「はあ?!アビドス高校を攻めるって、何してるんですか?!」
「ひぃ?!ごめんなさいぃ...」
予想はしていたのだが、ここまで厄介ごとだとは思わなかった。
話を詳しく聞いてみると、便利屋はどこかしらのクライアントから依頼を受けてアビドス高校を潰すということをやろうとしているらしい。
便利屋というものの都合上、金さえ渡されればなんでもやるからその後の話は知らないのが当たり前なのだが...どう考えても、それは確実に子供だけの範疇に収まる規模をしていない。
それには確実に”悪い”大人が関連している...
「...はあ」
頭が痛くなる、別の学校の問題に首突っ込むのは正直ご法度だが今回に関しては関与せざるを得ない。とはいえ、やるなら単独になるだろう。風紀委員を頼ればそれこそ外交問題に発展しかねないし、無理を聞かせようとすれば万魔殿の方が勢いづきかねない...本当に、面倒だ。
「その、止めないの...?」
「...止めたいのは山々ですけど、俺一人じゃあなたたちには勝てません。それに、凡そ人員を雇っているんでしょう?100無理です、ので大人しく傍観させてもらいます」
とはいえ、やっぱりアルさん自体結構ショックみたいだ。心根が優しいと苦労すると思う。やっぱりあんたゲヘナ合ってねぇよ。
「話終わった~?」
「終わったんだったら早くいこ、バイトのみんなが命令を待ってる」
「一応...お気をつけて。あと、カヨコさん少しだけいいですか?すぐ終わりますんで」
「...?分かった、先に行ってて」
三人が少し離れたのを見計らって、生活に最低限の分を抜き取った黒服との契約の報酬品を渡す。
「...いいの?」
「あのラーメン屋であんなんだったんで、多分また切迫してるんでしょう?カヨコさんの財布の紐が硬いことを見込んで毎回渡してるんです」
「そ、ありがと」
「じゃあ、お気をつけて」
「うん、じゃあね」
そういうと、カヨコさんは少し早足気味に去っていった。
しばらくその場に立ち尽くした後、俺も別の方向からアビドス高校方面に向かうことにした。
ーーーーー
学校が俯瞰して見渡せる廃ビルの屋上に俺は立った。
小さい粒のようではあるものの、全員の姿が見える。
互いの距離を見る限り、そろそろ激突しそうである。
俺がこの場にいる理由はあってないようなものだろう。
それはただ見届けるためだ、お互い真意を知らないとはいえ大人の策略に彼らが巻き込まれるのは彼らにとってはたまったものじゃないだろう。とはいえ、いざとなればこちらから狙い撃つつもりでいる。
そうして眺めていると、背後に立つ気配がある。
「...何の用だ、黒服」
気配自体特有のものであるため、振り返ってみれば案の定というべきか彼がいた。
「クックック...先程ぶりですね、シロウさん」
「あんたは正直、もっと遠くから眺める側かと思っていたが来るもんなんだな」
「私としても、些か興味深いものがありますのでこうして脚を運んだ限りです」
「...興味深いもの?なんだよそれ」
黒服は俺の横に並び立つと俯瞰する。
俺もそれに釣られて眺める。
現状はアビドスの面々が先生の支援のもと、快進撃を繰り広げている。便利屋も負けじと攻撃を続けているが、旗色は悪そうだ。
「彼女は奇跡の担い手です。彼女がいなければアビドスであっても長くはもたなかったでしょう」
「先生のことか?」
「えぇ」
「奇跡の担い手っていったが、そりゃ一体どういうことなんだ?」
「...クックック、そのうちあなたも理解する日が来るでしょう」
奇跡の担い手。その意味はこれから先、先生が何かを成し遂げるということを言っているのだろうか?生徒だけでは成しえない、大人だから起こせる奇跡を
深く聞きたいが、これ以上聞いても何かを教えてくれる気がしない
「...あっそ、じゃあ別で聞きたいことがあるんだがいいか?」
「なんでしょうか」
「お前...いや、お前らはここで何をしようとしている?」
その言葉に黒服がこちらを見る、表情というものが読み取れるような顔はしておらず、良くわからないモヤが揺らめいているだけだ。それでも、どこか興味深そうな目でこちらを見ている気がする。
「...何故?」
「正直、憶測でしかないがな...知り合いがちょうどアビドスを襲うなんて物騒なこと言ってたんだ。お前だけでも動く可能性は考慮したが、お前はこんな荒っぽいことはしない。欲しいものがあるならそれ自体に来てもらうよう働きかけるはずだ」
まあアルさんから話を聞いてから短時間で考えたものではあるが、多少付き合いのある身からすればこうするだろうと考えた。こいつは断れない契約を持ち出して、契約を成立させる。でも全部が全部こいつの仕業ではないとはいえない。だから一枚噛んでいるぐらいだと思っている。
カマかけにも近いが...どうだろうか
「クックック........やはりあなたは実に、面白い」
「.........」
「...あなたはカイザーコーポレーションをご存じでしょうか?」
「カイザー、少しだけかもな」
カイザーコーポレーション、確か民間の軍事会社のはずだ。確か、結構色んな事業に手を伸ばしていたはず...
「んな会社が、今回の件に関わってるってか?」
「えぇ、そして...あの砂漠で成し遂げようとしていることがあります」
「アビドスのか?砂と寂れたものしかないだろ」
「クックック、今はそれでいいです。あなたにはきっと知る機会が多く巡ってくると思いますので」
「そりゃ、どういう...」
更に聞こうとしたとき、チャイムが鳴り響く。
彼らの方を見れば、人がぞろぞろと帰っていく姿が見えた。便利屋だけが取り残され、しばしおろおろした後蜘蛛の子を散らすように帰っていくのも見えた。
アビドスの面々は難なく勝利を収めたようだ。それが各々の戦闘力の高さ故か、一重に先生の能力を活かす力が高いから成しえたことなのかはわからない。
そして彼らに視線をやっていると、一瞬...桃色の髪から鋭い視線を感じた。
「...マジか、ここ見えるのかよ」
「流石は、暁のホルスですね」
「暁の...?」
「いえ、こちらの話です...あぁ、ですが折角ですので伝えておきましょう。私が狙っているのは彼女のその圧倒的な神秘です」
「それで脅して、都合のいいモルモットにして神秘の研究か?」
「えぇ、それが私たちの存在意義ですから」
「...そうかよ」
「やはり止めないのですね」
止められていたら止めている、それを知ったうえでこいつはこういうのだ。そういうところ、ほんと好きにはなれない。
「...今のお前を止めたところで何かが変わるわけじゃないからな」
「薄情ですね」
「なんとでも言ってろ、それに...」
「...?」
「あの人はきっとあんたを止めるよ。だって、そういう人だから」
「...クックック。そうなるといいですね。では私もそろそろ戻るとしましょう、長居していれば少々分が悪くなるので」
「俺もいかねぇとな...じゃあな、また実験したいなら連絡しろよ」
「えぇ、また」
黒服はそういうと、すぐに姿を消した。
俺自身あまり長居する気はなかったので、その場を後にして帰路についた。これから先に起こるを知る機会が訪れるその意味を考えたまま
ーーーーー
赤井シロウ
彼は私の計算外の存在だった。キヴォトスという世界に身を置きながら神秘の化身をもたず、その代わりに神秘を用いた異能を扱う。
彼がどんな結論を見せてくれるのか、私は非常に楽しみで仕方がない
「楽しみにしていますよ、シロウさん」
試験管は赤いままだ。