TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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アマテラス視点を追加しました。


第三話 僕の狂気/彼女は正気?

 

 

 『ボス』への報告を終えた僕は、アジトに設けられた自室へと向かって移動していた。

 『アクニンダン』に所属している幹部は、僕を含めて七人存在していて、彼らにはそれぞれ個室が用意されている。

 

 

 しかもその幹部用の個室なのだが、『ボス』の意向により各個人で好き勝手に改装して良いというのだ。

 少なくとも僕を『アクニンダン』に勧誘してきた幹部の部屋を見させてもらったことがあるが、彼女の部屋はそこまで印象的なものではなかった。

 悪の組織の幹部と言っても、全員が頭のネジが外れたような性格の持ち主ではないらしい。

 

 

 白衣の長い裾を踏まないように注意を払いつつ、歩き慣れた廊下を進んで行く。誰にもすれ違うことなくしばらく歩いて所で、僕の個室へと到着した。

 と言うか、この組織は世間一般的な悪の組織にいるような替えの効く量産型戦力に当たる存在――戦闘員なる者はいないので、まず全員が集まることない幹部や『ボス』を除けば、アジト内ですれ違う相手がいないのも当然である。

 

 

 そのせいで魔法少女との戦闘で専ら使われるのは、捕獲して調教を施した魔物だ。それにも数に限りがあるので、世界征服謳っている『アクニンダン』だが、思っているよりも活動回数は少なかったりする。

 基本的に一週間に一度、幹部が適当な数の魔物を引き連れて行く程度に過ぎない。

 これでは本当に、特撮番組に登場する悪の組織のようだ。

 

 

 そんなことを考えながら白衣のポケットから取り出した一枚のカードをかざして、部屋にかけられたロックを解除する。こういう自分専用のカードキーで出入りできる個室にも憧れていたので、『アクニンダン』に入れて嬉しい些細な理由の一つだ。

 

 

 扉が開閉する音を聞きながら、僕は自身の個室へと足を踏み入れる。そんな僕を迎え入れてくれる無数の視線。

 その視線の持ち主達に、僕は片手を上げて気安く声をかける。

 

 

「やあ! 元気にしているかな?」

 

 

 砕けた僕の態度とは真反対に、視線の持ち主達の大半は僕に対して殺意を込めたものを向けてくる。

 彼らが僕に友好的な反応を送ってくれたことは、『最終調整』が終わった個体以外存在しないので、この反応も慣れたものだ。

 

 

 前述の通り、我が組織『アクニンダン』の消耗戦力は『ボス』や古参の幹部による調教を施された魔物だけ――だった。

 そうつい最近までは。

 

 

 僕が『アクニンダン』に加入後、『ボス』によって魔法の力を与えてもらい、将来的にその力が『アクニンダン』の戦力の底上げを可能にすると期待されている。

 

 

 ――『生体改造』。それが僕が『ボス』によって引き出された魔法である。

 効果としては単純で、人間や魔物を問わずに、生物であれば強制的に合体させて、一つの生命体――『改造人間』に作り変えるという倫理的にアウトなものだ。

 

 

 『ボス』曰く、魔法とは各個人の深層意識の奥底にある願望を具現化したものらしい。

 つまりこの『生体改造』は、僕の願望と呼ぶもおこがましい狂気が形になったもののようだ。

 

 

 さっきの『ボス』との会話で再認識した、前世の今際の際に抱いた僕の願いは、正義のヒロインを絶望に堕とした後で、悪の組織の尖兵に『改造』したいというもの。

 改めて考えてみれば、この『生体改造』は僕の心の在り方を良く表していた。

 

 

 そして今僕の個室――どこぞの怪しい研究所の一室のような部屋にいる無数の視線の持ち主の正体は、『生体改造』の被験者達である。

 最高傑作の『改造人間』を作りたく、素材の組み合わせを変えたりと色々試している内に、僕の眼鏡に適う魔法少女――アマテラスを見つけることができた。

 

 

 今後の僕の方針としては、アマテラスの心を良い感じにへし折り、このアジトに連れて帰り『改造』することだ。

 しかしその為には、まだまだ『生体改造』の練度も足りておらず、アマテラスの成長具合が途上であることを考慮すると、時期尚早である。

 

 

 ちなみに『改造人間』の試作品達だが、今までに実戦に運用したのは二度だけであり、何れも甚大な被害を出しつつも、魔法少女達に撃破されている。

 試作品と言っても自信作であっただけに、残念な気持ちは大きい。

 

 

 それでも『ボス』からはお褒めの言葉をもらっていて、僕に対する他の幹部達の心象も二体の試作品の活躍ぶりを知ると、加入初期に比べるとだいぶん改善された。

 何分直接的な戦闘能力に直結するような魔法ではなかった為、『ボス』や僕を勧誘してくれた幹部の少女はともかく、他の幹部達からの視線はとても冷たいものであった。

 まあ僕を取り巻く状況は良くなったので、次の出動までは『生体改造』の練度を高めるとしよう。

 

 

 そう思いつつ、僕は一番近くにあった培養液に満たされた特殊加工されたケースに近づく。その中で浮かんでいる『何か』は、他の試作品と同様に今にも僕を殺したいと言わんばかりの殺意を向けてくる。

 その『何か』に対して、僕は笑顔を浮かべて楽しそうに語りかける。

 

 

「……そう遠くない内に、お友達を連れて来て上げるから。機嫌を良くしてほしいなぁ」

「――――!」

「うんうん。可愛くて、正義感の強い子だったから、良い仕上がりになると思うよ? 順当に行けば、君の妹になるんだ。君も嬉しいだろう?」

「――――! ――――!?」

 

 

 僕の言葉に『何か』は怒ったように声らしきものを上げているが、残念ながら培養液内に気泡が発生するだけで意味を成す言葉にはならない。

 つまりは僕が一方的に『何か』に対して話しかけているだけで、この行為はただの自己満足を満たすだけのもの。

 

 

「じゃあね。また来るから。あんまり帰るのが遅くなると、両親が心配するからね」

「――――!」

 

 

 再会の意を込めた言葉を送り、僕は自室を後にした。部屋の扉が完全に閉まるまで、『何か』は喋ろうとしていたがその意味が僕に届くことはなかった。

 

 

「さて、帰ったらあの子について調べてみますか。『魔法庁』の公式サイトなら、少しぐらい情報が出てるはずだからねー」

 

 

 アジト内に反響するのは、そんな僕の独り言と足音だけだった。

 

 

 

 

『――次のニュースです。本日午後四時頃、■■県■■市に、『アクニンダン』の幹部と思わしき人物が、複数の魔物を率いて出現しました。

 

 

 その数十分後に通報を受けて、駆けつけた魔法少女によって魔物の群れは全滅。『アクニンダン』の構成員は撤退した模様です。

 新たに『魔法庁』が公開した情報によりますと、今回出現した『アクニンダン』の幹部は『フラン』のようです。

 

 

 そして今回の騒動による被害者数は――』

 

 

 

 

「――これだけの一般人を虐殺した人間が、本当に助けを求めていると? 彼女は君にそう言ったのかね?」

 

 

 私――アマテラスは先日の『アクニンダン』との戦闘での報告を、最寄りの『魔法庁』の支部で行っていた。

 

 

 職員に通された部屋で待機すること、約十分間経過した後。入室してきたのは、二人の人物であった。

 一人は眼鏡をかけた真面目そうな若い男性に、もう一人は両腕で書類が入ったファイルを数枚抱えた、男性と同じくらいの女性だった。

 

 

 初めて顔を合わせる面々に、私は先日の一件――『アクニンダン』のとの戦闘についての報告を行い、椅子に腰かけている男性――『魔法庁』のお偉いさんらしい若林と名乗った方――が、先の発言をされる。

 若林が示す方向には、部屋に備え付けられた液晶画面があり、それには今話していることに関連したニュースが映し出されていた。

 

 

 魔物に容赦なく命を奪われた犠牲者の遺体の数々。私の決死の攻撃魔法により激しく融解してしまった無数の建築物。

 それらが女性のニュースキャスターの淡々とした言葉とともに画面上で移り変わる中、次に映った『彼女』の姿に自然と視線が釘付けになってしまう。

 『アクニンダン』の幹部、フランである。

 

 

 映像の様子から見るに、私が現場に到着するより以前に防犯カメラが撮影したものだろう。

 その映像のフランは、私との戦闘の最中に見せた何かを求めるような表情ではなく、心底疲れたような――あるいはこの世の全てに絶望した人間特有の表情が浮かんでいた。

 

 

 そんなフランの顔を見て、私は再度確信する。私を見た時の彼女は、確かに救いを求める目をしていたと。

 だから、私は自信を持って若林の問いに答えた。

 

 

「――はい。彼女の目を直接見て、私はそう思いました。あの子は心の底から望んで、組織にいるのではないと」

 

 

 確かに多くの人がさっきのニュース見ただけだったたり、『アクニンダン』の幹部という先入観を持っていれば、フランが被害者側の人間には見えないだろう。

 私の返答に、若林はより眉間に皺を寄せる。

 

 

「……そうか。君はそう思うのか」

 

 

 絞り出すような、か細い声であった。若林の顔に浮かぶ表情からは、私の返答に対する怒りではなく、後悔の念に近いものが感じ取れた。

 そんな私達のやり取りに、秘書のような格好の女性――米山と自己紹介された――は口を挟むことなく、静観していた。

 

 

 部屋の中が、気不味い雰囲気に包まれる。やがてそれを打ち破るように、若林は口を開く。

 

 

「……今日はこのぐらいでいい。報告感謝する。まだ戦闘の疲労が残っているだろう。家に帰って、しっかりと休んでくれ。彼女の――幹部であるフランの対応については、他の上層部と話し合ってみる」

「――! あ、ありがとうございます!」

 

 

 先ほどまでとは正反対の言葉に、反射的に頭を下げて礼を告げる。突然に感謝された側である若林は驚いた顔を一瞬するが、その後にはいつもの厳しい表情に戻っていた。

 その際に彼の表情が少し柔らかいものに感じられたのは、気のせいではなかっただろう。

 

 

 これで上手く事が運べば、私個人ではなく『魔法庁』という組織単位で、『アクニンダン』の良いように使われているフランの救出に臨むことができる。

 一歩ずつだが、確実に望む未来に近づいている。そう確信があった。

 

 

 

 

「失礼しました!」

 

 

 報告の時とは打って変わった明るい様子で、ピンク色のドレス姿の魔法少女――アマテラスは退出していった。

 

 

 ばたん、と音を立てて扉が閉じられた後、室内には再び静寂が満ちる。アマテラスが退出して彼女の足音が遠ざかった所で、今まで沈黙を保っていた米山が話しかけてくる。

 

 

「……若林さん。先ほどアマテラスと話していた件についてですが、本当に上に報告するのですか?」

「……しない訳にはいかないだろう。新人とはいえ、アマテラス君の人柄はこの支部で働いている君の耳にも入っているはずだ。その彼女が直接見て、あそこまでの態度で私に言ってきたのだ。一考の価値はある」

「確かに……そうです。しかしあの少女――『アクニンダン』の幹部であるはずのフランが、実際に救助対象であった場合、彼女が原因で齎された被害については一体どうするのですか?」

 

 

 米山の疑問はもっともである。ここ一ヶ月程で新たに加入したと思われる『アクニンダン』の幹部、フラン。

 今回を含めて三回の出現が確認されているが、とてもあの見た目の少女が出したとは思えない程に、莫大な被害を社会に与えていた。

 

 

 先日の戦闘では、他の幹部と同様に調教済みの魔物を手勢として街を襲撃しに来ていた。それでも一般人の犠牲者数は少なくなかったが、過去の二回は今回の比ではない。

 

 

 その時にフランと共に姿を現したのは、複数の魔物ではなく、一体の異形。

 魔物自体が既存の生態系に属する生物から外れてはいるが、『魔王』と呼称された十三体の例外を除き、まだ人類の理解が及ぶ存在ではある。

 しかしフランの指示に従い、野良の魔物や一般人、魔法少女の区別なく殺害を行った異形は、『魔王』の再来かと言われる程の強さだった。――流石にそれは過大評価であるが。

 

 

 それが二回。どの個体も強力ではあったが、高位の魔法少女達の連携があり見事にその異形は討伐済みである。

 けれど被害の規模がどれも単独にしては大き過ぎて、フランは『アクニンダン』の幹部勢の中で上から数えた方が早い程度に警戒されている。

 

 

 そんな危険人物が実は洗脳なり人質なりの手段で、無理矢理活動させられているのであれば、話は大いに変わってくる。

 『魔法庁』としてはフランも救助対象になるだろうが、世間にはどう捉えるか。間違いなく批判は免れない。

 内密に保護する方針を取ったとしても、『アクニンダン』側の抵抗も凄まじいものになるはずだ。 

 

 

 だが、一番の問題はそこではない。ある意味身内が最大の敵となる可能性があるからだ。

 その理由は、フランが連れていた二体の異形の存在である。その二体の異形は、記録に残っている彼女自身の言葉を信じるのであれば、彼女の魔法によって産み落とされているらしい。

 

 

 幸いその強さに反して量産がきくような代物ではないが、一個人であれだけ強力な兵士を創造できるのは破格の性能だ。

 時間をかければ、異形の軍隊を組織することも不可能ではないというのが、『魔法庁』の見解である。

 

 

 そんな敵にいたら一番厄介な存在が、もしかしたら自分達の味方になる可能性があるとしたら? 

 

 

 フランの魔法の特異性もあり、救助されたとしても『魔法庁』の上層部に、換えのきく兵士を産み出す装置として利用されるのが関の山だろう。

 

 

 しかしアマテラスにああ言った手前、上層部には何かしらの報告は行う必要がある。

 

 

「はあ……難儀なものだな」

 

 

 若林は額に手を当て、大きくため息を吐いた。

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