指先に水の球が形成されて大木に目掛けて射出された。
叔父さんの魔法と比べて勢いがなくて弱々しい水の球だが、大木の根っこ部分に命中する。イメージした狙いは大木の中央だったが、それでも魔法は成功した。
突拍子もなく成功してしまい、暫し硬直してしまった。素直に喜べばいいのか、それとももっと精度を上げる様に反省点を上げればいいのか、的である大木をただ傍観してしまう。
「うぉぉぉぉぉおおおおお!!嘘だろ、やったじゃんアスタッ!すげー、たった数回でよく原型に近づけたぁおいッ!お前もしかして、実は1人でこっそり練習していたんじゃないか?!」
叔父さんは背中から抱きついて来た。
頭をモミクシャする様に撫でながら褒めてくれた。確かにある程度だが形は真似できたが、ここまで大きく喜んで話しかけられるとは思いもしなかった。
「えっ、えっ?!今の……失敗じゃ……」
「いやいやいやいや!?球はちゃんと丸だったし、的に向かって真っすぐ向かっていたし、文句なしの成功だよ!」
叔父さん曰く、どうやら魔法の練習で最も苦なのは、その魔法に対しての具体的なイメージらしい。
攻撃魔法や補助魔法も関係なく、魔法には絶対的な概念もなければ原型もない。0から想像して、試行錯誤や往復をしてようやく出来上がるもの。今回の【アクア・ピストル】も絶対と言うほどの原型は特になく、「水が球体でまっすぐに発射する」というのに沿っていれば成功になるそうだ。
因みに叔父さんがこの魔法で、水の球を指先に出してから射出するまで4日間はかかったそうだ。別にふざけていた訳でもなく、俺の様に真摯に取り組んでいたらしい。独学でやっていたそうだが、それでも他の人と比べて早く会得した方らしい。だからこそ数回で水の球を射出、しかも的の近くまで飛ばせられたことに驚いたという。
「アスタ、お前魔法の才能があるんじゃねぇのか?いや、もしかしたら魔法の天才かもな!」
「そ、そんな大袈裟ですよ!?ただ、叔父さんの言われた通りに、より具体的にイメージしただけで……」
「それでも大したもんだよ、オメェは!どんだけ想像豊かな頭してんだよ!にしてもホント……すげぇ~なぁッ!」
持ち上げる叔父さんの勢いが止まらない。ここまでくるともう一種の興奮状態だ。
恐らく早く成功したカギは、前世で見たモデルガンというイメージしやすい物を覚えていたからだろう。やはり前世の記憶があるのは、思いのほか良い方へ結果を導き出せる。何はともあれ、こうして初めての攻撃魔法を見事に成功させた。個人的にまだ納得はできないが、指導者である叔父さんに片手をサムズアップにして成功だと言い張ってくれるから、これ以上心の中で否定するのは止めよう。
それにしてもここまで喜んでくれるなんて……正直に言って嬉しいな。でも俺なんかがこうも簡単に成功したって言うのに、何で叔父さんの時はそんな時間が掛かったんだ?指導者がいなかったからか?いや、それでもイメージさえ出来れば、本当にすぐに簡単に……“イメージ”?
名前でピストルってあるけど……ファンタヘルムには銃って存在しているのか?少なくとも転生してから銃なんて聞いたことすらない。……いやまあ前世でもそう何度も聞いてきたわけではないけど。
「叔父さん、銃って知っていますか?」
「“チュウ”!?馬鹿にすんなよ、それくらい分かっとるわい!自慢じゃないが俺はチュウに自信があってなぁ、これで何人もの女性を……」
「チュウじゃなくて銃です!」
確かに発音は似ているけども。
これではまるで俺が変な質問をしたみたいになってしまう。
「あっはっはっはっ、ちょっとした冗談じゃんか!なに照れてんだよ~!」
「叔父さんがふざけるからですよ……。それで、知っていますか?」
「いや、初めて聞いた。何だそれ、最近の流行りもんか?」
そうハッキリといって首を横に振った。銃という単語は今まで聞いたことがないそうだ。
ファンタヘルムに銃が発明されていないと仮定すると、何でピストルっていう単語だけが魔法の名前として存在しているんだ?【アクア・ピストル】の発案者が偶然その名前にしただけなのか?……いや、魔法の構え方が銃の打ち方と明らかに似過ぎている。意識しないとここまで似つかない。それとも叔父さんが知らないだけで、この世界でも銃は存在している……もしくは存在していた、か。
「お~いアスタ、さっきから何考えこんでんだ?」
「……いいえ、大丈夫です」
「ははぁ~ん、さてはあのナエナちゃんって子とチュウする想像していたなぁ~?だからあんな質問を……とんだスケベになったなぁアスタくんッ!」
「ち、違います!?」
とんでもない勘違い返答をされて、思わず大声で返事をしてしまった。慌てる俺の様子にクミル叔父さんはガハハと大きく笑う。
真剣に【アクア・ピストル】の語源について考察していたのに、叔父さんのせいでやる気を削がれてしまった。
「まあとりあえず、さっきの感覚が忘れないうちに、もう1回やってみようか!もしかしたら今日中には、良いところまで行けるかもしれないしな!」
何故こうも興奮気味になっているのかは分からないが、確かにいつまでも意味のない考えごとをするのは時間の無駄だ。叔父さんが何日間、ペレーハ村に滞在するのか分からない。そのまま練習を再開しよう。
因みに俺がナエナちゃんで想像したという件については、ちゃんと話し合って訂正してもらおう。流石にこの誤解だけはずっと残すわけにはいかない、俺の気持ち的に。
◇
その後も【アクア・ピストル】の連発を繰り返した。
回数を重ねるごとに魔法の形と飛距離は、徐々にクミル叔父さんの魔法に近付いてきている。この調子でいけば水の球を大木の狙った個所に当てられるかもしれない。
「……アスタ、今の身体の調子はどうだ?何か変化ないか?」
ここでずっと後ろにいるクミル叔父さんから謎の問い掛けをされた。
内容が曖昧で質問の意図が汲み取りにくいが、恐らく連発して練習をしてきた俺への気遣いだろう。確かに若干疲れてきたが、まだ練習を続けられる。特に問題はない。
「いいえ……特には。まだ続けられます」
「……そうか。それじゃあ、このままもっと続けてみよう!」
一体クミル叔父さんは何を考えているのか少し気になってしまったが、今はとりあえず練習に集中することにする。
【水魔法:アクア・ピストル】
「がぁはッ……!?」
魔法を発動した瞬間、突如として原因不明の頭痛に襲われてしまう。
激痛と言い表してもいい程の苦痛に、思わず両手で頭を抑え込みながら荒々しい声が出てしまう。内側から湧いてきた様な痛みに、俺はただ体を地面に倒して丸くすることしかできなかった。
痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ!!頭が痛いッ、熱いッ、締め付けられるッ!!一体何これッ、呼吸する度に痛みが揺れる様に響いてくるッ!?ヤバいッ……苦しい、辛い……!!
「あぁ~、やっぱりなぁ。もうそろそろだと思っていたぜ」
まるでこの激痛の原因を知っている様な口ぶりでクミル叔父はそう呟く。叔父さんの方へと視線を向けて、何とかしてほしいと目だけで祈願した。とてもじゃないが何かを発するのも辛くて、言葉で話せられなかった。
「はいはい、ちょいとお待ち。とりあえず……ほれ、これでも飲んでみろ」
そう言いながらクミル叔父はバッグから持参の水筒を取り出して、飲み口を俺の口元に運ぶ。
ゴクッゴクッと水筒に入ってある飲み水を口の中に流し込む。飲み終えると水筒から口を話して呼吸を整える。すると徐々に痛みが引いていき、気分が楽になっていった。
「どうだ、少しは楽になったか?」
「はぁ……はぁ……はい……。少し、楽には……」
痛みの余韻が残っているため万全とは言えない。だけどクミル叔父さんのおかげでもう頭痛が和らぎ、こうして話せるようにまでなった。
「今のは……何ですか……?」
「さっきの頭の痛みは魔力枯渇の影響だ。アスタ、お前こんな風に魔法をバンバン連発したのは初めてだろ?口で説明するよりも見たほうが解り易いか。今、自分のステータス見てみな」
そう言われるがまま、叔父さんの目の前でステータスウィンドウを表示する。
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アスタ・サーネス
種族:人族
性別:男
年齢:13
状態:魔力枯渇『弱』 やや披露
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いつもは“健康”や“疲労”、“やや空腹”しか文字化しなかった『状態』が、今は“魔力枯渇『弱』”と表示されている。こんなの初めて見た。これについて叔父さんは解説してくれた。
どうやら頭痛の原因は、魔力を限界まで酷使することで起こる“魔力枯渇”による症状のようだ。走り続けて体力がなくなり頭に酸素がいかなくなって頭痛が起きるように、魔法を連発して魔力がなくなると気分が悪くなり、時には頭痛が起こることもあるそうだ。症状の最初は魔力枯渇『強』で、ある程度、回復すると魔力枯渇『弱』になるそうだ。回復すれば痛みは治まる。
冒険者でも偶に起きる状態らしく、いざ大事な局面でそんな状態になってしまったら大事なため、冒険者は常時その対策として魔力回復薬という一種の薬物を持参しているそうだ。俺に飲ませてくれた飲み物がまさにそれらしい。
「ごめんなさい、そんな大事な物……」
魔法回復薬については書物で知っていた。
今のどれくらいの相場なのかは知らないが、決して安く買える代物ではないことだけは知っている。初めての苦痛だったとはいえ、それを遠慮なく飲んでしまうとは。
「いやいや、いいって!そんな高級な物ってわけでもないし、1本や2本くらいなんも問題ねぇよ!」
逆に気を遣わせてしまった。苦痛の余韻と共に湧き上がる申し訳ない気持ちで気分が滅入てしまう。
ここでふと、さっきのクミル叔父さんの質問の意図をやっと理解できた。あれは俺の魔力量に余裕があるかどうかの確認だったのだろう。せっかくの親切を俺は考えなしに断るなんて。自分でも魔力量が少ないことは自負していたというのに。これで体調管理できない馬鹿と思われても仕方がない。
「まあ~、そろそろ起きるのを分かってて、敢えて魔法を打たせたけどな。ぶっちゃけた話、俺のせいでもあるんだがな!」
「……えっ?」
クミル叔父さん曰く、魔法を教える者として一度だけでも体感してほしかったそうだ。攻撃魔法だけでなく補助魔法もそうだが、魔力を酷使して疲労が過剰すると、最悪死んでしまうケースがあるらしい。俺が体感したのは、その片鱗だそうだ。
つまりクミル叔父さんは、魔力枯渇の危険性をその身で覚えてもらうために、敢えて何も教えずにいた。
すごい、そこまで考えてくれていたなんて……。うすうす感じていたけど、叔父さんって指導者の才能があるんだ。確かに苦しい思いをしたけど、そのおかげで魔力がどれほど大事なものか理解できた。
「それでアスタ……この後、どうする?」
ここでまた曖昧な質問された。
これも上手く、その意図をくみ取ることができず、素直に首を曲げてどういう意味なのか聞き返す。
「いやまあ……あんな思いをさせてアレだけど……まだ魔法を練習、続けるか?一応さっき飲んで回復薬で魔力は戻っていると思うし、また再開しようと思えばできるが……今日はここまでにするか?」
まだ練習する気力が残っているのか、という意味の質問だったようだ。確かに、あの苦痛の後なら少なくとも乗り気で練習を続けたいとは思わないだろう。正直、未だに気分の悪さがあるせいで攻撃魔法への意欲も無くなっている。
だけど、そんな俺個人だけの都合で練習を中断する決断はできない。クミル叔父さんがわざわざ約束のために『ペレーハ村』まで来てくれた。それをたった1回の自己管理の失敗で終わらすなんて、とても認められない。
「まだ……」
「んっ……?」
また魔力を消費して魔力枯渇『強』になれば苦痛が蘇ってくる。そう思うと、つい怖気づいてしまい、しっかりと口が動いてくれない。だけど、続けたいという意思は揺るがない。終わらせたくない。
「まだ……続けたい、です……。もう少しだけ、やっても……いいですか?」
「全然構わないが……本当に大丈夫か?魔法の習得なんてマイペースでやりゃいいんだし、そんな急いでやる必要はねぇぞ。俺もそんなすぐ村から出て行くわけじゃないし」
「……具体的に、あとどれくらい居てくれるのですか?」
「おっ、嬉しい聞き方だなぁ~!う~ん、そうだなぁ……あと5日間は居ようかな!まあ、義理姉さんにとっちゃ家事の量が増えて嫌だろうけど」
以前と比べてすぐに発つわけではないが、それでもたったの5日間。クミル叔父さんが作ってくれたこの期間、せめて【アクア・ピストル】だけでも上達して、その成果を魅せたい。それが叔父さんを喜ばすことができる唯一の俺ができることだから。
「お願いします……俺はまだ……続けたい、です」
そう祈願する俺の態度を見て、クミル叔父さんはやれやれとため息を吐く。
「オ~ケ~、分かったよ。そんなに頼まれちゃあ断れないぜ。ただし、まだ魔力が回復していないだろうし、一旦休憩な。時間的にもちょうど昼前くらいだろうし、昼飯にするか」
「……解りました」
少し感情的になってしまい、無計画に行動を起こすところだった。俺は本当にバカだ。練習を続けるにしても休憩を挟むという事を考えていなかった。少し恥ずかしくなってしまう。
練習に集中していたせいか時間の経過が全く気にしていなかったが、空を見上げると太陽が真上まで昇っていた。そろそろ昼食時と思うと小腹が空いてきた気分になり、身体も多少だが動けられるようになった。俺って意外と食いしん坊なのだろうか。そう思いながら、母さんから受け取った籠から弁当を取り出して準備する。
「それにしてもアスタ、お前って……実はドⅯなのか?」
「えっ……!?」
あまりに聞き逃せない言葉に思わずクミル叔父の方へ振り向いてしまう。何故そんな不名誉にも程がある言葉を俺に投げかけたのか。そんな俺の反応を見ると、叔父さんはゲラゲラ笑いながら話す。
「だってよぉ~、魔力枯渇した後なら普通、魔法発動したがらないもんだぜ?俺だってそうだ、だって気持ちが悪いもん!それなのにお前は続けたいって、どんだけさっきの苦しみに快感を覚えちまったんだよ全く!」
「ち、違いますッ!そういうのじゃなくて……!?」
「まあ安心しろって、兄さんたちには言わないから!男同士の秘密だぜッ!!」
「ですから……!?」
ここでまた気分の悪さが蘇ってきた。無理に声を大きくしたせいか、それとも反論して無駄に気力を疲労したからだろうか。変に口挟むとまたクミル叔父のペースの飲まれてしまうから、これ以上は何も言わないことにしよう。もちろん元気になったら、しっかりと訂正してもらうつもりだ。
そんなクミル叔父さんとの談笑をしながら昼休憩をした後、また【アクア・ピストル】の練習を再開した。今度は自己管理を徹底して、少しの木体調の変化に気を付けて取り組む。そんな転生して初の攻撃魔法の練習を無事に5日間、熟してみせた。