TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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いつも誤字・脱字の報告、ありがとうございます。


十四話 いつの間にか覚醒イベントをスキップしたようです/力が欲しい?

 

 

 ――物語のような一場面を、僕は固唾をのんで見守っていた。

 

 

 以前のようなフリフリとしたピンク色のドレスではなく、同系色の着物のような衣装に、名工の作品のような日本刀。

 そして、洗練されながらもトップ層の魔法少女と比べても遜色ない――いや、むしろ凌駕していると言っても過言ではない程の魔力。

 

 

 どれを取っても、見違える程に完成された魔法少女。アマテラスがそこにいた。

 

 

「……今僕が見ている光景って、夢じゃないよね?」

 

 

 目の前の光景が夢か現実であるかを調べる為のお決まり、自分の頬を軽く抓る。

 小さな痛みが走る。うん、これは夢ではなく、現実だ。

 

 

 先日の一件以来、全く姿を見かけなかったアマテラスの無事が確認できて僕のテンションはうなぎ登りである。

 

 

 最後に見かけたアマテラスは、今にも自死しそうなぐらいに落ち込んでいた。可愛い女の子の曇った表情は大好物なのだが、推し(アマテラス)は別だ。

 

 

 まだ本番の準備ができていないというのに、ウィッチの件(前座)で潰れてしまうのは、凄く困る。

 姿を見ない期間が長かったので、随分と心配していたが杞憂だったようだ。

 

 

 推し(アマテラス)はしっかりと立ち直っていた。それに何やら魔法少女としての力も、一段階上のステージに上がったらしい。

 新しくなった衣装も彼女に似合っており、以前までの可愛いらしさを前面に宣伝していた印象から、凛々しさが十割増しなギャップが素晴らしい。

 ついつい組織との連絡用の端末で、写真を数十枚も撮ってしまう。容量を確認する。まだまだ撮り足りないので、容量が保つと良いのだが。

 

 

 そこまで状況を整理して、アマテラスが立ち直ったことに対する安堵を抱く一方で、それを上回る思いが一つ。

 

 

推し(アマテラス)の覚醒イベント、見逃しちゃったんだけど!?」

 

 

 確かに、こうやってアマテラスの勇姿をもう一度拝めることができたのは良かったのだが、肝心の|覚醒イベント《気持ちに整理をつけて、新しい力を手に入れる瞬間》を見ることができなかった。

 

 

 もちろん、『魔法庁』によって厳重に魔法少女に関する個人情報が秘匿されているせいで、『アクニンダン』の情報力を以てしても変身前の姿を掴むことはできていない。

 

 

 それができていたら、普段からアマテラスの日常を監視――見守ることが可能だったはずなのに。

 

 

 両手で頭を抱えて、自分が所属する組織の諜報能力の低さを嘆く。いや、むしろ『魔法庁』の情報面のセキュリティの高さに怒りを抱くべきだろうか。

 

 

 今日アジトに帰還したら、『魔法庁』のデータベースにハッキングでもすることを『ボス』に提案してみようか。

 別に、アマテラスの変身前の姿を知りたいだとか、そんな個人的な邪な思いは全くない。そう欠片も。

 

 

 と息巻いても、『アクニンダン』に諜報という陰で暗躍するような作業が果たして可能なのか。

 『ボス』や僕以外の幹部の顔を思い返しても、ほぼ全員が脳筋寄りだ。

 やっぱり諦めるべきだろうか。

 

 

 そこで横道に逸れていた思考を打ち切り、アマテラスとウィッチの戦いの観戦に意識を戻す。

 

 

「いやー、それにしても本当に強くなったぁ……アマテラス。初めて会った時や集めてた情報よりも、格段に強さが向上してる……。まさか一人で『改造人間』第五号(ウィッチ)と互角以上に渡り合うなんて。

 単純な強さで言ったら、もうトップ層の魔法少女に匹敵するレベルじゃないか。流石は、僕の推しだ」

 

 

 しみじみと呟く。

 ウィッチが杖を振るい繰り出す魔法を、アマテラスはその両手に持つ日本刀に炎を纏わして、的確に消していく。

 

 

「あー、もう苛々する! どうして当たらないのよ! ちょこまかと鬱陶しい! ……あ、そうだ! こうすれば、絶対に避けられないよね!」

 

 

 全く自分の攻撃が当たらないことに苛立ったウィッチが、避けられないように戦闘不能に陥っている魔法少女に攻撃の照準を合わせる。

 

 

「今度こそ消えちゃえ!」

「――『炎刀』」

 

 

 しかし、それに対して少しの動揺も見せずに、その攻撃も捌いていく。

 もちろん、余波すら庇う魔法少女達に当たることがないように立ち回っている。

 

 

 それでも、ずっと庇い続けるのは難しいと判断したのか、ウィッチの魔法による弾幕が途切れた瞬間を狙って、足に魔力を込めて、上空にいるウィッチに急接近した。

 

 

「――なっ!?」

 

 

 驚愕の声を上げる間もなく、ウィッチの懐に入るアマテラス。彼女はウィッチを袈裟斬りにせんと、大きく刀を振りかざした。

 

 

 ウィッチは魔法使用直後の隙を突かれて、絶対絶命。この勝負は、アマテラスの勝利に終わる。第三者はそう判断するだろう。

 

 

 しかし、アマテラスが相対しているのは能無しの魔物ではなく、僕お手製の『改造人間』第五号。

 その素材も、『ボス』によって力を与えられた元幹部の少女がベースとなって、耐久性に優れた魔物や保有魔力が多い魔物を数種類ブレンドしている。

 

 

 正面からの押し合いを不利と悟った相手が、魔法を連続で使用した際の隙を突いてくるのは、想定内。

 そういう手合いへの対策は一つ。耐久力の高さを活かせば良いのだ。

 

 

「これで最――!?」

「――こんな所で終わってたまるか!」

 

 

 アマテラスが振り下ろした刀を、ウィッチは見様見真似の感じな真剣白刃取りの要領で掴み取った。

 まさか止められるとは思わなかったのか、動揺で刀を握るアマテラスの力が鈍る。

 

 

 だが、覚醒したアマテラスはその判断力も一流の領域。一瞬で攻撃が失敗したことを理解すると、すぐさまにウィッチから距離を取ろうとした。

 

 

 ――しかし、そんなことはウィッチが許さない。

 

 

「……これだけ近くだったら、流石に当たるよね?」

「くっ……! 離れない……!?」

 

 

 ウィッチは自分の手が傷つき血が流れ出しても、アマテラスの刀を決して離そうとしない。超近距離でのやり取りの最中に、ウィッチは未だに潤沢にある己の魔力を一気に活性化させる。

 その行動にはこれまでの戦闘で、ウィッチが使った魔法のような多彩さや特別な効果はなく。

 けれども、持ち前の――優秀な『素材』由来の膨大な魔力が単純な爆薬として機能する。

 

 

「――って、アマテラスを巻き込んで、自爆するつもりっ!?」

 

 

 ――瞬間。ウィッチを中心に大きな閃光が辺りを包んだ。

 

 

 少し離れた場所から観戦していた僕であっても、目を反射的に逸らし両手で塞いでいた。それでも遅かったのか、視界が回復するまでに多少の時間を要した。

 

 

 視界が元通りになった瞬間に、僕は慌てて上空に視線をやる。

 

 

「……あ、アマテラスは無事だよね!?」

 

 

 もちろん、アマテラスの安否確認を行う為だ。割りかし自信作である『改造人間』第五号(ウィッチ)がやられそうな時に、心の片隅で「少しもったいないかなー」なんて思ったせいで、それが指示として反映されてしまったらしい。

 その結果が、先ほどのウィッチの自爆攻撃に繋がってしまった。

 我ながら、とんでもない失態だ。

 

 

 ウィッチ自身は、その持ち前の耐久力で無事だろうが、あんな爆発を至近距離で受けたアマテラスはどうなっているのだろうか。

 

 

 いくら力が数倍以上に上昇したとしても、あの威力は致命傷になってしまう。

 

 

 焦燥に駆られながら、僕が見た光景は最悪の予想を覆すものだった。

 そこには満身創痍なウィッチと、衣装がボロボロになりながらも悠然と佇むアマテラスの姿があった。

 

 

 

 

「……これだけやっても、駄目なの?」

 

 

 ウィッチは荒く息を吐き出す。『改造人間』(魔法少女)として『調整』された彼女の力を以てしても、連戦に次ぐ連戦の影響で疲労を隠せていない。

 

 

 正確に言えば、中堅程度の力しか持たない魔法少女の集団など、数の内に入っていない。ダイヤモンド・ダストを相手に、多少の消耗は強いられたが、それも『素材』の魔物の特性によって自然回復である程度は賄えていた。

 もしも、ダイヤモンド・ダストが始めから本気でかかっていれば、その限りではなかったが。

 

 

 そんな経緯もあり、全体の七割以上の余力を残していたウィッチだったが、乱入してきた魔法少女――アマテラスと名乗っていた――と交戦をし、終始押されていた。

 

 

 どんな魔法を繰り出しても当たることなく、何なら周辺の被害がなるべく小さくなるように立ち回られて、ウィッチは苛立っていた。

 

 

 それで攻め手を変えて、戦闘不能に陥っている魔法少女(魔物)を標的にして、避けられないようにしたのだが、それも失敗。

 一発も当たることなく、捌かれてしまった。

 

 

 そして、わざと自分の懐に入りこませての自爆攻撃。これならば、相手を仕留められる。そう思っていたのだが、結果はご覧の通り。

 

 

 ウィッチは体内で膨大な魔力を練り上げて爆発させたせいで、瀕死一歩手前よりもマシな程度の重傷を負っていた。

 

 

 一方で、アマテラスは衣装こそ損傷は見られるが、その染み一つない綺麗な肌には、僅かな掠り傷すら確認できない。

 

 

 誰がどう見ても、どちらに軍配が上がったのか、一目瞭然だろう。この光景を見て、どこぞの悪の幹部は「やったー! 推しが生きてるー!」と喜んでいたとか、いないとか。

 

 

 それはともかく、当事者であるウィッチがこの結果に対して納得している訳ではない。

 残り少ない魔力を動員して、最後の悪あがきとして魔法を発動しようとするが、このままではさっきまでの繰り返しで難なく防がれるだろう。

 

 

 その隙を作り出す為に、ウィッチは自身の内側で燻る怒りを抑え込んで、アマテラスに対して会話を試みた。

 

 

「お姉さん、強いんだねー。流石に私もお手あげだよ。……それで、せっかくだから最後に教えてほしいことがあるんだ。

 どうやって、さっきの攻撃を防いだの? 無傷は反則じゃない?」

「別に大した仕掛けもないよ。私の魔法の中に、偶々そういう効果の魔法があっただけ」

「えー。それって、本当? お姉さんの魔法、見た感じだと炎を操る効果だよね? それだけで、私の自爆から逃げられるとは思えないけど」

「……それ以上は今は言うつもりはないよ。今は貴女を――アリサちゃん(・・・・・・)を助けるのが先決だから」

 

 

 アマテラスがウィッチのことを、『アリサ』と呼んだ瞬間にウィッチの態度は一変。それまで内心苛立ちながらも、何とか取り繕うとしていたウィッチは激情を露わにする。

 

 

「……ねえ、会った時にも言ったよね。私の名前はウィッチだって。アリサなんて、名前じゃない。何の力もない女の子でもない。

 私は正義の魔法少女なの。だから、訂正して。私は誰が何と言おうと、ウィッチなの!?」

 

 

 まるで、その様子は癇癪を起こした子供のような――ウィッチは外見と内面も、正しく子供のものだ。

 

 

 自分の思い通りにならない敵が、自分のアイデンティティ(ウィッチという存在)を否定する。それによって、ウィッチの苛立ちが最高潮に達してしまった。

 

 

 既にウィッチの頭の中からは、騙し討ちをしようという考えは吹き飛んでしまった。

 

 

「うるさいなっ!? もう黙ってよ!?」

 

 

 会話の傍らで発動しようとしていた魔法が、乱雑にアマテラスに向かって放たれる。

 だが、そんな雑な魔法が通用しないことは十分に今までの戦闘で証明されている。

 

 

 それからの戦闘は、先ほどまでの光景の焼き直し。

 ウィッチの魔法を炎を纏わせた刀で切り裂くと同時に、アマテラスは一気に距離を詰める。

 

 

 そして、さっきまでとの違いはウィッチには、もう抵抗の手段がない。

 

 

 そのタイミングで、ようやく己の最期を悟ったのだろうか。ウィッチは怒りの表情を引っ込めて諦めの色を浮かべると、大きく振り上げられた刀を受け入れようと両手を広げた。

 まるで狂気に支配されていた思考から解放されたかのように。

 

 

「……ようやく、これで解放される。ありがとうね、お姉さん」

 

 

 小声で呟かれたその言葉は誰にも届くことなく、刀はウィッチに迫った。

 

 

 

 

 ウィッチの自爆攻撃は失敗に終わった。アマテラスが無事なのは良かったが、どういうからくりだろうか。

 あんな膨大な魔力を暴発させた一撃は、僕なんかが当たれば木っ端微塵になることは間違いない。

 

 

 この状況に既視感を覚える。あれは確か、僕とアマテラスが初めて出会った時。

 あの時は『改造人間』の代わりに、組織で調教済みの魔物を十数体連れていた。

 

 

 初対面でアマテラスに固執する前の僕は、彼女が僕にとっての推し(・・)に相応しいかどうかを調べる為に、連れてきていた魔物を全て、アマテラスにけしかけた。

 

 

 当時は魔法少女に成り立てであったアマテラスが、使い捨て前提の低級とはいえ、無数の魔物に敵うこともなく、あっさりと死んだ。

 

 

 そう判断した。そうとしか判断できなかった。

 だって、そうだろう。数十体の魔物に肉体を喰われて、生きているはずがない。

 

 

 だけど、アマテラスはこうして生きている。

 

 

 その時、何があったのかをよく思い出せ。アマテラスに群がっていた魔物達はどうなったのか。

 アマテラスを中心とした巨大な爆発で全滅したのだ。しかも、基点となったであろう彼女は無事であった。

 

 

 奇しくも、今の状況と似かよっている(・・・・・・・・・・・・)

 もちろん多少の差異はあれど、アマテラスには何かとんでもない力――それこそ死から蘇る力、またはそれに近いことを可能とする魔法があるようだ。

 

 

 その力の対象とできるのが自分だけなのか、それとも他者にも有効なのか。

 普通であれば、そんな反則級な魔法の効果は自分にしか作用しないはずだ。

 けれども、アマテラスなら、僕の推しの魔法少女であるのなら。

 

 

 もしもの奇跡を起こせる。そんな予感がした。

 第三者が見れば、止めを刺そうとしているようにしか見えないが、通常ではありえない展開が起こる確信があった。

 

 

 ――例えば、『改造人間』として尊厳や精神が壊されたウィッチを完璧に救う。そんな奇跡が。

 

 

(――それなら、面白い演出ができるかも)

 

 

 良いことを思いついてしまった。それを仕込む為に、アマテラスがウィッチに、大きく振りかぶった刀を振り下ろそうとした瞬間。

 

 

 『シャドウ』さんに心の中で一つの指示を出した。

 『シャドウ』さんの体の一部を触手のように動かしてもらって、拘束されているダイヤモンド・ダストの口だけではなく、目を塞いでもらった。

 

 

 今までダイヤモンド・ダストには、体も動かせない、口も利けない状態で、アマテラスとウィッチの戦闘を見てもらっていた。

 

 

 一切の抵抗ができない状態で、自分が助けると誓った少女が他の誰かに救われようとする場面を見せつけられる。

 

 

 痛みが伴わない、一種の拷問ではないだろうか。

 

 

 戦闘の最中、ダイヤモンド・ダストはアマテラスに対して嫉妬のような、憧憬のような感情が籠もった視線を送っていて。

 可愛いらしい百面相を横目で堪能できて、僕は満足だ。

 

 

 特にウィッチが負傷すると、面白い具合に抵抗が大きくなり、『シャドウ』さんの拘束を打ち破ろうと無駄な努力をしていた。

 

 

 それほどまでに、ウィッチを助けたいと思っているダイヤモンド・ダストがこの光景を――アマテラスがウィッチに止めを刺そうとする直前の場面で、視界を遮りその続きを見せなかったら。

 一体どうなるだろうか。

 

 

「――!? ――!?」

 

 

 怒り狂ったかのように、『シャドウ』さんに抑えつけられた状態で暴れようとしていた。

 

 

 口は塞がれていても、ダイヤモンド・ダストが言っていることは想像できる。

 

 

 ――何故、ウィッチを助けると言った人間が彼女を殺しているのか。許さない、許さない! 殺してやる!

 

 

 そんな所だろうか。そして、これが正しければダイヤモンド・ダストは、アマテラスがウィッチに止めを刺したと勘違いしてくれるだろう(・・・・・・・・・・・)

 

 

 視線は、僕の『生体改造』の支配から解放されて気絶しているウィッチを抱き止めるアマテラスから外すことなく、激情に狂っているダイヤモンド・ダストの耳元に近づき、彼女を堕とす為の言葉を小声で囁く。

 

 

「あーあ。貴女の力不足で哀れなウィッチは、正義の味方気取りの魔法少女に殺されてしまいました。

 自分の無力を嘆くなら、僕が力を授けて上げるよ? ダイヤモンド・ダスト」

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