書けちゃったやつの最後です。
また暫くは何も無いと思います。
では、どうぞ。
「欠落者を蘇生する取り組み」の1つとして、元虫憑きで現在は欠落者の、中御門美優という女子を対象に行われている取り組みが、ほぼ半年経とうという頃。
「じゃあ、今日も遊ぼっか」
「……」
ついに、それは起こった。
───
その始まりは、私たちがプロの選手だからこそ、普段はあまり起きない、ちょっとしたミスからだった。
グラウンドの向こうで、パスの練習でウォーミングアップをしていたチームメンバーが、ちょっとしたミスでパスを受け取り損ねた。
受け取り損ねたボールが、此方へ転がって、目の前の女の子の足にぶつかって、止まった。
ミスしたチームメンバーが「ごめーん!」と、此方に駆け寄ってくる中、目の前の女の子を通して欠落者という状態に慣れた私は、彼女がとった初めて見る行動に、唖然としていた。
「……」
「……え?」
彼女は、転がってきたボールを、私が何も言っていないのに、自主的に両手で拾って、拾ったボールをじっと見つめていた。
「……美優ちゃん?」
彼女の名前を呼んでみる。
反応は無い。
向こうから、柊子さんと、いつも一緒にここに来ている女の子が駆け寄ってくる。
女の子の方は、棒状の何かを取り出していた。
美優ちゃんが、フッと別の方向を見た。
私もその方向を見る。
彼女が見ていた先には、サッカーゴールがあった。
美優ちゃんが、ボールを手放す。
当然だけど、ボールは彼女の足元に落ちた。
…私の目の錯覚だろうか。彼女の後ろの空間が一瞬歪んだように見えた。
そして。
美優ちゃんは突然、ボールと一緒に、走り出した。
私が教えた、ドリブルを使って。
わたしは、慌てて彼女を追いかける。
程なくして、わたしは彼女に並走する形になった。
此方に駆け寄って来ていたチームメンバーの1人が「およ?」という感じで立ち止まり、美優ちゃんを見てか、満面の笑みを浮かべた。
私は、ちょっと嫌な予感がした。あの子が満面の笑みを浮かべた時は、あまり碌な事を考えていない時が多かったから。
チームメンバーの彼女は、唐突にホイッスルを取り出すと、他のメンバーたちに向けて吹いた。
他のメンバー達の視線が、此方を向く。
ドリブルで、ゴールに向かって一直線に走っている、美優ちゃんに、視線が集まる。
そして、メンバー達は、何やら視線を交わし合った後、突然試合の配置についた。
そして、そこから。
美優ちゃんの無双が、始まったのだった。
───
あぁ、霧が、少しずつ、晴れていく。
身体が、勝手に動く。
でも、全然悪い気分じゃない。むしろ、とっても良い気分。
「……」
空っぽだった自分の中から、溢れんばかりに「なにか」が湧き出してくる。
自分の足元にあるものが、淡く光り出した。
薄れゆく霧の先に、光り輝く枠のような「なにか」が見える。
「……ふ」
このまま、向こうの光の元へ、自分の足元にあるものを届けるんだ。
これは、そういう「スポーツ」だ。
自然と、思い出した。
「……ふふっ」
薄れゆく霧の視界の中に、新しいものが出て来た。
自分の隣に居る1つの青い光と、立ち塞がるようにわたくしに向かってくる、11の赤い光。
「……あははっ」
まずは赤の光1つ。
風のように、くるりと回って避ける。
その次、赤の光2つ。
隣の青い光に、足元にあるものを蹴り渡す。
そのまま、赤の光2つを素通り。
青の光から、足元のものが、すぐに帰って来た。
「あはは!はははっ!」
あぁ、楽しい、楽しいっ、楽しいっ!
くるくる回って、時に青の光と一緒に、赤の光に立ち向かい、突破していく。
あぁ、気づけばもう、残る赤の光は後1つ。
その先に、お届け先の、光り輝く枠のような「なにか」が待っている。
最後は、足元のものを、届け先に向かって。
足に、力を込めて。
全力で、蹴り出す!
「はあっ!」
最後の赤い光は、それを見て、わたくしが蹴り出したものに飛びつこうとするが…届かない。
そうして、わたくしが運んできたものは、光の下に遂に届いた。
そして、同時に。
わたくしの周りの霧が、完全に晴れた。
世界に、色が戻ってくる。
あぁ、そうだ。
わたくしの名前は、中御門美優。
わたくしの夢は「プロ女子サッカーの選手になる」こと。
あぁ、全部、ぜんぶ思い出した!
これで、わたくしはまた、夢を見られる!
今なら、その為なら何だって出来そうです!
あぁ、でも。
何故だろう。
眠いなぁ。
疲れてるのかしら。
そうですね、がんばって、夢を思い出せたから。
…だから、少しだけ、休みましょうか。
───
その後の時系列は以下の通り。
まず、蘇生したての美優ちゃんは、精神的な興奮からか、テンションがハイになっていた様子だった。
彼女の虫…ヒジリタマオシコガネ、通称スカラベの外見と酷似している…も、始めはその影響を受けてか、暴走の気配を見せていた。
そこに、いつもグラウンドの片隅にいた女の子が、銀槍を中心に身体のあちこちに青みがかった銀色を纏って、割り込んだ。
彼女…一之黒亜梨子さんが、暴走の気配を見せた虫を抑えつつ、手元の銀槍を振り回して、美優ちゃんと彼女の虫に、粉のような何かを撒き散らした。
そうして、若干暴走しかけていた彼女の「虫」は、彼女によって鎮静化され、現在は宿主ともども眠っている。
美優ちゃんの虫の体長は、目測で4メートルくらいだろうか。側では、美優ちゃんが寄り掛かるように眠っている。
本物の虫憑きの「虫」なんて初めて見たから、そういう点はちょっと怖いけど、昆虫自体は別に嫌いというわけでは無いから、美優ちゃんの虫に少しずつ近寄ってみる。
そういえば、テレビでやっていたな、と思い出す。
この「虫」たちは、宿主達の夢の具現化なのだと。
焦がれる程に強く夢見た子ども達の夢、そのものなのだと。
そういう風に見るならば、この「虫」が、美優ちゃんの夢の具現化なのか。
…なるほど。
ちょっと目の前の「虫」が可愛く見えて来た気がする。
「お疲れ様、でした」
柊子さんが、声をかけて来た。
彼女も、感無量という様子だった。
若干涙ぐんでさえいる。
「ご協力、ありがとうございました。これで、今回の取り組みは終了となります」
「…そうですね」
「この後、諸々の雑用があるので、私たちはすぐにでも戻らなければならないのですが、今回の取り組みの記録は残っています。なのでいつか、特別環境保全事務局まで、是非美優ちゃんに、会いに来てください」
「…えぇ、あの子とちゃんと話したいと、思っていたところでしたから」
そうして、欠落者の蘇生に成功したという、上々の結果を伴って、今回の取り組みは、終了した。
書けちゃったやつ、とりあえず完です。
それっぽくなってると良いな、と思いながら投稿してます。
今後も、思いついて、書けたら投稿しようと思います。