最後の決戦が終わった後の蛇足   作:星の王子さま

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なんか書けちゃったので、投稿します。



とある取り組みの話(1)

 

ここは、全国でも有名なサッカースタジアム。

最近では、つい先日、世界大会で好成績を獲得した日本代表の女子サッカーチームが帰国し、このスタジアムで練習しているところだった。

 

五郎丸柊子は、現在、一号指定「槍型」と、もう1人と共に、そんな所にお邪魔していた。

 

「えと、本日は、ご多忙な中我々にご協力いただき、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」

 

「槍型」には、スタジアムの脇に控えてもらい、柊子はもう1人と共に、今回お世話になる相手方と挨拶を交わす。

今回の件は、長期にわたる計画な事もあり、事前に文書で細かく連絡をとっていたので、始めの導入はスムーズに進んだ。先方も、この案件についてはそこそこ乗り気な様子である。

 

「それで、この子が…?」

「はい。現在は、欠落者となっております」

 

柊子の側にいる、1人の女子。身体の成長度合いから、おおよそ中学一年生くらいと思われるが…

 

「……」

 

彼女は今、欠落者だ。

自分から何かを語る事は、無い。

 

その瞳に、光は無い。

 

柊子は、そんな彼女を見て、この場での自分の役目を思い起こし、むん!と気合を入れた。

 

「それで、私たちはこの子と一緒に、具体的には何をすればいいんですか?」

「そうですね…この子と一緒にサッカーで遊んでやって下さい」

「……」

「……」

 

唐突に訪れる、気まずい沈黙。

気合を入れたはいいが、少々空回りしてしまった様子である。

 

「…えっと、それだけですか?」

「ええと、そうですね…説明不足でした。今回の件の目的ですが…」

 

先方も困惑気味なので、改めて細かく説明をしていく柊子。

 

まず始めに。

欠落者とは、何らかの要因で自分の「虫」を殺害され、感情や意思を喪失してしまい、生ける屍の如き様相となった虫憑きのことを表す。

この状態の彼ら彼女らは、外部からの命令で動くことしか出来ず、この状態から蘇生した前例はほぼ無い。

特環が把握している限りで、あの最終決戦が終わる瞬間までで、自力での蘇生に成功した例は、たったの2人。

 

一号指定「ふゆほたる」と、同じく一号指定「かっこう」の、2人のみ。

 

その後も、紆余曲折あって、特環が蘇生に成功した人数は一桁に留まっている。そして、その全員が「三匹目」の協力の下で行われた。

今現在行っている、この蘇生への取り組みも、当然ながら手探りである。

 

そんな状態なので、この「欠落者を蘇生する取り組み」において、少しでも手掛かりになる様なものは無いかと、貴重な参考人である「ふゆほたる」と「かっこう」の両名に話を聞いてみたところ、2人は揃ってこう答えた。

 

 

『自分の『夢』を思い出す為の、きっかけが必要』

 

 

参考人の2人にとっては、それはお互いの存在だった。

なので、その助言に従い…

 

「…なるほど。つまり、この子が自分の夢を思い出せるように、サッカーで遊べば良いんですね」

「そういう事ですね」

「分かりました、やってみましょう」

 

 

 

─────

 

 

 

「こんにちは。私の名前は○○です」

「……」

 

わたしは今、特別環境保全事務局という国家機関の依頼で来た、目の前の女の子の相手をしている。

 

この子を初めて見た時から、その様子が一見して普通じゃないことは、自分でもすぐに分かった。

特別環境保全事務局から来たという、五郎丸柊子さん曰く「欠落者」という状態なのだとか。

 

「今日は、私と一緒に遊びましょう」

「……」

 

欠落者がどういう者なのかは、先程しっかり聞いている。だから、目の前の女の子から何も返ってこないのは、想定の範囲内。

 

「はい、これ。サッカーボール。今日の遊びで使うよ」

「……」

 

でも、ここまで反応が無いと、なんだかいい歳してお人形遊びでもしている様な気分になってくるなぁ…

お人形が、等身大の生きてる人間なのが、普通の人形遊びと違うけど。

 

「持ってみて」

「……はい」

 

初めて、反応が返ってきた。

多分「持ってみて」という言葉を、命令と捉えたんだろうなぁ。

 

中学生の子どもらしい、ソプラノの可愛い声だ。

なのに、感情が一切篭っていないから、子どもらしくない不気味さを感じる。

 

「ボール、触ってみた感触は、どう?」

「……硬い、です」

 

「じゃあ、ボール、地面に置こうか」

「……はい」

 

ここまで、機械的な反応しか返ってこないのが、一見すると凄く不安だけど…

 

さて。

ここからが本番だ。

サッカーの基本動作「ボールを蹴る」ところから、やっていこう。

 

…監督やマネージャー曰く、月単位で長期的に行う企画なので、すぐに成果が現れるわけではないとか。

だから、焦る必要は、一切ない。

 

「そしたら、私に向かって、ボール、蹴ってみて」

「……はい」

 

「そうそう!ナイスパス」

「……」

「じゃあ、わたしからも。よっと…」

 

「また、蹴ってみて」

「……」

「そう、いいよ〜!」

 

何も知らない幼い子どもに、サッカーの基本中の基本を教えるように、丁寧に指示を出す。

わたしの指示に、彼女は正しく応えてくれている。

 

彼女の様子が実に機械的なのは、やっぱり変わらない。

本来、自分が当たり前のように持っている「感情」や「意思」が、ヒトにとって、生き物にとってどれだけ大事なのか、まざまざと見せられている気分。

 

そうしてボールのパスを続けること、およそ1時間ほど。

元々素質があったのか、自分が感じた限りでは、最初に比べて、足の使い方とか、パスの技量がかなり上がった様子。

それ以外に、目立った変化は無い。

 

感情や意思が戻っている様子は、無い。

 

「…○○さん、ありがとうございます。時間なので、今日はここまでで」

「あ、はい」

 

柊子さんから声をかけられて、時計を見た。

 

どうやら、時間になってしまったようだ。

時計上は1時間だったが、体感ではもっと短かったように感じる。

子ども相手に長時間パスばかりする経験なんて無かったから、新鮮ではあった。

 

「…こんな感じで、良いんでしょうか」

「…分かりません。しかしこの活動が、欠落者になっているあの子の琴線に触れているのは、確かなようです。僅かですが、反応がありました」

 

そうなんだろうか。

すぐ側のわたしが見ていて、そんな素振りは一切無かったけれど…

 

「…なら、良いんですが」

 

 

 

───

 

 

 

その後何ヶ月もの間、この取り組みは続けられた。

 

本人の素質・素養なのか、はたまた欠落者という状態の特性なのか。

対象の欠落者の子の、サッカーの技量はメキメキと上昇していった。

 

ここまで、わたしは何だかんだ楽しみながら、相手できたと思っている。

トレーニング中の、良いリフレッシュにもなった。

子どもは好きだし、教えるのだって嫌いじゃなかったから。

 

面白がったチームメンバーが交代で入ってきて、やたらと難易度の高い技術を使えるまで指導した、なんて事もあった。

 

 

 

そうして、その取り組みは、和気藹々と進んでいった。

 

 




長くなったので、3部に分けます。
1つ目です。
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