常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第三十陣

 駒王学園授業参観。人によっては地獄を見る催しだ。

 もっとも、両親が既に居ない仁郎にとっては御客の多いだけでいつも通りと何ら変わらない。

 どちらかというと、彼へと接触する人物の方が問題だった。

 

「急に呼び出して悪かったね、月島仁郎君」

「あ、えっと……大丈夫です」

 

 人払いのされた教室の一つ。そこで、仁郎は紅髪の魔王と相対していた。

 

「何度か会おうと思ったんだが、どうにもタイミングが合わなくてね。こうして無理に時間を取ってもらったんだ」

 

 そう言って、サーゼクス・ルシファーは柔和な笑みを浮かべた。

 だが、仁郎は頬が引き攣る。

 

(コカビエルより、上か……)

 

 流石は魔王と言うべきだろう。穏やかにその場に佇むだけでも、その力の奔流とも言うべき本質が透けて見える。

 そんな相手と一対一。緊張するな、という方が無理な話。

 しかし、良くも悪くもサーゼクスが、その内心を読み取れる事は無い。強者の余裕があり過ぎるのだ。

 

「まずは、君には感謝を送らせてくれ」

「か、感謝?………自分、何かしましたっけ?」

「リーアた………妹の婚約騒動での尽力、そして今回の堕天使幹部の撃退の事さ。君が居たからこそ、どうにかなった部分は大きい」

「は、はあ…………」(グレモリー先輩、リーアたんって呼ばれてるのか……)

 

 変な所で緊張がおかしな事になる。

 先輩であるリアスは、そもそも威厳のあるタイプではない。寧ろ、親しみ深い距離感の近い王だろう。

 それはそれとして、学園の二大お姉さまとも呼ばれる先輩の片割れも、実家では随分と可愛がられているらしい。

 肩の力が抜ける。

 

「まあ……戦うって決めたのは自分ですから。感謝される事じゃ………」

「いや、そうもいかない。妹の婚約破棄は兎も角、堕天使幹部の件はそうもいかないんだ」

「……」

「どうかしたかい?」

「その……少し前に、堕天使総督にも同じ事言われて」

「アザゼルか。彼は愉快犯な所がある。何もされなかったかい?」

「特には?迷惑料を出すから何かしらの対価を決めておけ、位ですかね」

「成程……」

 

 サーゼクスは顎に手を当てて、何やら考え込む。

 現状を理解していないのは、仁郎の方だった。

 

「迷惑料って必要ですかね?」

「ん?まあ、そうだね。必要かどうかと問われれば、必要だよ」

「そう、ですか……?」

「それが、政治という物さ。君の立ち位置は、一応リアスの庇護下という事もあって悪魔寄りにはなっている。だが、政治的には宙吊りである事には変わりないんだ」

「宙づり、ですか……」

「君は人間だからね。だからといって、教会といった組織に所属している訳でもない。何より、今は世界的に見ても不安定な状況だ。そんな状況で力有る存在を、野放しには出来ないんだ」

「…………」

「納得できないかい?でも、労働には対価が必要だろう?何より、我々としても功労者に一切の恩賞を与えない上で、無償労働を積み重ねさせ続けるのは外聞が悪い。面子は、大切だろう?」

「まあ……そっすね」

 

 言われれば、納得せざるを得ない。

 ただ、どれだけ強かろうとも一高校生に政治的な配慮をしろというのは酷な話でもある。

 況してや、現在の裏世界情勢など仁郎は知らない。

 

「さて、分かってもらえたところでこちらも報酬の話をしようか」

「そう言われても……自分は現状困ってないんですよね。金銭的に困窮している訳でもないですし、かといって何かしらの物品があったとしても使い道が………」

 

 仁郎が乗り気でないのは、こういう部分もあった。

 現状、困っていないのだ。故に、報酬をくれてやると言われてもいまいちピンとこない。

 ただ、強いて挙げれば、

 

「うーん…………あっ」

「何か見つかったかな」

「いや、報酬って物品とかでも良いんですかね」

「勿論。どんなものであれ、君から言ってくれるのなら叶えよう」

「それじゃあ、家にある家電一式を新品にしてもらっても?冷蔵庫含めて、綺麗にしたいな、と漠然と思ってたんで」

 

 即物的で小市民。勿論、本人がそれを報酬として求めるのなら、サーゼクスには断る道理もない。

 

「了解したよ。最新式の家電一式を送らせてもらおうか。それにしても、君は欲がないね」

「えっ……家電一式も相当強欲だと思いますけど………」

「それでも、金銭でどうにかなる様なものなら大した事は無いさ。漠然とした力の要求や、美女を抱きたいだとか、ね?」

「あー、成程?……力に関しては、自分で身に付けますし。抱きたい相手は、自分で見つけます。他人から宛がわれるようなモノじゃありませんよ」

 

 淡々と言い切る少年に、サーゼクスの目が僅かに細まる。

 高潔と言っても良い精神性だ。そして、彼はこの精神性を持った人種というのを知っていた。

 

(彼も、()()なのかな。だとすれば、今後世界は混沌の坩堝へと放り込まれる事になるのかな)

 

 僅かな未来への憂いを内心で吐露する。ただでさえ、悪魔陣営は老害共がのさばっているというのに、頭の痛い話だ。

 そんな内心をおくびにも出さず、最後に会談への参加を要請しこの場の話し合いは終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。オカルト研究部の部室へと顔を出した仁郎を出迎えたのは、ゲッソリと疲れ切って机に突っ伏するリアスと、そんな彼女を痛ましそうに見る部員たちだった。

 

「こんばんはー……どうしたんです?グレモリー先輩」

「よお、ジロー。いや、何かサーゼクス様と色々あったみたいでさ」

 

 首を傾げた仁郎に、一誠が補足を入れてくる。

 ついでに、よくない事も思い出した。

 

「グレモリー先輩って、サーゼクスさんからリーアたんって呼ばれてるんすね」

「ッ!?な、ななな何で貴方がその呼び方を知ってるの………!?」

 

 跳ね起きて慄くリアス。

 サーゼクスと、それから蒼那の姉である四大魔王の一角に絡まれた際に、仁郎は居なかったのだ。

 だからこそ安心していたら、まさかの彼本人から隠していた呼び方を呼ばれるだなんて思いもしない。

 そのまま椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると猛然と仁郎へと詰め寄り、肩を掴んで前後に揺する。

 

「忘れなさい!今すぐに!無理なら、私が忘れさせてあげるわ!?そうね!?そうよ!頭に強い衝撃でも与えれば良いかしら!?」

「待っ……ちょ、揺れ、おえっぷ………」

 

 がっくんがっくんと揺すられる仁郎。その顔色が青くなり始めた所で、周りが慌てて止めに掛かる。

 解放された彼は、ソファの背もたれに体を預けつつ右手で口元を抑えて蒼い顔。その背を、小猫が擦る。

 

「…ぅぇ……」

「揶揄うからですよ、月島先輩」

「いや……やっぱり、気になるし……」

「というか、ジロー君。君、魔王様といつ知り合ったんだい?」

「休み時間の時。何か、コカビエル戦の報酬の話と、それから今度ある三大勢力の和平会談に出席しろってさ」

「成程……確かに、ジロー君は第一功でも違和感ないね。因みに、何を貰ったんだい?」

「最新家電一式」

「家電!?」

「おう、イッセー。家電買い替えるのも大変なんだぞ?冷蔵庫なんて、買い替え時と交換のタイミングをしくじると中の食材駄目になるからな?」

「いや、悩みが主婦のソレじゃん!」

 

 一誠のツッコミが走る。

 彼らにしてみても、まさか報酬に家電一式を求めているとは思わない。

 ガウガウと暴れていたリアスも、どうにかこうにか落ち着いて、ついでに気疲れも少しはマシになったのか咳ばらいを一つ挟んで注目を集める。

 

「おほん!明日、魔王ルシファー様の命を受けて最後の眷属の封印を解く事になったわ」

「!部長、それは……」

「ええ、そうね。私たちの実力もそうだけど、会談の場面で不確定要素をギリギリまで無くして起きたいからっていうのが一番の理由よ。だから、明日の悪魔稼業はお休みね。ジローも出来れば出席して頂戴。貴方の後輩にもなるから」

「了解です」

 

 了承し、仁郎は頷く。

 最後の一人もまた、問題児。騒がしさは、加速する。

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