「んあ?」
朝7時。アラームの音に目が覚める。私は電車通学だがそれほど遠い場所ではないので別に7時起きでも十分間に合う。父親からの教えで絶対にアラームは休日でもかけることと言われている。確かに生活リズムは崩してはいけないのでその教えには従っている。
「おはよう」
ふぁ…眠い。リビングに行き父親に挨拶をする。この家は母親が昔居たので3人住むために少し広い。まあ病気で死んでしまったから今は2人暮らしなのだが。
「おう、そこに朝食置いてるから」
「うん」
キッチンから目玉焼きが載ったパンを持ってダイニングのテーブルに向かう。そしてテーブルに置く。キッチンからフォークとナイフを回収して同じくテーブルの上に置く。
「コーヒー貰うね」
「おう」
マグカップを取り出してコーヒーを淹れる。基本的に父親はポットで淹れてくれるので丁度2人分はある。
「いただきます」
目玉焼きが載ったパンを2つに切り分けると半熟の卵が中からとろっと垂れてくる。量が少ないから昼ご飯には向かないが朝はこれでいい。更に切り分けて頬張ると黄身のネトっとした甘みと胡椒の香りがしてくる。パンのサクサクとした触感ともちもちとした歯応えを感じながら飲み込む。そしてコーヒーを一口啜る。すると卵の甘味がコーヒーの酸味やコクで中和して何とも言えない感覚を覚える。胡椒の香りもその感覚を支える。こういったものはゆっくりと味わうことが美味しく食べる秘訣だ。朝食だから?関係ない。ご飯というものは一番おいしい食べ方で食べるのが最高の食べ方だ。そしてそれは食べ物に対する礼儀でもあり、料理人への敬意だろう。
「友達とはどうだ?」
父親がいつの間にか席に着き私と同じように食事を摂っていた。
「上手くやっていけてるんじゃないかな」
友人からの評価というものはわかりにくいものだ。もしかしたら貶されているのかもしれないし、好かれているのかもしれない。まあ良く思われているのなら、それは良い事だ。
「父さんは今日も仕事?」
「ああ、重要な会議があってな」
父親は休みが多い。しかしそれは責任が重いということであり、信頼が厚いということでもある。会社の重鎮でそれ故に融通の利かないところはあるが家族のことを考えてくれる良き父親だ。
最後の一口を頬張りそれをコーヒーで流し込む。
「ごちそうさま」
「お粗末さん」
食器を流しに入れて水を掛ける。卵は一度固まってしまうとなかなか取れない。さっさと洗い流しておくに限る。
「そういえば今日も地下に潜るのか?」
「うん、日向と行くつもりしてるよ」
「そうか、怪我だけはしないようにな」
「うん」
自分の部屋に戻ってクローゼットから装備を取り出す。そろそろ片付けないとなぁ。机の下にはパソコンがあり机の上にはペットボトルが散乱している。ベッドの下にはプリント類が雑に入れてあり棚も同様だ。かろうじて作業する空間だけはある。SMLEと工具箱を取り出して床にブルーシートを広げる。SMLEを軽く分解して手入れを始める。SMLEは部品点数が少なくて助かる。まあAKとかも大して変わらないだろうがボルトアクションというのは本当に掃除が楽だ。
手入れを始めて数分経つと電話がかかってきた。スマホを取りに行き電話を取ると日向だった。
「もしもし、どうしたの?」
「葵?今起きてきたんだけど、ちょっと風呂入ってくるから時間掛かるかも」
「わかった」
肩と耳でスマホを挟み、手入れを進める。
「それでそっちの装備は手入れとか大丈夫なの?」
「ん?大丈夫だよ」
バレル内を拭き取り、部品に油を差す。
「昨日風呂入ってなかったから体が臭いのなんの」
「早く入ってきなさい」
SMLEを再度組み立てる。
「待ち合わせは8時半で良い?」
「わかった、じゃあね」
「うん、それじゃ」
電話が切れた。スマホを床に置きながら銃剣を手前に持ってくる。そして鞘から抜き放ち汚れてないか確認する。そして銃剣を鞘に戻し端に追いやる。
「手、洗うか」
手を洗いに行くとスーツに着替えた父親が居た。
「もう仕事行くの?」
「早めに行ったほうが良いみたいだからな」
「気をつけてね」
「おう」
父は玄関に向かってそのまま出ていった。私も手を洗い終わると自分の部屋に戻った。
いつもの地下に潜る服に着替えて弾薬をクリップに付ける。昨日のストックもあるが少し使ったので3つほど追加で作る。ベルトポーチに1つ入れたあとSMLEを手にする。コッキングハンドルを動かしてしっかりと動くことを確認する。そしてリロードしてまた動かす。正常に動くことを確認したあと銃剣をベルトに差し、バックパックを背負う。ブーニーハットを被って自分の部屋の電気を消す。一通り家を見て回ったあと家を出る。
8時半頃の待ち合わせだったが日向は時間通りに来ていた。
「電車が遅延しててさ、遅れるかと思った」
「最近多いよね」
基本的に春先と夏場は特に多い。
「早速地下に潜る?」
「そうだね」
支柱が駅前にあるからか駅のほうは賑わっていて駅から出るとすぐにスパイシーで食欲をそそる匂いがしてくる。
駅前を少し進むと支柱への入口があった。入口と言っても建物なのだが。建物の中には色々売店がある。基本的には消耗品を売っている店が多いのだが稀にご飯屋がある。おすすめの場所は「The Assian」という店。おいしい上に気まぐれ料理が安い。地下1階は地下に向かうエレベーターがある。私たちはそこに向かうとエレベーターに乗った。
「おっとすまん」
20歳前半ぐらいの男性が私に当たる。
「人沢山居ますよね」
「そうだねぇ」
日向はというと左に装備している大袖越しに壁にもたれかかっている。エレベーターはすし詰めとはいかないがそれでもかなりの人数が乗っている。少し経つとエレベーターの扉が開いた。
「それじゃ」
「はい、気を付けて」
そう言うと彼は先にエレベーターから降りて行った。私たちもエレベーターを降りる。涼しいガスが肺に吹き込んで気分が上がる。
「地下に来るとなんか生き生きしてるよね」
「まあね」
支柱の周りはキャンプが乱立している。支柱の周りは他の人が多く安全が確保しやすいからだ。私たちはキャンプを抜けて要注意地帯へ出る。今回向かうのは森だ。何で地下に森が?と思うかもしれない。でも実際あるのだ。森は一層薄暗く危険ではあるが蛍が飛んでいたり幻想的だ。ただ地下特有の青白いもやが更に濃くなっているので迷うことがある。
「そういえば新しく買った刀の調子はどう?」
「切れ味は値段相応かな…でもアーティファクトだし安い安い」
日向が帯刀している刀は形で言えば直刀に近い。日向がオークションでかなり安く競り落としたやつらしく確かに切れ味は悪いがアーティファクトしては一級品だ。
「そっちは何か買ったりしてたの?」
「まだ特に買ってないかな。最近は特殊弾を買おうかなって」
特殊弾というのはまあ聞いて名の通り特殊な弾でアーティファクトを削り出したりして作られている弾薬だ。アーティファクトの力を借りれるためかなりの汎用性を誇るが高い。弾薬一つに掛けられる値段ではないが1つ安く仕入れることができる。オークションだ。基本的に弾薬をコレクションにする人は少なく実戦で使うような人たちだらけなので纏まった数じゃないと売れない。まあ偶に観賞用があるが。まあ実戦で使うのであれば費用対効果が安いものを使いたい人が多数を占めているので競り落とすのは結構簡単だ。
歩いていると森の中に入った。この森はまだ人が管理しているので道がある。実際道の続く通りに進むと迷うことは無い。木には傷がついていたりする。どうしてかというと単純に目印だ。森は道があれど迷う人は迷う、なので目印を付ける。するとすぐに帰れるので割と至る所に目印がある。自分は別に迷うことはない人なので別に大丈夫だ。まあ日向は放置していると勝手に迷うのだが。
少し進むとちょっとした池に着く。皆の目印でこの辺は変異体が少ない。
「ここら辺で休憩しない?」
時計を見ると確かに12時頃だ。休憩してもいい頃だろう。
「わかった。少し休憩するか」
バックパックからキャンプ用品を取り出して設営していく。十数分経つ頃には設営し終わるサイズしかない。どうしてかというと天幕は基本持って来ないからだ。稀に雨が降る地域があるが基本的に地下は降らない。缶詰を温めていると日向が驚いた声を出す。
「どうかしたの?」
「これ、見てこれ」
日向の手のひらを見るとスライムが居た。
「スライムじゃん珍しい」
スライムは水の変異体なのだがそもそも水が変異体になることが少ない。手のひらサイズだから害は無いけれどかなりのレアキャラだ。運の良いこともあるものだ。
こっちは特に何も考えていないのでちょっとずつの更新になります。