「会長、俺にも盃を貰えませんでしょうか。」
「盃を?」
樫木の一言に先程までとは打って変わってキリッとした凍り付くような空気へと変貌した。
「おう、樫木。 ――お前今、何言うた。」
花道は組んでいた脚を下ろすと、樫木に凄みのある睨みを効かせた。
「親父の盃が欲しいやとゴラ。」
―バンッッ!!!
「我ぇ、誰の元で極道やってんか分かってんのかゴラァ!」
花道の怒号が部屋中の空気を強張らせる。すかさず、菊川が口を開く。
「久々見たか思ぉたら、舐めた真似し腐りやがってゴラ。」
樫木へと向けられた明らかな敵意。まるで猛獣を相手にしているかのようなその剣幕に負けじと、樫木も口を開く。
「櫻上さん所でやらせてもらってる以上、会長の盃を貰うなんて思いあがったこと…本来ならば失礼な事です。ですが会長、これから起こる戦争に向けて、櫻上組としてだけではなく、白蓮連合会“臨時幹部”として、会長の盃を頂きたいのです。」
昭に向けて真っすぐと伝えられた意思。その意思を邪魔するかのように花道と菊川が割って入る。
「臨時幹部やとコラ。オメェ、なんや。臨時ゆうことは、お前が下手こいたら尻尾巻いて逃げるんか?お前のせいで白蓮連合会の名に傷でもついたらどないすんのやコラ。」
「臨時幹部言うて、うちに何の得があんのや。」
先程よりもより強い怒りの眼差しを向けられた樫木は、昭から目を逸らすと、自分の足元へと視線を移し、重々しく口を開いた。
「“華の血”」
樫木のその一言に、幹部のみならず昭も多少の驚きを見せた。
「お前、どこでそれを。」
昭はそういうと、藤山に確認を取るように話を始める。
「――藤。確かあれは…総会の時の奴しか、知らないよな。」
「えぇ…機密事項としてお伝えしたはずではありますんで…。」
「おう、樫木。どこで知った、それを。」
樫木へとかけられたその問いに、樫木は勿体ぶる訳でも無く順を追って語りだした。
「事の発端は3年前、陽祥會がうちにアヤつけてカチコミ来た時に、俺がそこの幹部の体に入れて殺っちまったんですよ。櫻上さんは、幹部のエンコと現ナマ持ってくりゃぁ良かったらしいですけど。ふっ、それから櫻と陽祥は反目ですよ。そん時に、そこの幹部のやつが“華の血”を巡って戦争なる言うから、今回の件をお願いしに来たんです。」
「…そうか。」
樫木はそう言うと、昭へと再び視線を移した。
「この話を知ってるのは櫻上さんだけです。俺も自分なりではありますが、仁義を重んじてますんで。」
昭は眉を顰めると、大きな決断をするかのように藤山の名前を呼んだ。
「―――藤。昨年の陽祥會の会費(上納金)は?」
「年で1000万です。月で言えば100割ってます。」
「―――菊、盃持って来ぉ。」
そう口にした昭に花道が慌てて止めに入る。
「会長!臨時のこいつがヘマでもしたら、誰が責任を…!そもそもこいつは―」
椅子から立ち上がり、樫木に向け指を指す花道に昭が割って口を開く。
「何や花道、お前。親の言うこと聞けへんのか。」
花道の顔が一瞬にして強張り、急いで昭に頭を下げる。
「い、いえ。決してそういう訳では。」
花道から樫木へ視線を移した昭は、軽く溜息を吐く。菊川の持ってきた盃をスッと持ち上げ、樫木に向けて少しの笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。
「これからよろしく頼むぞ。」
「任せてください。“親父”」
昭に向けて盃を掲げた樫木は、ニッと笑うと嬉しそうにそう口にした。