TS幹部さんは推しの魔法少女を『改造』したい 作:廃棄工場長
敵の施設で、保護されている組織の裏切り者を始末しろという無茶振りを、何とか成功させた僕こと『アクニンダン』の幹部のフラン。
「はあ……流石にダルかったぁ……」
行きは『ボス』のお陰で楽々侵入することができたが、帰り道は自分で確保しなければならなかった。
僕自身の戦闘能力は皆無であるので、護衛として連れてきていた『シャドウ』さんに凄く頑張ってもらった。
思い出すのは、『魔法庁』の支部から逃げ出す僕に対する魔法少女達の苛烈な追撃。
『アクニンダン』の幹部に就任してから、あれ程に過酷な仕事は初めてだった。追撃してくる魔法少女の数は、数えるのが億劫になる程で、中にはトップ層にいる魔法少女が複数人もいた。
殺しは厳禁なはずだが、魔法少女達――特にトップ層のやる気? というか、気迫みたいなのが段違いで、かなりビビった記憶がある。
降伏勧告をしながら攻撃してくるのは、反則だろう。命さえあれば、骨の数本が折れても構わない。そんな感じであった。
連れてきた『改造人間』が『シャドウ』さんでなければ、僕はあっさりと捕まっていただろう。
『シャドウ』さん、様々だ。今度お礼を兼ねて、何かプレゼントしたいが、彼? の好みが分からない。よく考えておくとしよう。
しかし、何故あそこまで必死だったのだろうか。いや、別に普段の彼女達が職務に忠実ではないと言っているのではない。
個人差はあれど、基本的にどの魔法少女は魔物や『アクニンダン』を倒して、世界平和に貢献したい意志を持っていることは理解している。
どの口が言っているかと、自分でも思うが。
『魔法庁』の威信がかかっているからだろうか。でも、魔法少女達がしていた表情や目。かけてきた言葉。
つい最近で似たような感じで、僕に接してくれた人がいたような気もするが、それこそ気のせいだろう。
自慢ではないが、僕の人間関係は非常に狭い。『ボス』とこちらの反応を無視して、うるさく声をかけてくる同僚。
常に僕に殺気を向けてくる『調整品』達や、紳士的な『シャドウ』さん。
そして、僕が『改造』したいと焦がれている魔法少女、アマテラス。
これが今世における主な人間関係だ。うん、やっぱり狭い。
そう言えば、あの一件以来アマテラスの姿を見かけなくなってしまった。
「会いたいなぁ……それか陰から見守るのもありだな」
そう独り言を呟くが、それが無理であることをすぐに思い出す。
本当にアマテラスは一切の活動を休止していた。前回の一件で、もしかして彼女の心が折れてしまったのだろうか。
いや、僕が目にかけた魔法少女があの程度で精神的に再起不能になるはずがない。ないよね?
組織の諜報部――なんて便利なものはない、欠陥だらけの悪の組織。そのせいで僕の情報収集の主な手段は、テレビのニュース番組かインターネットしかない。
これが悪の組織の幹部の姿か? 一般人かよ。
お陰で、推しの現状を把握することが不可能。華麗にどん底から復活したアマテラスの勇姿を妄想することだけで、今の僕に許された彼女との繋がりである。
まあ、魔法少女の物語は愛と希望に満ちた物語ではあるが、多少のスパイスは必要だ。
その一つがこの前の一件であり、それをバネに一段階以上にパワーアップして、僕の目の前に姿を現してくれる。そのはずだ。
僕は、そう信じている。
「……じゃあ、感動の再会に向けて、『調整』の方も頑張らないとね」
現在、僕がいるのは『アクニンダン』のアジト。そこの一角に設けられた僕専用の部屋――というよりかはラボ。
相変わらず、『調整』が済んでいない子達から殺意の籠もった視線が向けられている。
常人であれば、一時間も経たずに気が狂いそうになる程の殺意に満ちている空間ではあるが、僕の頭の螺子は数本ぶっ飛んでいる。
むしろ、自分に向けられる殺意が心地良く感じる。
今は反骨心の塊である彼らが、時間をかけてゆっくりと自我と尊厳を破壊して、従順な子に仕立て上げる過程を思うと興奮してくる。
それを何れは、アマテラスに施すことができる未来を夢想すると絶頂すら覚えそうになる。
だけど、今の僕の魔法『生体改造』の成長具合だと、それは一体いつになるのか。
一応の成功作として、魔法少女との戦いに投入された第一号と第二号。しかし、僕が理想とする『改造人間』の完成形からはほど遠い。
単純な兵器としての面しか求めていない『ボス』や同僚からは、十分に好評であったが、僕は違う。
命令に従うだけの人形では、僕の好みに合わない。徐々に従順に仕立てていく過程も大好きだが、アマテラスを始めとして、いくつかのお気に入りは完全に自我を奪うつもりはない。
以前の自分と異なる肉体になり、望まぬ命令に口では「はい」と言いながらも、心の中では命令者である僕に不変の殺意を、渇くことない絶望を抱き続ける。
それが、僕の理想の『改造人間』像である。なので、自我をすり潰す作業は一見無駄だと思えるが、一応僕も組織に仕える身。
『ボス』としては、下手に自我を残しておいて反逆される可能性を摘み取っておきたいのだろう。
その要望に従って、大半の『改造人間』はそのように『調整』するつもりだ。
『シャドウ』さんも、僕の命令を従うだけではなく、ある程度の意図を察してくれたり、気遣いを見せてくれたりする。
しかし『素材』の元々の性格やら記憶は、一切残っていない。
「――! ――!」
「ん? 何か用? 外に出せって、言うお願いは聞けないよ? 君にはいつか来る子の模範的な姉として振る舞ってもらわないといけないんだから、もっとお淑やかにしないと」
「――!? ――!」
「大丈夫、大丈夫。君の自我はしっかりと残してあげるし、多少の自由な会話は許してあげる。
だって、そうしないと君の心の絶望が直に聞けないからねぇ」
「――!?」
僕は作業の手を止めて、お気に入りの一つが入っているカプセルに近づくと、聞き分けの悪い子供を躾けるように話す。
相手の言葉はカプセル内を満たす特殊な液体のせいで、意味をなさず無数の気泡を断続的に生むだけ。
傍から見れば、僕が一人で会話している危ない奴にしか見えないだろう。危険人物であることは事実だが。
まあ、僕にも彼女が言っていることはさっぱりだ。読唇術も会得している訳でもない。
つまり比喩でも何でもなく、僕は気分の赴くままに独り言に興じているだけだ。
「――!」
言葉が通じないのであれば、内側から自らを捕らえるカプセルを叩き壊そうと試みる彼女。
ある意味で、それは正解の行動である。
今までの『調整』で、彼女の身体能力は既に凄まじいものになっている。それを彼女は自覚して、実行しようとしているのだ。
「もう、学習しないなぁ。君も。同じようなこともあるから、君達が壊せないように作ってあるよ。そのカプセルは。前にも言わなかったかな?」
「――!?」
「……薬の投与のし過ぎで、記憶力が悪くなっている訳じゃないよね? ……やばい、少し不安になってきたかも。君の『調整』は、今日はここまでにしておくよ。
君の妹、その第一号の『調整』に入らないといけないからね」
「――!? ――!」
僕の発言に、彼女は先ほど以上にその表情に怒りの感情を露わにし、カプセルを力強く叩く。
こういった無駄な抵抗を眺めているのも乙なものだが、『本命』に向けた試練の準備への一環でもある。
『姉』としての役割を与えるつもりの彼女から視線を外し、僕は別のカプセルの前に立つ。
そこに入れられているのは、僕よりも小柄な少女の遺体――だったものだ。
先日『ボス』から命令を受けた僕が始末をした、元幹部のウィッチ。『シャドウ』さんによって潰された頭部や、大きな穴の空いた胸の部分は可能な限り『修復』をしておいた。
こういう『修繕作業』ができるのも、『生体改造』の強みである。
蘇生擬きも、今後の『調整』で行っていくつもりだ。
「どういうシチュエーションがいいかなぁ?」
そう遠くない未来に思いを馳せて、僕は楽しげに笑う。
――折れずに立ち上がってよ。僕の大好きな魔法少女。
■
「――報告感謝する。もう下がってくれ、ダイヤモンド・ダスト」
「承知しました」
濃い青色の髪をした少女――魔法少女ダイヤモンド・ダストは、自らが所属する『魔法庁』の上層部の面々に『とある件』についての報告を代表して行っていた。
その用事も終わり、上層部の一人に退出を命じられ、ダイヤモンド・ダストは一礼作戦した後、その場を後にした。
『魔法庁』本部、その内部のトップ層の魔法少女達の為に設けられた部屋。その内の一つで、部屋の主――ダイヤモンド・ダストは一息を吐いていた。
「はあ……流石にいつまで経っても慣れないわね。大勢の人達に睨まれながらの報告をするのは。本人達には、そんな気はないかもしれないけど。
一般人のファンの前では、こうではないのにね」
緊張の反動のせいか、ついつい独り言を呟くダイヤモンド・ダスト。
部屋に備えつけられたベッドに横になり、目を閉じて休息を取ろうとした。
――ダイヤモンド・ダスト。『魔法庁』に所属する魔法少女の一人であり、その中でも上澄みに位置する。
彼女を始めとして、俗にトップ層とされる魔法少女達は強力な魔法を保有しており、凶悪な魔物を何体も葬るだけではなく。
悪辣非道な『アクニンダン』の幹部との戦闘を繰り広げ、倒すには至らないものの毎回撤退に追い込むことに成功している。
普段は『魔法庁』の本部が設置されている首都付近に出没する魔物の討伐が任務ではある。
しかし、例外はある。地方の魔法少女では対処できないような魔物や『アクニンダン』の幹部が現れた時には、貴重な転移魔法を扱える魔法少女の手を借りて、現場に急行することは多々ある。
先ほどダイヤモンド・ダストがしていた報告も、緊急の応援を頼まれた地方の一件についてだ。
その内容なのだが、中々に厳しい案件であった。
彼女以外にもトップ層の魔法少女が複数人。それだけではなく、数十人近くの魔法少女達が動員される程の案件とは一体何なのか。
と、集められた魔法少女達は思ったことだろう。現に、ダイヤモンド・ダストもその一人であった。
しかし、上層部から伝えれた指示内容を聞いた瞬間。これだけの人員を集めたことにも納得した。
――『魔法庁』の支部の一つを襲撃した『アクニンダン』の幹部の捕縛。
それが彼女達に出された命令の内容だった。
今までなかったのが不思議であった、『アクニンダン』による『魔法庁』関連施設の襲撃。
今後より警備体制が厳重になるだろうが、それはまた別の話。
どこかの支部からの報告や自首的に投降してきた『アクニンダン』の幹部による証言で、その他の幹部も強制的に働かせられている可能性も出てきている。
それもあり、襲撃者の幹部を捕まえろという指示自体は理解できるのだが、物騒な文言が一つ。
『抵抗するようであれば、骨折や四肢の欠損は構わない。生きてさえいればな』。
その発言内容に、ダイヤモンド・ダストを含めて、眉をしかめる魔法少女は多数。というより、平然と思っている者は極一部の変わり者を除き、命のやり取りをする戦場に身を置いているが、彼女達はまだまだ未成年。
自分と同じ年頃の少女――しかも自分の意思に関わらず、悪事に加担させられている――相手に、大人数で暴力を振るうような真似を快く考える者はいない。
これではまるで、保護すべき少女の人権や尊厳を無視して、何かに利用しようとしているのか?
そんな考えが一瞬過ったが、これだけの魔法少女がいるのだ。投降を呼びかけて、それが無視されたとしても、数の利を活かせば、無傷は無理でも拘束は可能なはず。
そう考えていたのだが。現場に急行したダイヤモンド・ダスト達が相対した人物は、一筋縄ではいかない手合いであった。
――『アクニンダン』の幹部、フラン。先日投降して、すぐに裏切り者として暗殺されたウィッチを除き、幹部の中では一番の新顔である。
ダイヤモンド・ダストも過去に一度だけ、フランと相対したことがある。正確に言えば、彼女が使役していた一体の異形が相手だった。
終始フランの方は観戦に徹していて、それは先日の襲撃時の撤退戦においても変わらず、彼女の戦闘スタイルはそういうものであることが分かる。
「……フランが連れていた魔物? っぽい奴ら。どれも嫌になるぐらいに強かった」
ぽつりと独り言が溢れるダイヤモンド・ダスト。
フランが使役していた魔物とも違うとされる異形。上層部の見解では、フランの魔法によって生み出された使い魔に近いものとされている。
もちろん魔法少女の中には、童話のように可愛らしい妖精や強靭な竜を使い魔として召喚する固有魔法を持つ者もいる。
だが、魔法少女が発現する固有魔法は、本人の資質は当然のこと、覚醒当時の精神状態が大きく影響する。
使い魔を召喚する類の魔法は、孤独や寂しさを抱える少女がそれらを埋める為に発現する傾向にあるのだが――。
(……あんなモノを使役しているフラン。あの子の精神状態は一体どうなっているのかしら?)
ダイヤモンド・ダストが想起するのは、三体の異形。
一体は彼女が交戦したソレは、二メートル以上で屈強な肉体を持った人型。生半可な攻撃や拘束は意味を為さず、見た目相応の強烈な打撃を繰り出してきた。
一撃でもまともに喰らえば行動不能になっただろうが、幸い速さにおいてはダイヤモンド・ダストに及ぶ程ではなかった。
隙をついて、強力な一撃を叩き込んだことで異形は活動を停止。フランはいつの間にか、撤収していた。
二体目に関しては、ダイヤモンド・ダストは直接戦闘しておらず、上げられた報告を又聞きしただけに過ぎない。
だが、ソレも一体目と外見こそ違い細身ながらも、凄まじい身体能力で、トップ層の魔法少女を数人相手に渡り合ったらしい。
その時も、フランは異形が倒されると同時に撤退していた。
そして、先日の一件。その時に連れてきた異形は、基本的に人型でありながらも、自在に形を変化させることが可能な個体だった。
右肩にフランを乗せた状態で、何十人の魔法少女の攻撃を捌き、逃走に成功するという無理難題を成し遂げた能力の高さ。
まともに一対一で戦えば、ダイヤモンド・ダストでさえ勝てるかどうかは分からない。
そう思わせる程に、強そうな手合いであった。
しかし、フランが使役するソレらの見た目は、人型を取りながらも致命的に人間からは遠かった。
先ほど、魔法によって生み出される使い魔の外見が、術者の精神状態に左右されるという話はしたけれど。
それを考慮した場合、フランの心は果たして無事なのだろうか。
いや、とてもではないが無事とは言えないはずだ。フランの外見からの推定年齢は十四歳前後。
本来であれば庇護されるべき少女が顔色一つも変えずに、一般人を殺して周っている。
そんな精神状態を、正常とは口が裂けても言えない。
フランとの交戦の際には、もちろん魔法少女側からは降伏勧告はした。
だが、彼女は無言を貫くばかりで、無表情を崩すことはなかった。
精神が壊れる一歩手前であるのなら、自分が助かる可能性があるこちらの言葉に耳を傾けそうなものだが。
(……それだけ『アクニンダン』の洗脳は強力なのかしら? それとも自分から進んで悪事に加担を?)
ダイヤモンド・ダストが一人で、いくら頭を悩ませても答えは出ない。
とにかく『魔法庁』の上層部が腹の底で何を企んでいるかは分からないが、今やほとんどの魔法少女はフランを含めた幹部達を本気で思っている。
中には、幹部達に家族や友人などを殺されて心情的に溝が深いものいるけれど。
魔物や『アクニンダン』への復讐を誓って、魔法少女になる者も少なくない。
(……それでも、魔法少女は困っている人を助ける存在。私達が頑張らないと、フラン達も普通の人生を歩めないし、被害者は増え続けるだけ。
頑張らないとね。……後で、他の魔法少女達にもこの話をしておきましょう)
そこで思考を打ち切ったダイヤモンド・ダストは、今度こそ休息を取るべく、意識を沈めた。