常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第九陣

 人間、咄嗟の行動にこそその人の内面が透けて見えるという物。

 

「…………」

 

 握った棍を僅かに軋ませながら、月島仁郎は自分に集まる視線を見返した。

 その中で、ライザー・フェニックスはその目を細める。

 

「ほう。貴様、人間だな俺の眷属の中でも最弱とはいえ、ミラの一撃を素手で止めるか」

「粗忽者とはいえ、兵藤は自分の友人だ。何より、気を抜いていたコイツを判断基準に一概のレッテルを貼られるのは困る」

 

 僅かに手に籠った力が強まる。瞬間、握られた棍が僅かに軋んだ。

 

 発端は、一誠だ。猪突猛進な彼は、ここでもトラブルメーカーとなるらしい。

 ライザーのプレイボーイっぷりに反応しての事だったが、彼に宛がわれたのは小柄な少女だった。

 その見た目に油断した一誠だが、彼は神滅具を持つとはいえド素人。

 武術を交えた動きには反応できず、ついていけない。

 アッサリと転ばされそうになり、そこに仁郎が割り込んだ形だった。

 

「……ふっ、面白い。リアス、何故こいつを眷属に入れない?」

「っ、ジローは私が保護した神器使いよ。悪魔になるかどうかは、本人の意思で決めるわ。勝手にこちらが決めて良い物じゃないもの」

 

 リアスの考え。それは今の悪魔社会では少数派かもしれない。

 彼女の眷属は、基本的に勧誘はすれども強制ではない。一誠やアーシアの様に命に関わるような状況でもなければ、仁郎のように断っても良いのだ。

 ただ、優良株というのは引く手数多。

 

「甘い、甘いぞリアス。そんな事では、俺の妻とは呼べんな?」

「誰が!この婚約も、お父様たちが推し進めただけでしょう!?」

「悪魔は、子ができにくい。その為に、早くから身体を慣らす事は当然じゃあないか?チャンスは、多ければ多い方が良い、そうだろう?」

「……フンッ。貴方は随分と気が多いようだけど?」

「当然だ。俺は、悪魔だ。悪魔とは欲望のままに行動する者達。無論、俺の愛は眷属たちに余す事無く向けているとも」

 

 余裕のある態度を崩さず、ライザーは改めて仁郎へ向けた。

 

「ちょうどいい。神器使いならば戦えるのだろう?リアス、君の足しにすると良い」

「何を――――」

「非公式のレーティングゲームとはいえ、俺と君とでは経験値にも戦力にも差がある。君を入れて六人。オマケに完全な素人まで居る。こちらは負ける道理が無いな?」

「っ……」

 

 ライザーの言葉は尤もだろう。

 主であるリアスとライザーはそれぞれ上級悪魔。実力もある程度は伯仲している。

 だが、その他は違う。

 悪魔の駒はチェスに対応しているが、兵士が八つ、騎士が二つ、戦車が二つ、僧侶が二つ、女王が一つ。

 ライザーはフルメンバーであるのに対して、リアスは騎士、戦車にそれぞれ穴があり、僧侶は片方が戦いの場に出せない。兵士に至っては、一誠に全て突っ込まれている。

 如何に質で互角、或いは僅かであろうと上回っていたとしても数は完敗。そして、グレモリー眷属は一騎当千の強者揃い、とはいかない。

 

 かくして、非公式のレーティングゲームが十日後を定めて決定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修行をするために、山籠もり。

 

「ぜぇ、ぜぇ……!」

「しっかりしろよ、兵藤。ほら、支えてやってるだろ」

「む、寧ろ……何でお前は平気なんだよ、月島……!」

「鍛えてるからだろ」

 

 大荷物を背負って坂道を行く。

 一誠は、体格を大きく上回るようなリュックに、その上にソファを置いて固定し、更にその上にリアス、朱乃、アーシアの三人を乗せていた。

 流石に潰されるという事で仁郎が後ろからリュックを支え、止まりそうになる一誠の足を無理矢理前へと進める。ついでに、もしもの時は咄嗟にリュックを持ち上げるための補助でもあった。

 因みに、仁郎は荷物を背負っている。本当ならば、素振りの様の鍛錬棒を持っていきたかったのだが、嵩張る事を考慮して断念。代わりに、素振り用の鉄刀を背負っていた。

 ひーこら息も絶え絶えに進む一誠。一方で、主に持っている訳ではないにしても涼しい顔の仁郎。

 彼の隣に、祐斗がやって来た。

 

「余裕そうだね、月島君」

「ん?まあな。鍛えてるから」

 

 涼しい顔。そんな彼に、祐斗は笑みを浮かべた。

 

「実は、君が今回の合宿に参加するって聞いて楽しみにしてたんだ」

「へぇ?その心は?」

「君が神器を発現させた時、直感的に分かったからだよ。僕も剣を扱うからこそ、ハッキリと感じられた――――格上の剣士だ、ってね」

 

 眉を上げて祐斗を見る仁郎。見られる方の彼は、晴れやかな表情だ。

 

「清々しかったよ。だからこそ、こうして手合わせが出来る場が出来た事が嬉しいんだ」

「……思ったよりも戦闘狂の嫌いがあるのか?」

「戦闘狂というよりも、剣士の性、じゃないかな。月島君も、強い剣客居たのなら剣を交えたいとは思わないかい?」

「そりゃあ、思う」

「それと同じさ。僕の場合は、君だった。それだけの事だよ」

 

 剣士という生き物は、心のどこかで死線を求めている。

 五体を武器とする体術とは違い、明確な武器を用いて他者を傷つける術を学ぶからこそだろう。

 

「っ……!?」

 

 余談だが、剣士二人の前を行く兵士の背に冷たいものが走ったらしい。

 

 閑話休題

 

「ここが、これからお世話になる宿泊所よ」

 

 そう言ってリアスが示したのは、コテージ。かなり大きい木造建築だ。

 山道を登って辿り着いたオカ研一行。早速、荷物をそれぞれ宛がわれた部屋へと運び込んでから、ジャージに着替えて外に集まった。

 

「それじゃあ、早速特訓を始めましょう。イッセーとアーシアは、まずは魔力の扱いからね。そっちの教導には、私と朱乃がつくわ。イッセーはそれと、筋トレよ」

「き、筋トレ?」

「いい?イッセー。貴方の神器『赤龍帝の籠手』は十秒ごとに力を倍加していくわ。理論上では、永久に強くなっていくものなの。でも、今の貴方はそれが出来ない。何故かはわかる?」

 

 リアスに問われ、一誠は首を傾げる。

 通常の神器『竜の手(トゥワイス・クリティカル)』が持ち主の力を倍加させるだけに対して、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』は先の通り倍加は半永久的に行われ続ける。

 だが、ソレはリアスの言う通り理論上。つまりは、机上の空論を出ない。

 その理由は、実に単純。

 

「肉体強度の問題よ、イッセー。トラックと積載量に近い話ね。乗せられる荷物が倍加した力を指すの。そして、積み過ぎればトラックは壊れてしまうでしょう?貴方の場合は、このトラックに当たるあなた自身の肉体を強靭にする必要があるのよ」

「な、成程……」

「何より、元々の数値が高ければ倍加の恩恵も大きくなるわ。地味かもしれないけど、今のイッセーには必要な事でしょ?」

「は、はいっ!頑張ります!」

 

 前屈みになりながら指を突きつけてくるリアスに、その豊満な胸を見ながら一誠は背筋を伸ばした。

 続いて、残る近接組。

 

「三人は……ごめんなさい。私も朱乃も武術の心得は無くて、指導が行き届かないと思うわ」

「大丈夫です、部長。僕らは僕らで、鍛えますから」

「ありがとう。イッセーについてもお願いね。筋トレが終わり次第、そっちに合流させるから」

「分かりました」

 

 祐斗が頷き、小猫と仁郎にも否は無い。

 かくして始まる合宿。相対するは、二人の剣士。

 

「それじゃあ、始めようか月島君」

「おう」

 

 木刀をそれぞれ握って、距離を取った。

 独特な緊張感の中、二人の間に立ち距離を取って小猫が右手を上げる。

 

「……始めっ!」

 

 振り下ろされる手。両者前へと飛び出した。

 丁度両者の中央辺りで、甲高い音を立てて木刀がぶつかり合った。

 

「ッ!」(重い……!!)

 

 押されるのは、祐斗だ。ぶつかり合った木刀は、しかし拮抗する事無くグイグイと押し込まれていく。

 

「非力だな、木場ァッ!!」

「ッ!」

 

 振り抜かれる仁郎の木刀。余りの剛剣に、祐斗の体が後方へと飛ぶ。

 着地、前を見た時には既に仁郎が木刀を上段に振り上げ、振り下ろさんと迫っている。

 咄嗟に横に跳躍。ギリギリのところで木刀の切っ先は外れて、強かに地面を叩いた。

 大きく陥没する地面。これだけで、仁郎の振るう剣の重さという物がよく分かる事だろう。

 この時点で、祐斗は様子見を止めた。転がる様にして立ち上がり、そのまま駆け出す。

 彼に宛がわれた悪魔の駒は、“騎士”。その特性は、速度の上昇。

 素人目には残像を捉える事で精一杯な速度を持って、祐斗はフィールドを駆けている。一方で、仁郎は正眼の構えを取ると一切祐斗の動きを追おうとはしなかった。

 駆ける、駆ける、駆ける。そして、

 

「――――…………流石だね」

「自分の勝ちだ」

 

 斜め後方から迫った祐斗完全に見切り、寸分違わず振り下ろされた仁郎の木刀は防御に回された祐斗の木刀をへし折ってその切っ先を額すれすれで止めていた。

 残心。膝をついた姿勢から立ち上がり、祐斗は一つ息を吐く。

 

「はぁ……完敗だよ。動きも完全に見切られたのは、師匠以来かな」

「結構読みやすかったからな。もう少し、フェイントを交えるか速度を増すぐらいしないと」

「厳しいね……」

 

 剣士の技量は、実戦こそが磨き上げるもの。

 合宿はまだ始まったばかりだ。

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