TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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第十七話 下剋上

 

 

 フランからアマテラスの情報を得た後、『ボス』は一人でその他の作業と並行しつつ、アマテラスの捕獲作戦を練っていた。

 

 

 『アクニンダン』が――『ボス』の最終目標を達成する為には、どうしてもアマテラスの存在が必要不可欠になる。一回でも作戦が失敗すれば、彼女の特異性や有用性が『魔法庁』の上層部に露見して、身柄の確保が困難になる可能性が大いにある。

 

 

(いや、魔法少女を都合の良い兵器の類だと思っている、あの連中のことだ。既にアマテラスがただの魔法少女ではないことに……死者すらを蘇らせる力があることに気づいているかもしれん。

 フランの『生体改造』の支配下にあった死人のウィッチを、ただの人間に戻す場面は見られている。確実に、感づいているはずだ。一刻も早く、計画を実行に映さねば――!)

 

 

 少しばかり考えごとに耽っていた『ボス』は、些細な――大きな異変を感知する。

 

 

 幹部達の魔法は、『ボス』が与えたものであり、彼女達が裏切ることを抑止する為の首輪でもある。その副次的な効果として、幹部達の状態を大雑把にリアルタイムに把握することもできる。

 

 

 『ボス』の感覚が、幹部の一人が致命傷を負ったことを認識した。

 場所は一体どこであるのか。即死か、そうではないか。他の幹部達は無事なのか。

 

 

 僅か数秒にも満たない一瞬で、『ボス』の思考は回転し、大まかな状況を把握した。

 

 

(……反応場所はアジトの中だと? 舐められたものだな、儂も。……襲撃対象はフランか。アマテラスを別にしても、あいつの魔法も強力だからな。それに加えて、当の本人の戦闘能力は皆無。あいつ程に、狙い易い者もいないだろう。

 ……どうやって侵入したかは、侵入者に直接聞くとしよう。儂の所有物に手を出した報いは、きちんと受けてもらわないとな)

 

 

 そう結論づけた『ボス』は玉座から立ち上がり、アジト内限定の転移の魔法を発動させる。

 

 

 『ボス』の視界は一瞬にして切り替わり、その隙を突かれないように辺りを見渡す。

 場所は転移する前に把握していた、フランの専用部屋(ラボ)。『ボス』の桁違いな五感が感知した存在は、自分自身に、フランの趣味――魔法の実験の犠牲者達。

 そして、部屋の主であるフランであった。彼女は余程大きな傷を受けたのか、辺りの床一面が赤く染まる程に出血していた。

 それでも即死していないのは、『ボス』が与えた魔法の力のお陰だろうか。

 

 

(……襲撃者の姿はない。逃げたのか? いや、フランの身柄が目的であるのなら、まだ近くに潜んでいる可能性もある。油断はできないな。

 流石に、『調整』途中の実験体が暴走して離反した、なんてつまらないオチではないよな?)

 

 

 そこまで考えて、自らに突き刺さる殺意の籠もった視線を考えれば、強ちその可能性は否定できない『ボス』。

 間接的に彼らの人生を奪った『ボス』で、これだけの憎悪がぶつけられているのだ。当の本人であるフランであるなら、一回殺したぐらいではその憎悪が晴れることはないだろう。

 

 

 ラボ内のカプセルに異変がない時点で、その線はないと『ボス』は判断したが。

 

 

 瞬時に状況の整理が終えた『ボス』は、すぐにフランに駆け寄る。力を刻み込んだ心臓が無事であるのなら、死んでいない限り幹部を五体満足にして復活できる。

 

 

「おい、大丈夫か。フランよ。今、回復してやる――っ!?」

 

 

 フランの心臓に魔力を注ぎ込もうとした『ボス』の手が止まる。フランの胸に大きな穴が空いていた。心臓が抉り取られていたのだ。

 流石の『ボス』も、一瞬だけではあるが気が動転してしまう。

 

 

 これでは、フランを回復させることができない。つまりは彼女の魔法が、『アクニンダン』の戦力が大きく減少することを意味する。

 全面的ではないとはいえ、何れはフランが造る『改造人間』を戦力として完全に当てにしていたのだが。

 悲願を目の前にして、このような状況は許容できない。

 そんな焦りが、『ボス』の中で駆け巡る。

 

 

 延命目的として、しばらく使うことのなかった回復魔法をフランに施しながら、彼女の心臓の在り処を探ろうと意識を集中しようとした瞬間。『ボス』は無視できない違和感を抱いた。

 

 

 フランの戦闘能力が皆無なことは、『アクニンダン』では周知の事実で、『魔法庁』側もこの事実は知っている前提で、フランは普段から護衛として『改造人間』第三号――通称『シャドウ』を影に潜ませていたはず。

 

 

 『シャドウ』と呼ばれる個体の強さは『ボス』も褒める程であり、それを『ボス』が駆けつけるよりも先に倒して、フランの心臓を抉り出す時間など、ほぼ無いに等しい。

 『シャドウ』が暴走したのだろうか。いや、他の個体ならあり得たかもしれないが、『シャドウ』に限ってはないと『ボス』にも断言できた。

 

 

 ――では、この惨劇の下手人は一体誰が?

 

 

(――まさか)

 

 

 ――どすっ。

 

 

「――油断大敵ですよ? 『ボス』」

 

 

 

 

「くっ……!? フラン……! お前、裏切ったのか!?」

「正解です。……でも、『ボス』が悪いんですよ? 先に僕の地雷に触れたのは、『ボス』ですから」

 

 

 そう言いながら、僕は立ち上がり足元で痛みにうめく『ボス』の質問に答える。

 

 

「……地雷? 一体何のことだ? まさか、アマテラスのことか?」

「逆に何かあると思いますか? アマテラスは僕が先に見つけた獲物で、理想通りの魔法少女です。いくら『ボス』でも、彼女に手を出すのは許可できません」

「そんなことで……!」

「そんなこととは、酷いですよ。『ボス』にだって、譲れないものの一つはあるでしょうに。それが僕にとっては、アマテラスだった。ただ、それだけのことです」

 

 

 先ほどは言えなかった本音を『ボス』にぶつけるが、まだ油断はできない。僕が自傷したとは思わずに、回復させようと近づいてきた瞬間を狙って、僕の肉体に同化させていた『シャドウ』さんに不意打ちを仕掛けてもらい無事に成功。

 けれど、流石は『ボス』。全然致命傷にはほど遠そうだ。『シャドウ』さんに拘束してもらっていなかったら、僕の首は今頃地面に転がっていただろう。

 

 

「……何故、心臓がないのにお前は生きて――! もしかして、お前。魔法によって、自分の肉体に手を加えたな?」

「またまた大正解です。『ボス』の手が入った心臓がある限り、勝負の土台にも登れませんからね。心臓を引っこ抜いても、生きられるように頑丈な魔物の細胞をブレンドしたものを突っ込みました。

 本当はアマテラスとの戦いでお披露目したかったんですけど、背に腹は代えられないですから。

 せっかくですので、僕の新しい名乗りを聞きます?」

「正気ではないな……! その考え方も、やり方も……! そんなものに儂が興味あると思うか?」

「……まさか、悪の組織のトップやっている人に正気を疑われるとは、僕も予想していなかったです」

 

 

 そう会話しながらも、『シャドウ』さんには分体を『ボス』の肌から注射する形で体内に放ってもらう。物理的なダメージだけでの無力化は現実的ではない。

 内側から肉体の支配権を奪うことで、より確実な勝利を狙う。

 

 

「――これは。ちっ! 今までの会話は時間稼ぎか。儂の体内に『改造人間』の分体を産みつけるとは、つくづく趣味が悪いな、お前は……!」

「褒め言葉と受け取っておきます。『ボス』がやりたかったことは分かりませんが、『アクニンダン』のことは心配しなくて良いですよ」

「お前、もしや――」

「――じゃあ、おやすみなさい。貴女が残してくれた組織も、貴女の肉体も有効に使ってあげますから」

 

 

 

 

「ふう……ようやく一息が吐けそうかな? 大活躍でしたね、『シャドウ』さん」

「■■」

 

 

 不意打ちをした上で、『シャドウ』さんの分体による支配。これだけやっても、完全に安心できない所が厄介だ。

 恒常的に『ボス』の自由を奪うとなると、『シャドウ』さんにはずっと張り付いてもらう必要がある。もう護衛を頼むことができない。

 

 

 まあ突貫工事とはいえ、複数の魔物の細胞を取り入れた僕の肉体は、以前までの戦闘能力が皆無という弱点を克服した。

 心臓は既に元に戻しているので、これまで通りに『生体改造』も使える。

 これで隙はなくなった。

 

 

「……よし、休憩はほどほどにしておかないとね。やるべきことは多いから。ダイヤモンド・ダストの『調整』と平行して、『ボス』の方も『調整』しとかないと。

 それに、他の幹部達への対応を考えておく必要があるなぁ……。実力行使で黙らせるにしても、『シャドウ』さんは戦力に数えられないし。

 やっぱり、あそこでウィッチを失ったのは判断を間違えたかな? いや、あの時の状況で仕掛けても、アマテラスに倒されてただろうし、問題はなかった。うん」

 

 

 自分を納得させる為だけの独り言は終わった。

 

 

「――じゃあ、始めようか。『アクニンダン』の新しいボスとしての仕事を」

 

 

 ――私ことアマテラスは、あの騒動から身動きができない状態にある。ちなみに、あの騒動とはウィッチ――じゃなくて、『アクニンダン』に洗脳されたアリサちゃんが街で暴れていた事件のことだ。

 

 

 あの時に、アリサちゃんの体を操っていた魔法を斬った(・・・)。それを直接やった本人の私でもよく分かっていないが、そうとしか表現できない現象であった。

 

 

 それでも新しく目覚めた――私のそっくりさんがくれた力は、それほどまでに規格外の力であることは理解できた。

 

 

 アリサちゃんの暴走を止めて、彼女を休ませていると十分も経たない内に、『魔法庁』から応援の魔法少女達がやって来たのだが、それからの対応は私の今までの人生の中で一番疲れる出来事だった。

 

 

 私がアリサちゃんを抱えていたせいで、応援の魔法少女達に武器を向けられて囲まれてしまい、おかしな素振りを一瞬でも見せたら即座に攻撃される。そんな緊迫とした雰囲気を、彼女達は纏っていた。

 

 

 「アリサちゃんは、もう大丈夫」という旨の主張をしても、私の言葉は彼女達には聞き入れらず、戦闘が勃発する直前に。

 私が所属する支部のトップである若林さんや、アリサちゃんの攻撃から私が庇った魔法少女達の証言があり、何とか私の身元とアリサちゃんの保護が約束された。

 と言っても、私とアリサちゃんは魔法の使用を制限する腕輪が嵌められた上に、別々に複数の魔法少女達に囲まれながら連行された。

 

 

 事前に把握していたのか、アリサちゃんとの関係については聞かれることはなかったが、私が見せた魔法の力。それに関しては、何度も話すように言われた。

 しかし、直感的に語るべきではない。何故か、私はそう思った。

 

 

 だから、私の事情聴取を担当した『魔法庁』の職員や魔法少女達には、あの魔法のことは「気がついたら、使えるようになった」という説明を繰り返した。

 一回だけ、若林さんが事情聴取に来てくれたけど、どこから話が洩れるか分からないので、あの人にも詳しい話はできなかった。

 若林さんはそれで納得してくれたが、最後に「君は厄介事を度々持って帰ってくるな……」と呆れられてしまい、苦笑することしかなかった。

 

 

 そして、現在も『魔法庁』の本部にある狭い部屋に押し込まれて、決まった時間になれば別室で取り調べを受ける。そんな日々を送っていた。

 

 

(今の私の扱いって、何だか悪いことをした人みたいだな……)

 

 

 もちろん私は小さいことは別にして、悪事に手を染めたことは一度もない。

 いや、無視するには大き過ぎる罪が一つある。それは、妹が魔物に襲われて命を落としてから、家族と向き合おうとしなかったことだ。

 そのせいで、『魔法庁』から両親に何かしらの連絡は行っていると思うが、両親は今のように数日不在であっても会いに来ることはない。

 

 

 その事実に悲しいと思う半面、それは自分も両親と関わることを避けたことに対する自業自得と納得している。

 それに、両親に向き合おうとする為の――前に踏み出す為の勇気は既にもらっている。

 

 

 今の私にできること、やらなければならないこと。それらを整理した上で、動くべきタイミングを見計らう必要がある。

 

 

 そう考えをまとめていると、所定の時間になったのか、私の個室の扉をノックする音が聞こえた。また取り調べで同じやり取りをすることを思うと、少しばかり辟易してしまう。

 

 

 そんな私の気持ちを知ってか、知らずか。私に冷たい視線を向けてくる魔法少女が一人、部屋に入ってきた。

 

 

「時間よ、私の後についてきなさい。アマテラス」

「はい、分かりました」

 

 

 その魔法少女の指示に、反抗することなく素直に従う私。どちらにせよ、魔法が使えないせいで、何もできないのだが。

 

 

 いつもの取り調べ室に連行されると思っていたが、これまで見たことのない通路を辿って、地下にある一室に通された。

 異様な空気を感じ取り、私は案内役の魔法少女に問いかける。

 

 

「……あの、ここは?」

「……本来だったら、答える義務はないんだけど、特別に答えてあげます。私達が所属する『魔法庁』を取りまとめる方々がいる部屋になります。

 その方々が、貴女に直接会いたいということで。貴女が正直(・・)に話すことを期待しています」

 

 

 ――背後で、扉の閉まる音がした。

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