水の都…恐らく旧文明のなかでも特に人が住んでいた、いわゆる都会であったと考えられている。なぜ水の都と呼ばれているか。それは地下では珍しく雨の降る地域だからだ。ここに降った雨が地面に染み込み森へ水を供給している。安全地帯ではないため人気は無いがだからといって不気味な訳でもない。中心部には大きなモニュメントがあり光を放っている。
水が薄く張られた地面に、まるで足跡のように波紋が広がる。実はここ、アーティファクトが結構あるのだ。しかも使えるものが。しかし一つ欠点がある。意外と危ない。まず地面に水があるせいで転んだりすると低体温症になったりする。戦闘になったりすると結構不利だ。また非生物系の変異体が多い。狼のような生物系は柔らかく、倒しやすい。銃弾に耐えることもあるが即死しないというだけで実際は当て続けると死ぬ。しかし非生物系の変異体はそうはいかない。まず大抵の場合硬い。刃が通りにくく銃弾も耐えるどころか弾かれたりする。まだ身体能力が活かせる格闘だと戦いやすいが銃などの遠距離武器はよく弾かれる。総じて難敵の多い変異体だ。
「ここら辺にセーフハウスとか作ってしまうってどう思う?」
「うーん…扉とか大丈夫かな…」
今、私たちは屋内に居る。ここはビルのような構造物が多く屋内は探せば見つかる。外は見通しが良く敵に見つかりやすいがこういう室内はあまりバレにくい。寝泊まりも十分に可能だ。
「どうだろ…」
少し乱暴にバンバンっと叩いてみる。建付けは悪くないらしく強化された身体能力で叩いてもびくともしない。
「大丈夫そうだね…ここセーフハウスにするか」
「でも物資無いよ?」
「まあ後から持ってくるのでもいいでしょ」
「まあそっか」
部屋を出た後屋上を目指してみる。高所というのは何か目的があるときにしか基本行ってはいけない。どうしてかというと単純に滅茶苦茶バレやすいからだ。ただし辺りが見渡せるというのは大きなアドバンテージであり、そうそう切り捨てられるものではない。今回私たちが屋上を目指す理由は周囲の確認のためだ。
「何か見える?」
「うーん…」
今のところ敵は居ない。まあ居ないのはいいことなんだが…。
「今のところ居ないかな」
「わかったー」
一度部屋のなかに帰る。丁度2人入って窮屈ではないぐらいの大きさなのでセーフハウスとしてなかなか使いやすい。
「ここからどうする?」
「うーん…食料どれぐらい持ってきてるの?」
「昼のときのと非常食ぐらいかな」
「じゃあ帰るか」
「わかった」
帽子を正して銃を持って部屋を出る。
先に安全を確認しているからか非常に安心して帰路に着ける。光るモニュメントを横目に水の都を歩く。寒色な光が水と合わさって、やはり綺麗に見える。
「うわっ!」
ビタン…というかバシャンという音が後ろから聞こえた。振り返ると日向がずっこけていた。
「大丈夫?」
「ふ…服がぁ…」
水の都というのは水が張られているから水の都。まあそりゃ転げたらびしょ濡れになる。
「怪我とか大丈夫?」
「それは大丈夫なんだけど…」
日向の視線を辿ると割と大きめな石があった。
「あー…これで転げたのか」
そう呟いて手に取る。するとちょっとした異変に気が付く。
「…ねぇ日向」
「どしたの?」
「これ…アーティファクト…」
「…え?」
日向が起き上がってこちらを見てくる。手の中には水に塗れた石がある。
「これ、どうも水を生み出してるっぽい」
「そ…そんなことある?」
でもあったんだよな…とお互い微妙な顔をする。やっぱり地下はわからないことが多すぎる。
駅前で日向と別れて帰路に着く。バスに乗り外の風景を眺める。田舎では無いが都会とも言えない。そんな土地だが住むにはそれが丁度いい。一軒家が立ち並んでいて、少しばかりの畑。遠くに見えるマンション。この光景を見ると帰って来たんだなという安心感と共にどこかノスタルジックな感覚を覚える。ライフルを椅子と壁の間に置き、バックパックの重みを感じながらバスに揺られる。そして朧気に今日の出来事を思い出す。これこそが私の好きなものだ。
部屋に帰ると父が居る…訳でもなく普通に1人だ。恐らく会議が長引いているのだろう。手を洗ったあと冷蔵庫から適当に食材を見繕う。トマト、玉ねぎ…まあ野菜を適当に刻み豚バラ肉をこれまた雑に切ってフライパンに入れる。オリーブオイルを回し、火にかけて少しばかり色づいてきたところにコンソメを投入。野菜から汁が出てくるので煮込みに近い感じで豚バラを熱する。これを少し大きめの皿に入れてフランスパンを用意する。しっかり2人分あることを確認して1皿ラップを掛けておく。これで晩飯は完成だ。
料理は案外適当に作ってもなんとかなる。大抵の場合コンソメとか鶏ガラを入れておけばまずいことはない。事実適当に野菜を詰め込んだだけの料理でもコンソメで美味しくなる。今回はコンソメとオリーブオイルで欧州系の味に纏めたので付け合わせでパンを出した。…ちょっと塩が足りないか?そう思って調味料棚から塩を持ってくる。塩辛くならない程度に塩を入れる。うん、これぐらいが丁度いい。
自分の分は食べ終わったので食器を洗って干す。食洗機があれば楽だとは聞く、しかし洗い残しが出るというのもよく聞く。なら2人分しか無いのだから手洗いで洗ってしまった方が効率的だ。食事で疲れが少し和らいだところでバックパックから荷物を出す。キャンピングセットとアーティファクト…は無い。今回の水が出る石は日向にあげた。日向の家には地下を知ってる人が居るから悪いようにはしないだろう。
整理が終わり自分の部屋で椅子に腰掛けていると玄関の方でガチャンという音が鳴った。
「ただいま」
自分の部屋から頭だけをひょっこり出す。
「お帰りー」
晩御飯を作っていたことを思い出してご飯置いてるよと言っておく。
「ありがとう」
父はそう言って自分の部屋に仕事道具を置く。そしてリビングに行く途中でちょっと止まってこっちに話しかけてくる。
「そういえば帰りにいつもの地下に行ってる奴らとあったんだが」
「いつもの…篠原さん達?」
「ああ。まあそこからちょっと話してたんだが今度…というか明日だな。全員で地下に潜ることになった」
「いいじゃん」
「それでまぁ…娘さんはどうすると聞かれた」
「うーん…自分的にはあり。だけど日向来るかな…」
「聞いてみたらいいんじゃないか?」
「そうだねぇ」
そう言って私は日向にメールを打つ。善は急げば急ぐほどいい訳ではないがやはり急いだほうがいいのは確かだ。
数分待ってみたが返事は来ず。まあ疲れて寝てるのだろう。諦めて風呂に入ることにする。風呂は良い。1日を締めくくり生きている実感を与えてくれる。極限状態は人間性を希薄にし、最悪の場合壊してしまう。やはり日常というものは大切なのだろう。私は基本シャワーしか浴びない。しかしそれでもこの10分間は特別だ。確実に日頃の疲れを癒してくれる。汗を流し終えて風呂場を出る。さっと体を拭い寝間着を着る。
リビングに向かってスマホを見ると日向が返信していた。曰く従妹が来るから無理そうのこと。まあ強制するつもりもないのでわかったとだけ書いておく。冷凍庫からアイスを取り食べながらスマホを弄る。最近見ていた地下連合の通販を検索する。地下連合は地下を探索するためにできた組織である。昔は一般企業や国が探索者を補助する組織を各自で作っていたが最近では統合されて昔に比べてやりやすくなった。会員制ではなく門戸が広い。恐らくここの世話になった探索者も多いのではないだろうか。
さて、自分が見ているのは地下連合の通販サイトである。そろそろ弾薬が底をつく頃なので.303ブリティッシュ実包の注文と特殊弾頭の検討をするつもりだ。今までは支柱近くを探索することばかりだったが最近は少し遠出をしたいと思ってきた。勿論これは自分の実力を鑑みての思考だ。私はそもそも地図に無い場所は先達が居なければ探索するつもりはない。安全地帯を通れば死ぬことはない。そう思って特殊弾頭のページを開き5000円という数字を見た瞬間私はスマホの電源ボタンを消した。
不定期に出す予定なので次回が遅れたり遅れなかったりします。あとようやく次の話で主人公の苗字がわかります(忘れてただけ)。オリチャーで直すとかRTAかな?ガバチャーにはなりたくないなぁ…