「樫木さん、いました。藤蛇です。」
櫻上組へと戻ってきた樫木達。藤蛇は変わらず櫻上組を見つめていた。
樫木は実を連れアルファードを降りると、藤蛇の前へと歩みを進めた。
「おう藤蛇、ここらは俺らのシマや。何しとんや。」
「おやおや、さっきは尻尾巻いて逃げた連中がようこんな堂々としてられんな。」
「樫木君、やったか? おんどれ、いつからそんな偉なったんやゴラ。」
藤蛇は黒の皮手袋をグッと引き締めると、怒りの表情を浮かべた。
「んだとこの野郎、こちとら会長と盃交わして来とんのや。組長だろうが何だろうが知らんがな。」
「会長と?お前、パチやったら冗談じゃ済まへんぞ。」
次第に場の空気が固まり、それはやがて緊張を含んだ膠着状態となった。実は樫木の横で
「樫木さん、ここで戦争にでもなったらやばいですよ。」
とぼそりと呟く。その呟きが聞こえたのか、藤蛇の眉がピクリと動く。
「何や、戦争け。 何だぁ、俺はただあんたと、あんたの頭に話があって来たんやが。 そんな好戦的なんやったらええで。するか?」
「血の気が多いのはアンタだろうが。んで、話ってのは。俺と櫻上さんに?」
藤蛇はスーツの襟を正すと、ゆっくりと話し始めた。
「―まぁ、話しておくか。電話で済ませるか迷ってたんだが、どうも最近樫木君が事務所にいないってのを小耳に挟んでね。」
藤蛇は樫木を睨むようにして見つめる。
「樫木、お前最近何してた。」
樫木はフッと二ヤつくと間髪入れずに口を開いた。
「言ったじゃねぇか、会長と少し話したんだよ。」
藤蛇は樫木から目を離さず、少し沈黙すると、再び疑問をぶつけた。
「―お前。何で会長と盃交わした?」
瞬時、それまで包まれていたはずの緊張が、まるで爆発したかのように主張を始めた。
藤蛇は樫木を先程よりもより強く見つめる。樫木は、先ほどとは打って変わって、真剣な顔で言葉を返す。
「ぁんだぁ? 俺が会長と盃交わすと、なんか嫌な事でもあんのか?あ?」
「さぁな、内容によっちゃぁ、ただじゃぁすませねぇよ。ただ一つ言っておく。 これは昔、アイツの…仁の旧友だったやつからの忠告だ。」
藤蛇は樫木に一歩、一歩と近づくと、樫木の眼をしっかりと見つめ、強めの口調で呟く。
「いずれにせよ、近い将来、お前の頭は殺される。」
「あ?」
「仁に伝えておけ。“藤川”の件から手を引けってな。 ―――じゃあな。」
藤蛇はそう言うと踵を返し、去っていった。