バクシンオー、騙されてるよ?   作:daidains

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内容は前話「バクシンオー、騙されてるよ?」とほぼ同じです。
翻訳風に書く練習をしたかっただけです。しかし翻訳っぽいというよりは明治期の小説らしい感じかも。文章の雰囲気だけ何となく楽しんでいただければ。


【翻訳体】欺瞞の彼方で私たちは踊る

 否、人生には進んで欺かれることを楽しむ悦びが確かに存在するのです。

 

 これは世の普遍的な真理であります。この奇妙でありながらも甘美な快楽は、日常のどこにでも潜んでいますが、それを認識することは稀です。しかし、これを知り得た者にとって、その悦びは否応なく日常を彩るものとなります。

 

 少なくとも、文学の一読者である者ならば、この事実を否定することはできないでしょう。何故なら、小説というものは、どこの誰とも知れぬ者が自らの知識の及ばぬどこかの誰かについて、長々と語るものです。如何にしてそんなものに関心を抱く理があるのでしょうか?

 

 然るに、そのようなものを読んで愉しめるとは如何なることでしょう!物語の中に入り込み、その登場人物と感情や思考を共有し、さらにはその結末に一喜一憂することができるとは!これこそが、人間の心の奥底に潜む不思議な欲求を表しているのではないでしょうか。我々は時として、現実では得られない何かを求め、虚構の世界に身を投じるのです。その虚構の中でしか味わえない喜び、悲しみ、そして驚きを求めて、我々は頁を繰るのです。

 

 奇妙ではありませんか?物語に対するこの深い欲求が、私たちを何処へと導くのか。

 

 ある者は、それを単なる娯楽と見なすかもしれません。しかし、私はその奥に潜む「語りの力」なるものを感じずにはいられません。言葉というものが、如何にして我々の心に入り込み、我々を捉えて離さないのか、その謎は永遠に解き明かされないものでありましょう。そして、それが小説という形式を通じて、我々に伝えられるのです。言葉を駆使して、我々を欺く術があるのです。小説とは、まさにそうした欺瞞の芸術であるに違いありません。物語を読むことが好きな人々は、おそらく欺かれることに飢えている人々ではないでしょうか。そして私も、実のところ、物語や小説を好んでいるのです。

 

 ここで一つ、幼き日の記憶が蘇ってきます。あの頃、私は母の膝に座りながら物語を聞くのが何よりも好きでした。母の温かな声が、私の耳元で柔らかく響き、その語りが私を異世界へと連れて行ってくれるのです。夜が更け、窓の外が真っ暗になる頃には、物語の中の主人公たちと共に、私も冒険の旅を終え、再び現実の世界に戻ってくるのです。しかし、その一瞬一瞬が、どれほど私の心を躍らせ、感動させたことでしょう。今でも思い出すと、あの時の心地良い温もりが蘇ってきます。母の語りは、まさに私を欺くものでしたが、それこそが私の求めていたものだったのです。 

 

「1200メートルを三度走る、その合計は3600メートルだ。これを長距離と呼ばずして、なんと呼ぶのだろうか。俺たちは、この長距離をも制覇せねばならぬ。そうではないか」

「……その通りです。私も、よく分かりました」

 

 トレーナー殿は、かつてこのように私に語りかけてきたのです。彼の言葉には、いつもある種の魔力が宿っていました。その魔力は、私を信じさせるものであり、私の中に新たな可能性を芽生えさせるものでした。彼が何かを語るたびに、私はそれを真実だと受け入れ、そしてその言葉が私の行動の指針となるのです。それがたとえ、どれほど無理なことであっても私は彼の言葉を信じ、そしてその言葉の通りに行動するのです。

 

 全く、「カタル」という言葉が「語る」と「騙る」の両方を意味するのは、実に巧妙だとは思いませんか?言葉を悪用する不埒者の本質を、端的に表しているのです。

 

「良い返事だ。そのまま、俺を信じてついてきてくれ」

 

 そして、そのような不埒者こそがこの人なのです。現行犯とは何とも度胸のあることですね!その一言一言が、私の心の奥底に響き、私を動かす力となるのです。私は、それが分かっていながらも、彼の言葉に従わずにはいられないのです。その言葉の中には、私が求めている何かがある。それを見つけるために、私は彼の後を追い続けるのです。

 

 何と悪い人でしょう!許されるべきなのでしょうか?皆の頼れる委員長として、そんな人を見過ごすわけには参りません!しかし、私の中にはもう一つの感情が渦巻いているのです。それは、彼に対する深い尊敬と、そして……それ以上の何か。私が彼の言葉に従い続ける理由は、尊敬だけではありません。彼の中に、私が未だ知らない何かがある。それを知りたいという欲望が、私を彼に従わせるのです。トレーナー殿を私の元から逃がしてしまうわけにはまいりません。その理由はただ一つ。

 

「勿論です。私、きっと長距離も制して見せます。ですから、私が驀進する姿を……どうか、最も近くでご覧ください」

 

 そのような屁理屈にも満たぬ戯言を、真に受ける者がいるとでも本気で思っておられるのでしょうか。まさか、私がそのように騙されやすいとでもお考えでしょうか?しかし、私はその言葉を受け入れ、それに従うのです。彼の言葉には、何かがある。それが私の中で何かを呼び覚ますのです。まあ、何と哀れな――いえ、むしろ愛おしい方でしょう。他のウマ娘にそのような低級の嘘をつこうものなら、彼女らから袋叩きにされて終わりです。嘘をつく相手が私で本当に良かったですね、とお伝えしたいものです。

 

 しかし、心配は無用です。今後、他の人々に嘘をつかないよう、私がそばでしっかりと見守りますから!言い訳する子供のような、こんな可愛らしい嘘をついたトレーナー殿を、私が見捨てるわけがございません。何故なら、私は学級委員長ですから!

 

 私のトレーナー殿、あなたは実に大悪人であり、そして救いようのない嘘つきです。しかし、その言葉の中には、私が求めている真実が隠されているのです。それを見つけるために、私はどこまでもあなたに従い続けるのです。ですが、私はそのことを承知の上で、必ずあなたの「カタリ」に、どこまでも騙されてみせましょう。

 

 さて、トレーナー殿、その交換条件と言っては何ですが――

 

「ああ、俺もそのつもりだ。さあ、行こうではないか、驀進王よ」

「承知いたしました!」

 

 これからも、どうぞ私に騙され続けてくださいね?そして、私もあなたを騙し続けるでしょう。嘘の中にも、きっと真実が隠されているものですから。

 

 それを見つけるのはあなた次第であり、そしてあなたと私、どちらがより巧妙な嘘つきか――それを見極めるのは、まだ先の話なのです。








賢い系バクシンオーをたまに摂取したくなるんです。
明治時代にトレセンがあったら、こんな風に書いていたんだろうか。
ところで翻訳体らしく書くコツをご存じの方、どうかご教示ください。
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