正義の理解者   作:火取閃光

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第1話

 ━━━━最初にその地獄を見た。

 

 助けてぇえええーーっ!!

 

 い、イヤァァァーーッ!!

 

 ━━━━その地獄は突然僕達を襲った。

 

 し、死にたくないっ……! 死にたくないんだァァァ!!

 

 誰かっ……! この子だけでもっ……!!

 

 ━━━━地獄の業火に焼かれた人や街並み。誰もが平等に死んで、誰1人救いがなかっなその地獄を僕は歩く。

 

 神よっ……!! 我々が一体何をしたと言うのです……!?

 

 う、うぇぇぇーーん! パパがっ……!! ママがっ……!!

 

 ━━━━肺が熱い。身体の至る所から悲鳴を上げる。一歩、一歩と前へ進む毎に僕の心は欠けていく。

 

 そこの君! お願い、私の赤ちゃんをっ……! 聞いているのっ……! ねぇ……!!

 

 ━━るさい……

 

 ギィィィーーッ!? 足がっ……!! たすっ!? 助けてくれよっ……!!

 

 ━━うるさい……。

 

 見捨てるのかっ……!? 自分1人で助かる気なのかっ……!? そんなのってあんまりだろっ……!?

 

 ━━うるさい。うるさい、うるさいうるさい、うるさいうるさいうるさい!!

 

 ━━━━僕は助けを求める彼等を見捨てて少しでも長く生きられる様に前へ進んだ。

 

 ━━━━流した涙は直ぐに蒸発すると枯れる様に流れ無くなった。

 

 ━━━━あれほど耳障りだった悲鳴や罵声は何も聞こえなくなった。

 

 ━━━━前へ進む毎に感じた心や身体からは痛みが消えた。

 

 ━━━━空高くこぼれ落ちる真っ黒い泥がこの地獄を作り出す。それでも僕は少しでも長く生きる為に無駄だと分かっていながら前へ足を運んだ。

 

 そして、意識が途切れるといつもの天井が目に映る。僕はあの地獄を生き残ってしまった。どうせ死ぬもんだと思っていたのに助けられてしまった事に寒さを感じた。

 

 ふと、病室のドアにノック音がコンッコンッコンッと鳴り響く。震えが止まり視線を向けるとあの時僕を助けてくれた男の人がいた。

 

 彼はあの地獄から僕を助けてくれた人だ。彼は無精髭にヨレヨレの黒いスーツを身に付けて不器用そうな笑みを浮かべて手を振った。

 

「こんにちは、シロウ君。少し良い、かな……?」

 

 彼の事はあの地獄が初対面で何も知らない筈だ。なのに何故か今日、彼の顔を見て彼の声を聞いて無性に泣きたくなった。

 

「え、みや……きり、つぐ……??」

 

 そして、その瞬間酷い頭痛と共にある筈のない衛宮切嗣との記憶が流れ込んだ事でダムが決壊した様に身体中にあるナニカが暴れ出しながら記憶の奔流に僕は飲み込まれ意識を失った。

 

 side衛宮切嗣

 

 僕はあの日助けた少年シロウ君を養子に迎え入れるべく彼のいる病室へ足を運んだ。あの日以来の初対面。彼の顔は世界中で見て来た災害孤児達と同じ様に心が抜け落ちた様な表情だった。

 

 その表情を見て心が苦しくなったのをぐっと押し殺した。彼にこんな事をした原因である僕が人並みに彼を同情するのは勘違いも甚だしい。

 

 彼は僕とアイリの愛娘であるイリヤスフィールと歳の近い子供だ。きっと家族も居ただろうに彼の人生を壊した僕が弱音を吐く資格など無い。

 

 そう思って彼に話し掛けると彼の顔は酷く歪む。さっきまでの無表情とは別にまるで迷子になった子供の様な、生き別れた家族と奇跡的に再会した様な泣きそうな顔。

 

 それは僕が父を殺したばかりに見ていた顔だった。あまりの表情の変化に僕は唖然として固まると彼は頭を抱えると僕の名前を呼んでいた。

 

 彼とは聖杯の泥が冬木市を焼いた時が初対面で僕の名前なんて伝えていない筈だ。意識が戻るまでの見舞いや今日の訪問だって暗示と偽名で用心した。

 

 僕の名前を知っているのは魔術関係者以外あり得ない。彼の表情は当てずっぽうで言った感じではない為に僕は彼を警戒した。

 

「っ!? 君は何者だっ……! どうして僕を知っているっ……!?」

 

「ぐっ……!? ガァアアアーーッ!?」

 

 彼は頭を抱えながら絶叫するとベッド上で暴れ出し身体中からナニカが突き出て血を流した。彼の身体から突き出した物は剣だった。

 

「こ、これはっ……!? 魔術回路の暴走っ……!?」

 

「僕は、衛宮士郎……!? 違うっ! 俺は、桜を……!? 違うっ!! 私は、正義の……!? 違うっ!! 俺は、美遊のお兄ちゃん……!? だから、違うって!!」

 

「っ!? シロウ君! 落ち着いてくれ!」

 

「私は、味方にっ……!? 違うんだ! これ以上、僕を壊さないで……!!」

 

 記憶が混濁しているのかベッド上で暴れ回る彼の身体からは無数の剣が突き出て血だらけだったが、押さえつけた時に僕は彼の両目の色が変化していた事に気が付いた。

 

「これは魔術回路だけじゃないっ……!? この子、魔眼保有者かっ……!? マズイッ……!

 

 肉体を損傷してはアヴァロンで回復してを繰り返しているっ! このままじゃ、彼は死んでしまうっ……!!」

 

「切嗣、ごめんっ……! 僕では正義の味方になれなかったっ……!!」

 

「っ!?」

 

 シロウ君の悲痛な叫びに思わずドキッとしてしまう。名前もそうだけど何故、彼が僕の夢を知っているのか。だが、その答えはすぐに分かった。

 

「あの時、私が約束したのにっ……! 俺が、爺さんの夢を形にするって言ったのにっ……! ごめんっ……! 僕は、桜を……! 美遊を守る為にっ……! 守護者と契約したのにっ……!」

 

「っ?! まさかっ……!?」

 

 守護者と聞いて僕はある可能性に気が付いた。それは、英霊を使って聖杯戦争を行っていた自分だから気が付けた事だった。

 

「すまない……! ごめんっ……! 僕は、俺は、私はっ……!」

 

「……シロウ、聞こえているか分からないけど一か八かだが君に簡易的なパスを繋いで暴走を止める! 君は絶対に僕が助けるからっ……!!」

 

 本来なら簡易的とは言え魔術的なパスを繋ぐとなれば今のシロウの様に暴走している時には絶対にしない。そんな事をすればフィードバックが起きて切嗣自身も無事では済まない。

 

 しかし、現状で彼を止める手立てはこれしか無かった。危険を承知した上で彼とパスを繋ぎ彼の暴走をこちらから止めるしかない。

 

 彼にアヴァロンを譲渡した以上、長い年月を経て大聖杯によって神霊クラスに準じるアンリマユから直接汚染された今の僕では何処まで出来るかは予想出来ない。

 

 それでもやるんだ。やらなくちゃこの子を助けられない。もう2度と僕の前で命が失うのは真平ごめんだ。そう思いながら僕は魔術回路を開き彼とパスを強制的に繋いだ。

 

 その瞬間、彼から魔力と共に彼等の記憶の一部が流れ込んだ。目と鼻から血が噴き出る。一瞬、後へよろめいたが気合いで何とか耐えたその時、シロウがまるで機械の様に魔術を行使した。

 

同調開始(トレース・オン)……。解析開始……衛宮切嗣の魔術起源である切断と結合を魔眼により確認……。根源、限定接続を開始……分離改造完了。アヴァロンにて両者の治癒……同調終了(トレース・オフ)

 

 どうやらシロウは僕の起源を解析した上で、本来出鱈目に切って嗣ぐと言う性質を上手く活用して混ざってしまった記憶や人格の分離に成功した様だ。

 

 そして、傷付いた自身と僕の肉体をアヴァロンの治癒で即座に癒して暴走を止めるとまるで電源が落ちた機械の様にそのまま倒れた。

 

 暴走が止まった事へ安堵していたが彼が呟いた言葉の中には何やら物騒な事が混じっていた。それと同時に分離した瞬間、僕は彼の記憶の一部が流れ込んでしまい彼の正体に気が付いてしまった。

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