英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第12話 成功のカギはイメージ

 ペレーハ村では、掟により村の中での攻撃魔法の使用は禁止になっている。これは攻撃魔法自体を問題視しているわけではなく、必要以上に乱用して何かしらの不注意で怪我人を出さないためだ。だから魔法の訓練は北東門から出て近くにある森ですることにした。そこは数年前に叔父さんが俺のために魔法や剣術を披露して、グリーンウルフを討伐した場所の近くである。太陽が昇り切っていないせいか森の奧はまだ暗く、今でもそこらの草むら何か飛び出してきそうだ。

 

 それにしてもどんな訓練するのだろう……。わざわざ村から離れるのだから、何か考えがあるはず。まさか……いきなりモンスターと戦って覚えろとか言わないよね?

 

「そういえば、あの時の赤毛の子は今どうしている?」

 

「……神の恩恵の時、俺と一緒にいた女の子のことですか?」

 

「そうそう!確か冒険者になりたいって言ってたあの子!」

 

 赤毛の子とはナエナちゃんのことか。とても印象的だったのか、一緒にいた彼女のこともどうやら覚えていたようだ。

 学校に通うため去年、王都バリエンスに引っ越したことを話した。

 

「そうか、あの子は王都バリエンスに行ったのか。てことは『バリエンス学園』かぁ、また良い所に行ったな~!」

 

 叔父さんは腕を組みながら1人で深く納得をする。

 どうやらナエナちゃんが引っ越した王都バリエンスはウエスト大陸の冒険者ギルドの総本山らしい。そこにある学校は大陸一を誇る冒険者育成所、バリエンス学園と呼ばれ、卒業して冒険者になった者はみんな実力のある冒険者になっているそうだ。

 叔父さんは別の学校で卒業したらしいが、バリエンス学園で卒業した同い年の冒険者とはかなりの実力差があるらしい。叔父さんが達成できない高難易度の依頼をも難なく熟せるそうだ。やはり大陸一と呼ばれるだけあって、その教育施設はかなり充実しているかもしれない。

 

「まあ、あいつら全員人族じゃあねぇし!人族と他種族じゃあ、元々のステータスが違えし!特に妖精族とじゃ、魔力量で勝てるわけねぇし!寧ろ人族でここまで頑張っている俺はすごい方だし!」

 

 ここで唐突に言い訳を言い出した。心なしか少し怒っているように見える。

 どうやらそこの卒業生のとある妖精族とは、いつもいがみ合いをしているようだ。毎回自分の功績の方が良いと喧嘩を売られ、それを叔父さんが反発してきたらしい。明らかに問題なのはその妖精族なのだが、毎回冒険者ギルドの上層部に説教されるのは何故か叔父さんだけだそうだ。あまりの理不尽さに叔父さんは毎回怒りを堪えているようだ。

 

 その妖精族の功績が良いから、その御偉いさんも何にも言えないのか?つまり贔屓かぁ……。冒険者ギルドも案外、地球の会社と似ていて人脈(コネ)だけを優先するんだな。それにしても、この世界でもいるんだな……。成績で自分と相手を比べては、相手を貶す奴。俺が一番……関わりたくないタイプだ。

 前世で実際に体験したことはないけど、こういった責任転嫁みたいな話はよくニュースで聞いたことはある。確かに叔父さんにも問題はあると思うけど……それでも理不尽極まりないな。

 

「……あの野郎は例外として、あそこを卒業した奴のほとんど根はいい奴ばっかだからな!ナエナちゃん、だっけ?あの子が卒業するのが楽しみだな~!案外才能があって俺を越えたりしてな!」

 

 やや重い空気にしてしまったと叔父さんはここで明るい感じで話しかけてくれた。申し訳ないと思っているのか、その笑顔はどこか精一杯さが感じられる。勝手に暗くなったというのに、その気遣いに感謝しかない。

 

「叔父さんから見ても、やっぱりナエナちゃんはすごいのですか?」

 

 実は叔父さんもナエナちゃんのステータスを観たことがあった。

 それは叔父さんが先導でスラッタの街を案内してくれた際、ナエナちゃんがお返しにと自分からステータスを公開した。当然叔父さんは最初遠慮したが、頑固なナエナちゃんが納得できずゴリ押しで観せられたといった方が近い。

 

「いやぁ~、当時はあれで10歳だったんだろ?それなのにあの数値の高さは、普通にすごいと思うぜ。訓練の質や量も関係あるだろうけど、純粋に冒険者としてのセンスが良かったからかもな」

 

「センス……才能ってことですか?」

 

「そんなもんだ。10歳であれだったからなぁ……王都の学校、しかもバリエンス学園で6年鍛錬していくんだろ?もし俺の予想通りの成長をしたら、間違えなく上級冒険者として有名になれるぜ」

 

 ここまで言ってもらえるなんて、本当にすごい学校に行けたんだな。もしかしたら、あの時に出会ったロップさんの言うとおり、本当にみんなに憧れるような冒険者になるかもな。確か「可憐な剣士になれる」だっけ?本当になれたら……幼馴染として誇らしいな。

 その頃には……俺のことなんて忘れているかもな。学校だけじゃなくて冒険者として色んな人たちと出会って、活躍して、きっと楽しんで、彼女の周りに人が集まる。うん……ナエナちゃん可愛いし、俺なんかより良い友人が見つかるよな……。

 

 ここで何故か、上手く言葉で表されない感情になってしまう。

 嫉妬でも妬みでもない。ただ気持ちが暗くなった。せっかく叔父さんが雰囲気を良くしてくれたというのに小さく溜息を吐いてしまう。これ以上、気を遣わせないように顔に出さないようにし、気持ちを切り替え叔父さんと会話を続けた。少し暗い森の中で話す俺たちの姿は、誰から見ても明るく見えた。しかし俺の心の中にはまだ、その感情が小さく残っていた。

 

 談笑しながら森の中を歩くこと数十分ほど経過した。叔父さんとの会話が思いのほか弾み、今まで時間が本当にあっという間だった。

 森の中だが木々のない平地に着いた。どうやらここが目的地のようだ。俺を平地の中央に立たせ、叔父さんは1本だけ雄々しく立ってある大木に近付く。ドアにノックと同じ様に、数回ほど握り拳を軽く当てる。

 

「……うん、こいつで良いか。よし、それじゃあさっそく始めるか!」

 

 どうやら魔法の的当てとしてチェックしていたようだ。

 確かに今まで見た中で一番太いと思うこの大木なら、遠慮なく魔法を発動できる。だけど、ここである事を思い出した。

 

「あっ、ちょっと待ってください!」

 

「んっ、どうした?」

 

「叔父さん……1つ聞きたいことがあるのですが」

 

 数年前、とある旅占い師に「魔力量が少ない」と言われた事について話した。

 魔力量は魔法を発動するために是地に必要な存在。それが少なくとも攻撃魔法は使えるか、叔父さんに相談した。本来昨日のうちに聞くべきだったが、攻撃魔法を教えてもらえるという事にテンションが上がり忘れていた。

 

「へぇ~、今の占い師は相手の魔力が分かることができるんだ」

 

 叔父さん曰く、普通の占い師にそんな事はできないらしい。それ以前に占い師にそんな事ができること自体、聞いたことがないそうだ。あの時、出会った占い師のロップさんが特別ということなのだろうか。叔父さんは腕を組み考えた。

 

「う~ん、そうだなぁ……。アスタ、補助魔法は使えるのか?【ザ・ウォーター】とか、【リ・シャワー】とか」

 

「はい、その2つなら使えます。毎日使ってきたわけではありませんけど」

 

 それらは初めて父さんから教えてもらった【水魔法】だ。

 【ザ・ウォーター】は人差し指の指先から水を噴出させる魔法。噴出させる量や勢いなども調節可能で、店の窓ガラスや床などの掃除するに使う。

 【リ・シャワー】は人差し指と中指を軽く交差させて、その間からシャワー状の水を噴出させる魔法。これも調節次第で出てくる範囲を広げることができ、主に庭の花たちの水やりなどに使っている。

 

「うん、それらが使えるのなら問題はないと思うぞ?今日教える魔法も、それほど魔力を使うわけじゃないから」

 

 叔父さんの返答を聞いてホッとした。なら問題なく練習に集中できる。

 

「よし、ほんじゃあ観ているよ!」

 

 叔父さんはそう言いながら右手の親指と人差し指を立て拳銃のような形にし、先ほど確認した大木に狙いを定める。

 

【水魔法:アクア・ピストル】

 

 叔父さんの人差し指から水の球が出現し、勢い良く大木に向かって真っ直ぐ射出される。水の球は大木の中心に見事に命中。そこには水だけの力とは思えない程の、綺麗な円形のへこみ跡が残る。

 この魔法に見覚えがある。数年前、叔父さんが見せてくれた魔法だ。あの時は両手だった気はするが、今回は片手で発動した。

 

「この魔法は【アクア・ピストル】!利き手をこんな風な形にして、指先から水の球を作って真っ直ぐ強く飛ばす魔法だ!それじゃあ早速やってみるか!」

 

 そこから叔父さんは、手取り足取り丁寧に指導してくれた。

 この魔法は水の球が勢い良く前方に射出されることにより、反作用による反動がすごいそうだ。それに耐えるために足の歩幅は十分に取り、右手は常に肩の高さで固定し、首は少し右へ傾けて方目を瞑る。最後に狙いを良くするために左手で右手首を掴んだ。叔父さんが片手でやったのは、普段から使い慣れているからできたらしい。最初のうちはみんな両手から始めるそうだ。

 

 てことはあの時、両手だったのはこの魔法にまだ慣れていなかったってことか?……いや、きっと狙いを定めるためだったからだろう。うん、きっとそうだよ……ね?

 

「よぉ~し、形はこんなものだ!次は指先に水の魔力を集中させて、球を作るイメージしてみろ!」

 

 撃つ体勢ができると、次に発動のイメージに移る。

 言われた通り、指先に魔力を集中して水の球が指先から出るようにイメージする。

 

「よ~し、呼吸を整えて……撃てッ!」

 

 叔父さんの掛け声と同時に、俺は心の中で魔法を演唱した。

 

【水魔法:アクア・ピストル】

 

 魔法を発動した瞬間、俺の指先から水が出現した。しかし、それは叔父さんのとは違って水の球ではなく、ただ水がチョロチョロチョロ~と形状を持たないまま噴出しただけ。これではピストルではなく、おもちゃ水鉄砲。

 後ろにいる叔父さんの方へ振り向くと、口元を抑えてクスクスと笑っている。これは言われなくても分かる、失敗だな。やはり1回で成功できるほど、都合は良くはなかった。

 

「……やっぱり魔力量が少ないからか」

 

「いや~、多分違うと思うぜ?」

 

 俺の独り言に対して、叔父さんは食い気味で否定してきた。

 さっきまで方が揺れるほど笑っていたのに、今はもう指導者として真摯に反省点を述べ始める。

 

「やっぱぁ……イメージかな?魔法は頭の中で具体的にイメージしないと、どんな強力な魔法でも十分に発動はできない。“自分の身体のこの部位から出て来てこうなる”ってイメージしないと!イメージが曖昧だと暴発してケガをすることもあるからな。あとは発動する時の気持ちと……感情?つまりは心だ!心が明るくないとせっかくイメージしてもその通りには魔法は発動できない。つまり無理やりでも気持ちを明るくしろ!」

 

 叔父さんはそう大雑把に説明してくれた。だが理解はできた。

 確かに、俺は指先に水の球を作ることだけを考えて、射出させる先をあまり強くイメージをしていなかった。そして俺の気持ちも初めての魔法緊張していたかもしれない。反省点を踏まえて、また同じ体勢に入って再度挑戦する。

 

 

 数回程、練習してみたけどまだピストルとは程遠いただの水鉄砲止まり。

 回数重ねる度に水の勢いが増しているが、それでも球のまま射出しない。集中していたせいか息は少し荒くなり、謎の疲労感を覚える。心なしか気も滅入ってきた。

 

「だいぶイメージが出て来たんじゃないかアスタ!あともうちょっとでできるかもしれないぞ!それとも、少し休憩するか?」

 

 俺の顔色を見て察したのか、叔父さんがそう元気づけてくれた。その言葉のおかげか、少しだが頑張れる気力が湧いてきた。何も言わず首を横に振り、再び両手を上げて的である大木に狙いをつける。叔父さんは静かに見守ってくれた。

 

 より具体的にイメージしよう。

 まず右手を一丁の拳銃のように意識した。前世で高校生の時、クラスの男子が一時期何故か拳銃に流行っていて、数回ほど学校にモデルガンを持ち込んでいた。彼らとは親しいわけでもなかったから、いつも自分の席から遠目で見ていた。あの時に見た、そのモデルガンの形状を思い出し、自分の右手に照らし合わせる。人差し指を銃口とし、引き金引く指は中指で代用して実際引くように意識し、親指は特に思いつかないからそのまま立たせた。最後に指の先に水の球を作り、数メートル先の大木の中央に命中させることイメージする。

 静かに呼吸を整え、魔法を発動する。

 

【水魔法:アクア・ピストル】

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