「えぇ、その件ですが“般若”に頼んでみてはと思いまして…。」
「“般若”…任せられない漢ではないんだがァ…。」
「やはり“やり方”ですか…。」
「というよりは、なぁ…。」
「ま、まぁ…。」
ブラインダーから刺した光が二人を照らす。
「「人間性が…。」」
二人はそう言うとガクッと肩を落とした。
「ッ…がぁ…!!オメェこんな事して許されると思ってんのかァッ…!!!」
深夜2時東京湾外。
「許されないようなことばっかしてきたオメェが、今更何ガタガタ抜かしてんだ。」
怯えるように地に倒れた男の前に立つ男。漢はそう言うとスーツの内ポケットからリボルバー式拳銃を取り出した。
「クソッ…てめぇ、俺は
…ッパンッ……!
東京湾の端で鋭い拳銃の音が一発響いた。
「知らねぇよバカ。」
男は手際よく血にまみれた男を東京湾に投げ捨てると、近くに止めた黒塗のベンツに乗り込んだ。
新宿区某所、ブラインダーの閉め切られた部屋では机を挟み二人の男が話していた。
「オメェよ、佐々木んとこの取り立ては?」
「あ、あいつ、また滞納するって聞かなく」
バァンッ…!!
仁の前に立つ男の話は机を叩く大きな音と声にかき消された。
「だったらぁ!!そのいらねぇ舌でも目ん玉でも売って金にして持ってこいやぁ、俺の言うとること、分かるよな“カトォ”」
「は、はいッ…!分かってます、分かってますよぉ…。」
そう言うとカトォと呼ばれたその男は部屋を後にした。
「ったく、馬鹿にも程があんだろーが。そんなことも教えなきゃならねぇのかよこの俺が。」
仁はそう呟くと、口に煙草を運んだ。
「火ィ!」
部屋で座っていた紺スーツ姿の男の一人はビクッと怯むと、仁のくわえていた煙草に火をつける。
「ふー…今日は気分がわりぃな、ほんとに。何か良くねぇ事が起こりそうだな…。」
男はそう呟くと、ブラインダーから外をチラッと覗いた。その時だった。
「こんちわ。櫻のオジサン、邪魔しますよ。」
「樫木…!」
「樫木…お前…」
「櫻上さん。お久しぶりですね。」
「長らくうちにこねぇと思うといつもふらっと現れては消える…。何なんだオメェは。」
「俺がここに来るのにはいつも理由がある。俺も詳しくは知らないんですが“華の血”の件で」
樫木が全て話すまでもなく、スッと立ち上がった櫻上が割って入る。
「樫木、客間行くぞ。ここで話せるような話じゃねぇ。」
櫻上がそう言うと樫木はニヤッと笑って見せた。
「流石お頭、知ってるんですね…。」
「おう、樫木。その話、どこで聞いた。」
櫻上はコーヒーを樫木の前に置くと、早くもそう尋ねた。
「事の始まりは3年前。陽祥會の一件からです。」
樫木は出されたコーヒ-に手を付けず、真っ直ぐに櫻上を見てそう口にした。
「あれだろ、オメェが幹部かなんか殺っちったつーやつ。あれ以降、陽祥會からは目をつけられて、いまだにケツだって拭き切れてねぇ…。んで、その件がどう関わってくるってんだ。」
「はい、実はその幹部が死ぬ前にこう言ってまして。『お前、“華の血を知ってるか?”』と。俺は聞いたこともなかったですから、知らねぇって言ったんですが、『今後の組争いには必要不可欠だ。“マヤ”って女の血を巡って大勢の人が死ぬ。』って。」
櫻上は煙草の煙をため息交じりに吐き出すと、少し間をおいて話し始めた。
「この世には知らねぇ方がいいことがたくさんある。今回の一件もその一つ。何年か前から俺も情報は集めていたが…樫木、今回は関わんね方が身のためだ。」
煙に巻かれた密室で、櫻上はそう言うと内ポケットから茶封筒を取り出して、樫木の前に放り投げた。
「取り合えず、200ある。もっと欲しいってならくれてやる。おめぇが組から消えるくらいならいくらでも払う、今回の件は忘れろ。」
「…それで納得するようなやつじゃないってのはお頭も重々承知なんですよね。3年前の8月もそう、止めても心の奥底では行って欲しがってる。」
樫木はそっぽを向いた櫻上を見つめそう口にする。
少しの静寂が流れ、櫻上は煙草を灰皿に捨てると、樫木の方を向き、真剣な眼差しで重い口を開く。
「死んだら、あの世でケジメつけろよ。」
「ここに櫻上の傘下組織のやつがいるって話だったが…。」
樫木は周りを見渡し、それっぽい奴がいないことを確認するとカウンターに座った。
「いらっしゃい、お客さん初めて見る顔だね。」
樫木にバーの店長と思われし男が話しかけてきた。
「あぁ、少し人を待っているんだ。実ってやつなんだが…。」
「…実、確かそう名乗った人がさっきここでこのカクテルを…。」
「何…今そいつはどこに。」
「あぁ、一口飲んでトイレに駆け込みましたよ。」
「…そうか。」
しばらく時間が経つと一人の男がトイレから出てきた。
「す、すまないな。あんたが樫木か。」
「大丈夫か?顔色が悪いが…。」
「あ、あぁ。だいじょうぅぶッ…!!」
まさかこんな奴がこっちの道でかつ俺の相棒になるとはな…。
「とりあえず、俺の名前は樫木 真〈かしらぎ まこと〉。“華の血”を追ってる。これからよろしくな。」
「俺は難波 実〈なんば みのる〉、まぁ、目的は同じだ。よろしくな。」
二人はそう言うと、固い握手を交わした。束の間、奥から怒号が店内に響き渡った。
「おいゴラァ、テメェ誰に向かって口利いてんじゃい。」
「お、俺はただ財布が落ちてたから…。」
「あ?何だ、この期に及んでまだなんか言うんか?体に分からせにゃ言うこと聞かんのかいや。」
怒鳴り散らかすオールバックで黒スーツの男は、脅した男に向かって拳を振り上げた。
「おい、テメェ何カタギに手出そうとしてんだ。」
「あ?んだテメェ。」
拳を止めた樫木はその男を睨みつける。殺気に慄いた男は
「おい、お前ら」
と言うと、後ろで座っていた仲間を呼んだ。
「オメェ、俺が誰だか知らねぇよぉだな。」
「あぁ、知らねぇ。」
「じゃぁ分からしてやるよッ!!!」