ぼっち・ざ……ぼっちちゃん?   作:あったかもこもこ

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9話 Re:結束バンド:

 

 私はひとり。

 そしてここは宇宙。光の引力に呑まれて、他の微粒子が光に群がっている。私は闇だ。引力には呑まれない。だからひとりだ。

 なんて。

 ステージからは離れたカウンター前。そこで孤立。

 あみちゃんが居なくなった今、私はひとりから、ひとりぼっち(・・・)になったのだ。三文字追加。お得だね。へへっ。

 なんて。

 そんなわけないんだけどね。

 あぁ、あみちゃん。どうして私を置いて……

 

「ひとりちゃん、盛り上がってる?」

「あ、あみちゃん」

 

 ぎゅいーん。意識の超回復。

 花畑の奥地、麦わら帽子を被ったあみちゃんが微笑んでいる。

 てのは妄想で。現実はあみちゃんがカウンターの向こうで手を振っていた。メイド服で。

 

「ドリンクを任されました。あみです」

「バイトって……」

「あ、勘違いしないで。今回はお仕置きでこの姿になってるだけだから」

 

 お仕置き……勘違いが加速しそうなんだけど。もしかして、変な事とかされてないよね。店長がバイトの弱味を握って……みたいな。

 って、よくないよくないっ! あみちゃんは綺麗な存在なんだ。いやらしい想像なんてしたら駄目だ。それに、ここの店長にも失礼だし。

 頭を振って気持ちをリセット。

 

「どうして急にヘドバン?」

 

 怪訝な眼差しを向けられた。

 

「もしかして、似合ってない?」

「ぜ、全然! すごい似合ってるよ!」

「ふふ、そう?」

 

 その場でクルリと回り、彼女は綺麗なカーテシーを披露した。

 

「可愛いすぎる! 家で雇いたいぐらい!」

「じゃあ、雇ってみる? ご主人様」

「へっ」

 

 あみちゃんからの不意打ち。私はマヌケな顔を晒した。だってご主人様だなんて……なんて甘美な響きか。頭をハンマーで殴られたかと思ったよ。

 もし雇ったらどんなことでも命令できるのかな? あんなことやそんなこと。

 …………

 

「ダメだ! よくないよそんなのっ!」

「そんなに?」

「あ、否定したわけじゃなくて、その! あの! 日給10万でどうですか!?」

「うん、少し落ち着こうか?」 

 

 冗談だから、と彼女は言った。

 またもあみちゃんの冗談に踊らされる私。彼女はどうも私の反応を見て楽しんでる節がある。まぁ別にいいけど。踊らされるのも悪くないし。あぁでも、他の人を踊りに誘うのは見たくないな。きっと嫉妬しちゃう。

 

「落ち着いた?」

「落ち着いた」

「じゃあ、話変わるけど。結束バンドはどうだった?」

 

 結束バンド、という名のバンド。

 ギター、ベース、ドラマの3ピースバンド。

 当たり前だけど、喜多ちゃん以外は知らない人だった。一人は金髪の陽キャぽい人。もう一人は青髪のクールそうな人。

 正直言って、演奏は結構ミスが目立ってた気がする。けど、三人とも楽しそうで。それは私にとって羨ましく、憧れに近い何かを抱いた。

 だから私にとっての結束バンドは……

 

「良いバンドだなって思った」

 

 ステージを見ながら。

 結束バンドとは別のバンドが演奏している姿を見ながら、そう答えた。

 

「ふふ、そっか」

 

 それから少し沈黙。

 彼女も、無表情でステージを眺め、私とあみちゃんの間になんとも言えない空気が流れる。

 少しして、あみちゃんの方から鼻歌が聞こえてきた。それは結束バンドのカバーした曲のサビ部分だった。

 

(綺麗な歌だな……)

 

 しばらく、何も言わずに鼻歌を聴いた後、次に口を開いたのは私だった。

 

「喜多ちゃんはどうして私を誘ったんだろ。歌も歌えてるし、三人でも十分そうだった」

「うーん、喜多ちゃんの考える事は難しいからねぇ」

「え、喜多ちゃんってそんな難しい人なの?」

「ちょーっと変わってるかな」

「ちょっと?」

「うん、ちょっとだけね」

 

 ちょっとじゃないよね。多分。

 

「実を言うと、喜多ちゃんにギター教えたの私なんだ」

「え」

 

 ギター教えたの? 私以外の人に。

 独占欲が顔を出す。ブラックひとりが表に挨拶に来ていたが、なんとか玄関の方で食い止めることに成功。しかし、どんどんどんと扉を叩く音が聞こえる。

 

「最初はよく躓いてたんだけどね。そのうちにどんどん上手くなって。もうライブできるまでに成長して、なんだか私が嬉しい」

 

 子を想う親のような、朗らかな微笑み。

 まずい。ブラックひとりがインターフォンを高速で鳴らしている。もう我慢の限界だ。

 

「わ、私も──」

 

「すみませーん。オレンジジュースください」

「はい、少々お待ちください」

 

 小さく言いかけた言葉は切られ、彼女の耳には届かなかった。

 彼女は、慣れた手つきで飲み物を用意していく。この間に、私の中のブラックひとりを鎮める事に成功した。

 用意した飲み物をお客さんへと渡すと。そうしてようやく私の方へと再び向き直ってくれた。

 

「それでなんだけど……ギター教える時に、喜多ちゃんのバンドの価値観みたいなの聞いたの」

「喜多ちゃんの価値観」

「喜多ちゃん曰く、バンドは友達や恋人を超越した第二の家族だそうだよ」

「え、つまり、お前も今日から家族だ(勧誘)、だったってこと?」

「そんな危険思考は持ってないよ。多分」

「多分」

 

 持って……持ってないはず、と彼女が片手で頭を抑えている。

 喜多ちゃんって実はヤバい人だったのかな。

 

「まぁそれは置いといて。そんな喜多ちゃんの居るバンド。興味あるでしょ?」

「あるにはあるけど……」

「メンバーじゃない私が言うのも変なんだけど、結束バンド入ってみない?」

「うー、でも」

「でも?」

「私は、あみちゃんとバンド組みたい……」

「あ、ひとりちゃんには言ってなかったね。私、バンドとか組むつもりはないよ」

 

 彼女は軽くそう言った。

 

「えぇ!?」

「だから、ごめんだけど、ひとりちゃんの期待には答えられないかな」

「そんな……」

 

 私がずっと目標にしてきた事が、今潰えました。

 

「だからさ、入っちゃいなよ、結束バンドに。きっと楽しいよ?」

「でも……」

「それにさ、私聴きたいな。ひとりちゃんのロックを」

 

 見惚れるような微笑みで彼女は私を誘った。

 

「は、入ってみよっかなー?」

 

 人間は不純な生物である。それは私も例外ではない。

 

 

────

──

 

 

「ミスりまくったー!」

「私もですー!」

「私はそうでもなかったけど」

 

 額に垂れた汗を拭き、虹夏は各々の様子を見渡した。

 喜多は満身創痍といった感じ。仕方がない。彼女はボーカルとギターという重大な仕事を任せてしまっている。

 リョウは、相変わらず涼しい顔していた。 

 

「MCスベってたね」

「んひひっ」

「しょうがないですよ初めてなんですから」

 

 スベったことは否定しない喜多。リョウの発言よりなによりそっちの方が虹夏の心には刺さった。まぁ確かにMC力がないのは否定できないし、そういうところも磨いていかないと。グッと握り拳をつくり、決意を固めていると、

 

 コンコンコン。

 扉を叩く音。

 

「はいどうぞー!」

 

 入ってきたのは吉と……ピンク。

 

「ライブお疲れ様」

「あう、あ……」

 

 赤髪の後ろにピタリと、ひっつくように現れた挙動不審な少女。

 ピンクの髪に、ピンクのジャージ。そして一点。背中にある黒のギターケースが存在感を放っていた。

 

「あれ、後藤さん?」

「あ、はい後藤です」

 

 喜多がきょとんとした顔で言った。

 

「もしかして喜多ちゃんが誘った子?」

「そうです! ほらー伊地知先輩、存在したでしょ?」

「確かに存在したね」

「え、私の扱いってUMA?」

 

 知らぬ所での自分の扱いに、後藤ひとりは密かにショックを受けた。

 悪いようには言われてないから大丈夫だよ、と吉がひとりの頭を撫でた。

 

「バンド加入希望の後藤ひとりちゃんです。ちなみに私の昔からの親友」

 

 親友だと。

 喜多は「あら、そうだったのね!」と純粋に驚いた。

 しかし、虹夏のアホ毛センサーは何かを察知。二等辺三角形の底角が空へと聳え立つ。バンド加入希望という言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、それらを放って「親友」の話題を深掘りにいった。

 

「えー、だからそんなに距離近いんだ。ちなみにいつからの知り合いなの?」

「うーん、幼稚園からかな」

「それって幼馴染ってやつじゃないかしら! 憧れるわ! ……はっ!」

 

 喜多は気づいた。

 このままでは私の周り、吉さんと後藤さん。伊地知先輩とリョウ先輩。という、幼馴染同士で固められてしまい、私だけ除け者になってしまうのではないかと。

 私も幼馴染をつくっておくべきだった。

 

「……やってしまったわ」

「え、喜多ちゃんどしたの?」

「吉さん、今からでも私と幼馴染になれないかしら?」

「本当にどうしたの喜多ちゃん!?」

 

 それは、幼馴染の定義から考えないとね。吉はそう言った。そして喜多は項垂れた。

 そうした女子トークが盛り上がる中、ベーシストはジッとひとりを見つめていた。

 

「え、あの、その……良い天気ですね」

「ここ室内だよ」

「え、じゃあ、良い電灯ですね」

「ここのはLEDだから、どちらかと言えば確かに良い電灯かもね」

「へへっ、やっぱりー」

「ふっ、ひとり、面白いね」

「いやー、それほどでもー!」

 

 仲よさそうである。

 

「あ、紹介がまだだったね。あたしは伊地知虹夏! ドラムを担当してるよ。で、そっちの青いのがベース担当の山田リョウ」 

「どーも、青いのです」

「あ、こちらはピンクの後藤ひとりです」

 

 仲よさそうである。

 

「あとー最後に、知ってると思うけど喜多ちゃんね。うちではギターボーカル担当だよ」

「よろしくね後藤さん!」

「あ、喜多ちゃん。一度は断ってしまってごめんなさい!」

「いいのよ後藤さん。こうして来てくれただけで私は凄く嬉しいわ」

 

 家族になれるんだから。ひとりの頭に幻聴が響いた。

 

「後藤さんどうしたの? なんだか顔色悪いわよ」

「な、なんでもないです」

 

 こころなしか瞳に光がないように見える喜多の視線から、ひとりはそっと顔を逸らした。

 

「えー、バンド加入希望者というわけで。ひとりちゃんには簡単なテストをしてもらいます!」

「う、テスト……嫌な響き」

「まず第一に、あなたはギターを弾けますか?」

「ひ、弾けます!」

「オッケー! 合格! 君も今から結束バンドだ!」

「ゆるすぎる!」

 

 あまりにゆるい審査基準に、思わずひとりの声が上がる。

 

「おっ! いい声出てるねー。ひとりちゃんボーカルもいけちゃう感じ?」

「むむむ!」

「ちょっ! 首痛めちゃうよ!?」

 

 首を左右に高速で振り、むむむと連呼するマシーンと化したひとりを虹夏は心配そうな目で見ていた。そこに、こほんとわざとらしく声を出した喜多は、ひとりの突然の奇行の意味を語る。

 

「伊地知先輩、これは首を左右に振る事で拒否の反応を示しています。つまり、無理ですって意味です」

「なんで知ってるの喜多ちゃん」

「最初勧誘した時も同じような事されたからです」

「なるほど」

 

 むむむの謎が解明された。虹夏は肩の力を抜いた。

 そして喜多は、一歩、後藤博士への道を進んだ。

 

「えー、じゃあ後は……次のライブでひとりちゃんを紹介する時なんだけど。なんて呼べばいいかな? ひとりちゃん? 本名でいいかな?」

「い、いやそれは……」

「じゃあ、あだ名とかないの?」

「ちゅ、中学では「あのー」とか「おい」とか……」

「それあだ名じゃなくない!?」

 

 ひとりの悲しき過去を垣間見た。

 

「吉さん、後藤さんにあだ名とかつけなかったの?」

「私はずっとひとりちゃんって呼んでたから」

 

 若干、吉も焦る。そんな中リョウは一人、新しいあだ名を思案していた。

 

「ひとり……ひとりぼっち……ぼっちちゃんは?」

「おう、またデリケートなところを!」

 

 リョウのデリケートな攻めたあだ名に、ひとりは目を輝かした。

 

「ぼぼぼぼっちです!」

「喜んでるし……」

「あだ名とか初めてで」

「う、なんか涙出てきた」

 

 こんな変なあだ名でもいいのか。

 他にも考えるよ? と虹夏が言ったが、ひとりはむむむと拒否反応を示した。そんなにそのあだ名がいいのね。

 

「でもそっかー……うん! よーし、じゃあ今からぼっちちゃん歓迎会兼ライブの反省会だー!」

「あ、今日は人と話しすぎて疲れたのでもう帰りたいです」

 

 後藤ひとり。

 

「え?」

「眠い……」

 

 山田リョウ。

 

「えっ?」

「私はメンバーじゃないからそろそろ失礼するね」

 

 吉あみ。

 

「ちょっ」

「伊地知先輩ごめんなさい。私この後用事があって……」

 

 喜多郁代。

 

「えぇっ!?」

 

 一人。また一人と部屋から立ち去って行く。残されたのは立ちながら眠るリョウと、まさかの展開に混乱する虹夏のみとなった。

 寂れた空気。それに合わせるかのようにマイクスタンドがカランと倒れた。

 

「結束力全然ないっ!!」

 

結束バンドは宇宙の彼方へと消えていった。

 

 




この小説完結したと思ったら夢でした!



※誤字脱字報告、毎度ありがとうございます!
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