セラと共に行った買い出しから帰ってくると衛宮邸ではちょっとした騒ぎになっていたので声のする方へ駆けた。
そこには見知らぬ車椅子の女性と介抱した侍女らしき人、懐かしい面影のある同世代の少女が桜達と対峙していた。
桜達と対峙している面影のある少女の正体は遠坂凛だ。
なんか喧嘩腰で怒っているのに対して、凛の母と思われる車椅子の女性がオロオロしていてその側にいる侍女が凛を宥めている感じだ。
「凛、落ち着いて」
「アタシは落ち着いますわ! それよりも桜! もう一回言ってみなさいよ!」
「っ!? 貴女達は、私の、家族じゃないっ……! 早く、出て行ってっ……!!」
「アンタねぇ……!!」
キィッと胸を押さえて涙を浮かべながら睨みつける桜を姉の凛は掴みかかろうとしていた。
それを必死になって葵の車椅子を推している侍女が抑え込み母である葵も事情を知っているからこそ落ち込みながらもオロオロしていた。
正に混沌である。これを死した破滅願望者であるあの神父が見ればさぞ愉悦で心が満ちるだろう。
そんな空間で義妹である桜を守る様にイリヤスフィールは前へ出て遠坂凛を冷たい目で見下すように言い放つ。
「遠坂凛、桜は私達の妹よ。桜が辛い時に側に居なかった貴女が今更姉面するのは違うと思うわ。帰り道はあっちよ」
「帰るもんですかっ! 桜はアタシ達遠坂へ連れて帰る! 衛宮なんて言う魔術家系なんて聞いた事無いわ!
って言うか、魔術師なんだから冬木のセカンドオーナーである遠坂家に挨拶するのが道理でしょ!?
お父様から引き継いだ資料に衛宮家なんて無かったわよね!?」
「……私達は魔術使いだからセーフよ、セーフ」
ぐっ痛い所を突く凛に対してイリヤは魔術使いである事を理由にギリギリセーフ理論を展開する。
「んな屁理屈通じる訳あるかーっ!!」
「じゃあ、何が望みだって言うのよ!」
「魔術家系ならしっかり納めるべきモノ納めろって話よ! って言うかアンタ、その見た目アインツベルンのホムンクルス!? アインツベルンも居るなんて聞いてないわ!」
「私は元アインツベルン出身よ! もうあの家は出たんだから関係無いわ!」
「そんな理屈が通じるか!? ボゲェー!!」
今、遠坂凛と衛宮イリヤスフィールとの間に火花が散っている。
大人達も苦笑いして見守る姿勢で、買い物から帰って来た嗣郎は入るに入れない状況にあった。
「あの〜取り敢えずは中に入るのはどうでしょうか?」
「あ"ぁ"!? 今、取り込み中よ! 見てわかんない!?」
嗣郎の勇気を出した提案にギュルンッと顔が回転した鬼の形相な凛が嗣郎へ噛み付いた。
だが、嗣郎も伊達に多くのエミヤ記憶を持っている訳ではない。遠坂凛と言う赤い悪魔の扱い方くらい熟知していた。
「桜も、イリヤ姉も、アンタも熱が入り過ぎていた話し合いにならないと思う。
だから、まずは一旦、お茶をして、それから落ち着いた方が良いと思います。はい……」
取り敢えず下手に出て笑って誤魔化しながら凛がぐうの音が出ない様に理論立てして責める。これで大抵どうにかなる。
「ぐっ……!? 認めたくないけどアンタの言う通りね! アンタ、名前は?」
「自己紹介が遅れました。衛宮嗣郎です」
「アンタが衛宮嗣郎ですってぇ!?」
「まぁ、まぁ、凛、それも含めて彼の言うようにしましょう。中臣さん、お願い出来る?」
「かしこまりました、奥様」
そう言って中臣と言う遠坂家の侍女が衛宮家の侍女であるセラと共にお茶会の出し物を用意した。
お茶会の空気は死んでいる。しかし、それでも燃え上がった熱は微熱くらいまでに下がりマトモな話し合いが出来るようになった。
今回の話し合いでは切嗣と話し合った結果、僕が主体となって話す事が決まりそれに伴って一人称を僕から俺に変えている。
元々、一人称は俺だったが切嗣の養子となって恥じない為に俺である事よりももっと柔らかい僕にしていた。
だけど、遠坂凛と言う少女と話し合うには心の底から話し合う必要がある。そうじゃないときっと彼女も納得しないと思うから。
「それで、遠坂家の言い分としては魔術師の家系である衛宮からのセカンドオーナーへ納めるモノを納めていない事、アインツベルンがいる事情を含めた説明と桜の返還、で良いのか?」
「それと、アンタに文句を付ける事よ!!」
「えっ? 俺に?? 俺、アンタになんかしたのか?」
「えぇ! 本来なら遠坂家の大師ゼルレッチ卿の魔術指南の栄誉はアンタでは無く遠坂の次期当主であるアタシにある筈だわ!
それをぽっとでのアンタが受けて良い道理はあるわけが無い!! それに、ゼルレッチ卿に戒められたのもアンタが原因らしいじゃない!?」
「それは……まぁ、確かに、ゼルレッチ爺さんには良くしてもらっているのは事実だ」
「ゼルレッチ爺さんっ……!? アンタねぇ……!! あの方がどんなに凄い方なのか分かってんの!?」
遠坂凛はかの魔道元帥がどれほど凄い偉業をやってのけたのか知っているからこそ嗣郎の接し方に我慢がならなかった。
「そんなの、アンタに言われなくても分かってはいるさ。俺がゼルレッチ爺さんに良くしてもらっているのは単純な話だ。聞いていないのか?」
「な、なによっ……!?」
「俺が今回の聖杯戦争で出た
「っ!?」
嗣郎の言葉に凛は言葉を失い、葵と中臣もあの地獄と化した冬木市の生き残りがいるとは思って見なかった。
「偶々、生まれ付きの魔眼保有者だったから他の人よりも聖杯の泥に耐性があったから死に難かっただけで……。
切嗣……衛宮家の当主である養父はそんな俺を養子として引き取ってくれた。
そして、偶々俺の持つ魔眼や魔術が珍しかった事で通り掛かったゼルレッチ爺さんと出会い今に至った。
だから、アンタの言う通りだと思う。俺にはゼルレッチ爺さんの指南は過分だと思う。
衛宮家がセカンドオーナーである遠坂家に伝えられなかったのはこう言う部分があるからで、イリヤ姉もその関係からだ。
もしも、衛宮家に納めるモノがあるなら俺がゼルレッチ爺さんにアンタの弟子入りを懇願してみる。だから、これまでの事を許して欲しい」
嗣郎は遠坂凛へ頭を下げて懇願した。
凛もまさか、自分達の一族がやっていた大儀式の犠牲者が生き残っているとは思っても見なかった。
遠坂凛は魔術師として優秀な反面、一般人的な価値観を持つ才女だ。だから、儀式の為に犠牲者は当然仕方ないと割り切れない。
純粋な魔術師であれば割り切れる部分が割り切れないそんな性格だった。
だから、当然自分達の利己的な儀式で犠牲になった嗣郎を見てさっきまでの怒りが落ち着き逆に怖くなった。