英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第9話 思わぬ再開

 『水老亭』で昼食を食べ終えた俺たちは、会計を済ませて店を出た。

 ネーミングで拒絶していたブルーモンキー焼肉定食だったけど、口にしたら意外にも美味しかった。癖のない味に俺だけじゃなく、他の3人も絶賛していた。店員の言うとおり、他の客が納得する一品だった。

 俺たちはメインストリートの道中で満腹感に満たされたお腹を撫でながら立ち話をしていた。

 

「サーネスさん、これからどうします?」

 

「そうねぇ……。どうしましょ?」

 

 実は俺たち、明日の早朝に出発する馬車で一緒に乗ってペレーハ村へ帰る予定だ。つまり観光は今日までということ。今はまだお昼過ぎ、宿屋に戻るのもまだ早いということで一緒にこれからどこかに行こうかと話し合っている。

 因みに何で翌朝にスラッタの街を出るのかと言うと、現在宿泊している宿屋が思っていたより値段が高かったため、お互い急遽明日村に帰ることになってしまったそうだ。つまり母親たちはここにきて痛恨の計画ミスをしたのだ。

 

 いやいや、前もって調べておこうよ……。まあネットとかない世界だから仕方がないとしか言いようがないけど。

 

「……」

 

 そう思っている俺の背中を、何故かナエナちゃんが黙って見つめていた。

理由は分かっている。『水老亭』で彼女の質問に無視するような形で会話が終わってしまったから。そんなつもりはないのだが、彼女には無視されたと思われても仕方がない。

 

 前世から他人の意見や指示を鵜呑みにして、自分の意志なくただ従順に行動していた。その場の流れに身を任せてきた。そんな俺が自分だけで将来のことを決めるのは無理な話だ。

 ナエナちゃんの視線を気付いても、振り返る勇気が無い。自分の行いでこの現状を招いたというのに。

 

「それにしても、これだけ人が多いとこの街の観光名所も一杯でしょうね。でもせっかくわざわざ来たのに何も観ないというのも……サーネスさん、どうしましょう?」

 

「……そうだ!それじゃあ、冒険者ギルドでも見に行きませんか?」

 

 その言葉を聞いた俺とナエナちゃんはたちまち母親たちの方へ向けた。

 母さんが冒険者ギルドに行こうと言い出したのは、なんでもナエナちゃんのためらしい。彼女は将来、冒険者になりたいということを知っているため、街に来ているこの機会に冒険者の仕事場であるギルドを一目見に行こうと話した。最初は遠慮したナエナちゃんのお母さんだが、母さんも会いたい人がいると上手く説得した。

 

 母さんの提案に乗ることになると、ナエナちゃんの表情は一気に明るくなる。それほどに冒険者ギルドに興味があったのだろう。目的地を決めた母親2人は一応俺たちに行くか確認した。当然、断る理由がない俺たちは首を縦に振る。

 こうして俺たちは『スラッタの街』にある冒険者ギルドへ向かう事になった。しかし初めてこの街にきた俺たちは、誰も冒険者ギルドの場所は知らない。道中、母さんが近くにいる人に尋ねて場所を教えてもらいながら向かった。

 他人でも堂々と質問できる母さんの対応力には尊敬してしまう。

 

 

 スラッタの街の土地の広さは、ウエスト大陸にある王都と比較しても負けないほどの広く、メインストリートから30分程歩いても冒険者ギルドになかなか到着できなかった。

 まさかここまで歩くとは思いもしなく、足も疲れてきて立つのも辛くなってきた。しかし俺以外の3人は表情に疲労感を見せてない。俺だけ弱音を吐くわけにもいかなく、黙ってついて行く。

 

「え~と……話ではここら辺に冒険者ギルドらしいけど……」

 

「……ねぇねぇ~、アスタのお母さん、あれじゃないの?」

 

 ナエナちゃんがある物を見つけて指をさす。

 それは清楚感を思わす白色の外装をしており、さっきの教会ほどではないが巨大な出入り口に何人もの人が出入りしている。そして建物の看板には堂々と『冒険者ギルド』という文字が彫られてあった。

 

「ここみたいね!ナエナちゃん、どう?初めて見る冒険者ギルドの感想は?」

 

「うわぁ~……綺麗……!!」

 

 ナエナちゃんの感想には心底共感できる。確かに、これほど汚れとは無縁と思わせる職場は前世でも見たことが無い。冒険者になる気がない俺にとっては無縁だが、隣に立っているナエナちゃんは感動しているのかその顔の頬が徐々に緩んできている。

 予想していた建築物とは違い、その見事な外観にしばし冒険者ギルドを眺めてしまう。

 

「……んっ?!あれ、義姉さん!?それにアスタも!?」

 

 ここで聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 声の方へ振り向くと、そこにはなんてクミル叔父さんが手を振っていた。ギルドの出入り口から出てきた叔父さんは俺たちに駆け寄ってきた。

 

「あら~!クミル、久しぶりじゃない!」

 

「お久しぶりです、義姉さん」

 

 母さんが軽く挨拶をすると、叔父さんは頭を下げて返答した。頭を上げる叔父さんは、今度は俺と目が合う。

 

「ようアスタ、久しぶり!……お前、少し大きくなったなぁ!」

 

「お久しぶりです、クミル叔父さん……」

 

 3年前と変わらない、その若々しい容姿と反応に安心感を覚えながら返事をする。

 身内の登場で置いてきぼりのナエナちゃん親子に、母さんはクミル叔父さんについて紹介をする。お互いに初対面ということで頭を下げて挨拶を交す。

 

「冒険者の人ですか?」

 

 叔父さんに興味を持ったのか、ナエナちゃんは叔父さんに質問した。

 

「そうだよ!これでもそこそこ(・・・・)強い方だよ!」

 

 叔父さんは腰にある剣に手を置いてカチャッと鳴らし、自慢気な表情で自己アピールする。心なしか“そこそこ”という言葉を主張する。横にいる母さんは呆れた表情で「また出たよ」と呟いた。どうやらいつも、この挨拶をしているみたいだ。

 叔父さんの言葉を聞いてナエナちゃんはより一層瞳を輝かせた。

 

「あの……ステータス見せてもらってもいいですか!」

 

「こら、ナエナ!?」

 

 流石に失礼だと、ナエナちゃんのお母さんが注意する。これはナエナちゃんのお母さんが正しい。

 

 ステータスウィンドウとは言わば個人情報。つまり、その者の正体を一目で理解できるということ。だから、ファンタヘルムではステータスウィンドウの表示の要求はあまり良いことではない。

 この唐突な要望に流石のクミル叔父さんも躊躇すると思った。しかし、意外にもその表情は拒否的なものではなく、寧ろこの質問に面白く感じているように見えた。

 

「まあまあ奥さん、それぐらい別に良いですよ。ただ仕事上で、スキルや“色々”と隠させてもらうけど、それでいいか?」

 

「はいっ!!」

 

 ナエナちゃんが元気よく返事すると、クミル叔父さんは見やすいように膝を曲げる。ついでに俺にも見せてくれるのか、叔父さんは手招きして呼ぶ。叔父さんは俺たちの前に掌を前に出し、自分のステータスウィンドウを表示した。

 

==============================

クミル・サーネス

種族:人族

年齢:25

状態:やや疲労 やや空腹

 

『適性魔法一覧』

・火   ・水   ・無

 

『スキル一覧』

・所持数9つ

 

『熟練度一覧』

・剣術 42

・盾術 22

・槍術 3

・槌術 3

・斧術 3

・体術 37

・射撃術 9

・歩行術 46

・火魔法 16

・水魔法 38

==============================

 

 「隠させてもらう」と言ったにも関わらず、そのステータスウィンドウの情報量は俺たちのと比にはならなかった。今日初めて見た『スキル一覧』という項目があるおかげでもあるが、なにより『熟練度一覧』にある数多くの高レベルな種類の数に俺たち驚愕した。

 

 熟練度のレベルの数値は低いうちは上がりやすい。それに比例して、レベルの数値が高くなるにつれて、次のレベルまでが上げるのが苦難になっていく。人族の寿命は他種族と比べて短く、長生きしてもせいぜい80歳前後。そのせいで人族の冒険者の大体はレベル50~60までしか鍛えられないと言われている。

 だからこそ25歳のクミル叔父さんの【剣術】レベル46は明らかに異常だっていうはすぐに理解した。俺たちが今まで学んできた常識をこの瞬間壊された気分だ。冒険者を目指すナエナちゃんにとって、これは大きな変化であった。

 

「すごい……!」

 

「うん……本当に、すごいね!」

 

 俺たちは無意識に小さくそう呟く。

 

「満足したか?」

 

「はいっ、ありがとうございますっ!」

 

 そう聞くとクミル叔父さんはステータスウィンドウを閉じ、ゆっくりと立ち上がる。衝撃的だった文字の数と数値の高さだったということもあり、目の前から無くなっても、その内容がまだ鮮明に覚えている。

 

「そういえば今日、神の恩恵の日だったなぁ。通りでここ数日、妙に子連れの人が多かったわけか。義姉さんたちもアスタたちのでこの街に来たのか。……でも何でギルドの前にいるんですか?」

 

「実はナエナちゃん、将来冒険者になるのが夢なのよ。だから、せっかくペレーハ村にはない冒険者ギルドを観させようと思ってね」

 

 腕を組んでいた母さんはギルドに来た理由を説明すると、クミル叔父は再びナエナちゃんの方を向く。冒険者志望の彼女に興味を持ったみたいだ。

 

「へぇ~、キミ、冒険者になりたいんだ!だから俺のステータスが気になって。じゃあやっぱり大きくなったら学校に行くのかい?」

 

「はいっ!2年後、王都にある学校で学ぶつもりです!」

 

 ファンタヘルムにも学校法人はあるが、学校と呼ばれる施設は大きく義務教育学校と高等学校の2つある。その概要も日本のとは大きく異なっている。

 義務教育学校は王族や貴族の御子息しか入学できない施設。何故そんな制度にしてしまったのかは不明だが、恐らく優れた遺伝子を養って平民を先導させる目論見で創ったのかもしれない。とにかく、ここで貴族の子は6歳から12歳までの6年間の教養を得る。

 ならナエナちゃんが入学するのは、必然的に高等学校になる。そこは身分関係なく、12歳になる子供は誰でも入学できる。各学校のレベルによるが、試験に合格して授業料を支払えれば、そこで12歳から18歳の6年間の教育を受けられる。

 

 因みに冒険者に就職できるのは神の恩恵を終えた者から。つまり俺たちも冒険者への応募条件は今日から叶ったことになる。だけど毎年、夏に行われる冒険者入団試験に参加して合格しなければならない。噂によると合格点は非常に高く、大人でも合格するのは至難だそうだ。

 仮に10歳で合格して冒険者活動を始めれば、学校に通っている子共との現場での経験の差を付けられる。しかし、それ以上に学校で得られる力も優れているらしく、その差はあっという間に埋まってしまうそうだ。だから冒険者志望の殆どが学校へ通いたい願望がある。

 

「おぉ~、そうなのか!じゃあ俺の後輩になるってわけか!アスタも冒険者になりたいのか?」

 

「えっ……?」

 

 あまりにいきなりの質問に思わず変な声を出した。

 

「んっ、どうした?」

 

「えっと……俺は……」

 

 正直に言って、冒険者になるつもりはない。これは俺がもっと幼い頃から決めていたことだ。

 確かに世界中の景色が観られるというロマンは感じる。だけど前世から自分が臆病だというのは重々理解している。とてもじゃないが冒険者には向いてない。しかも3年前にロップさんから「魔力量が少ない」と言われているから尚のこと。

 

「俺は……冒険者には……なりません」

 

「……えっ……」

 

 現時点で将来の夢は決めていない。しかし冒険者にならないのは確か。だから俺はそれだけをはっきり伝えたかった。

 意外だったのか、ナエナちゃんの口から小さな声が漏れた。あまりに小さく、この場にいる全員がそれを聞き逃した。周りの騒音によって声が消されると、彼女の目は心なしか悲しんでいるような瞳へと変える。

 

「そうか。まあその方が、兄さんたちが喜ぶしいいじゃないか!」

 

「はい。……でも、やっぱり攻撃魔法は覚えたいです。叔父さんの見ていてカッコいいって思って。ペレーハ村に来た時でいいので、魔法を教えてもらってもいいですか?」

 

「おう、いいぜ!お前が兄さんをボコボコに出来るように、俺が直々に鍛えてやるよ!」

 

「そ、そこまではいいです……」

 

 軽々と攻撃魔法の伝授の約束をしてくれた。あまり実感が湧きにくいが、これで俺も攻撃魔法を覚えられる機会を得た。一体いつになるのかはわからないけど、今から心が躍る。

 

「ねぇクミル。ちょっと頼みがあるのだけど、時間大丈夫かしら?」

 

 会話が終わったのを見計らい、ここでクミル叔父さんは母さんから声をかけられる。

 

「別に問題ないっすよ。何ですか?」

 

「実は私たち……主に私だけど、あんたを探していたの。私たちこれから街を観光したいのだけど、正直初めて来た場所だからどこに行こうか迷っちゃって。どこか良い所教えてもらってもいいかしら?」

 

 どうやらさっき母さんが言っていた「会いたい人」とはクミル叔父さんのことだったようだ。叔父さんがこの街に住んでいることを思いだし、残り少ない観光時間を有意義に使うため教えてもらいに来たそうだ。

 事情を聞くとクミル叔父さんは顎に手を置いて考え込む。叔父さん曰く、今日は神の恩恵のため観光スポットは何処も人でいっぱいだそうだ。俺たちが待ち合わせとして集まった噴水広場も観光スポットの1つらしく、思い出してみると確かに人が多かった。噴水広場だけであの人口密度だと考えると、他の場所も何となくだが予想はできる。

 

 話し合いをした結果、観光スポットを行くのは諦めることにした。人が大勢いる観光スポットに行っても満足できないだろうと考え、それなら買い物をした方がいいと判断した。大人たちは申し訳ない顔で、俺たちに観光スポットを巡るのを諦める説得してきた。ナエナちゃんは冒険者ギルドを観ることができ、俺はクミル叔父さんと再開して攻撃魔法の伝授の約束ができた。これ以上望むモノはないから、俺たちは文句を言わず承諾した。

 こうして叔父さんの案内の下、俺たちは街の買い物巡りを始めた。ちなみに道案内役は叔父さんがやると進言してくれた。先のステータスウィンドウに“やや疲労”と載っていたのに、疲れた表情を見せずに楽しそう談笑しながら共に歩いてくれた。

 

 

 買い物巡りを始めてからあっという間に時間が経ち、空は夕暮れの赤色から徐々に暗くなっていく。お腹も空き始めてきて、もうお店に向かっても良いのだが、買い物を夢中になって楽しんでいるためまだ向かわなかった。主に母親たちが。

 主に服屋を中心に周り、母親たちは目に入る服全てが新鮮に感じ、あれやこれやと大量の衣服を試着しては買い集めた。その荷物は男である俺と叔父さんが運ぶことになった。両手で大量の袋を持ち上げて、そこに新たに買った袋を加え、母親たちに合わせて次の店に向かう。叔父さんは何食わぬ顔で熟しているが、俺にとってはただの重労働にしか感じられなかった。

 しかし、この買い物巡りでの一番の被害者は、実は俺たちではない。母親たちに着せ替え人形のように色々な服に試着させられている、ナエナちゃんである。性格に合わないファンシーな物ばかりを着せられ、彼女は俺たち以上に機嫌を損ねている。先ほどからずっと明らか過ぎるほど不服な表情を見せているが、母親たちはそれに気付かず次々と服を選び続ける。

 そんな光景を少し離れた場所で俺と叔父さんは、深くため息をつく。

 

「アスタ、女の買い物はこれからだ……覚悟しておけ」

 

 ……帰りたい。

 

 心の中で思うだけで声には出さなかった。叔父さんの予想通り、買い物はしばらく続いた。

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