TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい   作:廃棄工場長

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フラン視点を追加しました。


第六話 望まぬ再会/再会を誓う言葉

 

 

 何かしらの要因によりダウンしていた電気系統のシステムが、一部復旧した。非常用の照明が点き、世界に色が戻る。

 

 

「大丈夫か!?」

「は、はい……! 私は大丈夫です!」

「……アマテラス君。支部長としての命令だ。いつでも戦闘行動に移れるようにしてくれ」

「了解しました! ……あっ!? アリサちゃんは!?」

 

 

 

 名前から想像できないような、ピンク色のドレス姿の魔法少女――アマテラスは、上司であり彼女が所属する『魔法庁』の支部を治める若林の指示に従い、動揺しながらも己の武器であるステッキを構える。

 しかし混乱した思考は、すぐに一人の人物の心配に至る。これはアマテラスの元来の性分が善性であるからだろう。

 人間の本音は窮地に陥った時に出るという話だが、この状況下で他者のことを咄嗟に慮れる彼女は、魔法少女になるべくなった人間に違いない。

 

 

 そんな場違いな考えを抱きつつも、若林もアマテラスが言った人物について思考を巡らす。

 その人物の名前はアリサ――またの名を『アクニンダン』の幹部であるウィッチ。

 アマテラスからの呼びかけによって投降し、一時的に若林の支部で身柄を拘束して事情聴取を受けていた。

 若林やアリサの取り調べを中心となって担当していたアマテラスは、アリサが危険人物には思えなかった。

 

 

 もちろん『アクニンダン』であった事実は変わらず、その行動は今後も私生活の細部に渡るまで厳重な監視下に置かれることになるだろう。

 しかし時間が経ち、事情聴取の報告や本人の態度、若林の推薦があれば条件付きで魔法少女としての活動も不可能ではないと、若林は考えていた。

 しばらくは不便をかけてしまうが、アリサは『魔法庁』の支部であるここで過ごしてもらうことになる。

 その上『アクニンダン』によるアリサの奪還を警戒しないといけない。

 

 

 若林はそう考えていた。そして今の停電騒ぎが単なる設備の不調ではなく、第三者によるものである可能性が高いと結論に至る。

 

 

(――もしかして『アクニンダン』による襲撃か!?)

 

 

 アリサの身柄が置かれている部屋。その部屋の様子は、今若林達がいる場所からマジックミラーで確認できる。

 若林は隣にいたアマテラスに声をかけ、自身もアリサがいる部屋に視線を向けようとした。

 

 

「アマテラス君!? アリサ君の様子は――」

 

 

 

 若林の指示の言葉よりも早く、アマテラスの体は駆け出していた。瞬間、魔法少女としての常人とはかけ離れた力により、マジックミラーが粉砕される。

 それほどまでに自分が助け出した少女の安否が気になるのか。一瞬だけ若林の視界の端に留まったアマテラスの顔はいつになく真剣な――鬼気迫る表情であった。

 

 

 若林の逸れていた視線が、今度こそ割れたマジックミラーの先を見ようとする。その先に広がっていたのは、成人男性である若林であっても、思わず吐き気を催してしまう光景だった。

 

 

 壁や床一面には、血や黄色と白色が混じった泥々した液体が飛び散っている。その中心部には、司令塔を失った華奢な体が床に倒れ込んでいた。

 麻痺した思考で、その体の持ち主の正体に至る。僅かに血に染まっていない服装や体格から、ソレがアリサと呼ばれていた少女であることが理解できてしまう。

 

 

 『アクニンダン』の幹部であったとしても、アリサは首領の『ボス』に無理矢理勧誘されたと言う。それが事実だとすれば、他の幹部達も同様の可能性が発生する。

 さらなる離反を防ぐ為に、アリサの命が奪われたのかもしれない。少数で数多の魔法少女を抱える『魔法庁』とやり合っている組織のトップだ。

 『魔法庁』関連の施設の内部であっても、裏切った部下の一人を始末するぐらい手段などいくらでもあるのだろう。

 

 

 しかし、その手段が問題だ。遠隔で殺害したのか、それとも刺客を放ったのか。

 その疑問の答えは、すぐに判明した。

 

 

 頭部を失った死体の傍で、対峙する二人の少女。

 その一人はアマテラスである。彼女はさっきまでの鬼気迫るものではなく、目の前の光景を信じられないと表情が物語っていた。

 それは自分が助け出し、共に戦おうと誓った少女が無惨に殺されたのだ。いくら常人では及びつかない力を振るえると言っても、まだ未成年に過ぎない少女の精神ではその事実を上手く受け止め切れないのだろう。

 そのような表情になるのも仕方がない。

 だが、アマテラスがそんな表情をするに至ったのは、それだけが理由ではないことを若林は遅れて理解した。

 

 

 アマテラスと向かい合う、もう一人の少女。同じくらいの年齢と思わしき、体のサイズに合っていない白衣を羽織り眼鏡をかけている少女――『アクニンダン』の幹部、フランであった。

 

 

(やはり『アクニンダン』を裏切ったアリサ君を始末しにきたのか……!? しかし、ここは『魔法庁』の支部の地下だぞ!? 一体どこから侵入を? 今はそれよりもフランの無力化、撃退をしなければ……!)

 

 

「アマテラス君! 他の魔法少女達が応援に来るまで、何とか持ち堪えるんだ! ……アマテラス君?」

 

 

 若林の言葉が届いた様子は見られなく、アマテラスは呆然と立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 

 ――信じたくなかった。

 

 

 私をお姉さんと呼んで慕ってくれた少女。彼女と知り合い、触れ合った時間は数日にも満たない。

 『アクニンダン』の首領に無理矢理働かされていた彼女が悪事に手を染める前に、救い出せたことはここ最近で一番嬉しかった。

 

 

 彼女を救えたことで、他の幹部の子達も救える可能性が出てきた。私に無言ながらも、助けを求めてきた一人の少女。フラン。彼女もあんな人殺し集団から解放できる希望が見えてきたのだ。嬉しくないはずがない。

 

 

 それだけではなく、若林さんは『魔法庁』のお偉いさんにかけ合ってくれて、アリサちゃんの保護や魔法少女として活動できるように話をつけてくれるらしい。

 

 

 アリサちゃんに、フラン。その他の幹部の子達。

 彼女達と一緒に手を取り合い、諸悪の根源たる『アクニンダン』の首領をとっちめる。

 徒に街中に被害を齎す魔物の駆除も頑張る。

 そうして努力を続けていれば、きっといつかは魔物を完全に駆逐する手段を見つかるはず。

 それで世界は平和に。めでたし、めでたし。

 

 

 私が思い描いていた、理想としていた魔法少女の姿そのものである。

 あの日、私が目指した魔法少女の隣に立てるような人物になるべく、その第一歩としてアリサちゃんと絆を深めていきたい。

 だって、そうする方が正義の魔法少女らしいよね?

 

 

 ――信じたくなかった。

 

 

 私に心を開いてくれて、共に戦おうと誓ってくれた少女は、アリサちゃんは。

 赤い、紅い、液体でその華奢な体を染めて。

 私よりも短い生涯を閉じてしまっていた。

 

 

「アリサちゃん――!?」

 

 

 少女の名前を大きく、ほぼ悲鳴に近い声で叫ぶ。

 何故、何故、こんなことに。

 

 

 ついさっきまで一緒に話していた相手が死んでしまった。

 それだけでも、精神的にきついのに。

 

 

 この場にはいてほしくない、絶対に助けたいと誓った少女がそこにはいた。

 彼女は前に見た時と同じように、いやその時よりも一層絶望に淀んだ瞳で私を射抜いてきた。

 

 

 お前なんかは、魔法少女に相応しくない。

 少女の瞳はどんなに饒舌な口よりも、雄弁に、明確にその事実を私に突きつけていた。

 

 

 

 

 ――アマテラス。ここ最近活動を開始したばかりの新人魔法少女。名前にそぐわないピンク色を基調としたフリフリの多いドレスを何の違和感なく着こなす。

 まだまだ未熟な面がありながらも、先輩や同期、後輩といった垣根を越えて協力し、魔物と『アクニンダン』と対峙する彼女は、理想的な魔法少女像を体現しているのが専らの評価。

 新人ではあるが、テレビ番組で放送される彼女の勇姿や、インタビュー等で見せる屈託のない純粋な笑みに脳を焼かれる人が老若男女に発生。

 ネットでも専用スレが立てられるぐらいの人気ぶりだ。

 

 

 使用魔法も、派手さが受ける魔法少女にはうってつけの炎属性であり、その火力は成り立てと思えない域にある。真偽は不明であるが、単身で『アクニンダン』の幹部と相対した時は、幹部が率いていた魔物の群れを無傷で(・・・)壊滅させたという情報が出回っているらしい。

 この件に関して、本人はインタビュー等で質問されても否定もせず曖昧に笑うのみで、『魔法庁』に関してはノーコメント。

 とりあえず事実はどうあれ、アマテラスの炎属性を操る魔法は強力であるというのが、世間一般の認識のようだ。

 

 

 これらの情報は、僕が幹部としての仕事がない合間にインターネットで調べたものだ。当然そこら辺の一般人でも得られる程度の情報でしかないが、好きな女の子――推しの魔法少女のことであれば、どんな些細なものでもウェルカムである。

 

 

 『ボス』に『改造人間』の材料を集めることを控えるように言われ、裏切り者の始末を命令されて、当分は直接会う機会がないだろう。

 面倒くさ――『ボス』から任せられた重要任務を果たした後、僕と『シャドウ』さんのコンビによる『魔法庁』の施設からの脱走劇が繰り広げられようとしていた時。

 『ボス』の転移もどきの余波で、機能停止していた施設の電気系統のシステムが一部回復して、非常用の照明が灯される。

 

 

 足元や壁一面に飛び散っている血とは異なる赤色で視界が満たされる中、眩しさで目を細めていると、その先には一人の少女がいた。

 

 

 ピンク色のドレス姿。それと同色のステッキ。

 こうやって直接対峙するのは二度目でしないが、推しの魔法少女を見間違えるはずがない。

 

 

「あはは! 怠いだけの任務だと思ってたけど、良いこともあるもんだ。偶には『ボス』のお使いも悪くないね。

 ――会いたかったよぉ、アマテラス」

 

 

 遠距離恋愛をしていた恋人に久しぶりに会うような、愛しい気持ちをたっぷりと言葉に乗せながらアマテラスに視線を送る。

 しかし残念ながら、再会を喜ぶ僕の言葉は届いていなかったらしい。アマテラスの表情にはいつもの万人受けしそうな笑顔とは真反対の、信じたくないものを見たような絶望が浮かんでいた。

 普段の希望に満ち溢れ、正義を絶対視してヒーローをしているアマテラスも良いが、個人的には今の表情も非常に好みである。

 

 

 前世から正義のヒロインが曇らせられる展開は大好物であり、今世ではリアルに魔法少女が存在する世界観。

 そして何の因果か悪の組織の幹部になれて、曇らせよりも先の段階――『悪堕ち』に手を伸ばすにはもってこいの魔法もある。

 

 

 ここで遭遇する予定は一切なかったが、これほどまでに良い表情を見せられると、衝動的にお持ち帰りしたくなってしまう。

 

 

(本当に連れて帰っちゃおうかな?)

 

 

 心の中の悪魔が囁いてくるが、なけなしの理性で踏みとどまる。仕上がり具合は一見順調に見えるが、前世でそれ系のフィクション(・・・・・・・・・・)を嗜んでいた僕だから分かる。

 アマテラス(正義のヒロイン)はこの程度では折れない。改心しかけた敵が死んだぐらいでは絶望はしても、その膝を屈することは絶対にない。

 

 

 だから今アジトに無理に連れて帰っても、僕の魔法『生体改造』の発達具合も合わせて考えると中途半端にしかならない。

 

 

 せっかく見つけた最高の『素材』が熟成していくのを――推しの魔法少女が育つ可能性の芽を摘み取るのは、主義に反する。

 そういう意味では、今回の遭遇は予定にないだけではなく望ましくない。

 しかし推しの成長過程を見ることができて、十分に満足である。

 

 

 良く耳を澄ませてみれば、呆然と僕を見つめる――いや、視線は定まっておらず、僕と床に転がっている首なし死体を行ったり来たりしていた――アマテラスはぽつぽつと何かを呟いている。

 

 

「何で……アリサちゃんが……フランに殺されて。私が、アリサちゃんに『アクニンダン』を抜けるように言ったから、フランが人を殺したくもないのに……アリサちゃんを殺して……」

 

 

 いまいち要領を得ないが内容を整理すると、僕がウィッチを殺したことが精神的に相当なダメージを与えたようだ。

 それとウィッチが『アクニンダン』を裏切るような馬鹿なことをした原因は、アマテラスらしい。

 

 

「へええ……」

 

 

 ちょっと気に食わないかも。そりゃあ、仕方ないとは思っている。

 向こうにとっては、一度顔を合わせただけの敵の一人でしかない。以前会った時は、「貴女を助けたい」と世迷言を言っていたが、恐らくそれも生来の善性や成り立て故の勘違いに過ぎない。

 そんな誤解はとっくに解けているだろうが、それでもアマテラスが僕にとって理想的な魔法少女であることは変わらず、僕に初めて(・・・・・)悪意や打算を除いた純粋な気持ちを向けてくれた人物だ。

 そんな少女が別の人間の死に悲しんでいるのを見るのは、嬉しいけれど何故だか苛つく。

 

 

 そうだ。良いことを思いついた。

 未だに軽く茫然自失なアマテラスを他所に、床に転がる元後輩の亡骸に目線を向ける。

 幹部であった者を素材にできれば、これまで以上に良い『モノ』が作れそうである。

 それにアマテラスの大切な人だった(・・・・・・・)のであれば、試練の一つとして機能するだろう。

 

 

「『シャドウ』さん。取り込んじゃって」

 

 

 僕の指示に反応して、影が脈動して首なし死体を収納する。そこで、ようやくアマテラスが反応した。

 

 

「あ、待って……アリサちゃんが……」

 

 

 虚ろで焦点の定まらないアマテラスの表情をもっと堪能したかったが、これ以上は本当に時間をかけていられない。

 この場所に無数の魔力反応が向かって来ている。応援の魔法少女達だろう。包囲網が増加する前に、『シャドウ』さんで正面突破だ。

 

 

 『シャドウ』さんを顕現させ、人型をとらせる。その肩に乗っけてもらうと、アマテラスに向かって別れの言葉を告げる。

 

 

「じゃあね、アマテラス。もしも『これ』を返してほしかったら、また会おうよ。次はお互いに万全の状態でね。他にも紹介したい子達もいっぱいいるから。この程度で折れないでよ、可愛い正義のヒロインさん」

 

 

 言い終わると同時に、『シャドウ』さんは僕が肩から落ちないように片手を添えた体勢で、全力疾走を始めた。

 

 

 ――そして結果的には、数時間にも及ぶ魔法少女達の追撃から逃げおおせることに成功した。




カクヨムの方にて、新連載を始めました。
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