常住戦陣~月島流剣術推して参る~ 作:トコヨノオウ
ギャスパーの封印解除の翌日、仁郎はとある場所へと足を運んでいた。
「俺たちに話って何なんだろうな」
「さあ……姫島先輩が間に入ってるのなら、少なくとも害は無いと思うが……」
隣を歩く一誠の呟きに適当に返しながら、仁郎も首を傾げる。
二人が向かっているのは、とある神社だ。
理由は、昨日の事。
ギャスパーの封印解除後、リアス、朱乃、そして特殊な禁手を果たした祐斗の三人はそのまま三大勢力の会談が行われるため町に滞在している魔王の元へと向かったのだ。
そこから、朱乃経由で接触があったというだけ。
鳥居の前までやって来て、潜る。そこでふと、仁郎は足を止めた。
「どうした?」
「……いや、ついこの間まで正直な所、神も仏も信じて無かったんだ。だから、この手の物もただのオブジェだったんだが……」
掌で軽く鳥居の柱に触れる。
ザラりとした石の質感。特別な力などは感じないが、それでもどこか感慨深いものがある。
言われ、一誠もまた鳥居を見上げる。
「まあ、確かにな。俺だって、あんな事が無けりゃ松田たちと男のロマン追っかけてたし」
「そっちは少し自重しろ」
スパン、と一誠の頭が叩かれた。
折角ちょっとしんみりした空気だったのが、血の気が引くようにスンッとしてしまった。
頭を擦る一誠と仁郎は、その流れで本殿の方へと足を向ける。
二人を出迎えたのは、常のうっとりとする笑みを浮かべた朱乃。だが、その格好は常の物とは違う。
「ジ、ジジジロー!!!」
「ッ、何だ。耳元で叫ぶな」
「言ってる場合かよ!見ろ!あの、朱乃さんの姿を!巫女服だぞ!巫・女・服!」
大興奮の一誠。
そう、今の朱乃は緋袴の巫女服姿。
大和撫子と言っていい見た目に、和装は実に映える。
一誠の興奮ほどではないが、仁郎は仁郎で直視するには刺激が強すぎる見た目に対して、微妙に視線を外して気まずい様子。
後輩二人の反応に笑みを浮かべて、朱乃は僅かに体を横に避けつつ奥へと手を示した。
「さ、二人ともこちらへ」
案内するのは、本殿奥。本来ならば、足を踏み入れるのも躊躇われる場所。
そして、光が顕現する。
「――――始めまして、今代の赤龍帝。そして、神の気を宿した方」
たれ目がちの中性的な美丈夫がそこには居た。
一瞬目を見開いて、一誠は慌てて頭を下げる。
「は、初めまして!兵藤一誠です!」
「月島仁郎です。どうも」
「私は、ミカエル。天使長を僭越ながら務めさせていただいております」
微笑むミカエルは、男性である事を忘れてしまいそうなほどに嫋やかな姿だ。
ただ、見蕩れてばかりもいられない。
今は目の前に会談が迫っており、ミカエルの方も時間に無理矢理穴をあけているような状態だからだ。
「今回、二人の時間を頂いたのは、これより行われる和平会談に際してのお近づきの印に、というものです」
「えっと……それで、俺たちに?いや、俺って部長の眷属ですし………」
「困惑するのも無理はありません。ですが、それだけ我々にとっての赤龍帝の名は、重いのです。過去、その力を示し、天龍と称された二頭の龍。神器へと魂を封印されながらも、その争いは多くの悲劇を生みました」
「………」
「お近づきの印、と称しましたが楔でもある訳です」
隠す事無く、ミカエルはそう告げた。
二天龍。これは、本来は存在しなかった呼び名であり、赤龍帝と白龍皇の存在が現れた事によって設けられた位階。
既存の龍の遥か上を行き、龍神にもその爪を届かせるかもしれない存在。
その闘争は、先の通り多くの悲劇を生み、歴代所有者は何れも壮絶な最期を遂げる事になったとか。
そんな過去を知るからこそ、ミカエル含めた三大勢力のトップは何れも一誠を気に掛けるのだ。
「では、こちらを」
「あ、はい…………剣?」
「ええ。聖剣アスカロン。英雄ゲオルギウスが所有し、龍殺しを成した代物です」
光り輝く諸刃の剣。
その存在は、龍としての特性が色濃い一誠にとって思わず身震いしてしまう。
「えっと……どうしたら?」
「神器を使いましょう。調整してありますから、馴染むはずです」
言われ、一誠は左手に籠手を顕現。
その手の甲の辺りに存在する宝玉へと聖剣が納められた。拳を握れば、手と前腕部の隙間より聖剣の剣身が伸びる。
「おお!スッゲェな。こんな機能もあったのか」
「神器の拡張性は相性にもよるでしょう。今回は可能でしたが、無理をすれば最悪の貴方の寿命を削ってしまうでしょう。兵藤一誠さん。努々、その事を忘れないよう」
それだけ言って、ミカエルは今度は仁郎へと向き直った。
「お待たせしました、月島仁郎さん。貴方にも贈り物を」
「イッセーは兎も角、何で自分も呼んだんです?」
「表向きの理由としては、先の聖剣奪還に際しての功労者への慰労。本命は、貴方の神器について、ですね」
「自分の?」
「はい。『常世ノ太刀』と称されるソレは、神器として扱うには余りにも難しいもの。調査も全く進んでいませんでした。貴方の覚醒が無ければ、ですが」
「はあ……」
促され、鞘入りのまま左手に環頭大刀を呼び出す仁郎。
刀身を顕現できるようになったからか、神器としての波動とも言うべき雰囲気が増している。
ジッとそれを見つめて、ミカエルは目を細めた。
「やはり、コレは神の気配。我らが主とは違いますが、それでも濃密ですね」
「良くないんですかね?」
「いいえ。皆さんもご存知の通り、神の不在を機に神器のシステムには不具合が多々目立っています。皆さんのお仲間である木場祐斗さんが発現させた聖魔剣はその証。故に、何が起きたとしても不思議ではないでしょう。ただ、強大な力は不幸を呼び込みます。その力が大きければ大きいほどに、迫る試練もまた大きくなるでしょう」
「まあ……その辺りは覚悟してますから」
「では、そんな貴方にはこちらを」
そう言って、ミカエルが差し出したのは一着の羽織だった。
白地に、裾には金の刺繍が施されたシンプルながら気品があり、派手過ぎず、しかし汚す事も躊躇われるそんな代物。
神器を消してこれを受け取った仁郎。
しげしげと見つめ、促されてから羽織ってみる。サイズはピッタリだ。
「武器を扱う貴方ならば、防具が良いと判断しました。ですが、甲冑では嵩張り緊急時の装着も手間がかかるでしょう。ですので、そちらの羽織を」
「………妙に気配の強い羽織ですね」
「気配だけではありません。それは、聖骸布を基に編み上げたもので、生半可な攻撃では傷一つも付ける事が出来ない強度を有しています。後は、汚れにくく、洗いやすく、洗濯機に放り込んでも直ぐに乾いて皺もつきませんよ」
「い、至れり尽くせり、っすね」
ミカエルの説明を聞いて頬を引きつらせながらも、仁郎は羽織を着たまま腕を回す。
動きの阻害は無い。彼の場合、肩回りの筋肉が発達している為か、本来のサイズよりワンサイズ上の服でないと布地が突っ張って動きにくいのだ。
その点、この羽織は動きやすい。何なら、着ている事も忘れそうな軽さ。
如何に鍛えて肉体強度が凄まじくとも、どうしても人外には劣ってしまう仁郎にしてみれば有り難い配慮だ。
その後、忙しいミカエルはその場を後にし、一誠もリアスが迎えに来た。
残ったのは、羽織の着心地を確かめつつ、神器を素振りして動きに支障がないかを確認する仁郎と、そんな彼に場所を提供した朱乃。
「――――フゥ…………すみません、姫島先輩。場所を貸してもらって、ありがとうございます」
「うふふ。いいえ、気になさらないでください」
一通りの動きを確認して、神器を消した仁郎が振り返り頭を下げる。
そんな少年のつむじを見下ろして、朱乃はうっとりするような笑みを浮かべた。
彼女は、仁郎が自身の格好に対して意識している事を知っている。そも、その手の視線は受け慣れており、且つだからこそ心が騒めく。
するり、とその足が進む。
「さ、汗を拭いてさしあげますわ」
「あ、っ、どうも……」
咄嗟に動きそうになった体を押さえ込んだ仁郎は、鼻腔を侵す甘い香りに目を白黒させた。
動きやすさを確かめただけだ。掻いた汗など大した量ではない。
額に滲んでいた汗をタオルで拭い、服越しにその分厚い胸板にソフトタッチ。
「あ、あの、姫島先輩?」
「何でしょう?あら、ここにも汗が」
頬を撫でるように手を添える。仁郎の頬を、鍛錬の汗とは違う発汗が伝う。
「ねぇ、ジローさん」
「は、はい?」
「私たちもそろそろ長い付き合いになりましたわよね?」
朱乃にそう言われ、仁郎は思い返す。
四月ごろから数えて、そろそろ三、四ヶ月ほどだろうか。人付き合いという観点で言えば、ほぼ毎日顔を合わせる事を加味してもまあまあな長さだろう。
「……まあ、そうですね?」
「うふふ…でしたら、私の事も名前で呼んではくれませんか?」
「え゛っ」
仁郎からすれば、思わぬ申し出。
オカルト研究部内で、彼が名前で呼ぶのは一誠と祐斗。後は、名前しか教えられていないゼノヴィアだけだ。後の面子は苗字呼び。
朱乃としては、これを機にもう一歩先へと関係性を進める気らしい。
「いや、でしょうか?」
「ッ!?いえいえいえいえ!そんな事は無いんですけどね!?」
必殺の上目遣い涙目。それが本心であれ何であれ、その視線を向けられた仁郎は焦る。
「あ、あああ……あ、朱乃……先輩」
「ええ!何でしょうか、ジロー
顔を赤くして目を逸らしながらどうにか言葉を絞り出した仁郎に、朱乃の笑みが輝いた。
同時に、彼女は思う。
(もしも、私が貴方に助けを求めたのなら――――)
――――私を、