TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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一話を大幅に加筆修正しました。


第一話 最高な/最悪な出会い

 ――君は転生したら何になりたい?

 

 

 体中を襲う激痛に、溢れだす大量の血。人々の悲鳴や怒号。パトカーやサイレンの音。ぐちゃぐちゃな思考に割り込んできた声の主は、僕にそう尋ねてきた。

 

 

 ――世界を救うヒーローになりたいの? それとも勇者の助けを待つお姫様? 大穴で世界を滅ぼす魔王や悪の組織の首領とか?

 

 

 痛みで返答どころではない僕のことを気にかける様子を見せず、謎の声の持ち主は延々と構ってほしそうな子供のような声色で話しかけ続けてきた。

 

 

「僕――の――になりた――」

 

 

 既にその機能を半分以上に失っていた喉を振動させて、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。自分ですら全く聞き取れないそれの内容に満足した何者かは、心底嬉しそうに笑った――ような気がした。

 当然死にかけの僕には、その顔を見ることはできないのだが。

 

 

 ――いいよ。君の願いは聞き届けてあげよう。悪の組織の幹部になって、自分好みの最高傑作の■■■■を作りたいっていう、まともな人間の価値観を外れたその願いをね!

 

 

 薄れゆく僕の意識はその言葉を最後に完全に暗闇に沈んでしまった。

 

 

 

 

 1999年7月22日午前11時。

 後に『魔王』と呼ばれる未確認生物が世界の各主要都市に出現。その数は計十三体。

 思い思いに破壊活動を行い、その犠牲者は膨大で何百万に及ぶとも言われている。

 

 

 そしてその日を境に、世界各地に昼夜問わず不定期に未確認生物が現れるようになった。

 『魔王』と呼ばれる未確認生物達以外の個体は『魔物』とやがて呼称されるようになった。

 幾度も現れる前代未聞の脅威に、既存の軍隊の装備は一切役に立たず、滅びの時を人類が迎えようとした時。

 

 

 1999年12月24日午前0時。

 人類の救世主であり、後に『原初』という二つ名を授かる魔法少女がこの世界に誕生した。

 

 

 

 

 ――僕は転生してしまった。転生先の世界は前世とさほど代わり映えのない風景であった。前世でフィクションを人並み程度に嗜んでいた自分からしてみれば、今の自分が置かれている状況が俗に言う『異世界転生』なるものと推測できたが、生憎今生では役に立ちそうな知識はなさそうだ。

 

 

 転生先の世界と前世の世界。大半の歴史的事実や各固有名詞が一致する中で、最大の相違点が存在した。

 

 

 ――『魔物』と呼ばれる化け物と、それを退治する『魔法少女』というヒーローが存在するという点であった。

 

 

 字面だけを見れば、日曜日の朝の時間帯に放送されるような、愛と希望に満ち溢れたアニメ的な世界観と思うかもしれないが、現実はそんなに生易しいものではなかった。

 

 

 神出鬼没に現れる魔物に襲われて命を落とすのは、交通事故や犯罪に巻き込まれるよりも確率は高かった。

 

 

 誰一人の犠牲者を出さずに魔物が倒すということは難しいらしい。無力な一般人も含めて、人智を超えた力を持つ魔法少女もこの世界の不条理な法則に逆らえない者もいる。

 

 

 魔物の攻撃から一般人を庇ったり、自分よりも格上の魔物と戦うこともあったりと、中々世知辛い世の中だ。

 

 

 魔法少女はどれだけ力を持っていたとしても、読んで字の如く『少女』に過ぎない。血なまぐさい戦いの中に身を置くには、未熟な存在なのだろう。

 

 

 しかしそれでも彼女達は戦うことを止めない。それが魔物がいない、平和な世界に繋がると信じて――。

 

 

「――まあ、僕が彼女達の安否を願うなんておこがましいにも程があるしね。なんたって、これでも悪の組織の幹部だし」

 

 

 そう呟いた僕の眼下に広がる光景は、まさに地獄としか表現できないものであった。

 無数の魔物が老若男女に関係なく、一般人を玩具のように扱い、屍の山を築いていた。

 

 

 ――世界に魔物と呼ばれる脅威が満ち、それに対抗するように現れた魔法少女。その二つで完結していた関係性に割り込んできたのが、僕が所属する悪の組織『アクニンダン』。

 

 

 この組織は本来制御が不可能であるはずの魔物を操り世界征服への戦力として運用している。それだけではなく、幹部の一人一人が複数の魔法少女を相手にできる力を有している。

 

 

 ――ネーミングのセンスについては何も言うまいと決めている。

 

 

 それは置いておいて我が組織『アクニンダン』の目的やその達成手段を考えると、魔物よりも迷惑極まりないだろう。

 

 

 転生した僕は性別こそ前世と変わったものの、魔物や魔法少女に『アクニンダン』の全てに関わらずに一般人として生きていく。

 そのはずであった。

 

 

 前世で命を落とした瞬間に謎の声の持ち主に、「転生したら何になりたいのか」かという問いを投げられて、「悪の組織の幹部になりたい」と答えはした。

 まあ幹部になるのは過程であり、本当の願いは別にあるのだが。

 しかし、まさか本当に悪の組織と言うべきものが存在し、その願いを叶えることができようとは思いもしなかった。

 

 

 ある日中学校からの帰り道で『アクニンダン』の幹部を名乗る不審者からの勧誘を受けて、この組織に所属することになった。

 中学二年生の出来事である。

 

 

 『アクニンダン』の首領――通称『ボス』の魔法によって、僕の秘められた力を引き出してもらい、その力を使い学業の傍らで『アクニンダン』の活動に参加している。

 ちなみに僕の正体を知っているのは、『ボス』と勧誘してきた幹部の二人だけだ。

 正体不明の幹部という響きは中々唆るものがある。前世から患っている、ある病気は未だに完治していなかったと判明したが、今の僕は中学生なのだ。たとえそれが二度目であろうと、問題はない。

 

 

「――今日のお仕事は終わりでいいかな? 流石に試験明けの活動は体に堪えるよ……」

 

 

 染み染みと僕は呟いた。発言の通りで、肉体相応の体力しか持たない僕は、通っている中学校の試験期間が終了した足で、『アクニンダン』の幹部として活動していた。

 

 

 今回の『ボス』からの命令は非常にシンプルで、一つの街を徹底的に破壊しろという内容であった。

 

 

 と言っても『ボス』によって目覚めさせられた僕の魔法は直接的な破壊能力を有している訳ではない為、組織によって調教された魔物を率いて、目標の街を襲撃しに行った。

 

 

 突然現れた統率のとれた複数の魔物の群れによる襲撃により、人々は混乱に陥りその結果文字通りの死体の山が築かれた。

 

 

 成果としては十分であり、通報を受けた魔法少女達によって代わりがきくものとはいえ、組織から預かっている魔物を徒に消費したくはない。

 おまけに僕自身の戦闘能力はゼロに等しい。

 無駄な労力もかけたくないので、僕は連れてきていた魔物達に帰還の指示を出そうとした瞬間。

 僕の知覚範囲内に、強大な魔力反応が出現した。

 

 

「はあ……間に合わなかったか」

 

 

 思わずため息が溢れる。感じ取れる魔力の性質から野良の魔物ではなく、逃げた一般人からの通報を受けて派遣された魔法少女のものだろう。

 

 

 今から撤退行動に移ったとしても、戦闘に突入するのは避けられない。何割かの魔物が消耗するのは残念だが必要経費だと割り切るしかないようだ。

 『ボス』にはどう言い訳をするべきだろうか。僅かに痛み始めた頭を片手で押さえたまま、僕は再度ため息を吐く。

 

 

 第二の生で念願の悪役の幹部として活躍中なのだが、本命の願いは未だに叶えられていない。魔法少女に捕まる訳にはいかない。

 

 

「……お前達。適当に相手をしてこ――」

 

 

 気怠げに時間稼ぎに特化した何体かの魔物に指示を出そうして、魔法少女が飛来してくる方向に視線を向けようとした瞬間――。

 

 

 ――世界の時間が止まった。

 と言っても、実際に時間が静止したのではない。前世で有名であった魔法少女もののアニメでは、時間停止の固有魔法を持った魔法少女が登場していたが、『アクニンダン』の情報網を以てしても、そのような魔法少女がいたという話を聞いたことは全くない。

 あくまでも比喩的な表現に過ぎず、僕の主観的なものでしかない。

 

 

「――貴女は『アクニンダン』の幹部ね! 魔法少女である私――『アマテラス』が今日こそは捕まえて更生させてあげる!」

 

 

 ――空から降りてきたのは、予想通りに一人の魔法少女であった。彼女はピンク色のフリフリが多いドレスを完璧に着こなし、万人が抱く完璧な『正義の味方』を体現したかのような意志を秘めた瞳をしていた。

 

 

 

 ――そんな彼女の登場に僕は目を完全に奪われてしまった。そして無意識の内に、思っていたことを言葉にして口に出していた。

 

 

「――か、かわいい。あの子なら僕の願いにも――」

「――はい?」

 

 

 彼女の間の抜けた声が辺りに虚しく響いた。自分の失言に気づき、僕と彼女の間では何とも言えない静寂が満ちる。

 

 

「あー、さっきの発言は無しにしてもらっていいかな?」

 

 

 我ながら悪の組織の幹部には相応しくない台詞だ。せっかく見つけた■■である。あまり第一印象を悪くしたくない。

 

 

 どう対応すべきが正解か。必死に思考を巡らし始めた。

 

 

 

 

 ――この世界には魔法少女がいる。そして彼女達が打ち倒すべき敵として、自然発生する魔物や世界征服を企む悪の組織『アクニンダン』が存在する。

 

 

 魔物は無秩序に街を破壊し、『アクニンダン』は悪意を持って人々に絶望を振り撒き、迷惑極まりないと評されていた。

 それらの脅威に立ち向かう魔法少女に、私――神崎千代は幼い頃から憧れていた。

 

 

 物心がついた時から、彼女達の活躍をテレビで見ない日はなかった。初めは出来の良い作り物と幼心で思っていたが、世界は私が考えるよりも不思議な成り立ちをしているらしい。

 

 

 ある時――とある男が遺した予言が実現するまでは架空の存在として扱われてきたものは、次々と表舞台にその姿を現した。

 その中の一つが、魔法少女である。

 世の中には、思っていたよりも奇跡や魔法が眠っているもののようだ。

 

 

 その起源についてあまり詳しくないのだが、私は魔法少女を英雄視していた。そして叶うのであれば、私も彼女達のような万人を救える『正義の味方』になりたい。

 

 

 そんな思いを秘めながらも、私は中学生としての生活を満喫していた。友人もいて、勉学にも励み順風満帆な日々である。

 

 

 そして中学二年生に進級して、されど生活にはほぼ変化はない。そう思っていた私の日常は一つの事件を切っかけに、様変わりすることになった。

 

 

 ある日の放課後。友人と話に花を咲かせながら帰り道を歩いていた時に、「ソレ」は現れた。

 犬に似た、けれどその大きさは通常の何倍以上もあり、人間を丸呑みできそうな程であった。

 

 

 恐怖で麻痺する思考の傍らで「ソレ」の正体に行き着いた。魔物である。

 突如として私達の目の前に現れた魔物は、その巨大な口を開けて私を、友人を喰らわんとしてきた。

 

 

 腰が抜けてしまい、魔物の牙が私の頭部を砕こうとしてきた時。一人の魔法少女によって、私達は救出された。

 残念ながらその魔法少女の名前を聞きそびれてしまったが、彼女の優しげな瞳や思いやりに満ちた表情は、まさに私が求めていた『正義の味方』の体現者であった。

 

 

 その後も彼女のことが忘れられなかった私は、運が良いことに魔力に目覚め一端ながらも魔法少女として活動ができるようになった。

 

 

 初の変身を終えて、三回目になる出撃。

 国内の魔法少女が所属している公的組織――『魔法庁』の指令を受けた。その内容は『アクニンダン』の構成員と思わしき人物に率いられた魔物が街で暴れているので、その魔物の排除、及び構成員の捕縛が命じられた。

 

 

 一番近くにいたということで、至急現場に向かうように指示されたのだが、成り立てほやほやの魔法少女単独で行かせる難易度だろうかと疑問に思う。

 すぐに他の魔法少女が応援として駆けつけてくれるらしいので、あくまでも時間稼ぎに徹しろというお達しのことであるので、心配はあまりしていないが――。

 

 

 人目を避けるように物陰に隠れて、首にかけている変身アイテム――個人によって形状は異なり、私のはピンク色のネックレス――に魔力を込めて、「変身!」と呟く。

 

 

 眩しいと思える程の光量が辺りに満ちて、その一瞬の後には私の姿は一変していた。

 それなりにお洒落を意識した私服は、ピンク色の可愛らしいドレス服に変化した。

 

 

 軽く掌を開閉すること数度、調子に問題ないことを確認した後、私は飛行魔法――全ての魔法少女が使用できる初級魔法――を使い、現場までひとっ飛びする。

 

 

 目まぐるしく変化する景色を楽しむ余裕もなく、私は指示された場所に到着した。そして私の視界に映った景色は、「凄惨」と表現できる有様であった。

 明らかに統率のとれた複数の魔物が、一般人を弄び悲鳴や死体を一秒ごとに生産している。

 

 

 それだけではない。既に多くの一般人が物言わぬ屍になり、無造作に積み上げられていた。

 『魔法庁』から連絡を受けて、まだ十分も経っていない。ここまでの被害が出るには明らかに早すぎる。

 野良の魔物とは違い、今回は『アクニンダン』の構成員に率いられた魔物の軍団とはいえ、この侵攻の早さはいつもの比ではない。

 

 

 私の中で嫌な予感が走る。これだけの統率力を見せる人物であるのならば、『アクニンダン』の中でも幹部クラスの存在がいるのは間違いだろう。

 

 

 それと同時に、魔法少女に成ったばかりの私は『魔法庁』の職員の方や先輩の魔法少女の皆にかなり気を遣われていた事実を理解した。

 世間一般に定着している魔法少女のイメージは、華やかな活躍をして犠牲者を一人も出さない、紛うことのない英雄そのもの。

 しかしそんなものは偶像に過ぎず、魔法少女の活躍ぶりを華々しく伝える報道の裏で、血なまぐさい私の眼下に広がるような光景こそが現実なのだ。

 

 

 私が今まで派遣された現場は主に他の魔法少女の補佐――一般人の避難誘導や後処理ぐらいである。

 いきなり現実を直視させて、精神的に大きな傷を与えないように配慮されていて、徐々に慣れてもらうという意図なのだろう。

 まあ、その過程をすっ飛ばしてしまったようだが。

 

 

 初めて魔物に襲われた時の恐怖が蘇り、足が竦みそうになる。だが恐怖心とは別に、目の前の地獄を作り出した人物に対して憤りを覚える。

 

 

「……お前達。適当に相手をしてこ――」

 

 

 どこかやる気のない少女の声が私の耳に届く。

 こんなことを平然と実行できる人物だ。さぞかし凶悪な人相なのだろう。

 応援の魔法少女が到着するまで――いや、それよりも一刻も早く魔法少女としての務めを――私の正義を遂行しなければ!

 あの時私を助けてくれた魔法少女に、顔向けができない!

 

 

「――貴女は『アクニンダン』の幹部ね! 魔法少女である私――『アマテラス』が今日こそは捕まえて更生させてあげる!」

 

 

 

 私の宣言を聞いた推定『アクニンダン』の幹部――私と同年代ぐらいの容姿に、少し大きめサイズの白衣を着て濁った黒色の瞳を隠すように眼鏡をかけた少女――は、目をぎょっと見開いた状態で固まっていた。

 

 

 その硬直が解けたと思っていたら、彼女はとんでもない爆弾発言をかましてくれた。

 

 

「――か、かわいい。あの子なら僕の願いにも――」

「――はい?」

 

 

 最後の方はよく聞き取れなかったが、聞き返してしまった私を悪く責める人間はいないだろう。

 

 

 ――悪の組織の幹部である彼女と出会ってしまい、私の人生はとことん狂わされていくことになるのだが、今の私は知る由もなかった。




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