だ。人数が増えたとしても、特に断る理由もない。

 鍵を開けて、中へ。

 男女で更衣室に分かれ、濡れても問題の無い格好へと着替えた。

 

「……うん。やっぱり、制服の上からは分からないけどジロー君の体は凄まじい鍛え方だね」

 

 肌を晒す事になるからか、話題は自然と体つきに。

 

「まあ、昔から鍛えてるからな」

「いやでも、スッゲェって。俺も鍛え始めたけど、まだうっすら腹筋割れてるぐらいだもん」

「イッセー君は、悪魔になってから本格的に鍛え始めたばかりだからね。僕もまだまだ体の厚みが足りないよ」

「祐斗は、下手に筋肉付けると動きにくくなるだろうから、筋トレよりも実戦重視で筋肉を自然に付ける方が良いと思うぞ」

「じゃあ、俺は?」

「イッセーは、筋トレだ。後は、スタミナをつける為の走り込みか。自分よりも更に近い距離で殴り合うなら、心肺機能と体力が無いと話にならないからな」

「そっか……にしても、ジローって剣を使うだろ?体術も行けるのか?」

「最低限、な。幾ら剣士といっても、武器が出来なきゃ何もできません、なんてのは戦場じゃ通用しない」

 

 半袖のラッシュガードのチャックを上げて、仁郎は振り返る。

 

「準備終わったか?」

「うん、大丈夫だよ」

「行こうぜ」

 

 頷きが帰って来て、三人はプールサイドへ。

 待っていたのは、藻が浮いた緑色のプール。ヘドロの様になっていないだけ、まだマシか。

 

「うっわ、汚ぇ……」

「まあ、一年間水は張りっぱなしだからね。確か、消火槽代わりに水を溜めてあるんだよ」

「あとは、劣化対策だな。雨風に晒されるとプールの底がひび割れて水が漏れたりする」

「へー……単に面倒だから水捨てて無いのかと思ってた」

「学校によっては、溜めた水で生き物の観察をしたりもするんじゃないかな。ヤゴとかカエルとか。水生生物にとってこの水量は貴重だろうしね」

「あー、確かに。でも、プールって塩素が入ってるだろ?」

「ここまで藻が生育してる時点で意味成してないだろ。それより、水を抜くぞ。抜け切るまでにプールサイドの掃除をしちまおう」

 

 着替えに時間のかかる女性陣は置いておいて、ホースを蛇口につないで三人はそれぞれにデッキブラシを手に取った。

 鍛えている仁郎は別にして、この三人の中で最も身体能力の低い一誠であろうとも、悪魔のフィジカルを舐めてはいけない。

 洗剤を付けたデッキブラシで瞬く間に降り積もった砂埃や枯れ葉、虫の死骸等々。綺麗にこそぎ落としていく。

 程なくして女性陣も合流し、掃除は加速する。

 

 時間にすれば、一時間ほど。そこには綺麗サッパリ蘇ったプールがあった。

 

「後は、水を溜めれば終わりですね」

「あら、それなら直ぐに終わるわよ」

「?」

 

 水道栓の方へと向かおうとする仁郎を引き留めるリアス。

 

「朱乃」

「はい、部長」

 

 朱乃がそう言うと、右手をプールへと翳した。

 プールの真上に大きな魔法陣が浮かび、そこから水が溢れ出す。

 進歩し過ぎた科学技術は魔法と大差無いと言われるが、それはそれ。既存の科学力では、やはり魔法の類には及ばない。

 瞬く間に、綺麗になったプールに綺麗な水が溜まってキラキラと太陽の光を反射する。

 

「………魔法ってのは、便利ですね」

「貴方も習ってみる?講師に、朱乃を付けてあげるわよ?」

「いや、便利なのは良いですけど自分は結構です。剣もまだ道半ばで、他の事に手を伸ばせるほど器用じゃないんで」

「そう……向上心の塊ね」

 

 リアスから見て十分すぎるほどに強い後輩は、まだまだ満足してない。

 自然と、自分の気持ちもシャンとする。

 悪魔の貴族として生まれ、上級悪魔としての魔力、素質、身体能力を有するリアスだが、彼女は王だ。

 ただ後ろでふんぞり返っているだけでは足りない。才能だけでも、足りない。

 地力と実力。今の彼女には、何も足りない状況だった。

 

 とはいえ、今は羽を伸ばす時。努力は大事だが、だからといって一から十までぎゅうぎゅうに詰め過ぎてしまえば息が詰まってしまう。

 気持ちを切り替えて、リアスは口を開いた。

 

「ジロー、貴方って泳げるのかしら?」

「え?ええ、勿論。浮きにくいですけど」

 

 体脂肪率が低く、且つ筋肉の量が多いと浮きにくくなる。泳げば推進力が生まれるお陰で浮かび上がるが、それでも普通の人よりは疲れるだろう。

 仁郎の体も、筋量が凄まじく、体脂肪率もそこまで高くない。泳げない事は無いが、ぷかりとは浮かばない。

 

「それじゃあ、小猫をお願いしても良いかしら?あの子、泳げないのよ」

「ああ、成程……分かりました、自分で良ければ」

「お願いね。無理はさせたくないけど、もしも水のあるフィールドなんかに巻き込まれた時、泳げないと分かれば一番に狙われるのは、あの子だもの。少しでも泳げれば、最悪の事態を回避できるかもしれないわ」

「了解です」

 

 頷き、仁郎はスクール水着姿の小猫へと目を向ける。

 彼女の事情を少し知っている仁郎としては、小猫が泳げない理由も何となく分かる。

 しかし、それはそれ。任されたのなら、仕事は熟す。それだけだ。

 

 ビート板を片手に、臨時の水泳教室開始である。

 

「ほら、塔城。そこまで必死にビート板にしがみつくな。逆に沈むぞ」

「ひ、うぅっ……!せ、先輩……!手を、手を放さないでください……!」

「心配しなくとも、そんな意地の悪い事はしないぞ」

 

 小猫のしがみつくビート板を支えつつ、仁郎はゆっくりとプールの中を進む。

 プールサイドでは、リアスが日焼け止め片手に一誠に迫っており、その傍らではアーシアが同じく詰め寄っている。祐斗とゼノヴィアは並んで勝負中。

 それから、

 

「うふふ、気持ちがいいですわね」

 

 スクール水着ではなく私物のビキニ姿の朱乃が仁郎たちの側に居た。

 余談だが、彼女のバストサイズは主であるリアスを僅かにだが上回っていたりする。

 その豊満な胸が、水に浮かぶ。実に目に毒な光景である。

 なるべくそちらを見ないようにしながら、仁郎は頷いた。

 

「そうですね。水もありがとうございます、姫島先輩」

「いいえ。お気になさらないでください。それより――――」

 

 スッと、朱乃が距離を詰めてくる。

 僅かに前屈みになりつつ、下から見上げるようにして蠱惑的な笑み。

 

「私の水着は、如何でしょうか?新調したばかりで、殿方のご意見をお伺いしたいんです」

「っ、ええっと………」

 

 チラリと、視線を向ける仁郎。

 エメラルドグリーの鮮やかなビキニタイプの水着。鍛えられながらも女性としての柔らかさを強調する朱乃に、よく似合っていた。

 水に浸かっているというのに頬を僅かに赤くして、仁郎は視線を切った。

 

「に、似合ってます………」

「うふふ、ありがとうございます。月島君も……惚れ惚れとする体つきですわね」

 

 指先でその厚い胸板を擽る様に這わせる。

 咄嗟に離れようとした仁郎だったが、今は小猫の引率中。

 必死なせいで周りが見えていない小猫は、今はビート板から彼の右腕に縋りつくようにしてどうにかこうにかプールの中でバタ足をしている状態。

 逃げるに逃げられない状況を理解しながら更に迫る朱乃。

 

 両手に美少女という男の夢のような状況だが、迫られる本人にしてみれば堪ったものではない。

 

 この後、ゼノヴィアまで背中から突撃してきたうえに、その反動でビート板をすっ飛ばしてしまった小猫が彼の腕にコアラの様にしがみ付き、その有様を朱乃が面白がって左腕に抱き着く事態が起きるのだが、蛇足である。

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