「お疲れ様です。」
盃を交わし、戻ってきた樫木に対し、そう告げた実は車に樫木が乗ったのを確認すると、連合会を後にした。車内には暫くの沈黙が続いたが、実は確認するように樫木に聞いた。
「どうだったんですか、無事なようには見えますけど。」
「―親父と盃、交わしてきた。」
「え、それって、櫻上抜けるってことすか?」
「んなわけ。櫻のおっさんには世話になってんだ、泥塗るような真似はしねーよ。」
「ですよね、良かった…。 てことは、櫻も白蓮も兼任ですか。組頭なら分かりますが、中々リスキーですね。」
そう言うと実は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、とりあえず戻ったら、櫻のおっさんには伝えるけどよ。 ―大きく動いた。ただ、俺が"華の血"を見つけりゃ、組も会も万々歳だ。櫻のおっさんも会で良くしてもらえんだろ?」
「なるほど…確かにその通りですね。ハイリスクハイリターンってやつですね。そりゃ樫木さんにしか出来ないや。」
「ちょっと待て、車停めろ。」
「え?はい!」
実が車を停めると、樫木はフロントガラス越しに何かをジッと見つめた。実も樫木の見ている方に目をやると、遠くの方でグレーのスーツを着た若い男が目に入った。
「アレ、確か
「あぁ、
「うちの事務所の前ですよ。見る感じ1人ぽいですけど…何してるんですかね。」
藤蛇は櫻上組を睨むような目でジッと見つめていた。何をする訳でもなくただひたすら見つめ、突っ立っていた。
「藤蛇って確か港区に組構えてて、昨年の上納金はTOPだったとかいう…。」
「あいつがうちに何の用だ…。」
藤蛇は蛇が獲物を捕える前のようなその睨みを、ゆっくりと事務所から樫木のいるアルファードへと移した。その眼は、しっかりと樫木を捉えていた。
「実!Uターンしろっ!」
「は、はいっ!!」
樫木の指示で実は急いで車を発進させる。樫木を見つめていた藤蛇は、不気味に笑うとゆっくりと樫木達に近づく。車内後方、随分と遠くなった藤蛇。一息ついたのも束の間、樫木の脳内に一つの疑念。
「…あいつ、何で俺らの組の前に。目的は何だ?」
金か?俺達か?それとも櫻のおっちゃんか…?
樫木のその一言をきっかけに実も口を開く。
「確かに。わざわざ組の頭が一人で下見になんて来るんですかね。」
「そうだな…。何企んでんだか知らねぇが、見ちまった以上知らんぷりなんて出来ねぇしな。」
「蛇雷組…。昨年に頭が代わってからいきなり上納金の額がTOPに。噂だと上納金の内8割は他の組脅してカツアゲしたやつだとか…。」
「なるほどな。となると、やはり狙いは櫻のおっちゃんか。」
藤蛇の姿が見えなくなり、路肩に車を停めた実は樫木に尋ねる。
「どうしますか、樫木さん。」
「引き下がっちまったが…戻るしか、ねぇよな。」
そう口にした樫木の顔はいつもに増して真剣で、何か覚悟を決めたようだった。