桜が救出されて2度目の春が過ぎた。なんだかんだでゼルレッチ爺さんとは時折付き合いがある。
それは僕主催の定期的なお茶会と桜の経過観察だった。
ゼルレッチ爺さんはあの後、臓硯とアハト翁、遠坂家へ訪れて桜の救出と聖杯戦争について改めて戒めた。
どうやら臓硯の本体や蟲は桜の体内から消えて無くなり彼自身も穏やかに逝ったそうだ。
そして、救出された桜については案の定と言うか衛宮家で保護する形で養子となった。
その関係でゼルレッチ爺さんが僕やイリヤ姉、桜の後ろ盾になってくれた事でアハト翁に話を付けたそうだ。
アハト翁に関しては過去に切嗣がイリヤスフィールを奪還した際に自己強制証明で契約したからこれまでアインツベルンからの襲撃はなかった。
しかし、これからの未来で切嗣が彼等の工房を無力化した様に契約の穴を突いて行わないとも限らなかったから有り難かった。
そして、その結果、僕達の立ち位置はゼルレッチ爺さんの正式な弟子と言う訳では無く偶にお茶会を開いてはそのお礼として魔術の手解きと課題を出される関係だ。
また、桜の保護に関しては遠坂家と一悶着があった。
ゼルレッチ爺さんは間桐で行われた桜の扱いについてその母である葵へ伝えた。
葵は第四次聖杯戦争後に精神と身体に障害が残りまともでは無かったが、桜の事を聞き目が覚めた様に活気を取り戻して自分達が引き取ると言い切ったそうだ。
しかし、それを当の本人である桜が拒絶した。
そして、事情を知らない姉の凛が怒り彼女達は喧嘩をして現在別居する形で衛宮家で保護された流れだ。
衛宮家に来た当初は終始心を閉ざして時折何かに怯える様な姿勢だったが、そこは同姓であるイリヤ姉や彼女の侍女でもあるセラとリズ、底抜けで明るい藤ねぇが積極的に関わった事でなんとか改善の兆しが見えた。
少なくとも僕達と出会った当初は僕や切嗣、ゼルレッチ爺さんなどの男性陣には酷く怯えていて会話をする所の話ではなかった。
念の為に地雷を踏み抜かない様に魔術とは関係ない藤ねぇにも、切嗣達から性的虐待があった事の男性不審と男性恐怖症がある事は伝えてあるので少しずつメンタルケアをして貰った。
一方あの後の遠坂家では、凛と桜達の母である遠坂葵が積極的にリハビリをして徐々に良い傾向になって来ているらしい。
冬木に新しく来た聖堂教会のシスター達が言っていた。
どうやらエミヤ達の記憶と食い違っている様だが前任者である言峰親子は前回の聖杯戦争で亡くなったらしく遠坂とも親交があったシスター達が急遽配属されたらしい。
まさかあの殺しても死なない様な破滅願望者が死ぬとは思っても見なかった。
そして、同時に聖杯の泥を浴びたとされる英雄王も受肉していないらしく僕と言う存在がバグったのもこの辺りの異変が関係していると思った。
「さてと……イリヤ姉と桜、セラと買い出しに行くんだけど何か買ってくる物とかある?」
「……私は、特にありません。イリヤ姉さんは……?」
「んー? あっそうだ! アイス買って来てよ、雪見だいふく!」
「アイスな、了解。なら義父さんはチョコモナカでリズはスーパーカップ辺りを買えば良いとして、桜は何のアイスが食べたい?」
「えっ? あっその……」
桜は答えようと思いつつも言葉が出ずそれで時間をかけて迷惑を掛けたくないと様々な思いが駆け巡った。
「希望が無ければ適当になんか買ってくるからそこから選ぶのもありだぞ?」
「じゃ、じゃあ、それで……。ごめんさない、嗣郎さん」
「気にすんな。その程度で怒ったり見捨てたりする奴はここには居ない。僕達は家族なんだ。桜はもっと僕達に甘えて良いんだ」
「っ!? は、はいっ……!」
嗣郎に頭を撫でられた桜はギュッと嗣郎の袖口を握る。それを見て嗣郎は段々と人間らしさが戻りつつある桜をホッと胸を撫でた。
「なら私も嗣郎に甘えちゃおっと! えいっ!」
「うおっ!? 急に抱き付くなよ、イリヤ姉っ!!」
桜と対面している中でイリヤスフィールがジャンプしながら嗣郎の腰目掛けて飛んできた。
「なぁ〜に〜? もしかして嗣郎ってば私にドキドキしているのぉ〜??」
「転びそうになったと言う意味では今もドキドキしているよ」
「ぶぅ〜〜! そう言うのお姉ちゃんとして良くないと思います!」
「はいはい、イリヤ姉は可愛い。イリヤ姉は美少女。世の男性を虜にする魔性の女性」
嗣郎の子猫を適当にあやす様な扱いに白き妖精の姫様が可愛くも頬を膨らませて大激怒した。
「嗣郎の生意気っ! 生意気な弟にはこうしてやるんだからっ!!」
「イテテッ! なんでさ? ちゃんと褒めたじゃんか?」
「嗣郎さん、そう言う事じゃ、無いと思います……」
頭を噛みつかれた嗣郎は大変困った顔でイリヤスフィールを宥めるが桜もどっちかと言えばイリヤ派だったので苦言を呈した。
「はぁ……。まぁ、実際イリヤ姉は美人で可愛いんだから家族以外にこんな風に抱き付いたりすんなよ? 変な勘違いさせたら相手が可哀想だからさ……」
「分かっているわ! でも、お姉ちゃんはショックよ……。私の小悪魔スマイルは芸能事務所からスカウト来るほどなのに弟1人堕とせないなんて……」
「またスカウトされたの? これで何度目だっけ?」
イリヤスフィールは家族目線からでも美少女だ。その人間離れした真っ白な妖精と赤い瞳は世の男性のみならず女性すら虜にしてしまう。
実際、何度か誘拐事件に発展した事があるがイリヤスフィールは魔術の腕前も一流な為に逆に誘拐犯達がボコられる始末だ。
「5回目よ。まぁ、私はホムンクルスと人間のハーフだからもう少ししたら成長が止まるし、どの道長生きは無理だと思うけどね……」
「イリヤ姉……」
「イリヤ姉さん……」
苦笑いするイリヤスフィールを見てどうにかしてやりたいと本気で思っていた。
イリヤも本気で芸能事務所に所属したいと思っている訳ではない。だけど、自分が家族を置いて先に逝ってしまう事を嘆いていたのだ。
「気にしないで2人共。少なくとも成長が止まってもしばらくの間は寿命を迎える事は無いから。後10年以上は生きられるしその間になんとかするわ」
「分かっている。僕もエミヤ達の記憶や根源から何かないか調査しているからもう少し待っていて」
「期待しているわ。それじゃ、そろそろセラの所へ行った方が良いんじゃないの?」
「えっ? うわっ!? ヤバっ!?」
腕時計を見るとイリヤの召使いであるセラとの約束の時間が過ぎていた事に気が付き急いで向かう。彼女を怒らせると面倒なんだ。
「嗣郎、気を付けて行くんだよー!」
「い、行ってらっしゃいっ……!!」
「あぁっ! 行ってくる!」
手を振る2人は手を振りかえす。
結局、買い物へ行く道中に女性を待たせるとは何事かとグチグチ言われたがいつもの事だったのでよしとした。