常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第二十八陣

 ゲッソリ、と項垂れる仁郎。その背には哀愁が漂っている。

 項垂れる彼に声を掛けたのは隣で着替えていた祐斗だ。

 

「あはは、お疲れだねジロー君。そこまで萎れてるのは初めて見るよ」

「まあ……精神的にな」

 

 荷物を纏めた仁郎は、重い溜息を一つ。

 肉体的疲労はほぼ無い。掃除とプールで遊んだとしても、準備運動にも成らない程度には鍛えている。

 だが、精神的な消耗が激しかった。主に、スキンシップ関連で。

 

「おいおい、ジロー!お前、あんなうらやまけしからん状況になって疲れてんのかよ!」

「お前と一緒にするな、イッセー。第一、お前も似たような状況だっただろ。グレモリー先輩とかアルジェントに詰め寄られてただろう?」

「アレはアレでよかった!部長のおっぱい、間近で揺れるし!いいニオイするし……最高だった!」

「………お前のエロ根性には、もはや尊敬すら覚えるよ」

「あはは……」

 

 呆れたように肩を落とす仁郎に、苦笑いが隠せない祐斗。

 もっとも、一誠は一誠で初心な所があり、そこをリアスに突かれたりしているのだが。

 

「てか、ジローはその辺どうなんだよ」

「何がだ?」

「いや、今のお前の家にゼノヴィアが居るだろ?それに、朱乃さんもお前にはめっちゃ近いし」

「そう言われてもな………まあ、自分だって思う所はあるさ。ゼノヴィアも姫島先輩も、美人だからな」

「え、マジで?

「何だ。自分がこの手の話題に乗る事が意外か?」

「いやだって、俺らのエロトークにも入って来なかったし、というか鉄拳制裁喰らった覚えしかないんだけど!?」

「お前たちみたいに白昼堂々と叫んだりしないだけだ。自分だって、男子高校生だぞ?悟りを開いた仏じゃあるまいし。性欲だってある」

 

 恥ずかしがる様子もなく、仁郎はそう言い切った。

 女性陣が居るならば未だしも、野郎ばかりの身内馬鹿話で見栄を張る必要もない。

 思わぬ返しに怯んだ一誠。気を紛らわす様に祐斗へと水を向ける。

 

「じゃ、じゃあ木場はどうなんだ?」

「僕かい?うーん、そうだね……何分、周りに目を向ける余裕が今まで僕には無かったから、そういう事は考えた事が無かったな。分からない、っていうのが正直なところだよ」

「じゃあ、部長たちのおっぱいはどうだ」

「聞く事がそれかよ」

「大事だろ!?おっぱいだぞ、おっぱい!男の夢と希望とロマンが詰まってる!」

「連呼するな。あと、詰まってるのは脂肪だ」

「そういう事じゃねぇよ!?」

 

 分かるだろ!と肩を揺すってくる一誠に、されるがままの仁郎。そんな二人のやり取りに、今度は楽し気な笑みを浮かべた祐斗。

 初期のころに比べたら、だいぶ打ち解けたのではないだろうか。

 荷物を纏めて忘れ物が無いかを確認してから、三人は外へ。

 鍵に関しては、翌日の登校の際に返すだけで良いと言われていた。この辺は、月島仁郎という少年の日頃の行いの良さのお陰。彼なら悪用しないだろうという教師陣の信頼の証だ。

 色々と手間のかかる女性陣を待って、帰路に就く。

 

 話は変わるが、ドラゴン系の神器を有する者は闘争に巻き込まれる。それが、二天龍とさえ称される代物ならば猶の事。

 同時に、強者は闘争を臨み、敵を求めていた。

 

「成程、平和に生きてきただけはある、か」

 

 オカルト研究部の面々を学園の校門あたりで待ち構えていた、銀髪の少年だった。

 彼ら彼女らの知り合いではない。

 ただ、

 

「……」

 

 無言で仁郎は肩に提げていたカバンを地面に置くと左手に神器を出現させ、右手でその柄を握り何時でも抜刀できるように左手の親指を鍔へと掛ける。

 突然の戦闘態勢に、驚くのは周りだ。

 

「ちょ、ちょっと、ジロー!?何してるの!?」

「それは相手に言ってください、グレモリー先輩。吹っ掛けてきてるのは、向こうなんで」

 

 目線を逸らす事無く、仁郎は静かにそう告げた。

 周りが置いて行かれる中、笑みを浮かべるのは銀髪の彼だ。

 

「フッ……ビリビリと伝わってくるな。やはり、顔を出して正解だった」

「何が目的だ、お前。話し合いがしたい、って訳じゃなさそうだな。自分だけに殺気を向けたのは及第点だが」

「当然だろう?俺は、強者との戦いを望む。戦い、そして打倒する。生憎と、俺のライバル君はその領域には立てていないらしいからな」

「戦闘狂か……」

「何とでも。今の俺の興味は、君にある。堕天使幹部を打倒した人間の君に、ね」

「アレは、全員の働きがあってこそだ」

「だが、仕留めたのは君だ。あの威力は、惚れ惚れとするものだったよ」

 

 そう言うと、銀髪の彼の気配がより一層強くなる。

 まごう事無き、強者。それも、今この瞬間に置いて対処できるのは仁郎しかいないレベルの。

 

「俺は、今代の白龍皇ヴァーリ・ルシファー。闘争を求める者だ」

「白龍皇!?それに、ルシファーって……!」

「先代魔王の血筋でね。それはそうと、君の名を知りたい。強者の名前は、記憶しておきたいんでね」

 

 スッとヴァーリが指さすのは、目を細める仁郎だ。

 

「……月島仁郎だ」

「そうか……ではな、月島仁郎。来るべき舞台での闘争を愉しもうじゃないか」

 

 言うだけ言って、ヴァーリは無防備にも踵を返して去っていく。

 無防備な背中だ。だが、同時に下手に仕掛ければ何が起きるか分からない。

 

 力を示した人間は、龍の闘争にまで巻き込まれるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。ゼノヴィアは、悪魔稼業で出かけており家には仁郎一人。

 

「にゃーん」

 

 縁側に腰掛けていれば、猫の声。

 見れば、久しい顔がとことこ歩いてくる。

 

「久しぶりだな、黒猫」

「まあねぇ。私も結構忙しいにゃん」

 

 ひょいッと軽い動作で膝の上に乗ってくる黒い猫。

 夏本番を目前に控える今日この頃では少々暑いのだが、仁郎は追い払う事も無くその艶のある毛並みを撫でる。

 

「あの元教会の戦士は、お仕事かにゃん?」

「そうだな。悪魔稼業も、大変らしい」

「にゃははは、お仕事ってそういうもんじゃにゃい?私だってめんどくさーい仕事をやってきたんだから」

「だったら、大人しく休めばいいだろ。何で態々、危険冒してまでくるんだか」

「お姉ちゃんはそれだけ心配にゃんですー。白音も弱っちいしねぇ。その主もお話にならないし……ジローが居なかったら危なかったんじゃにゃい?」

「見てたのか」

「私だけじゃなく、気付いた奴らは見てたと思うにゃん」

 

 顎の下を撫でられてゴロゴロと喉を鳴らし、黒猫はサラッとそんな事を言う。

 それは同時に、これから先の仁郎の立ち位置も暗示していた。即ち、望むにしろ望まないにしろ、これから先は闘争の坩堝に巻き込まれる。

 力持つ者の定めだ。

 

「はぁ……今日は変な奴に絡まれるしなぁ……」

「変な奴?」

「白龍皇だって名乗ってたな。イッセーのライバルらしいし、そっちに集中すればいい」

「あー……まだまだ赤龍帝の子は弱そうだもんねぇ。コカビエルを倒した直接の原因なジローに目を付けるのも仕方にゃいと思うけど?」

「……自業自得かぁ」

 

 ため息を吐きながらも、同時に仁郎はヴァーリの思考にも一定の理解を示す。

 強者との、闘争。殺し合いを積極的に求める訳ではないが、それはそれとして血沸き肉躍る戦場を求める事は剣士の性だった。

 とはいえ、今日は疲れている。肉体的にはまだまだ余裕だが、精神的にゲッソリ。

 そんな仁郎を見上げて、黒猫は笑みを浮かべる。

 

「ねぇねぇ、ジロー」

「ん?」

 

 不意に、甘い香りが彼の鼻腔を擽って、後ろに倒れたかと思えば、太ももには柔らかな感触。

 見上げれば、ちょうど何かが目元を覆って何も見えない。辛うじて、黒地の布という事だけが視覚情報にはあった。

 

「お疲れ様のジローに、おねーさんが膝枕をプレゼントにゃん」

「……何にも見えねぇな」

「にゃふ、おっぱいアイマスクは嫌?」

「…………嫌いな男は居ないだろ」

 

 何というかもう、全てが疲れた。

 アッサリと、仁郎は目を閉じる。

 脱力した少年の頬を撫でて、着崩した和服姿の黒猫美人は空を見上げる。

 ついつい、彼の元へとやって来てしまうのは、人恋しいからだろうか。たった一人で生き抜かなければならなかったからこそ、一度甘えてしまうとずぶずぶと抜け出せない。

 

「私も弱くなっちゃったかにゃ~……なんて」

 

 君のせいだぞ、とその白魚のような指先で頬を突く。

 静かな時間を月だけが見ていた。

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