TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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第十三話 僕に良い考えがある/現着

 

 

「じゃあ、『シャドウ』さん。お願いしますね」

「一体何を言っているの……?」

 

 

 僕の発言に、対峙する青髪の魔女少女――ダイヤモンド・ダストは怪訝そうな声を上げる。

 そんな彼女を無視して、僕は少し離れた場所にいる『シャドウ』さんの分体(・・)に目で合図を送る。

 

 

 『改造人間』第三号こと、『シャドウ』さん。

 その戦闘力は、一回の実戦投入で魔法少女達に討伐された『改造人間』第一号と第二号を上回る。

 それだけではなく、喋れないながらも『調整』をしても知性を残すことができるノウハウが誕生した、僕の魔法『生体改造』における転換期となる個体でもある。

 

 

 そして、そんな『シャドウ』さんが持つ最大の特徴と言うのが、その不定形な肉体だ。物体などに同化することも可能で、その性質を利用して普段は僕の影に護衛として潜んでもらっている。

 また肉体の一部を切り離して、それを分身として活動させることもできる。

 まあ、本体から一定時間離れていると消滅してしまい、その分だけ『シャドウ』さんが弱体化するというデメリットがあるので、あまり多用はしたくないのだが。

 

 

 今回はダイヤモンド・ダストの前に姿を現す前に、『シャドウ』さんの分体を少し離れた場所に向かって投げておいた。

 その後、物陰に隠れながら接近していた『シャドウ』さんの分体は、僕の合図と同時に、その不定形な体を網のように広げて、ダイヤモンド・ダストに襲いかかろうとした。

 

 

「しまっ――」

 

 

 恐らくダイヤモンド・ダストが万全な状態であれば、この奇襲は失敗していただろう。

 しかし、ウィッチによる不意打ちに、焦る気持ち。それらが合わさり、ダイヤモンド・ダストには明確な隙が生じていた。

 

 

 戦闘態勢に移行していたものの、ダイヤモンド・ダストの意識は目の前の僕に割かれていた。死角からの『シャドウ』さんの攻撃に、対応が遅れる。

 

 

「よし、上手くいったね。流石は『シャドウ』さんだ。頼りになるなぁ」

 

 

 奇襲を仕掛けた『シャドウ』さんの分体は、ダイヤモンド・ダストの動きを封じ込めるように、彼女の華奢な体に絡みつく。

 

 

「な、何よ、これ! ……もしかして、この魔力! あの時に戦った魔物……!?」

「『シャドウ』さんを、能無しで本能丸出しな魔物如きと一緒にしないでくれる? 『シャドウ』さんはね、喋れはしないけど、紳士的で優しくて――ん? どうかしたの? 『シャドウ』さん。自分のは長くなるからしなくていいって? 本人がそう言うんなら、別に構わないけど……。

 じゃあ、『シャドウ』さん。行きましょうか」

「ねえ、離しなさ――むぐっ!?」

「今は喋るのは許可しないから。しばらくは黙ってて」

 

 

 ダイヤモンド・ダストの体に纏わりついている『シャドウ』さんの体の一部が蠢き、彼女の口を塞ぐ。

 突然の呼吸のしづらさに、ダイヤモンド・ダストは混乱しながらうめき声を上げる。

 

 

 そんなダイヤモンド・ダストの正面に回り、彼女の塞がれた唇に立てた人差し指を当てながら、静かにするように示してからこう告げる。

 

 

「……あんまりうるさくするんだったら、口だけじゃなくて鼻も塞ぐよ。もしかしたら加減を誤って、窒息死させちゃうかもしれないし、僕にそんな危険な真似はさせないでくれる?

 それに君だって、まだこんな所で死ねないでしょう?

 確かさっき、ウィッチに向かって言ってたよね。絶対に助けてみせるって。なら、大人しくしてた方が賢明だと思うけど」

「――!? ――!」

 

 

 僕の挑発か脅しのどっちか分からない言葉に、ダイヤモンド・ダストは意味の為さないうめき声を上げて抗議してくる。

 

 

「うん。納得してくれて良かったよ。なら、早く行こうか。君が助けると約束したウィッチが何をしているのか、君には見る義務がある。

 君の実力なら最初から本気でかかっていれば、ウィッチは倒せていただろうに。だけど、君はそれをしなかった。

 その結果がどんな悲劇を招くことになるのか、じっくりと見るといいよ。どうせ今の君にできるのは、そのくらいだからね」

「――」

 

 

 ダイヤモンド・ダストの内容が不明な抗議を無視して、好き勝手に言葉を告げると、それに何か思うことがあったのか、彼女の抵抗は目に見えて弱くなる。

 

 

 もしかして、ダイヤモンド・ダストは考えたのだろうか。

 自分勝手な理由でウィッチを助けることを優先してしまい、その隙を突かれて敵に囚われる醜態を晒し。助けると誓った相手の心を傷つけて、暴走するような事態になる前に解決できた可能性を。

 

 

 そして、今の状況に陥ることになった自分の無力さでも嘆いているのだろうか。

 

 

 一部拘束の関係上、ダイヤモンド・ダストの顔は隠れてしまっているが、彼女の表情は悔しさに満ちていた。

 

 

(はあぁ……唆るわー、このシチュエーション。歴戦の魔法少女が敵に捕まって、屈辱感に顔を歪める一部始終を間近で堪能できるとは……。

 生まれ変わったことに、マジで感謝します)

 

 

 自分でも自覚できるぐらいに、頬の筋肉がだらしなく緩んでしまう。

 すぐ傍から可哀想なものを見るような視線を向けられるが、そんなものは気にならない。

 そこで、一つのことを思いつく。

 

 

(……前々から暇があったら、アマテラスに試したいシチュエーションを色々と考えてきたけど、本当の意味で新鮮な反応を見れるのは一回だけ。

 本命のシチュエーションはアマテラスに取っておいて、他のは気に入って捕まえた魔法少女達で試していこう! 我ながら良い考え! 元々、『改造人間』で組織の戦力強化の他にも、欲望を発散する予定だったし、問題ないよね!

 だから、これは浮気じゃないし、アマテラスに姉妹を作って上げる僕の粋な計らい、プレゼントだ。うん)

 

 

 突如として天から降ってきた名案に、一人で満足そうに頷くと『シャドウ』さんに命令という名のお願いをした。

 

 

「少しだけ時間を無駄にしちゃったけど、ウィッチが戦闘をしているのを、バレないように観察できる場所まで移動しよっか。

 頼みますね、『シャドウ』さん」

 

 

 僕の言葉に無言で親指を立てるような仕草をした『シャドウ』さんは、ダイヤモンド・ダストを捕らえている分体を取り込み、改めて僕を乗せた状態で移動を開始した。

 

 

 

 

 自分に救いの手を差し伸ばしてくれていたダイヤモンド・ダストを、自らの手で――実際は遠隔でフランが操作したのだが――傷つけてしまったウィッチ。

 彼女の精神は限界を迎えてしまい、創造主であるフランから新たに与えられた命令――可能な限り、暴れろという命令に従い、現在は複数の魔法少女を相手に互角以上の状況を作り出していた。

 

 

「あははっ! 楽しいわ、楽しいわっ! 正義の味方である私に仇なす悪の戦闘員達を吹っ飛ばすのは! 私って、本当に強いのね!」

 

 

 精神が完全に壊れてしまったウィッチは、自分のことを魔法少女だと思い込み、そんな自分の妨害をする魔法少女達のことを悪の組織の手先、逃げる一般人のことを魔物であると決めつけていた。

 

 

 そのせいでウィッチの発言の内容は支離滅裂で、始めは対話を試みていた魔法少女達だが、諦めて実力行使による無力化を狙っていた。

 しかし、精神に異常をきたしていると言っても、元は『アクニンダン』の幹部で、その上でフランの魔法『生体改造』により様々な『調整』を施されていて、その戦闘能力は一級品。

 

 

 ダイヤモンド・ダストのようなトップ層の魔法少女が相手でなければ、中堅以下の魔法少女が束になった所で防戦すらままならない。

 

 

 不運なことに、他のトップ層の魔法少女の多くが偶然にも出現した強力な魔物(・・・・・・・・・・・・・)の対応に追われていて、この現場に派遣された実力者の魔法少女はダイヤモンド・ダストのみ。

 その彼女にも連絡が取れず、とてつもなく厳しい戦いを強いられていた。

 

 

「……何よ、あの発言。完全に狂ってるわね。その癖に強いし……本部からの応援は?」

「……残念だけど、相変わらずに他の場所に現れた魔物で手一杯のようです。本部からの命令は『何とかして、戦線を維持しろ』の一点張りで。運よく応援があっても、実力は私達とどっこいどっこいくらいじゃないですか?」

「……つまり、あんまり期待はできないという訳ね」

「そういうことです」

 

 

 現在、この場で一時的に指揮権が譲渡されている魔法少女。彼女は同じ支部から派遣された同僚と、戦闘の合間に軽い情報交換を行っていた。

 だが、その結果は芳しくなく、頼みの綱であるトップ層の魔法少女達の応援も望めない。

 

 

 唯一幸いなことが、間もなく周囲の一般人の避難が完了しそうなことであるけれど、それでもこの魔法少女達は不満を隠そうとしない。

 それは仕方ないだろう。先日の『魔法庁』の支部への襲撃事件で死亡したはずのウィッチが何故か蘇っていて街を襲っているだけでも、いっぱいいっぱいな状況であるのに。

 増援は来ない上に、自分達よりも実力が上のダイヤモンド・ダストは早々に行方不明。

 最重要警戒対象の一人である『アクニンダン』の幹部、フランの存在も捕捉できていない。

 

 

 はっきりと言って、状況は詰みに近い。一般人の避難は完了したと言っても、その過程で少なくない数の魔法少女が戦闘不能に陥っている。

 遠目では死傷者はいなさそうだが、然るべき治療を一刻も早く受ける必要はあるだろう。しかし、それもウィッチが暴れ回っているせいで、その近くで倒れている彼女達の救助にも行くことも不可能。

 

 

「……あ、また一人落ちた。これじゃあ、本当に戦線が崩壊しかねない。そろそろ戦闘に戻るわよ」

「了解です」

 

 

 情報交換をしていた二人の魔法少女達も、再び戦闘に加わろうとする。不本意ながらも、このままではウィッチが移動して余計に被害が拡大しかねない。

 そういう判断に基づき、彼女達はウィッチに攻撃を再開した。

 

 

 

 

 ――精神が壊れたことにより、真の意味で『改造人間』第五号として完成してしまったウィッチ。

 彼女を唯一倒すことができたはずのダイヤモンド・ダストは既におらず、増援を見込めない状況で戦っていた最後の魔法少女が地面に倒れ込む。

 

 

 それを見て、ウィッチは周囲の気配を探る。しかし、辺りには戦闘不能な悪の戦闘員(魔法少女)が複数転がっているのみ。

 危険な魔物(一般人)は既に遠くへ行ってしまったようだ。

 

 

「怖くて逃げちゃったのかな? まあ、当然だよね。私の魔法は強いもの。敵う敵なんて、一人もいなかったし」

 

 

 さて、これからどうするべきかとウィッチは思案する。正義の味方(『改造人間』)として与えられた命令を完遂することが優先。

 その為に、まずは邪魔な悪の戦闘員(魔法少女)の数を削るとしよう。

 

 

 そう結論づけたウィッチは、片手に持った杖を指揮者のように振るい、攻撃魔法を成立させる。

 その対象は、身動きの取れない悪の戦闘員(魔法少女)達。

 

 

 これで世界がまた平和に一歩近く。『改造人間』第五号(ウィッチ)はそう本気で信じて、魔法を放った。

 

 

「消えちゃえ」

 

 

 魔法が悪の戦闘員(魔法少女)達に着弾するのを見届ける前に、ウィッチが次の獲物を求めて移動を開始しようとした時。

 迫りくる魔法は、全て何かによってかき消された。

 

 

「えっ!? 何!?」

 

 

 ウィッチは驚きの声を上げて、すぐさまに原因を探ろうとした。

 けれど、彼女の並外れた感知能力が捉えるよりも先に、その人物は姿を現した。

 

 

「えーと、お姉さん。一体誰? 全然本気じゃなかったとはいえ、私の攻撃を防ぐなんて凄いね!」

 

 

 突然の乱入者に対して、ウィッチは無邪気に笑いながら声をかける。

 そんなウィッチの様子を、乱入者は悲しげな表情で見つめていた。

 

 

 乱入者の態度に、ウィッチは疑問を抱く。

 

 

「んー? もしかして、お姉さん。前に私と会ったことがある?」

「うん。会ったことがあるよ」

 

 

 ウィッチの素朴な疑問に、乱入者は答える。

 その返答を聞き、ウィッチは改めて乱入者の姿を見る。

 

 

 乱入者は一人の少女。服装は薄いピンク色の着物のような衣装に身を包んでおり、その両手には日本刀らしき物が握られていた。

 見た所、少女自身や身に纏う衣装に、武器からはとてつもない魔力を感じ取った。

 

 

 予想もしなかった強敵の出現に、ウィッチのテンションが上がるが、どれだけ記憶を掘り起こしても少女に見覚えはなかった。

 

 

「うーん、ごめんなさい。お姉さん。私は覚えてないや。……でも、私の邪魔をするってことは、お姉さんも悪の組織の手先ということでオーケー?」

「……うん。今はその認識でいいや。アリサちゃん。あの時は守ることができなかった約束は、今度こそ守ってみせるから」

 

 

 乱入者である少女――アマテラスは、静かに宣言する。救えなかった少女を、今日こそは絶対に救う為に。

 一方で、わざとらしく聞き耳を立てるような仕草をするウィッチ。

 

 

「ぶつぶつと聞こえないよ! お姉さん。喋るんだったら、もっと大きな声でお話ししてくれないかな!」

「――私は魔法少女、アマテラス! 行くよ! アリサちゃん!」

「お姉さん、それって誰の名前? 私の名前はウィッチ! そして、魔法少女は私の方だよ! 悪い悪いお姉さん! 私がしっかりとお仕置きしてあげる!」

 

 

 二人の少女が、今まさにぶつかり合おうとしていた。

 

 

 

 

 ――そんな物語の一場面のような光景を、私は自分の無力感に苛まれながら見せつけられていた。

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