正義の理解者   作:火取閃光

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第13話

 とても綺麗な満月から1ヶ月が経過した。切嗣の体調は少しずつ悪くなってきている。

 

 家中では自分の事はまだ出来るだけの体力はあるのだけど、一歩外を出れば杖無しでは外を歩くことが出来ずまるで6〜70代の老人の様だった。

 

 数分歩いただけで息が切れてしまい休憩を挟まなくては商店街から家まで帰ることすら儘ならない。

 

 数年前まではかつて魔術師殺しと名を馳せていた人物とは同じ人物とは思えないほど運動能力が衰えていた。

 

 そんなある日のお茶会でとある人物が衛宮邸に訪れていた。彼女の名前は青崎橙子。

 

 何処かで情報が漏れたのか? はたまた何処で情報を聞き付けてきたのか? 彼女はゼルレッチ爺さんに弟子になりに来た。

 

 自信が持ち得る研究成果である人形魔術やルーン魔術を全てくれてやるから弟子にして欲しいと希望した。

 

「ふむ……残念だが、今は弟子は取っておらん」

 

「ハンッ! 知っているんだぜ? アンタはそこのガキどもを弟子紛いにしているって!」

 

「彼等とは正式な取引の上で判断しているだけだ。彼等は儂の弟子ではない」

 

「そうかよっ……。なら、もうここには用はない……」

 

 青崎橙子が帰ろうとした時に嗣郎は待ったを掛けた。あの人形師ならイリヤ貴方と切嗣の身体の問題を解決出来るかもと思ったからだ。

 

 切嗣は冒頭と同じでイリヤは無理な魔術訓練を行わなかったお陰で義母アイリと同じくらいまで成長してそのまま成長が止まった。

 

 その為に今の彼女は152〜153cmくらいの背丈である。ここから約10年前後で寿命が尽きる。

 

 そうならない為には今、身体を交換する必要があった。その為に人形師で超一流とも呼ばれる彼女の力が必要だった。

 

「あぁ? なんだガキ、アタシは今ムシャクシャしているんだ。どっか行けよ」

 

「蒼崎橙子さん、取引があります」

 

「失せろ、ガキ。3度目は無い」

 

 ギロッと常人なら意識が失い掛けない睨みを耐えて嗣郎は交渉を続ける。

 

「根源には興味がないって捉えてよろしいのですね?」

 

「あぁ? それはどう言うことだ?」

 

 根源に興味があるから魔法使いの弟子に来た。だから釣れると思い話をぼかして交渉を続けた。

 

「俺には限定的にですが貴方を根源に導く術があります。その代わりに養父と義姉の身体を作り魂を移し替えして貰えませんか?」

 

「嫌だね! それに、なんだよ……。限定的に根源に導くなんて、今時の詐欺師でももっとマトモな条件を出すぞ? 失せな、ガキ」

 

 こんな胡散臭い話をぼかしたのが悪かったのか、それとも内容が悪かったのか逃したと思い焦りを感じているとゼルレッチが割って入る。

 

「ふむ……そう言うことなら橙子、儂から弟子入りの条件を付けよう」

 

「っ!? なんだ! 言ってくれ!!」

 

「この子、嗣郎と1対1で戦い勝利すれば君を弟子に取ろう」

 

「っ!? えぇっ!?」

 

 正直言えば交渉の継続はありがたいが噂と実力を知っているが故にあの蒼崎橙子に勝てる気はしておらず驚愕する。

 

「あぁ? アタシを舐めているのか? ってか、こんなガキとタイマンなんて秒で終わる」

 

「まぁ、待ちなさい。確かにマトモに戦えば嗣郎に勝ち目など存在しないだろう。

 

 だから、1週間後に私が指定する場所で彼と戦い勝てば弟子入り、負ければ彼の願いを叶えてくれ」

 

「あぁ? まぁ、良いぜ。口頭契約(オーラルギアス)成立な」

 

 蒼崎橙子は儲けたと言わんばかりに帰って行った。そして、ガキをコテンパンにボコる為の礼装の準備をした。

 

 嗣郎も愕然としながらも笑うゼルレッチに一睨みをした後に戦術を練って投影を行い準備する。

 

 そして、1週間が経過した。場所は柳洞寺。中の人はガス漏れ工事の為に出ていくように暗示した。

 

「これより、蒼崎橙子と衛宮嗣郎の決闘を開始する。見届け人は儂ゼルレッチと嗣郎の家族とその関係者一同とする」

 

「なんでも良い……。ガキ、さっさと降参しろよ? 死んじまったら流石のアタシでも蘇りは出来ないからな?」

 

 そう言って初手から殺意マシマシにルーン文字を描いて攻撃してくる。嗣郎はなんとかそれを避け続ける。

 

「オイオイ、どうしたよ!? 魔法使いの薫陶を受けてこれか?」

 

 橙子は失望し横にいる魔法使いが何がしたいのかその意図を図りかねていた。

 

「━━━━━━━━体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

 

「今更何しても遅せぇ!」

 

 ルーン石の込められた魔術を行使される。流石は生きたグランド魔術師。

 

「━━━━━━━━血潮は鉄で心は硝子」

 

 ルーン魔術を回避しながら嗣郎は詠唱しそのまま隠していた干将・莫耶で橙子を攻撃する。

 

「━━━━━━━━ 幾多の戦場を観測し悲憤慷慨(ひふんこうがい)

 

「おっと!? へぇ〜……ガキにしては良くやるぅ!」

 

 明らかに舐めて遊んでいる橙子。そのまま舐めプしていて欲しいと願いながら詠唱の完全を急ぐ。

 

「━━━━━━━━ けれど、唯の一度も絶望せず」

 

 ここでようやく橙子は嗣郎が持っている干将・莫耶がただの礼装や武器にしては硬過ぎる事に気がつく。

 

「ん!? オイ、ガキっ……!? テメェのそれはなんだ!?」

 

「━━━━━━━━ 希望を胸に幸福を求めた」

 

 嗣郎は答えない。否、応えるだけの余裕がないと言うべきだろう。

 

 幾ら歴代のエミヤ達の記憶や経験を持っているとは言え初戦があの青崎橙子だ。

 

「━━━━━━━━ 故に、彼等の意志を引き継ぎ」

 

 そして、橙子は嗣郎との戦闘や詠唱を聞いてその答えにようやくたどり着いた。舐めプしていた分、気がつくのが遅れてしまった。

 

「━━━━━━━━ その夢と願いを証明しよう」

 

「テメェ、ガキィー! 伝承保菌者(ゴッズホルダー)か!?」

 

 橙子の焦り声が聞こえる。身体中は致命傷を避けたが既にボロボロだ。

 

 伝承保菌者とは過去の神代の時代から現代まで受け継がれて来た神秘の塊と言っても良い存在を継承する者達。

 

 そのほとんどは英霊が持つ武器や防具を模った宝具と呼ばれる存在でそれを継承する人間や一族は極小数だ。

 

 舐めプしていた青崎橙子は目の前のガキ、衛宮嗣郎を1人の魔術師として認めて真剣になったが時すでに遅し。

 

「━━━━━━━━ この体はやっぱり無限の剣で出来ているから(My whole life was "Unlimited Blade Works")

 

 完全詠唱と共に嗣郎を中心に周囲を焼き尽くす炎が展開される。その炎に焼かれた瞬間、この世の理が書き換えられる。

 

「なっ……!? 固有、結界、だとっ……!?」

 

 そこはさっきまでいた場所とは遥かに違う場所だった。

 

 ヒビ割れた大地に無造作に何本も突き刺さる透明な歯車が空に浮かぶ場所。

 

 透明な歯車こそ無いが大地に突き刺さる宝具と蒼穹の空がある場所。

 

 はたまた吹雪の砂漠にまるで墓標のように宝具が突き刺さる場所など様々な場所が見えた。

 

 これが衛宮嗣郎の心象風景。固有結界にしてはとても珍しく心象が定まっていなかった心象風景だった。

 

「蒼崎橙子さん、これが俺達の大魔術、夢限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)

 

 それは正しく彼等が嗣郎に託した夢でもあった。

 

 まるで心象風景を繋ぎ合わせたようなある意味完成していて未熟な程に不完全なこの心象は嗣郎へ託された願いが詰まっていた。

 

「まさか、伝承保菌者の上に魔術世界じゃ大禁呪とも言われる固有結界使いとはっ……!? お前、アタシなんかよりも封印指定だろ!」

 

「否定はしません。ただ、ここからが本当の勝負です」

 

 大地に突き刺さる武器を抜き取り橙子へ向ける。

 

「ハッ! 良いねぇ! 盛り上がってきたよ!!」

 

 橙子も妹以来の化け物に興奮して立ち向かう。

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