TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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第十五話 堕落/決意/見つけた

 

 

 ――物語の一場面のような光景を、彼女は自分の無力感に苛まれながら見せつけられていた。

 

 

 トップ層の一人として位置する魔法少女ダイヤモンド・ダストだが、現在の彼女は思わぬ不意打ちを受けて負傷し、液状化できる魔物らしき異形に体を拘束されていた。

 

 

 すぐには殺されはしていないものの、異形の主であるフランは濁った瞳に、どこか壊れた感じのする笑みを浮かべていて、ダイヤモンド・ダストの生殺与奪の権利は完全に他者に握られている。

 

 

 ダイヤモンド・ダストが得ている情報や、それに基づく予想が正しければ、フランもウィッチ同様に望みもしない悪の組織の活動に従事させられているはず。

 そう判断し、先ほどのウィッチを相手にした時のように、フランの説得を試みたいと彼女は考えていたのだが。

 

 

 不運なことに、ダイヤモンド・ダストを拘束している魔物らしき異形の肉体は不定形で、彼女の細い体だけではなく口も塞がれてしまい、言葉による説得もできない。

 

 

 ただ延々と、ウィッチと新たに参戦した魔法少女の戦いを見ていた。いや、見せつけられていた。

 

 

 ウィッチと相対する薄いピンク色の着物に似た出で立ちの魔法少女。ダイヤモンド・ダストには見覚えがなかった。

 『魔法庁』の本部に所属し、実力者の一人として数えられる魔法少女である彼女は、そこそこ名の知れた魔法少女であるのなら、詳しい人物像は別として顔ぐらいは既知のはずであった。

 

 

 しかし、ダイヤモンド・ダストの脳内リストのどれにも一致しない。

 一体誰なのだろうか。生半可な実力では、ウィッチの餌食にしかならないのだが。

 

 

 そこまで思考を回したダイヤモンド・ダストの耳は、隣でキャーキャー騒ぐフランの独り言の一部を拾う。

 あの魔法少女の名前は、アマテラスと言うことを彼女は知った。その魔法少女名には、聞き覚えがある。

 以前の『魔法庁』の支部襲撃事件――正確に言えば、『アクニンダン』による裏切り者のウィッチ暗殺事件の渦中にいた魔法少女の名だ。

 

 

 事件に関連する書類を読んだ時に、ダイヤモンド・ダストは多少アマテラスの情報を得ていた。

 けれど、それらの情報では、アマテラスは目立った活躍も特にない中堅未満の魔法少女のはずであり、事件のショックで魔法少女の活動を停止していたとあったが――。

 

 

(……あれが中堅以下? 何の冗談よ……。あの子が中堅以下なら、他の魔法少女はどうなるのよ……)

 

 

 

 ダイヤモンド・ダストの前で繰り広げられる戦闘は、アマテラスがあのウィッチを相手に善戦していた。いや、むしろウィッチの方が終始不利そうだ。あの手この手で攻めているが、どれも有効打になっていない。

 今戦っているウィッチは、先ほどまでダイヤモンド・ダストが戦闘していた時よりも凶暴性だけではなく、魔法一つ一つの火力が上がっているのにも関わらずに。

 

 

 果たして、今のウィッチと一対一で戦いを成立させることが、ダイヤモンド・ダストにもできるだろうか。答えは否だ。

 できて、時間稼ぎが精々だろう。それを考えると、アマテラスの戦い方や魔法の強力さも含めて、ダイヤモンド・ダストを――トップ層の魔法少女に迫る、いや超える程だ。

 

 

 事前に得ていた情報と致命的に食い違う。何だ、何が起こっているのか。唯一ダイヤモンド・ダストに許された考えるという行為すら、アマテラスの異様さに機能していない。

 

 

 それだけではなく、ウィッチが傷つく度にダイヤモンド・ダストは声を上げてアマテラスに制止の言葉をかけたかった。

 あくまでも、ウィッチは『アクニンダン』による被害者だ。今でこそ周囲に危害を加えるのを躊躇っていないが、先ほどまではしっかりと拒絶の意思を見せて、助けを求めていた。

 

 

 だから、そんなウィッチを傷つけてはならない。そう言葉にしたくても、今のダイヤモンド・ダストにはアマテラスにその言葉を届ける手段がなかった。

 

 

 ただ見ることだけを強制されて、遂に決定的な瞬間が訪れた。

 

 

 ウィッチの自爆攻撃を何らかの魔法で無傷で凌いだアマテラスは、武器である刀をウィッチに目掛けて振り下ろそうとしていた。

 その瞬間に、ダイヤモンド・ダストの体を拘束していた魔物が目まで塞いできた。そのせいで、後の展開を見ることは叶わなかった。

 

 

 しかし、あそこまで見せられていたら、ウィッチが辿った末路は容易に想像できる。

 

 

 ウィッチは死んでしまった。殺されてしまった。突然現れて、助けるとまで言ったアマテラスによって。

 

 

 その事実を理解した途端に、ダイヤモンド・ダストは拘束されながらも、そんなことは関係ないと言わんばかりに、彼女は暴れ出した。

 

 

 心が怒りに染まってしまったダイヤモンド・ダストに対して、ウィッチと同じように『アクニンダン』の被害者であるフランが耳元で囁く。

 

 

「あーあ。貴女の力不足で哀れなウィッチは、正義の味方気取りの魔法少女に殺されてしまいました。

 自分の無力を嘆くなら、僕が力を授けて上げるよ? ダイヤモンド・ダスト」

 

 

 悪魔からの契約に等しい誘いに、ダイヤモンド・ダストは肯定のうめき声を上げる。

 

 

 この時を以て、ダイヤモンド・ダストは新しい素材(フランの玩具)になる末路が決定した。

 

 

 その未来を想像し、フランは歪な笑みをより深めた。

 

 

 

 

 私――アマテラスは、夢の中で自分のそっくりさんに励まし、新しい力をもらった。その後、目覚めた時に起こっていた一つの街を襲っていた悲劇。

 そして、その襲撃者の姿を見て、私の体は動いていた。

 

 

 その襲撃者の正体は、中学生である私よりも幼い少女のアリサちゃん。また別の名を、『アクニンダン』の()幹部、ウィッチ。

 少し前に彼女は組織の裏切り者として、私の目の前で殺されてしまったはずなのだが。

 どういう訳か、アリサちゃんは生き返って、街で無辜の人々を襲い、彼女の暴挙を止めに来た魔法少女達と戦っていた。

 

 

 理由は分からないが、あの時に交わした約束――アリサちゃんを助けるという約束を守る為に、私は全速力で現場に駆けつけていた。

 

 

 久しぶりに出会ったアリサちゃんの様子は、異様としか言いようがなかった。あれほどまでに忌避していた他者を害する行動を、平然とやっていたのだ。

 言動からも正気であるとは感じられず、彼女が蘇った理由を探る目的で会話を長引かせたが、その内容は支離滅裂で理解はできなかった。

 

 

 けれど会話をしている最中に、視界に映るアリサちゃんの体に違和感を感じた。よく目を凝らして見てみると、魔力の糸のような物が、彼女の体から伸びてどこかに続いていた。

 

 

 直感的にそれが原因で、アリサちゃんは操られている。そう理解した。ならば、やるべきことは簡単だ。

 その原因を物理に排除すれば解決する。ちょうど良いことに、私の新しい武器は刀である。

 これに炎の形をした魔力を纏わせれば、実体があろうがなかろうが関係なく斬ることができる。そういう確信があった。

 

 

 そして、長い攻防の果てにアリサちゃんの意思や肉体を縛る『糸』を切断することに成功した。

 

 

「……今度こそは約束を守れたよ。アリサちゃん」

 

 

 私の腕の中で安堵したように眠る少女――アリサちゃんに向かって、ポツリと呟いた。

 これで、私がやらなければならないことの一つは終わった。

 しかし、まだまだ課題は山積みである。操られていたとはいえ、アリサちゃんが出した被害は甚大で、後処理や彼女自身の処遇を決めるのに膨大なコストと時間を要するだろう。

 また、正気を取り戻したアリサちゃんの精神的なケアにも力を入れなければ、彼女の心はもう一度壊れてしまう。

 

 

「……それは私が支えて上げれば良いか。一度助けて、はいお終いじゃ無責任だしね」

 

 

 アリサちゃんを起こさないように、片手を動かして彼女の頭を優しく撫でる。そうすると、彼女は気持ちよさそうに「んっ」と喉を鳴らし、その様子はとても可愛いかった。

 この少女の笑顔を守る為に、力を尽くす決心をした。

 

 

(アリサちゃんを助けることはできた。次は……)

 

 

 しかし、私には果たさないといけない約束がまだ二つもある。一つは、私が魔法少女を目指すきっかけをくれた魔法少女。彼女に誇れる姿を見せること。

 

 

 新しい力に覚醒したとはいえ、まだまだ未熟で口が裂けても一人前になったとは言えない。それでも、私よりも幼くても立派な魔法少女としての後ろ姿を見せてくれたや、助けてくれたことに対するお礼は言いたいとずっと思っていた。

 

 

 晴れて魔法少女としての力に目覚め、『魔法庁』の職員さんにスカウトされた時に、命の恩人である彼女に会える。そう思っていたのだが、誰に聞いてみても「そんな魔法少女はいない」と言うばかり。

 ネットで調べても、僅かな痕跡すら感じさせない。

 

 

 色々な衣装の魔法少女がいるが、小柄で軍服姿(・・・・・・)であるから非常に目立つはずなのだが。

 

 

 ただ、このまま魔法少女として活動していけば、何れ出会える。そんな気がしていた。

 

 

 それも重要だが、私にはもっと急がないといけない約束がある。それは私に直接救いの手を求めていたフランを、『アクニンダン』の呪縛から解放することだ。

 

 

 手を差し伸べる機会が二度もあったと言うのに、私自身の力不足のせいで助けることが叶わなかった。

 だけど、それもここまで。今の私の力さえあれば、アリサちゃんと同じようにフランを救える。いや、救ってみせる。

 

 

「……待っててね、フラン」

 

 

 私は心の中に、一人の少女の顔を思い浮かべると、決意をさらに固めた。

 

 

 

 

 ここは、地球上のどこにも位置しない異空間。そこに鎮座するのは、馬鹿でかい建物。

 その正体は、『アクニンダン』の本拠地であった。

 

 

 この異空間や建物は自然にあったものではなく、一人の人物によって構築されたものだ。そして、そんな偉業を成し遂げたのは、『アクニンダン』の首領――通称『ボス』である。

 

 

 『ボス』について『魔法庁』が把握している情報は、彼女が『アクニンダン』という世界征服を目的とする悪の組織を、ここ数年間の内に設立したというものぐらいしかない。

 

 

 『アクニンダン』の主な活動は、『ボス』によって勧誘――最近の『魔法庁』や世論は、『ボス』が洗脳やら脅迫して無理やり加入させていると思っている――した幹部達が、週に一度。

 組織によって調教された魔物の群れを率いて、街を始めとした人が多く集まる場所を襲っている。

 

 

 その襲撃の度に、少なくない犠牲者が一般人や魔法少女にも出ており、世間では『アクニンダン』の早期解体が望まれている。

 

 

「ん? フランから送られてきているのは……追加の『改造人間』第五号(ウィッチ)の戦闘データか」

 

 

 そんな危険極まりない組織のアジト、その最奥。玉座の間と呼ばれる場所にいたのは、一人の小柄な少女であった。

 彼女が身に纏う服装は、軍服にマント(・・・・・・)という奇妙なもの。

 

 

 その少女の正体は、先ほどまで話題に上げていた『アクニンダン』のトップ、『ボス』その人である。

 

 

 無駄にデカい玉座に腰をかけて、『ボス』はズボンから組織専用の端末を取り出して、連絡内容を確認する。

 

 

 連絡の差出人は、幹部の一人――フランだった。『ボス』が彼女に抱く印象は、頭の螺子が数本トんでしまっている狂人という非常に残念なものであった。

 

 

 自らも相当に危険人物であると自覚している『ボス』だが、フランはそれを優に上回る。

 もちろん、他の幹部同様に『ボス』の命令にも忠実で、発現した魔法は強力であり、組織の戦力増強に一役買っている。

 それだけを聞けば、優秀な部下と言えなくもないが、特定の魔法少女に向ける情熱や性癖は、『ボス』を以てしても理解、制御できないレベルだった。

 

 

 そんなフランが送ってきたのは、本日の任務に関する詳細な報告であった。

 『ボス』もフランの実況中継で、途中までは任務の様子を見ていたのだが、順調に進んでいた為、大丈夫だと思い別の用事に取りかかったのだが、何かあったのだろうか。

 

 

 報告書を読み進めると、『改造人間』第五号の戦闘データの他に、トップ層の魔法少女の一人を鹵獲したこと、『改造人間』第五号が撃破されてしまったという情報が羅列されていた。

 

 

「……そうか。あの『改造人間』が敗れるとはな。まあ、いくら強いと言っても、やはり単体では限界はあるか。肝心のフランが無事であれば、換えは効く」

 

 

 淡々と思った感想を独り言として溢す『ボス』。確かに『改造人間』第五号は、戦闘データや映像を見た所、非常に高い戦闘能力を保持していた。

 それだけではなく、あれだけの性能を見せていながら、完全には仕上がっていなかったらしい。

 

 

 魔法少女に倒されてしまい、残念な気持ちはなくはないが、所詮は裏切り者を組織の為に再利用した試作品。

 製作者がいれば、あれの上位互換はいつでも用意できるだろう。

 

 

「……しかし、『改造人間』第五号(あれ)は一体誰に負けたのだ? 生半可な相手が勝てるような性能ではなかった気がするが……」

 

 

 『ボス』の尤もな疑問を抱く。そして、次に思い浮かべた答えは、数による利を活かした物量差で押し潰されたという予想だった。

 それとも、トップ層の魔法少女達による少数精鋭の部隊に負けたのか。

 

 

 いや少なくとも、その可能性はない。せっかくの『改造人間』第五号の試験運用を、中途半端に終わらせたくなかったので、フランが出撃したタイミングで、各地に強力な魔物を数体放っていたのだ。

 ならば、考えられる可能性は一つ。

 

 

「……まさか、一人の魔法少女に倒されたのか。だとしたら、一体誰が……」

 

 

 そう言いながら、『ボス』は報告書に添付された映像を最後まで見終わった瞬間。彼女は言葉を失っていた。

 その原因は、映像に出てきた『改造人間』第五号を倒した魔法少女であった。

 

 

 薄いピンク色の着物姿に、武器は日本刀。扱う魔法は、炎を操る類のもの。

 

 

 そのどれにも、『ボス』は心惹かれるものはなく、見覚えがある人物ではなかった。

 しかし、映像の途中で魔法少女が『改造人間』第五号の自爆攻撃を無傷で乗り切った場面と、フランの魔法によって肉体も意思すらも縛られていたはずの『改造人間』第五号が、その呪縛から解放される場面に『ボス』の目は釘付けになった。

 

 

 その魔法少女が行使する魔法は、映像を見た限りでは炎を操るだけのものにしか見えない。だが、『ボス』は違った。

 映像の中の魔法少女に向ける視線には、フランとはまた異なる感情が含まれている。

 

 

「――ようやく見つけたぞ。あの魔法少女がいれば、儂の計画は今度こそ確実に叶う。……あの魔法少女についての情報は……名前はアマテラスというのか。確か、フランがご執心の魔法少女だったな。

 なら、直接呼び出して聞くとするか」

 

 

 『ボス』は端末を操作し、フランに連絡を取った。

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