常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第三十四陣

 禍の団。様々な勢力の危険分子が寄り集まって形となった、世界的なテロ組織。

 

「もう少し、体を鍛えた方が良いぞ?」

 

 木刀を肩に乗せ乍ら、仁郎が呟く。

 彼の周囲には、呻きながら気絶したり悶絶しているローブを纏った者たちが揃って地面を舐めていた。

 補足をすると、テロリストの面々はピンキリがある。雑兵クラスでは、正直な所彼の相手は務められない。

 

 自分の担当が終わって、仁郎は空を見上げた。

 そこでは、堕天使総督と褐色肌の女悪魔が凄まじい魔力を滾らせながらぶつかり合っている。

 助太刀も考えるが、下手に介入すれば最悪味方側の邪魔をしかねない。それが分かるからこそ、仁郎は静観を選んでいた。

 

 だが、

 

「――――時が来たぞ、月島仁郎」

「ッ!ぐっ……!?」

 

 突如として襲い来る白銀。

 咄嗟に木刀に気を流して防御するが、直後に鈍い音と共に根元から木刀の刀身部分がへし折れ割れて殺しきれなかった衝撃に仁郎の体が後方へと飛ばされる。

 地面を滑って止まりながら、彼は襲ってきた相手を見た。

 

「……裏切ったのか、ヴァーリ・ルシファー」

「俺が求めるものは、闘争だ。その場を提供すると誘われてな」

 

 白銀の鎧を纏い、空中で腕を組んで飛翔するヴァーリはその表情の伺えない仮面を真っ直ぐに仁郎へと向ける。

 

「コカビエルを打倒したその力、見せてもらおうか」

「…………」

 

 見下ろしてくる鎧を見上げ、仁郎は無言で役目を果たせなくなった木刀の柄を投げ捨てた。

 そして、左手で背負った環頭大刀の負い紐掴んで引き、顔の左側に出た大刀の柄を右手で掴んで一息に引き抜いた。

 刀身の無い柄。その柄を握る手に力が籠められ、その(はばき)に光が走ると一メートル程の光の刃が現れる。

 神器として見るならば、実にシンプルだ。一方で、光の刃が現れた瞬間ヴァーリは鎧越しでありながらその力の圧力というものを確かに感じ取っていた。

 

「凄まじいな。神々しさすら感じる」

『気を付けろ、ヴァーリ。アレは、生半可なものじゃない。神格の力に等しい』

「俄然、滾ってきたな……!!!」

 

 仮面の下で獰猛な笑みを顔面に張り付けて、ヴァーリは魔力を開放する。

 その血筋に約束された、力の奔流。

 禍々しさを感じる光景を前にして、仁郎は神器の柄を両手で握ると正眼の構えを取る。

 

(力は溢れている。制御も十分)「ふぅーーーー…………」

 

 武器を引いても戦いが避けられないのならば、最早彼に引く選択肢は無い。

 一陣の風が吹き抜け、舞い上がった砂埃が一瞬だけ二人を隠し、

 

「「ッ!!」」

 

 示し合わせたように、空中でぶつかり合う。

 空間が軋み、光刃と膨大な魔力を纏った白銀の籠手が押し合いに。

 

「アルビオン!」【divide】

 

 発動するのは、ヴァーリの神器。

 神滅具【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】。そしてその禁手化である【白龍皇の鎧】。

 その能力は、半減と吸収。相手の力を半減にし、且つその半減にした力を自身の力として吸収。オマケに、過剰な吸収量は、光翼より排出されて神器所持者は常に100%のポテンシャルを発揮できるというもの。

 兵藤一誠の有する【赤龍帝の籠手】とは対となる存在で、能力もまた同じく。

 

 強力な神器だが、その一方で例外も存在する。

 

「これは……」

『神格には効きが悪い。この神器もその様だな』

 

 神格。

 月島仁郎の神器である【常世ノ太刀】は、常世神の力を有する。

 完全開放でなくとも、その力は神、神格の力である事は相違ない。

 故に、僅かに力を削ぐにとどまり、魔力を纏った拳と光刃の拮抗という形を創り出していた。

 

「悪いが、自分としても長々と戦う気は無いぞ!」

「ッ!上等だ…………!」

 

 仁郎は大刀を振るい、衝突していた拳を下へと向けて叩き落した。当然、拳の動きに引かれてヴァーリの体も下へと流れる。

 そこが、仁郎の狙い。

 

「月島流――――」

 

 大刀を振るった反動を利用して、その場で縦一回転。神器を振り上げて、全身の活力を滾らせる。

 

「富嶽鉄槌割り!」

「ぐっ、おおおおおお!?」

 

 振り下ろされた一撃に対して、ヴァーリは咄嗟に体を捻って腕を交差して防御姿勢をとっていた。

 甲高い衝撃音と共に、重い一撃が白銀の体を地面へと叩き落す。

 大きな粉塵が舞い上がり、戦場となった駒王学園を包んだ結界を衝撃が大きく揺らした。

 舞い上がった土埃の傍へと着地し、間髪入れず仁郎はその中へと飛び込んでいく。

 

「ッ、ダメージにはあまりなっていないか」

 

 だが、その足は土埃の中から飛んできた特大の砲撃によって無理矢理押し留められる事になる。

 飛び退いて地面を滑った仁郎は、油断なく神器を構えた。直後、未だに流れていない土煙を突き破って白銀の鎧が飛び出してくる。

 ぶつかり合う両者。耐えきれなかった地面が放射状に砕けていく。

 

「やはり、俺の目に狂いはなかった……!もっと激しい闘争をしようじゃないか!!」

「戦闘狂め……!」

 

 ぶつかり合う拳と光刃。

 

「月島流、富嶽霞潰し!!」

「殺意が強いな!」

 

 ぶつかり合いの中で手の中で神器を回して逆手持ちとした仁郎は、その勢いのまま内から外へと薙ぐ軌道でヴァーリの首を狙って光刃を振るう。

 これを、ヴァーリは魔法陣を出現させて盾として防ぐ。

 だが、拮抗は数秒。魔法陣には一瞬で亀裂が走り、ヴァーリが飛び下がった瞬間崩壊。光刃の切っ先が白銀の装甲をかすめる。

 逆手で神器を振り抜いた仁郎は、すぐさま手の中で柄を回して順手とし。弓を引くように、右手を引き絞った。

 

「月島流、富嶽巌砕突き!」

 

 捩じり込むような突きが追撃として放たれる。

 普通は、回避を優先する。突き技というのは、斬撃などと違い一点への攻撃であるから回避先が多いのも特徴であるから。

 だが、ヴァーリは普通ではない。

 

「面白い……!」『Half Dimension』

 

 発動するのは球形のフィールド。

 触れたモノを全て半分にしてしまうその力は、破格も破格。

 光刃の切っ先と力場がぶつかり合う。火花が散り、空間が軋みを上げてしかし互いの動きが一定のラインで押し留められる。

 空間は広がらず、切っ先は一定のラインから押し込めない。

 

「チィ……!」

 

 舌打ちと共に、仁郎は神器を引きながらバックステップ。

 一定の距離を取りながら神器を八相に構え、斜め前へと一息に跳躍。

 

「月島流、富嶽鉄槌割り“円錐”ッ!!!」

 

 振り下ろされる一撃が再び力場にぶつかった。

 

「こ、れは……!」

 

 ()()()()()()。力場を維持しながら踏ん張り、ヴァーリは仮面の下で瞠目した。

 通常の鉄槌割りは、円形の陥没クレーターが出来上がる。宛ら、円形の鉄槌を振り下ろしたかのような独特な破壊痕だ。

 一方で、先の“円錐”は円錐状の破壊痕を刻む。

 より一点に破壊力を集中させたその一撃は、仁郎の振るう技の中でも一際凄まじい。

 結果として、ヴァーリが押し込まれる形となった。

 

『ヴァーリ、half dimensionを解除しろ。このままでは押し込まれるだけだ』

「その様だな……!」

 

 判断は迅速。力場が終息し、押し込む形になっていた仁郎の体が唐突に反発を失ってバランスを崩す。

 その一瞬の隙をヴァーリは見逃さない。

 体を回転させながら振り下ろされていた神器の刃を交わして、その回転の威力を乗せた飛び廻し蹴りを敢行。

 文字通り間一髪で光刃が蹴り足と身体の間に割り込んで、コレをガード。ほぼ無傷で蹴り飛ばされた仁郎はグラウンドを滑って止まり、正眼に神器を構えなおした。

 

「バケモンだな、あのガキ」

 

 今回の襲撃の首領であったカテレア・レヴィアタンに片腕をくれてやったアザゼルは、過去現在未来において最強の白龍皇と称したヴァーリを相手に禁手化も果たしていない神器で互角以上に事を運ぶ剣士に目を剥いた。

 そもそも、剣士の持つ神器である常世ノ太刀自体が他神器と比べても異質だった。

 これまでに真面に機能した事例は、アザゼルの知る範囲で0。オマケに、その出力なども神器として機能しないのだから把握できていなかった。

 故に、目の前の光景には驚きしかない。

 

(出力が神滅具並みか、それ以上か?見た所、身体能力も上がってる上にヴァーリの神器が上手く機能してねぇ。阻害してる…………訳じゃねぇか。この気配。神格がそのままに宿ってやがるのか?)

 

 総督という立場ではあるが、そもそもアザゼルは神器オタクの研究肌。興味深い研究対象があれば、その興味はそちらに注がれるというもの。

 

 白龍皇と異端の剣士の激突は、この場に居る者たちの注目を嫌でも集める事になる。

 

「…………」

 

 その一人、兵藤一誠は無意識のうちに固く拳を握っていた。

 

 スケベな彼だが、不良相手の喧嘩は兎も角戦いに対するモチベーションというものは存外低い。そもそもが優しい性格をしている事もあって、相手への明確な攻撃に対して何処か抵抗がある為だ。

 そんな彼だが、同級生である異端の剣士に対しては面と向かって言う事は無いものの一種の尊敬の念と畏怖を覚えていたりする。同時に、仄かな嫉妬も。

 実力は知っている。その為の鍛錬の積み重ねも、才能も知っている。

 同じような時に神器を発現させたとはいえ、既に剣士として一流の領域へと足を踏み入れていた彼と違ってド素人が同じ領域に立てるなどとも思っていない。

 だが、どれだけ理性が囁いても、本能は違う。

 赤龍帝と白龍皇の因縁などいまいち実感が湧かないが、それでも心のどこかで目の前の闘争の舞台に立て無い自分に腹が立つ。

 

 無意識のうちに力を求める赤き龍の一方で、戦の舞台は加速していた。

 

「月島流、富嶽割り!」

「ぐ、あぁッ……!」

 

 剣を触れない様な懐の間合いに敢えて飛び込んだ仁郎は、その踏み込むの勢いをそのまま攻撃へと転用。勢いよく振り上げられた柄頭がヴァーリの胴を右斜めに抉るようにして走り、彼の体は鎧を割られながら空へと大きく跳ね上げられる。

 同時に、柄頭を振り上げた格好となった仁郎はそのまま上段に神器を構えて僅かな溜を作って跳躍し、その後を追った。

 

「月島流――――」

 

 容赦はない。油断も無い。

 

「富嶽、鉄槌割りッ!!!」

 

 渾身の勢いで振り下ろされた一撃。

 禁手の鎧すら真正面から斬り潰す気迫で放たれた一撃は、

 

「――――なっ…………!!」

 

 硬質な手触りと共に防がれた。

 仁郎の一撃を阻んだのは、空間の歪みより突き出された棒。

 端に金箍が嵌められたソレは、丸太のような太さであり。その3分の2ほど光刃に切り込まれながらも辛うじて、壁としての役割を果たしていた。

 同時に、歪みから光の縄が幾本も走ったかと思えば、ヴァーリの体に絡みつき瞬く間に歪みの中へと引きずり込んでしまうではないか。

 後を追おうにも、仁郎は空中での移動手段がない。目標を失った光刃をそのままに、消えた空間の歪みを睨み上げながら着地するだけ。

 

 かくして、会談襲撃の件は幕を下ろした。新たな火種を燻らせながら。

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