常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第二十九陣

 コカビエルの一件を機に、にわかに慌ただしくなっている駒王町。

 表向きはそうでもないが、裏側はそのカオス度を加速度的に増していた。

 

 注目を集めるのは、今回の件に巻き込まれた者達。

 聖書に語られる堕天使幹部を、子供たちが退けたのだから注目は当然と言えば当然なのだが。

 だが、全員が全員そう見ている訳ではない。寧ろ、興味関心は人数が多い分千差万別である。

 

 この日、仁郎は夕飯の買い物を学校帰りに行っていた。

 基本的に何を作っても旨い旨いと食べ進めるゼノヴィアに気を良くして、ついつい色々と買い込んでしまった。

 

「ローストビーフなんて、随分と久しぶりだな」

 

 料理を作る人間にとって、美味しいと食べてもらえる事の何と嬉しい事か。

 自然と、仁郎の料理の腕前も上がってきた。

 

 その軽快だった足取りが、唐突に止まる。

 仁郎の岐路を塞いだのは、一人の男。

 ワインレッドの胸元がガッツリと開いたロングコートに、腰の辺りにベルトが巻かれ着こなすにはかなり派手な格好だが男はそんな過激ファッションを自然と着こなしていた。

 男は、顎髭を扱きながらしげしげと仁郎を見てくる。

 

「………成程な。これも大乱の前触れなのかね。その年でここまで練り上げた奴は早々居ないぞ」

 

 ポツリと、呟かれる。同時に、仁郎の警戒レベルが二段階跳ね上がった。

 神器が本格的に覚醒してからか、彼の感覚レベルは格段に上がっている。同時に、悪魔や堕天使は接触が多かったせいでその気配は人混みに紛れても分かってしまう。

 

「堕天使に知り合いは居ないぞ。それとも、コカビエルの仇討ちか?」

「ほう。分かるのか。赤龍帝は、全く気付かなかったがな」

「っ……」

 

 チリッ、と火が付いたように仁郎の気配が鋭くなる。

 正直、堕天使への好感度は現状底辺だ。一誠やアーシアの悪魔になった経緯然り、先日のコカビエルの一件然り。どうあがいても、地を舐めるような高さから上がれていない。

 即座に斬りかかっていないのは、周囲に人が居るのと左手に提げた買い物袋の為だ。

 

「アイツに、何をした」

「おっと、待て待て。こっちはドンパチしに来た訳じゃないんだ。赤龍帝にも何もしちゃいねぇよ。ちょいと、ゲームの相手を頼んだだけだ」

「…………」

「何より、今回お前に接触したのは神器に関する調査の為だ。まあ、他にも野暮用が幾つかあるがな。それに、そっちとしても今この場で戦う事になるのは避けたいだろう?」

 

 結界なんて張らないぞ、と男は周囲へ意味深に視線を送る。

 一定の距離で向かい合う男二人に、自然と周りの視線も集まっており、中には足を止める者も出始めていた。

 間を挟み、仁郎は無言で歩き始める。その後をゆったり男も付いてくる。

 会話は無い。代わりに、警戒はある。

 

(赤龍帝とはえらい違いだな。背中には一切隙が無く、武術の心得もあるのか。生半可な奴じゃあ、背中から突いても返り討ちに遭いそうだな)

 

 これ幸いと言わんばかりに、男は前を行く少年の背を観察する。

 彼自身も、大戦を生き抜いた強者の一人だ。本人は研究職の方が好きだと言うが、その実力はまず間違いなく各勢力でも指折りだろう。

 そんな男から見ても、件の少年は異常だった。

 純人間で、神器そのものにも恵まれていた訳ではない。後者は真の力を発揮してからその限りではないが、発揮するまでは純粋なフィジカルと技、そして仙術ではない気功によって人外と戦ってきた。

 その上で、下級とはいえ堕天使を仕留め、上級悪魔と真っ向勝負。堕天使幹部には通用しなかったが、それでも相手が本気ではなくとも生き残った。

 

 程なくして、町の外れ。同時に月島邸へと辿り着く。

 門扉が開かれ、そこで初めて仁郎は振り返った。

 

「…………まあ、どうぞ」

「意外だな。てっきり外で待たされるかと思ったぜ」

「人通りが少なくとも、ゼロじゃない。お前みたいなのが表に立ってると良からぬ噂が立つんだよ」

 

 不本意の雰囲気を崩す事無く、仁郎はそう言いさっさ門をくぐった。

 一応、フォローをするなら道中で後ろから何かしらのちょっかいを出す気配も無かったことが、最低限招き入れるための理由に成ってはいる。因みに、帰り道は微妙に遠回りをして帰った。

 案内された客間。

 大人しくしているように一言告げられ、男は一人残された。

 喧嘩しに来た訳でもあるまいし、彼は大人しくちゃぶ台の前に座り込むと部屋の中を見渡す。

 殺風景だ。棚やテレビなどは置いてなく、正方形の部屋の中央にちゃぶ台があるだけ。四方の壁の内、南と西側は障子戸になっており、東側は襖。北側は柱のある白い壁。

 手持無沙汰だ。男は立ち上がると、南側の障子戸を開ける。

 そちらは、縁側を挟んで庭へと通じている。

 大きな庭は最低限の手入れがされ、伸び放題になっている木なども無い。

 だが、

 

「……何だアレ」

 

 男が注目したのは、庭に置かれた代物。

 巨大な岩が三つ、団子の様に括りつけられた棒。それが、庭に置かれておりその傍らには一本の鋼の棒が突き立っていた。

 手入れされた庭にはそぐわない光景だ。

 

「あの大きさだと、岩一つで百キロはあるか?おいおい、あんな代物ぶん回しってるってのかよ」

 

 ドン引き。

 人外ならば、人間よりも圧倒的に頑丈な体も相まって振り回す事も可能だろう。

 だが、今回接触した相手は人間だ。()()()とは到底言えないが、それでも人間。

 男が引いていると、襖の開く音。

 

「何してるんだ」

「いや、手持無沙汰でな」

 

 ジト目を向けてくる仁郎に、男は肩を竦める。

 

「あの庭にある妙なものは何だ?」

「妙なもの?………自分が、鍛錬で使ってるモノだが?」

「鍛錬って……」

「それよりも、話があるのなら手短に済ましてもらいたいな。自分も暇じゃないんだ」

 

 ちゃぶ台にお茶の入ったコップを置いて、仁郎は閉めた襖を背に座り込んだ。

 中々ショッキングな情報に止まっていた男もコップの置かれたちゃぶ台の前へ。

 

「まずは自己紹介と行こうか。俺は、アザゼル。“神の子を見張る者(グリゴリ)”で総督をしてる」

「グリゴリ?」

「堕天使の組織だな。ま、やってる事は異能や超能力の研究なんだが。これらは、神器が関わってる場合が多い……っと、今は良いか。最初に言ったように、今回は神器の調査と野暮用で来ただけだからな」

「調査、ねぇ……」

「お前さんの宿してる神器、『常世ノ太刀』は今まで刀身が出現した事が無い。数百年で観測された数も片手で足りる程度だが………だからこそ、今回俺自ら出張ってるんだが」

「…………」

「何か、心当たりはあるか?」

()()?自分には、皆目見当もつかないな」

 

 アザゼルの問いに、仁郎は惚ける。

 別に、その内心を悟られても構わない。これは、話す気は無い、という意思表示であるから。

 そして、その意図にアザゼルは気付く。

 状況が悪いのは明らか。頭を掻いて、コップのお茶を飲み干す。

 

「そうか……んじゃ、野暮用を済ませよう」

 

 胡坐をかいて左手で頬杖をつくアザゼル。

 

「月島仁郎。お前の、和平会談参加を求める」

「和平?」

「三大勢力が戦争してたことは知ってるか?昔の話だがな」

「……少しだけ。そこで、魔王と神が死んだってコカビエルが言ってたな」

「そうか。三大勢力は、その過去の大戦でそれぞれが大きく損耗している。俺達堕天使も、幹部が数人残る程度で人数が減ってるな」

「…………それで?何で、自分にその話が。人間だぞ?」

「単純な話、今回の会談が行われる理由の一つがコカビエルだからだ。奴の行動から、和平の機運が高まってる。まあ、こっちも賠償問題やらが襲ってくるんだが……今は良い。コカビエル討伐に尽力した一人としての招集だ」

「成程……」

「言っておくが、俺だけじゃないぞ。悪魔側も、天界側もお前が出る事を望むはずだ。というか、直接言われるだろうな」

 

 アザゼルは言わないが、この会談への招集はもう一つの理由もある。

 即ち、実力者を陣営内で囲い込む事だ。

 

「それから、迷惑料の支払いもある」

「迷惑料?」

「お近づきの印にって奴だ。俺だけじゃなく、天界側からも何かしらあるんじゃないか?」

 

 アザゼルの言葉に、仁郎は頬を引きつらせる。

 欲しいものなど、特にない。

 ただでさえ、今の仁郎は神器を完全に使いこなせている状態ではない。あくまでも、彼自身の目線の話だが。

 

「まあ、考えといてくれや」

 

 頭を悩ます問題は尽きない。

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