TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい 作:廃棄工場長
遠目ではあったが、推しを存分に堪能できて大満足した僕。
完成間近であった
むしろ、アマテラスの新衣装や活躍を見れたので、プラスだろう。
ルンルン気分で、『アクニンダン』のアジトに帰還し、捕まえたダイヤモンド・ダストを自分のラボに連れて行く。
都合の良い場面だけを見せて、アマテラスがウィッチに止めを刺したように勘違いさせることには成功して、アマテラスに憎悪を向けるようにはできたのだが。
それがイコールで、ダイヤモンド・ダストが僕の、『アクニンダン』の命令に忠実に従う駒という訳ではない。
もちろん、そういう方向で『調整』をすれば良いだけの話なのだが、『素材』が優秀であればあるほどに、『調整』――肉体や意思の掌握は難しくなる。
ノウハウ自体はほぼ完成しているが、やはり『素材』の力が強いと簡単にはいかない。
ウィッチの時には、その力の提供元が『ボス』である為、手伝ってもらうことでスムーズに『調整』が完了した。
けれど、ダイヤモンド・ダストは魔法少女。僕や他の幹部達のように『ボス』に与えられた紛い物の力ではなく、彼女達自身の才能に基づく力。しかも、それの最高峰の一角に位置している。
これまでの一般人や魔物、『アクニンダン』の幹部にやってきた『調整』とは勝手が違ってくる。
ダイヤモンド・ダストの殺意はアマテラスに向くように誘導はしたが、ウィッチに非道な仕打ちをしてきたのは僕らだ。
中途半端な『調整』では、アマテラスの前に『アクニンダン』に牙をむく可能性がある。というか、間違いなくそうなる。
僕としては、ダイヤモンド・ダストの殺意に塗れた表情や感情も含めて堪能して受け止めても良いと思っているが、あくまでも彼女の役割はアマテラスへの試金石。ここで使い潰す訳にはいかない。
それに僕の一番の推しは、アマテラスだ。
ダイヤモンド・ダストも僕の理想的な魔法少女像に近いとはいえ、推し以外に殺されるつもりはない。
そもそも、僕はアマテラスにも殺されたいとは思っていない。推しの、気に入った少女達の絶望に染まった顔や理不尽に対する怒りを享受したいだけ。二度目の生が続く限り、永遠に。
その為の手段として『アクニンダン』に所属しているが、世界征服はぶっちゃけどうでもいい。
もしも『アクニンダン』が僕の障害として立ちはだかるのならば、僕も本気で――。
――そんなことを考えている内に、ダイヤモンド・ダストを『調整』する為の専用のカプセルの用意ができた。強度だけ見れば、他の『試作品』達が入っているカプセルよりも数倍上だ。
少し前に『ボス』に無茶を言って、手配をしてもらった物だが、世の中何が必要になるか分からないものである。
「もー、暴れないでよ。僕の誘いに一度首を縦に振った君に、今更拒否権があると思う?」
「――! ――!」
「はいはい、聞こえない、聞こえない。……『シャドウ』さん。ダイヤモンド・ダストはそのまま押さえていてくださいね」
「■■」
相変わらずに殺意マシマシで暴れようとしているダイヤモンド・ダストは、『シャドウ』さんに拘束されている。
ダイヤモンド・ダストをカプセルに入れる為に、引き続き『シャドウ』さんに拘束をお願いした。
ノイズが入りまくって、もはや雑音に近かったが「了解」と言ってくれる『シャドウ』さん。そんな彼? に感謝の念を向けつつ、カプセルの蓋を開き、その中にダイヤモンド・ダストを放り込んでもらう。
その際に一瞬だけ拘束が解けてしまうが問題ない。『シャドウ』さんに、意識を刈り取ってもらったので心配する必要なし。
蓋を閉じて、厳重にロックをかけた後。カプセル内を特別な液体で満たす。この液体は、他の『試作品』達を『調整』する為にも用いる、僕の命令に従いやすくなる効果があるものだ。
ちなみに、この液体は僕の魔法『生体改造』の応用で作り出したものである。理屈としては、『素材』を改造するのに必要だからだろうか。多分。
そんな思考を中断してくるかのように、別のカプセル――『第四号』とラベリングされたカプセルから抗議を上げるような声が響いてくる。
「――! ――!」
「あー、君もうるさいなぁ。今は構ってあげられないから、後にしてくれる? 後で、たっぷりと
「――! ――!」
なおも抗議は続くが、それを無視してダイヤモンド・ダストに『調整』を施す為に、下心を一切排して両手をワキワキさせながら、カプセルの操作をしようとした瞬間。
白衣のポケットにしまっていた組織専用の端末が、音を立てて鳴る。
「ん? ……一体誰かな? せっかくのお楽しみの時間だったのに……。うわ、『ボス』から連絡か。えーと、何々……送った報告書について、より詳細なことを聞きたい、至急来るように、と。
拒否権ないじゃん!」
オフの時間帯に上司から、あまり喜ばしくない案件で呼び出される。これは転生をして、世界を跨いでも変わらない真理のようだ。
「……少しばかりだけど、猶予ができて良かったね。ダイヤモンド・ダスト。帰ってきたら、しっかりと『調整』してあげる。
まあ、今は気絶しているから聞こえてないか。じゃあ、『シャドウ』さん。行こう」
「■■」
これから自分がどうなるかも知らずに眠るダイヤモンド・ダストを尻目に、僕は『シャドウ』さんを伴いラボを後にした。
■
「手短に済めば良いんだけど……」
そう呟きながら、とぼとぼと無駄に長い廊下を歩いていく。『ボス』に魔法を与えられたことで、それ以前に比べて身体能力や体力は多少は上昇はしている。
けれど、その魔法が後衛? サポートタイプであるせいか、他の幹部よりも上がり幅は小さい。
具体的に言えば、一般人に毛が生えた程度。そんな体力で、建造的欠陥を抱えるアジトを移動するのは一苦労だ。
前の集会で「エレベーターをつけて欲しい」と提案したのだが、それが実現する様子もない。
(……あれ? そういえば、最後に集会に出たのっていつだったかな? 最近はアジトに来ても、ラボに引きこもって『調整』しかしてなかったような気が? ……まあ、気のせいか!)
「早く用事を済ますとしようか!」
気を切り替えて、僕は再び歩き出した。
■
「はーい。命令通りにやって参りましたよー、『ボス』」
「ようやく来たか、フランよ」
あれから更に時間をかけて、玉座の間にたどり着いた僕。奥で玉座に腰をかけていた軍服姿の少女――『ボス』に声をかける。
「早速で悪いが、今日の件についてお前に聞きたいことがあってな」
「……別に構わないですけど、報告書は既に送ってますよね?」
「ああ、もちろん確認はさせてもらったが、直接聞きたくてな」
そう言う『ボス』は一見普段通りに見えたが、どこか興奮しているように感じられた。基本的に冷徹な性格の彼女の姿しか見たことないが、何かあったのだろうか。
『ボス』の外見も相まって、まるで欲しい玩具を目の前にお預けをされた子供のようだ。
いや、僕や他の幹部達でも『ボス』の本当の年齢を知らないので、強ち間違いではないかもしれないが。
しかし、大体のことは報告書に載せていたはずだが、一体何を聞きたいのだろうか。
『ボス』が気になるようなことで、ぱっと思い浮かぶのは
あれの性能は『ボス』も褒める程の出来だったので、回収が可能かどうかについてと推測する。
それか次の『改造人間』の完成、もしくは僕の『生体改造』がどれだけ成長したのかを確認したい。
この辺りだろうか。
そんなことを考えていると、『ボス』は何かの魔法を発動させて、空中に映像を投影した。その映像は、僕が報告書に添付したもののようだ。
ちょうど、新衣装に身を包んだアマテラスがウィッチを、僕の『生体改造』の支配から解放する場面であった。
(流石は僕の推し! 生で見るのも最高だけど、映像で見てもその輝きに一切の曇りなしっ! あの姿をいつか意のままに汚せると思うと……ぐへへへ)
「……で、本題に入っても大丈夫か?」
「……はっ!? はい! 問題ないですよ」
少々醜態を晒してしまったが、すぐに取り繕ったのでダメージはなし。家に帰ったら、録画した分をもう一度見ることにしよう。
気を取り直して、『ボス』に向き合う。
ん? 『ボス』が聞きたいことって、アマテラスについてということになる。理由は分からないが、何時間でも語ってみせるとしましょう。
手始めに、アマテラスの好きな人のタイプから――。
「そういえば、どうしてアマテラスについて聞きたいんですか? 以前、僕が彼女を話題に挙げた時には興味がなさそうでしたのに。
確かに、この映像でアマテラスが使ってる魔法は特別そうですけど、別に『ボス』だったら自力で同じことができるでしょう? 何か理由でも?」
気がつけば、『ボス』の普段以上に厳しい視線が突き刺さっていた。いつもの乗りでは、最悪の場合殺されかねない。それぐらいには、『ボス』が纏っている雰囲気は、先ほどまでとも異なる。
それほどまでに、アマテラスに『ボス』の興味を惹くものがあったのだろうか。
それを探る為に、軽く尋ねてみた。
「――ああ、そうだな。理由なら、当然ある。あの魔法少女を贄に捧げることができれば、儂の――『アクニンダン』の願いが叶うのだからな。
その前段階である捕獲作戦を計画するにあたって、あの魔法少女に一番詳しいお前に助言をもらいたいというのが理由だ」
よくぞ聞いてくれた、と怖い表情を引っお込めて意気揚々と話し出す『ボス』。それに対して、僕は反射的に抱いた感情を口から吐き出していた。
「――は?」
■
「――は?」
『ボス』は幹部の中でも問題児筆頭のフランからの質問に対して、説明し終わった瞬間。その相手から、苛立ちに満ちた声が聞こえた気がした。
「ん? 何か気に障ることでもあったのか? それとも、無駄にプレッシャーとか出してないよな?」
『ボス』はフランにそう尋ねる。彼女自身も、長年の探し物が見つかり、精神状態が些か普通とは言い難い。そのせいで、無意識の内にフランに余計な圧をかけていたのかもしれない。
確かに『ボス』は世界征服を謳う組織のトップであったり、部下が裏切った場合には落とし前をきちんとつけさせているが、無意味な虐殺が好きな訳ではない。
部下の個人的な趣味を認める程度の度量はある。それが組織の不利益に繋がらないという前提はあるが。
それでも普段の態度や肩書きのせいで、『ボス』は幹部達からも恐ろしい人物と思われている。
実際に、魔法少女に投降したウィッチは裏切り者として別の幹部に処理させたので、その点に関しては間違いではない。
『ボス』は話を続ける前に、確認の為に質問を仕返したのだが、フランは無表情を浮かべていた。
『アクニンダン』のトップとして君臨して、個性派揃いの幹部を勧誘。それ以前の
もしかしたら、自分の聞き間違いではないか。そう『ボス』が考えていると、フランは無表情から一変。先ほどまでのような、砕けた態度に戻る。
「いえいえ、何もありませんよ。『ボス』。ちょっとだけ、『ボス』のテンションの上げように驚いただけです」
「それなら良いのだが……では、例の魔法少女――アマテラスについて、お前が把握している情報を詳しく教えてほしい」
「それぐらいでしたら、全く問題ないですよ。なら、まずは――」
――それから、『ボス』はフランの話の聞き手に徹して、気になることがあれば質問をする。そんな時間を過ごした。
フランから齎された情報は、まさに『ボス』がずっと待ち望んでいたものであった。
「……そうか。アマテラスの新しい魔法の力。自分の死すらも覆す、まさに奇跡の力だな。儂が求めているものに合致する」
「言っておきますけど、確定ではないですよ。あくまでも、今の段階では僕の予想ですし」
「いいや、恐らくお前の考察は正しいだろう。儂の見立てとほぼ一致している。それに、アマテラスがあの力に目覚めたのも、お前の働きが大いに影響したはずだ。感謝するぞ」
「僕は自分の欲望に従っただけですから。褒められるようなことはしていませんよ」
「それでもだ。本当に感謝させてくれ」
「では、用事が済んだようですので、帰らせてもらいますね」
「ああ、今日はゆっくりと休め。後日、他の幹部達と合わせて、計画を通達させてもらう」
「承知しました」
フランは最後に一礼をして、玉座の間から退出していった。
それを見届けた後、映像に映るアマテラスを視界に収めながら『ボス』は独り言を呟く。
「……長かった。これで世界を儂の思うままにできる。その為の生贄になってくれよ? 真の世界平和の為なら、魔法少女であるお前も本望だろう?」
――『ボス』は気づかない。ある人物の地雷を盛大に踏み抜いたことに。
■
『ボス』からの呼び出しが終わり、僕は行きと同じで歩きで自分のラボに向かう。
その間、耳が痛くなる程の静寂の中に、僕の足が床を踏み歩く音だけが響く。
「……」
僕は無言ではあるが、僕の異様な雰囲気に呼応するかのように、足元の影が激しく波打つ。影と同化している『シャドウ』さんが動揺しているのだろう。
『シャドウ』さんには申し訳ないが、この怒りは抑えるので手一杯だ。
僕の地雷――アマテラスに手を出すと言った『ボス』を目の前に、我ながら平静を取り繕えたものだ。
『ボス』がアマテラスを狙う理由が、どうでもいいことで、彼女の身柄を僕が預かれるのであれば、少しの不満はあってもここまで荒れることはなかった。
しかし『ボス』の発言を聞いた所、最終目標の詳細は語ってはくれなかったが、分かっていることは一つある。
それは用途は不明だが、『ボス』はアマテラスの死を計画に組み込んでいる。
そんなものを僕が容認できるはずがない。
だけど、正面から『ボス』に――『アクニンダン』に反抗したとしても、その末路は容易に想像できる。
そもそも僕を含めた幹部達の魔法は、『ボス』が僕らの心臓に直接力を刻むことで覚醒した、言わば『ボス』からの借り物の力なのだ。
ウィッチの時は見せしめを兼ねて僕に始末させていたが、『ボス』がその気になれば一瞬で手も触れずに、力を与えた心臓を媒介に暴発させて幹部達を処理することも可能である。
それを抜きにしても、元々の魔力量や戦闘経験、魔法の強さで負けているのだ。端から、勝負にすらならないだろう。
そんな圧倒的な力関係を覆す手段があるとしたら――。
考えている器に、ラボに着いたらしい。扉を開けて中に入り、念の為に盗聴や監視をされていないことを確認する。
(……この手段はアマテラスの為に取って置きたかったな。まあ、このままだとそれすらも危うい状況だし、仕方がないか)
足元に向かって、一言。
「『シャドウ』さん。一つお願いがあるので、実体化してもらっても良いですか?」
「■■」
二メートル程の巨体な人型をとってもらい、そのお願いの内容を告げる。
「――じゃあ、僕の心臓を抉ってください。できるだけ、傷つけないような感じで」