常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第三陣

 駒王学園には、新校舎とは別に木製の旧校舎が存在する。

 この旧校舎を根城にするのが、オカルト研究部だった。

 

「はい、これでよろしいですよ。痛みはありますか?」

「あ、いや……大丈夫です」

 

 嗅ぎ慣れない木のニオイの中で、月島仁郎は尻の座りが悪そうにソファのベストスポットを求めていた。

 一誠を彼の自宅のベッドへと転送してから、仁郎はリアスに連れられてこのオカルト研究部の部室へと案内されていた。

 彼を待っていたのは、リアスと同じく二大お姉さまの片割れ。黒髪の大和撫子。

 

「ありがとうございます、姫島先輩」

「うふふ、気にしないでください。傷は消えましたけど、違和感が残っていますから気を付けてくださいね?お体を見ましたけど……ふふっ、とっても逞しくて……」

 

 そう言って艶のある笑みを浮かべる姫島朱乃。

 傍からは分かり難いが、仁郎の体は幼少期からの鍛錬の積み重ねによって鋼のような筋肉を有している。

 それは、筋トレや人体改造の範疇ではない。

 言うなれば、一世代での進化を果たしたようなもの。そこにあるのは一種の狂気だろうか。

 

 人差し指で仁郎の胸元をなぞる朱乃。

 

「~~~~っ」

 

 硬派というか、初心というか。微妙に仰け反って距離を取ろうとする仁郎だが、如何せん座っているソファはそれほど広くない。ついでに、露骨に避けて相手を傷つけるような事にならないか、といった心配のせいで動くに動けなかった。

 加えて、その配慮が分かるからこそ朱乃の嗜虐心が刺激されて仕方がない。

 とはいえ、今回仁郎をこの部屋に招いたのは乳繰り合う為ではない。

 

「んんっ!朱乃もその辺にして頂戴。後輩を可愛がるために、わざわざ来てもらったんじゃないんだから」

「うふふふ、すみません。つい、可愛らしい反応をしてくれるものですから」

 

 嫋やかな笑みを浮かべて離れる朱乃。

 残された仁郎は、両手で顔を覆ってからソファの背もたれに体を預けて天井を見上げる。耳が真っ赤だ。

 

「ごめんなさいね、月島君。朱乃があそこまで暴走するとは思わなくて……」

「いや……うん……まあ……大丈夫です」

 

 深呼吸を挟んでから、無駄に加速した血流を抑える仁郎。

 ムッツリだ何だと言われても、ソレは当人ではないから言える事。スタイル抜群の美女に迫られて全く興奮しない者だけが石を投げる権利を持つ。

 

 閑話休題。

 

「まずは、貴方が遭遇した相手について」

「あ、はい。あの女の人……ですよね?」

「ええ。彼女は、堕天使よ。簡単に言ってしまえば、天使が邪な気持ちを抱いて堕ちた種族ね」

「堕天使……それに、天使、ですか。こうなると、グレモリー先輩たちは……」

「私たちは悪魔よ」

「悪魔……」

「驚くのも無理はないわね」

 

 言いながら、その背にコウモリのような一対の翼を出現させるリアス。

 その光景を前に、仁郎は己の中にある価値観が粉砕される気分を味わっていた。

 学園の有名人は悪魔で、友人を殺そうとしたのは堕天使。更にその堕天使の元になる天使の存在まで示唆されている。

 眉間を揉んで、ため息を一つ。

 

「……それじゃあ、神とか妖怪とかも居るんですかね?」

「ええ。世界各地の神話体系はそのまま事実と受け取って頂戴」

「……」

 

 再び仁郎は眉間を揉んだ。

 海外と比べて、日本の宗教文化というのは異質だ。

 神頼みをすれども、明確に何処かの神を信奉している訳ではない。複数の宗教のイベントを反復横跳びする事は常であり、だからといってその宗教に対する知識に優れた訳でもない。

 要するに、多くの日本人からすれば神話の内容など基本的に昔話程度でしかないのだ。

 それが唐突に事実であり現実だと言われ、且つその証拠迄示されれば当然混乱するという物。

 

 少しの間を挟んで、仁郎の混乱が薄れたであろうタイミングでリアスが口を開く。

 

「今度はこっちの質問をしても良いかしら?」

「あー、どうぞ」

「貴方のあの力についてよ。貴方自身、神器を宿している……のかしらね」

「その、神器っていうのは何ですか?」

「成程……神器というのは、聖書の神が作ったシステムで人間もしくは、人間の血を持つ者だけに宿る奇跡の形よ。異能ともいえるわ」

「へぇ……自分のアレ(富嶽山嵐)は違いますよ。鍛錬して身に付けた技術なんで」

「そ、そうなの?」

「はい。月島流剣術。時代遅れの殺人剣ですよ」

 

 月島仁郎は、己の技術をそう評した。

 銃火器が発展し、ボタン一つでミサイルをぶっ放し、ドローン兵器が空を駆ける時代。

 戦場は既に遠距離の時代。剣一本で武功を立てるような状況はまず訪れない。

 故の、時代遅れ。もっとも、その力は決して侮れたものではない。何なら、彼一人で戦況を左右する事も出来るだろう。

 リアスは顎に手を添えて何やら思案。そして徐に、一つの提案を行う。

 

「ねぇ、月島君」

「はい?」

「貴方、悪魔に興味はない?」

「悪魔に?」

「ええ、そうよ」

 

 言って、リアスが机に取り出すのは一つのチェスの駒。

 

「コレは、悪魔の駒(イーヴィルピース)。悪魔へと転生させるものね」

「悪魔に?転生って……」

「そして、さっきの彼。兵藤君を助けた方法でもあるわ」

「!じゃあ、兵藤は……」

「人間では、なくなったわね……不満?」

「……いえ。あの場で自分が出来る事はありませんでしたから。それに、死ぬよりは生きていた方が良いでしょう。後は、兵藤自身の問題です」

「そう……それで、どうかしら?剣術、を使うのなら貴方には“騎士”の駒を当てはめる事になると思うけれど」

 

 リアスは無理強いをするつもりがないらしい。

 悪魔の駒。それによって悪魔へと転生した者達を、転生悪魔と呼称する。

 悪魔の寿命は一万年とも呼ばれ、転生を果たせば人間とは比べ物にならない力を得る事も出来るだろう。

 もっとも、問題も色々と出てしまっているのだが。

 ついでに、仁郎の答えも決まっていた。

 

「お断りします」

「あら、そう?」

「はい。自分は、人間として生まれました。であるのなら、人間のまま死のうと思います」

 

 ある意味で、コレは意地と矜持の問題だ。

 既に天涯孤独の身である仁郎にとって悪魔になるかどうかの決定権は彼自身にある。

 そして、仁郎にとっての理想は、肺病に侵され乍らも最後の最期まで自分の目標であり続けた父の姿だった。

 リアスも、無理に勧誘をする気は無い。しかし、もう一つの勧誘もある。

 

「貴方の意見は分かったわ。それじゃあ、オカルト研究部に入部してくれないかしら?」

「入部?」

「そう。悪魔にならなくても、神器使いを放ってはおけないもの。覚醒してないのなら猶の事ね。狙われた時に一人で対処するよりも、ある程度こちらの事情が分かってる仲間がいた方が良いでしょう?」

「まあ、確かに」

 

 仁郎にとって、悪魔やら堕天使やら神器やらは完全に理解の外だ。

 その点で言えば、リアスの提案は渡りに舟。

 

「……そういう事なら、お願いします。入部届って必要ですか?」

「こっちの方で処理しておくわね。他に何人か部員も居るから休み明けに紹介するわ」

「うっす」

 

 一通りの話が終わり、どちらともなく肩の力が抜ける。

 そこにやって来たのは、何やら準備をしたバットを手に戻ってきた朱乃だ。

 

「お話が終わったのなら、一服如何ですか?」

「あら、ありがとう朱乃」

「あ、どうもっす」

「うふふ、これからよろしくお願いしますね、月島君」

 

 カップを受け取った仁郎の側に、するりと座り込む朱乃。

 ビクリと跳ねた仁郎の肩だが、如何せん紅茶の入ったカップを零す訳にも、況してや落とす訳にもいかない。

 プルプルと震えながら耳を真っ赤にしつつ紅茶に口をつける。

 味は分からなかった。

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