なんやかんやでONE PIECEの世界に転生した男が
なんやかんやの末、女ヶ島編で詰む話

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ハンコックが一番かわいい

 人は受け入れ難い現実に直面した時、危機が迫っていたとしても往々にして固まってしまう。

 いくどかの修羅場を潜り抜けた経験が功を奏したのか、硬直は一瞬だった。しかし、この身が抜き差しならない状況に置かれていることに変わりはない。

 再起動した脳みそが導き出した次なる思考は、こうだ。

 

 まさか女ヶ島で詰むとは……。

 

 いやさ、原作屈指のチート能力と重い過去から攻略難易度クソ高いけどさ、〝覇気〟という概念すら知らなくてもクリアできたじゃん。ほとんど原作乖離してないなら、まあなんとかなるでしょ、くらいに思っちゃうじゃん。

 

「ふん、自傷行為で邪心を打ち消したか……。先の海兵もやっておったが、まあよい」

 

 ド派手な音を立てながら天井をぶち破り天守閣の浴室へと侵入したことで、最側近たる二人も即座に室内へとやってきている。もちろん臨戦体制で。

 烈火の如き怒りを表すように緑髪を震わせる次女〝サンダーソニア〟と、眼前の生物を排除するべき咎人として認識し敵意を隠そうともしない末妹〝マリーゴールド〟──彼女らは睥睨する。その巨躯故に、凄まじい迫力だ。

 妹に渡されたバスローブ(生地が薄く、しかも丈が非常に短くむしろ裸体よりセクスィー……)を羽織り、この国の支配者であり三姉妹の長姉──〝ハンコック〟は言葉を重ねた。

 

「もとより男、その上わらわの背中を見た。……生きては帰さぬ!」

 

 瞳の奥に憎悪を宿し、殺気を飛ばす。

 チート技〝メロメロ甘風(メロウ)〟の対処法を知っているからか、次なる攻撃は近接格闘だった。技名のない単なる蹴撃。しかし、その正体はうんざりする程の理不尽キックである。

 〝女帝〟ボア・ハンコックが食べた悪魔の実は〝メロメロの実〟。獲得した能力は、魅了した相手を石化する、といったもの。さらに、その石化効果は物理攻撃にも適応される空前絶後のぶっ壊れ仕様。

 たとえ魅了されておらずとも、彼女の蹴りを防ぎきれなかった場合、当たった箇所から体が石になっていくのである。まあ、仮に腕や脚でガードしたとしても、やはり攻撃がヒットした場所から石になるのだが……。

 

 いずれにせよ、お触り厳禁、ということだ!

 

 ハンコックは、世界政府の秘匿技術(強者であれば見よう見まねで模倣できてしまう)である〝六式〟──その内のひとつである〝剃〟にも似た高速移動で接近する。〝俺〟は焦ることなく迅速に体外へと覇気を放出。霧散しないよう練り上げつつ鎧のように腕へと纏わせ、見聞色の覇気を全開にし蹴りの軌道を読み切る。

 瞬く間もない刹那の攻防。

 蹴撃は腕に当たることなく、その数ミリ手前──無色の鎧に弾かれた。

 一撃で葬る腹づもりだったのか、ハンコックの顔が驚愕に染まる。

 対する俺は心の奥底で安堵した。一瞬たりとも気は抜けないが、やれないこともない。相手は海軍元帥をして強いと言わしめる指折りの実力者。隙を晒せば状況はひっくり返り、悪化の一途を辿るだろう。

 深呼吸。

 とにかく落ち着け、平静を保てと自己暗示する。

 兜の緒を締め直し、思考を再開。

 原作と激しく乖離しつつあるこの状況──

 修正は必須──

 

「──さてどうしたものか」

 

 容易く仕留められると踏んでいた相手に攻撃を見切られた衝撃は、果たしていかほどだろうか。多少は精神的優位を取れると思ったが、

 

「……この男、相当腕が立つ。ソニア、マリー──そなたたちは下がっておれ」

 

 戦闘民族〝九蛇〟の戦士たちを束ねる最強の皇帝は、極めて冷静に距離を取ったのち、俺をそう評した。忌々しげに睨まれる。

 絶対に排除しなければならない敵がどれほどの戦闘力を持っているのか注意深く見極めようとする者と、絶望的状況を打破するべく思考を巡らせながら相手の出方を窺う者。膠着の中、自然と目線がかち合う。

 

 しっかし、眉間にしわを寄せるその姿すら美しいなあ。

 今現在着用している際どすぎるバスローブも目のやり場に困る……が、せっかくなので、しっかりと脳内フォルダに保存させてもらってます。ありがとうございます。

 あとはあれだ、やっぱりマジでかわいいし、マジで綺麗だ。黒曜石の如き瞳を内包する切れ長の目に長いまつ毛、スッと通った鼻筋、艶やかな唇──顔面を構成する全ての要素が完璧なバランスで成立している。しかもすっぴんでコレだ……もうヤバイよ、マジで。そして、もちろん顔だけではなく、抜群のプロポーションも持ち合わせている。絶世の美女と呼ばれるのも納得。

 前世の記憶も曖昧で、なぜこの世界に転生したのかもわからないまま、死なないために必死に生きてきたが……今この瞬間、全てが報われた気分だ。今生に悔いなし! 生のハンコック様に拝謁できただけでも、この世界に転生した甲斐がありました!

 

 ……って、この逼迫した状況でなんつーこと考えてんだ! いかんいかん、少し見惚れただけで邪心が顔を出しやがる。

 冷静になれ。可能な限り〝本来の流れ〟に戻すためにも、失敗は許されない。

 陰謀が渦巻き、暴力が蔓延るこの世界へ転生してしまった段階で、俺はいつ死んでもおかしくない、突拍子もなく死ぬかもしれない、と覚悟は決まっていた。俺は消えていい、いなくなって構わない。しかし〝この状況〟で死を選ぶことはできない。『ONE PIECE(この世界)』のためにも、〝こいつ〟だけは生かさなくては。

 決意を新たにした瞬間、巨大な桃色のハートが生み出される。ハンコックの美貌が見せる幻影ではない。これは、

 

虜の矢(スレイブアロー)〟──メロメロの実の能力で発生させた物理的なハートの塊を弓の要領で引き絞り、放つことで、石化効果を持つ矢を大量に撃ち出す技。

 

 容赦無く飛来する矢の軍勢を、飛ぶ斬撃ならぬ〝飛ぶ打撃〟を放ち、ある程度撃ち落とす。この時、大変申し訳ないが、矢ではなく窓や天井にも打撃を加えておく。

 砕けた破片の数々は城外へと降り注いだ。……どうか打開の布石になりますように。

 今後の展開を見据えながらの攻防。俺は〝一体の石像〟を庇うように立ち塞がり、弾き損ねた残りの矢を砕き、いなす。〝こいつ〟を破壊されるわけにはいかない。

 

「……ほう」

 

 回避を選ばず〝それ〟を守るように動いたことへハンコックは疑問を持った。

 僅かばかり思案したのち、目を細め、かすかに口角を上げる。お互いに小手調べ程度の応酬だったが、得られたものはあったようだ。

 

「どうやら、そこの〝石ころ〟がよほど大切らしいな」

「ご推察の通り。是非とも石化を解いてほしいが……」

「図に乗るな。今すぐ〝それ〟を蹴り砕き、貴様に絶望をくれてやる」

 

 自身が有利な状況であることを悟り、ハンコックは嗜虐的な笑みを浮かべた。

 そんな仕草にすらトキメキそうになってしまい、脇腹を抓り、自制する。

 

「というかちょっと待て! 敵意はない、話を──」

「わらわに指図するな……ッ!」

 

芳香脚(パヒューム・フェムル)

 

 ある程度予想していたが、会話はにべもなく遮断された。やはり〝対話〟という別の土俵に持ち込むためには、動揺を誘い、付け入る隙を作り出す必要があるようだ。……はあ、女ヶ島は拳で解決できないから難易度高いんだよなあ。

 俺の憂鬱など考慮してくれるはずもなく、慈悲なき連続の蹴撃は迫り来る。

 意識を切り替え、防御に専心すべく目を閉じ、覇気の鎧を纏い迎え撃つ。一歩たりとも退かぬよう腰を落とし下半身に力を込め、見聞色の覇気を研ぎ澄ます。

 時間にして十秒といったところ。五十に達する高速の連撃全てを捌き切る。しかし、終わる気配はない。むしろ苛烈さは増していく一方だ。

 加速を続ける超速の蹴りは、おそらく目視では知覚不能の領域に達しているだろう。その一撃一撃も重い。悪い夢でも見ているようだ。

 しかし攻防が続くにつれ、海の底へと落ちていくように深い集中状態へと移ろう。次第に雑音は消えていき、時間の流れがやたらと遅く感じる。

 極限の状況──

 突如芽生えた思考の余地──

 我にもなく思ってしまう。

 

 くそぅ、なんだって〝こんな状況〟になってんだよ。泣きたくなってきた!

 

 受けてるばかりじゃジリ貧だ。反撃しなければ──そう訴えかける感情を、理性で押さえ込む。

 女ヶ島編で最も重要なのは、ハンコックと友好関係を築くことだろう。

 俺は転生者で、原作を神の視点から眺め、ある程度の内容を把握している。しかし全てではない。『インペルダウン編』や『頂上戦争編』は問題なくとも、〝白ひげ〟が予言した〝巨大な戦い〟においてハンコックの存在が必要不可欠になる可能性もある。

 だからこそ、今この瞬間を切り抜けるためだけに攻勢に出るのは、危険だ。恨みを持たれたり、話が拗れる展開は避けなければならない。

 

 敵意はない──ということを、この身で証明し続ける。

 

 兎角、防御一択。瞬間的に湧き出した弱音を頭の隅へと追いやる。ただひたすらに迫撃を捌き続けることだけに注力する。

 超速で回り込む動きにピタリと合わせ〝石像〟への接近を防ぐ。退くことなく蹴撃を受け止め、距離を保つ。それを、息つく間も無く繰り返す。

 果たして、死の気配を背負いながら戦うのはいつぶりだろうか。久しく機会が失われていた強者との逢瀬に、眠っていた感覚がひりつき始めた──そんな頃合い。どれほどの時間が経ったのか定かではないが、見聞色の覇気がハンコックの心の揺らぎを知覚する。

 専守防衛の構えをとる牙城を崩すことができずにいるフラストレーション。

 それが忌むべき男によって成された事実への煮え滾るような怒りと憎悪。

 天守閣での戦闘を察知し、皇帝の身を案じ馳せ参じようと階下から迫る九蛇の戦士たち。そんな状況の中、はだけかねないバスローブ姿で未だ実力の底が見えない強者を相手取らなければならないことへの焦り。

 

「おのれ、忌々しい……ッ! これほど癪に触る下郎は久方ぶりじゃ……ッ!!」

 

 ハンコックの混乱と同時に、蹴撃の嵐が止む。

 一瞬のうちに様々な情報が脳内を飛び交う。整理がつかない状況で、ハンコックの身体は不快な汗によって濡れ始める。その表情(かお)からは、先程のような余裕など消え去っていた。

 次なる一手へ移る直前。

 薄く細い時間の切れ目。

 逡巡。

 迷い。

 これは〝勝機〟だ。酷ではあるがやるしかない。

 

「〝背中の烙印〟……俺は別に、ソレについて触れ回るつもりはない」

「……なっ、……き、貴様、これを、知って──」

 

 ゆっくりと、しかし確かに聞こえるよう声を紡ぐ。

 発せられた言葉の意味を理解したのか、ハンコックの瞳孔が開かれる。超然としていた皇帝の瞳に怯えの色が滲んだ。

 一秒、また一秒と時が刻まれるごとに、その色は濃くなっていく。怯えに反比例するが如く覇気は萎んでいき、今となっては非力な少女のようにさえ見えた。

 浴室へと落ちた際に見えてしまったハンコックの背中に焼き付けられた印──〝それ〟は、二度と消えることのないトラウマ、天駆ける竜の蹄、世界貴族〝天竜人〟の奴隷である証。

 三姉妹は、その情報が外部に漏れることを何よりも恐れている。男への刑罰、女ヶ島〝アマゾン・リリー〟皇帝としての矜持──そんなもの、もはやどうでもよかった。この場所に向かっている国民たちに、ソレを知られることこそ、最も危惧すべきことなのだ。

 

 より強くなる階下からの気配。

 石化能力に対する理解が深く、容易には殺せない男。

 その男が、知られたくない情報とそれが持つ意味を理解していること。

 

 終わった──……なにもかも。

 

 最悪の結論へと行き着き、足の力が抜けたのか、ハンコックはへたり込んでしまった。身体を抱きしめるようにして震えている。

 迫る戦士たちを天守閣へ侵入させまいと、部屋を後にしようとしていた妹二人が駆け寄った。しかし、その二人も明らかに動揺し、身体の動きがぎこちない。

 三人は恐怖を和らげるよう身を寄せ合う。きっと、今までもそうしてきたのだろうということは、想像に難くなかった。

 ……。

 ……。

 ……。

 罪悪感がヤベェ……完全に俺のせいだけど。

 ……うん。早く決着をつけよう。

 

「おい、話を聞け。俺の願いを聞き入れてくれるなら──……」

「……ッ!!」

 

 今までにないほどの殺気が向けられる。刺し違える覚悟すら窺えた。

 俺の願い──それ即ち、男の欲望。三姉妹はきっと、情欲に塗れたものを想像したはずだ。秘密をバラされたくなければ、その肉体で対価を払え、と。

 この話題は非常にセンシティブだ。配慮に欠けていた。

 少しでも安心させるように両手を上げ、降参のポーズをとる。その上で交渉を続ける。

 

 

「……そう睨まないでくれ。話を最後まで聞いてほしい」

「……申してみよ。事と次第によっては、わらわたちも、何をしでかすかわからぬぞ」

 

 一度折れた心は激しい怒りによって蘇る。僅かではあるが、ハンコックの瞳に光が宿った。

 

「俺の要求はたったひとつ──〝こいつ〟の石化を解いてくれ」

「そやつの石化を解き、二人がかりで──」

「だから、最後まで話を聞けって」

 

 依然として、鋭い目つきで懐疑の視線を向けてくる。

 無理もない。本来〝これ〟は、俺の役目ではないのだから。存在しないはずのイレギュラーによって引き起こされた、不運な乖離──その皺寄せだ。

 でも、たった一瞬でいい。ほんの少しの間だけハンコックの信用がほしい。そうすれば、〝正しい流れ〟に戻るはずなのだ。だから──

 

「石化の解除を見届けたら……今度は俺が石化する。もちろん抵抗はしない。煮るなり焼くなり砕くなり、あんたの好きにしたらいい」

「……貴様、いったいどういうつもりじゃ」

「〝こいつ〟──〝ルフィ〟の石化を解いてほしい。その為に、俺の存在を対価として支払う……ただそれだけのことさ」

「……やはり、何を考えておるのか理解できぬ」

 

 言葉に裏はない、他意などない──どうか伝わってくれ、と願いながら、懐疑の眼差しに臆することなく視線を合わせる。

 なおも険しい顔つきだが、一考の余地があると判断したのか、刺々しい気配が軟化する。しかし、そう易々と初対面の男を信用するハンコックではない。

 

「仮に……仮にじゃ。要求を呑み実行したとして……石化を入れ替えたのち貴様を蹴り砕き、その上で麦わらの男を殺すと言ったら──」

「それも含めて好きにしたらいいさ」

「……わからぬ。……やはりわからぬな。わらわに抗うだけの実力を持つ貴様が、容易く無力化されるような有象無象の小僧を庇う道理など……」

「これは……まあ、あれだ。俺も少々驚いたが、特殊な状況だったというか〝俺〟という存在がルフィにとって特別だったというか……」

 

 説明できない、というより、説明のしようがない。原作単行本の知識がない限り、理解させるのは難しいだろう。それ故に言葉を濁す他ないのだ。

 数分前の出来事を思い出す。

 あれは、初手の〝メロメロ甘風(メロウ)〟を回避した時のこと。俺は石化の条件である邪な思考を塗り潰す為に自らの腹を殴った。中途半端な痛みでは意味がない可能性があるので、本気で殴る。それこそ膝をつき、うずくまってしまうくらいの強さで。

 下がった目線の先で手を握り、開く。チート攻撃をやり過ごしたことを確認し、状況はどうなった、と多少の安堵と共に顔を上げた瞬間〝ソレ〟は視界に現れた。

 

〝目をかっぴらいて鼻の下を伸ばし、あまつさえ鼻血を垂らしたまま石像になったルフィ〟

 

 想定では、エネルの雷撃をやり過ごした時のような反応をする──即ち、原作通りに〝メロメロ甘風(メロウ)〟を無効化するとばかり思っていた。なのに……どうして?

 あまりにも受け入れ難い光景に、俺まで石像のように固まってしまった。

 しかし、瞬間的にとある情報がフラッシュバックする。

 

『なぜルフィはハンコックの裸には反応せず、ナミの裸には反応したのか』

 

 原作五十四巻のSBSに記載されていた読者からの質問。

 尾田先生の回答は『ルフィはウソップと一緒にいると悪ノリしてしまい、その時だけは反応を示す』といったものだった。年相応に、あるいは性別相応に異性に対し興味はあれど、惑わされるものではない。ウソップが隣にいなければ、基本的には邪心よりも冒険心がルフィの心を満たしているのだ。

 目の前の現実と脳裏の情報、これらを統合すると──

 

 俺はウソップと同様、一緒にいると悪ノリさせてしまう存在だった

 

 ──というわけだ。ルフィとはフーシャ村から一緒に旅をし……というか、幼少期にエースたちと共に盃を交わした義兄弟の仲だが、驚きの新事実である。

 

 さて、場面を現在へ戻そう。

 ハンコックは俺の言葉の真意を探ろうとするも、時間は平等に流れていく。

 現在、女ヶ島で定められている『皇帝の湯浴み中、彼女の妹である二名を除く全ての者は城外へと退去しなければならない』という規律。わざわざ鐘を鳴らして警告し、陣を張ってまで死守されてきた法が今、犯される。

 それはひとえに、敬愛する皇帝の身を案じるが故。たとえ罰を受けようとも構わないという気概、あるいは覚悟。

 大勢の足音は重なり、城をかすかに揺らす。

 派手に戦った甲斐があったというものだ。

 

「さあ、どうする。じきに国民たちがここへ雪崩込んでくると思うが……」

「……ッ」

「その時、俺の口が滑らないとも限らない」

「……貴様、随分といい性格をしておるようじゃな」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 いったい、どれだけの葛藤がハンコックの脳裏を駆けただろうか。苦渋の様相を浮かべながら、ついに最終的な判断は下された。

 

「…………要求を受け入れよう」

 

 致命的な弱点を煽り、武力ではなく〝対話〟という交渉の席に着かせる。目論見通りに動いた国民たちは、ハンコックの決断を促すタイムリミットへと変貌する。

 ま、対価として俺の命を差し出すことにはなるが、上々の成果といえよう。

 そもそもの話、ルフィの旅路に同行するつもりはなかったのだ。大抵の奴らに抗うだけの実力をつけたら東の海(イーストブルー)の辺境でスローライフを送る──これが、しがない転生者の夢だった。しかし、なんやかんやで船出に巻き込まれ、すったもんだありながらもシャボンディー諸島まで旅を共にしてしまった。

 ルフィに仲間として認定されたなら、もはや逃れることはできない。幾度か「船を降りる」と進言したが、「嫌だ」の一点張り。俺は夢を諦め、どうせなら原作の名シーンをこの目で見よう、という思考へと舵を切ったのだ。

 主人公御一行の成長を妨げないよう喫緊の事態に陥らない限りは戦闘に参加しないことを条件に、『役職:庶務係』として帯同し『ONE PIECE』という物語を追体験した。

 クロネコ海賊団に立ち向かったウソップの勇姿。

 ゾロとミホークの一騎打ち。

 サンジとゼフの別れ。

 ルフィとアーロンの決戦。

 偉大なる航路(グランドライン)もそう──昨日のことのように思い出せる鮮烈な記憶ばかり。そして最期の光景がハンコックの美貌であったなら、それはもはや、本望とさえ呼べるはずだ。

 

 十分すぎるほどに生き抜いた。後悔はない。

 

 自ら死を選んだ男は至極穏やかに微笑んだ。

 その姿を目撃したハンコックは息を呑む。果たして何を感じ取ったのか──それは、彼女だけが知っている。

 

「それじゃ、時間もないし、早く済ませよう」

「…………本当に、よいのだな」

「構わない。約束は必ず守る」

「………………そなたを、信じよう」

 

 決意を固めたハンコックが立ち上がる。

 俺は状況がややこしくならないようルフィの視界を奪っておく。上着を脱ぎ、顔へとキツく巻きつけた。

 唐突な脱衣に一瞬だけ動きを止めたものの、意図を理解したハンコックはルフィの前まで歩を進める。メロメロの実の能力が込められた吐息を吹きかけると、ついに石化は解かれた。

 

「……ん、あれ? って、なんだこれ! 真っ暗で何も見えねェぞ!!」

 

 停滞していた物語が動き出す。

 

「ルフィ、落ち着け、大丈夫だ」

「その声──〝セシル〟か!?」

「何も心配はいらない。そのまま進み続けて…………お前はいつか、海賊王になれ」

「……え?」

 

 遺言じみた言葉に、視界を取り戻そうともがくルフィの動きが止まる。

 ハンコックは俺へと向き直り、両手をハートの形にして腕をこちらへ突き出した。チート技〝メロメロ甘風(メロウ)〟の予備動作。

 二度目の人生最期の光景を、網膜と脳内フォルダと魂に焼き付ける。

 

「……言い残すことはあるか」

 

 唐突な問いかけに、しばし瞠目してしまう。まさか向こうの方から言葉を投げかけられるとは思わなかった。少しは心を許してくれた、と受け取るのは自惚れだろうか。

 それにしても、最期の言葉、か。

 何かを悟ったのか、ルフィが騒ぎ始める。悠長に考えている時間はない。

 走馬灯が駆け巡るようにそれらしい文言を記憶の海から探す。

 しかし結局、ボンクレーのような粋な台詞はこれっぽっちも浮かばなかった。とはいえ無言というのも味気ないし、どうしよ……──なんて、土壇場であれこれと悩んだ挙げ句、考えがまとまる前にポロリと漏れ出た言の葉に思わず笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりハンコックが一番かわいい」

 




以上『ルフィをどうにか石化させたい』+『ハンコックのヒロイン物少ないな』という発想から生まれた遺物でした


※アンケート、ヤマトを入れ忘れてしまった……(男性としてカウントするべきならこれでよし?)。うるティをはじめ大勢の魅力的なキャラたちは枠に収まらず……。かわいいキャラ多すぎっス……

一番好きな女性キャラは誰ですか?

  • ナミ
  • ロビン
  • ビビ
  • レベッカ
  • しらほし
  • ハンコック
  • ウタ
  • ペローナ
  • ヴィオラ
  • プリン
  • レイジュ
  • コアラ
  • ボニー
  • たしぎ
  • ヒナ
  • ひばり
  • 孔雀
  • カリファ
  • 日和
  • その他

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