英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第21話 あの戦闘の裏には

 時間の経過に連れて雲は流れていき、満月がペレーハ村の上空に姿を見せる。窓から入る月明かりの輝きも増し、自室の影は薄れて、お互いに素顔がはっきり見える程の視界を得られた。

 先まで月光の元にいたからクロは整った顔をしていると認識していたが、こうも至近距離に近寄られると容姿端麗だとよく分かる。前世も含めて、今まで見たことがない程に綺麗な顔だ。

 

「「……」」

 

 そんなクロと俺は何故か無言になり、お互いを見合っている。ベッドの上をあぐらで座っている初対面の少女と見つめ合う構図。傍から見れば通報されかねないな。

 次の質問を待っているから俺は無言を突き通しているのだが、何故かクロも転生者の話題以降、口を開こうとしない。視線をずっと俺の方へ向けていて、何かを考えているわけではない。まるで俺を待っている様だった。

 

「えっと……次の質問は?」

 

「……アスタ、ずっと答えて、くれた。……今後、私が答える番。……聞きたい事、沢山ある、でしょ?」

 

 どうやら質問の権利をくれるそうだ。本当になんとも律儀な人だ。

 それにしても慣れというのはある意味怖いな。抱いていたはずの警戒心、不安感や恐怖感が無意識に解いてしまっている。まるで魔法にかかったかの様に。そのおかげか口は思うように動くことができ、クロの言葉に甘えて質問する。

 

「何でも、いいのですか?」

 

「……全部は、答えられない。……ごめん」

 

 少し申し訳なさそうにそう言うが、別に咎める気はない。

 

「大丈夫です。答えられる程度で」

 

「……ありがとう」

 

 最初に聞く内容はもう決まっている。一体どんな返答がくるのか不安と好奇心が揺れる心境のまま口にする。

 

「それじゃあ……キミはどうやって、俺が転生者だって見破ったのですか?」

 

 必然にして当然の疑問。だけどクロは首を横に振る。

 

「……ごめん、言えない。……極秘情報、だから」

 

 早速返答拒否されてしまった。仕方がない、なら転生者関連の別の質問をしてみよう。

 

「この世界の転生者の認知はどれ程ですか?」

 

「……公言、されていない。……だから、知っている人、ほとんどいない。……と、思う」

 

「俺以外にも転生者はいるのですか?」

 

「……昔も、いた。……数十年、前に。……天寿して、もういない。……今、何人いるか、解らない」

 

「転生者って世間にとって珍しい存在ですか?」

 

「……珍しい、って枠じゃない。……超、希少。……だから、他の人にはこんな風に、話さない方がいい」

 

 やはり転生者というのは稀な存在らしい。転生者関連の話題を控えて慎重に過ごしてきたのは間違えではなかった。

 

「キミは何をしに俺の元まで来たのですか?」

 

「……アスタが、転生者かどうか、この目で確認するため。……ついでに、色々と質問も」

 

 それがさっきの質問だったのか。

 こうして何回も質問すると、今後は俺の方が申し訳ないと感じてしまう。返答できない事も聞いて、クロに謝罪させてしまうと尚の事。しかし他にどういう聞き方をすればいいのか言葉が思いつかない。ここでコミュ障の弊害が出るとは。

 

「……次、ないの?」

 

 クロの様子的にはまだ質問してもいいそうだ。とりあえず一旦、転生者関連の質問を止めて別の質問もしよう。

 

「えっと……それじゃあ、キミは何者?」

 

「……クロ」

 

 それだけ言って、後は何も言わなくなった。

 これは言葉の足りなかった俺が悪いのだろうか。それともプライバシーなことだったから、それ以上の返答が出来ないのだろうか。

 

「じゃあ……何処から来たの?」

 

「……あそこ」

 

 そう言いながら窓に指をさした。

 俺は「何処からペレーハ村にやって来た?」という意味で質問したのだが、どうやらクロは「何処から部屋に来た?」と解釈してしまったらしい。

 

「えっと……ごめん、言い直すね。何処からこの村に来たの?」

 

「……あっち」

 

 今後は壁に指をさした。

 来た方向を指しているのかな?てことは……北東から来たってこと?……いや、もしかして今度は「北東門から来た」って言っているつもり?!違う、そういうことを聞きたいわけじゃない!?……なんでだろう、人と話すのってこんなに疲れるものだっけ?

 

「……さっき、アスタに見せた夢の事。……詳細、話そうか?」

 

 黙々を考えていると、クロはとある事について提案する。それは俺が見ていた、あの悪夢の様な夢についてだ。寝起き早々、彼女という存在に気を取られていたせいで完全に忘れていた。確かにあの夢についても不可解な点が多かった。最後のゴブリンに攻撃された結末については特に。

 

「その言い方だと……やっぱり、あの夢ってキミが俺に見せたのですか?」

 

「……うん」

 

 クロは首を縦に振って肯定した。

 まるで自分の力で見せたかの様な発言をしていた。もしかしたらと予想はしていたが、まさかその通りだったとは。

 

「すごい……。魔法?それともスキル?」

 

「……【夢写し】。……スキルの一種」

 

 クロ曰く、【夢写し】というのは睡眠状態の相手に、過去に自分が見た記憶を夢として見せるスキルだそうだ。見せる記憶の選択や制限、発動の際に相手を起こさない様に慎重な魔力操作を行うため、発動条件も含めてシビアなスキルらしい。

 つまり夢での俺の立ち位置は、クロの視点だったという事になる。どうりでその場から動くことも、視線を外すこともできなかったのか。思い出すと、自分の背丈のわりには視点が低かった気がする。

 

「じゃあ……あの夢は、本当に起きていたこと……?」

 

 恐る恐る聞くと、クロはもう一度首を縦に振った。

 本当は自分でも気付いていたが認めたくなかった。周りから良い人と思われるように振舞ってきた自分が、モンスター相手ではあんな狂人の様な行動をとったことを。短い時間での気持ちの凹凸な変化に疲れてきた。起きたばかりだが今ならもう一度寝られる気がする。

 

 やっぱり……そうだったんだ。じゃああれは本当に……俺だったんだ。……でももしそうなら、何で俺の首は無事……うっ!?

 

 急な頭痛と共に、今度は自分自身の視点からのゴブリンと戦う様子を思い出してしまった。フラッシュバックした記憶のせいで、一気にあの時の恐怖も思い出して頭を押さえて震えてしまう。まるで過呼吸というほど息も少しずつ荒くなり、先まであった冷静さが失われる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

 

「……私を、見て」

 

 そんな俺の様子を見てクロは傍に近寄り、もう一度右手を俺の頬にそっと当てた。下に向けていた視線を上げて、彼女と見つめ合う。

 

「……落ち着いて。……あなたが今、何を考えているのか、分からない。……だけど、これだけは言える。……あなた、勝った。……あのゴブリンたちから、勝って、生き残っている。……だから今、こうしてあなたは、生きている」

 

 クロは俺と視線を合わせ続けながらそう語ってくれた。すると何故か、恐怖心がまた嘘の様に薄れ始めた。記憶は今でも頭の中にはっきりと残っているのに、恐怖だけが消えていく。何かしらの魔法かスキルを発動されたのだろうか。いや、方法はどうでもいい。とにかく彼女のおかげでまた落ち着き始めた。

 

「……ありがとう。もう、大丈夫です」

 

「……よかった」

 

 そう言いながらクロは右手を離して、再びあぐらで座る。まだ質問を聞き入れる体勢でいてくれる様だ。丁度この件についての不可解な点がまだある。それについて深く掘り下げておきたい。

 

「もしあれが現実だったら……何で俺は無事なの?見せてくれた夢じゃあ、ゴブリンは俺の首に攻撃したはず……」

 

 夢の最後では、倒れている俺に剣を装備したゴブリンが首元を狙って攻撃されていた。もし食らっていれば間違いなく、他のゴブリンたちと同様に俺も絶命しているはず。だけど今こうして俺は生きている。どうしても納得ができなかった。

 

「……説明、長くなる。……それでも、いい?」

 

 この件の詳細を話してくれるそうだ。クロ自身、語るのには特に苦ではないらしい。俺は首を縦に振って、是非とお願いした。

 

 まず初めに、クロはあの日の戦いを最初から見ていたそうだ。正確には森から流血して出て来た俺が、遅れて現れた10体のゴブリンと対面した場面からだ。彼女は当時、何らかの闇魔法で姿を透明化にして身を隠していた。

 そして、あの日の戦闘には幾つか秘密があった。夢でも気付けなかったが、どうやらあの時クロは俺の戦闘をサポートしてくれていた。【アクア・ピストル】ので全ての玉が狙い通りの軌道に沿ったのは、彼女のおかげだったらしい。どうやら遠距離から支援できる闇魔法を発動していたらしく、そのおかげで【アクア・ピストル】の威力を保ったまま飛距離を伸ばしてくれた。元々、何か手伝いたい気持ちがあったらしく、俺が【アクア・ピストル】の体勢を見てこれなら少しは手助けできると、魔法を発動してくれたそうだ。

 

「……大きな、お世話だった?」

 

「そんなことないよ!まさかそんな事をしていてくれたなんて、本当にありがとう……!それにしても、キミって多才なんですね。そんな色んな事を、同時に出来るなんて」

 

「……これが私の、戦い方」

 

 そう言いながらクロはローブの内側から、黒色の細い棒を取り出してみせてくれた。どうやらその棒が武器らしく、先端から魔法を飛ばして支援していたらしい。

 話を続けてもらうと、影から戦闘を手伝っていくうちに俺自身に何かしらの変化が起きた。それは草原の上で初めて1体のゴブリンを絶命させた直後だ。あれはクロとは関与していないらしく、どうやらあのタイミングで【狂人化】を発動してしまったらしい。

 

 夢で見せてくれた当時の俺の変貌ぶりには、クロも驚いていたそうだ。負傷しているはずの脚で全力疾走したり、攻撃を受けたのにも関わらず平然と戦闘を続ける等、常人には出来ない行動をやって見せたのだから当然だろう。それでも彼女は、その後も継続して支援をし続けていてくれたそうだ。しかも【アクア・ピストル】の弾道を安定させてくれただけではなく、俺が出血死しないように少しでも出血を抑えようとまた新たに魔法も発動して支援してくれたそうだ。まさかそこまでの事をしてくれていたなんて。彼女には本当に頭が上がらない。

 最後に途中で見られなくなった夢の続きは、結果から言うとクロが助けてくれたそうだ。気絶していた俺では対処できないと判断して、ゴブリンの攻撃が当たる前に【シャドウ・ベール】を発動して拘束してくれた。かなりギリギリだったらしい。突如として現れた黒い紐にゴブリンは為す術がなく、そのまま拘束する力を強められて絞め殺された。

 これで最後の1体も倒されて、数時間後に俺と10体のゴブリンの死体が共に倒れていた所を村に住民に発見された、というわけらしい。これで先の両親から聞いた話と繋がった。因みにその間クロは、その後もずっと姿を隠して保護される俺の様子を見守っていたそうだ。

 

「……あのゴブリン、ビックリした。……まさか、あんな風に、動けるなんて」

 

 クロから見ても、やはり最後のゴブリンあの回避は見事なものだったらしい。それなら仕方がない、相手の方が上手だったと認めるほかない。

 話を聞いて、あの戦いについて色々と納得できた。改めて振り返ってみると全て都合が良かった。まるで自分が物語の主人公になっているかのように、物事が順調にいき過ぎていた。ゴブリンの調査も正直に言って自分の魔法ならなんとかできると思い込んでいた。だけど、ふと現実に目を向けると俺は所詮ただの農民の息子。こうして生きているのは、また両親と話せられたのは、クロのおかげだった。

 

「本当に……ありがとう」

 

「……ありがとう、沢山言うね。……その言葉、好きなの?」

 

「別にそういう訳じゃないかな。本当に感謝しているから、何回も言いたい」

 

「……そう。……どう、いたしまして」

 

 確かに口癖かと言われる程、今宵は何回も感謝の言葉を言った。他に言葉が思いつかないというのもあるが、やはり相手に心からのお礼を伝えるのはこの言葉が一番だと思う。だから俺は何回も言うし、寧ろ言いたい。

 因みにクロは、【水魔法】の威力も含めて初めての【狂人化】の発動なのにあの戦いぶりは凄いと評価してくれる。正直、戦闘に関して称賛されてもあまり嬉しくない。

 

「それにしても【夢写し】かぁ……本当にすごいスキルですね。夢と言うより、実物を見ていた気分でしたよ」

 

「……でも、発動まで少し大変。……ずっと、寝ているアスタに傍に立って、魔力を注ぎ続けるのだから。……それが、一番大事な条件」

 

「相手を起こさないように慎重に近付く……確かに発動まで大変なスキルですね。……でも俺が起きた時、キミは部屋の端にいたような……」

 

「……キミが、いきなり起きて、ビックリした。……咄嗟に、端まで逃げちゃった」

 

 確かにいきなり起き上がれたら警戒して逃げたくはなるかも。でもどちらかというと、あんな夢を見せられた俺の方がビックリはしたかな。

 

「因みに何で俺にあれを見せようと思ったのですか?」

 

「……速く、キミと話したかった。……でも、無理に起こすの、申し訳ない。……だから、あの夢を見せれば、起きてくれるかなと、思って。……怖い思い、させるつもりはなかった」

 

 悪意を持ってあの夢を見せたわけじゃないらしい。俺を起こしたいというのであれば、あの夢の選択は間違いではなかった。寧ろ正解だった。でもあんな夢を見せられるくらいなら、普通に起こされた方がマシだったかも。

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