英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第24話 思いがけない来客

 五芒星勇者の物語は、知らない者はいないと言っても過言な程、ファンタヘルムに深く浸透されている。五芒星勇者に関して記された物は、絵本や紙芝居や小説、はたまた壁画や彫像と様々な形で描き残されている。この本は五芒星勇者の誕生の大まかな内容だったが、書物によっては1人の勇者のみを着目して細かく記した物などもある。

 俺も幼少の頃、よく母さんに絵本で読み聞かせしてもらっていた。当時は「流石は異世界、勇者や魔王も存在していたんだな」という感想を抱いていたが、こうして色々な書物で五芒星勇者の伝説に読み漁っていると、いつしか疑念を抱くようになった。それは、これらの書物は真実かどうか、ということ。この本を含めて10冊近くの五芒星勇者に関する歴史を読んできたが、共通点がほとんどない。やれ全員が屈強な戦士と思いきや実は貧相な村人とか、やれ全員が人族と思いきや実は人族ではなかったとか、やれ全員がその後は貴族のお姫様と結婚したと思いきや実は魔王と相打ちした等、同じ勇者のはずなのにかなりの齟齬が生じている。

 

「十中八九……出版社が売上重視して内容を面白可笑しくして脚色したんだろう。こうして歴史が改悪していくんだな。……まあ、地球でも珍しい話じゃないか」

 

 実際、子供に五芒星勇者の存在を教えるのに、こんな堅苦しい文字だらけの本より稚拙でポップな絵本の方が余程いい。読みやすいし、なにより覚えやすい。後の世代に語り継がせるという面では、どんな形であれ成功はしている。決して悪いことだとは思わない。だけど、実際に勇者たちは何者であったのか、旅の道中でどんな魔法やスキルを覚えて活用したのか、本当の詳細を知れないのは少し残念だとは思っている。

 

「はぁ~……。やっと眠気が来た……」

 

 気怠そうに欠伸をして、本を近くの山積みに置く。一応、上に重ねるがまた続けて読もうとは思わない。面白い話ではあったが何回も連続で読むほどではない。次はいつになるのか分からないが、きっとまた読む日は来るだろう。

 読書に満足した俺は再びベッドで横になり、静かに寝息を立てる。

 

 

星暦2032年 冬の40日 無の日 夕暮れ

 

 今日も今日とて変わらない一日だった。

 朝日の眩しさに鬱陶しく感じながら目覚めては、特に何もせず一日中惰眠を謳歌した。まさに典型的な引きこもりの例だな。そんな一日もあっという間に時間が過ぎた現在、居間にて家族3人で談笑しながら夕食をする。とは言っても、いつもの様に俺は無言を通し、両親が話しているだけだが。

 

「なぁ、今日チョーダさんから聞いた話なんだが、王都フォンオートの王位が王様の息子に継承されたそうだぜ」

 

「王都フォンオートって……あの『森の都』の?」

 

 王都フォンオートはウエスト大陸の王都の1つで、森林の囲まれているという珍しい地形の場所だって聞いたことあるな。緑に大自然と共に暮らせることから通称『森の都』とも呼ばれている。

 

「ああ、そうだ。そして、その継承された子供が……次男坊らしい」

 

「あらっ、珍しいわね。普通は年功序列で決まるはずなのに。……よほど長男が無能だったのかしら?」

 

「いいや、なんでも長男坊は王位継承の修行の旅に出てから、音信不通で生存確認がとれていないらしい」

 

「まあ!」

 

 つまり行方不明か……。

 

「その王都の王様も寿命が近いらしいから急遽、次男坊に継承したんだと。王都の一大イベントだかな、戴冠式は盛大に盛り上がったそうだ。内心は複雑だろうけどな」

 

「その長男は今も見つかっていないの?」

 

「ここ数年間、調査隊を組んで探していたらしい。……2,3週間くらい前に、新聞でその長男坊の写し付きの調査協力の記事があったからまだなんだろう」

 

「盗賊にでも襲われたのかしら?怖いわねぇ……」

 

「この村は狙われにくいと思うが、用心はしておこう」

 

 まさか、そんなことが起っていたとは。俺も新聞は目にするが父さん程、定期的に読むわけではない。だから今回の件もそうだし、今のウエスト大陸で何が流行っているとか何が起こったのか一切情報が入ってない。まあ、興味がないから別にいいけど。

 もうすぐ夕食を食べ終わろうとする時、父さんが何かを思いだしたかのように声を上げる。

 

「あっ……!そういえば今日うちの屋根裏に泊まる人がいるのだけど……アスタは大丈夫?」

 

 なんとも急な話だ。そういうのは、もっと事前に知らせておくべきだろ。しかも、よりにもよって屋根裏なんて……。俺の部屋の真上じゃないか。

 俺よりも母さんの方が驚いた表情を見せる。どうやら母さんも初耳らしい。

 

「ちょっと、私は聞いていないわよ!?」

 

「悪い悪い!手紙で送ってくれていて、「出来れば来るまで名前は伏せてくれ」って書いてあったから黙っていたんだ!いや~、最初に手紙を見つけて良かった!こういうサプライズは結構好きなんだわ!」

 

「だからってお客さんが来ること自体も隠さなくても……。なにも準備していないわよ、どうするの?」

 

「屋根裏は俺が事前に掃除しておいたし、食い物も大量に買い込んである!ちゃんと準備はしておいた!」

 

 ここ数日間、父さんが珍しく屋根裏の掃除をしていたのはそういうことだったのか。食料も3人家族分にしては多く溜めこんでいるとは思っていたけど、その来客の分もか。

 

「……さっきの話の矢先だから念のために聞くけど、そのお客さん……大丈夫なの?」

 

「大丈夫、大丈夫!お前も会ったことある人だから!」

 

「……クミルではないわね。事前に手紙を出すような真似はしないし。一体誰なんだろう……」

 

 クミル叔父さんは毎回、突拍子もなく訪れてきた。確かに前もって連絡するという事をしない性格なのが窺える。知らない来客が宿泊されるのは少し警戒してしまうけど、父さんがここまで言うのだから問題ないのだろう。俺からしたら関わってこなければそれでいい。

 夕食を食べ終えて食器を片付け、俺は自室に戻ろうと階段を上がる。

 

「アスタ、おやすみ!」

 

「おやすみなさい、アスタ」

 

 本当にいつになったら分かってくれるのだろうか。俺が返事しないのは理解しているはずなのに両親は声を掛ける。それに対して俺は今日も返答せずに、そのまま2階へ上がる。

 せっかく両親が声を掛けてくれていることに罪悪感をまたも覚えつつ自室に入り、カーテンを開けてベッドに腰を下ろす。これ感覚ももう何千回目だろうか。決してなれることのないこの気持ちに嫌気がさす。思わず大きくため息を吐いてしまう程に。

 

「あらっ!来客って、あなただったのね!久しぶり、元気にしていた?」

 

 そんな時、1階から母さんの大きく驚いた声が聞こえた。どうやら父さんが言っていた来客が到着したようだ。母さんの反応的に本当に知人のようだ。

 

「掃除とかはお父さんが済ませてくれたから、ゆっくり寛いでね」

 

「色々とありがとうございます!確か3階の屋根裏ですよね?」

 

「ええ、そうだよ。……アスタのこと、本当に頼んでもよかったの?」

 

「……任せて下さい。私が……何とかしてみせます」

 

 今日は多少の眠気があるせいで、母さんと来客との会話が上手く聞き取れない。だけど断片的ではあるけど俺の名が出たのと、来客が声色で女の人というのは分かった。心なしか、この声に懐かしさを感じる。

 

 一体、誰だ?俺のことを知っている様だけど……親戚か?いや、クミル叔父さん以外の親族には会ったことはない。だけど何だ……この込み上げてくる気持ちは?本当に誰なんだ……。

 

 そう考えていると、トンットンットンッと誰かが2階に上がる足音が聞こえる。母さんなのか父さんなのか、それともその来客なのか。屋根裏までの通路は、2階に上がって自室と両親の部屋の順に前を通って3階への階段に上がる。つまり必ず、自室の前を通らなければいけない。迫りくる足音に知らない人が来るという恐怖に襲われ始める。呼吸は荒くなり、視界が歪む。

 

 来るな……来るな……来るな……!

 

 無意識にベッドから起きるが、そこから硬直して身動きが取れない。ただ扉に向かってそう念じ続けた。願いが通ったのか足音は自室の前を素通りして、そのまま3階への階段に向かっていった。足音の正体は来客だったようだ。

 来客は3階に上がるとゴソゴソと音を立てる。恐らく荷物を整理して寝る準備をしているのだろう。しばらくすると音は止まった。

 

 ……寝たのか?

 

 クミル叔父さんとは違っていびきは聞こえない。だが一切の物音はしない、間違いなく就寝した様子。そう理解すると硬直した体が動きだし、脱力する様に再びベッドに横になる。それでも俺の中では安心できなかった。知らない人がいるという恐怖はまだ続き、心の中に不安が残っている。

 

 きっと……大丈夫……。母さんたちがそう思った人なんだ。きっと大丈夫……だよな……?何も心配することはない。……早く寝よう。

 

 自分にそう言い聞かせて、今度こそ眠りにつこうとする。しかし知らない人が自室の上にいることを意識すると、寝ようにもなかなか眠れなかった。眠気はあるのだが頭がどうしても考えてしまう。

 

 天井突き破ってこないだろうか?うちの金銭盗まれないだろうか?本当に俺たちの害はないだろうか?

 

 くだらない妄想をしてしまう。そんな考えが始まって数分後、ようやく呼吸も落ち着き始めて、いつの間にか眠っていた。だけど俺は気付いていなかった。その知らない人を意識し続けたおかげで、3年ぶりにあの日の記憶を気にせずにぐっすりと寝られたということに。

 

 

星暦2032年 冬の41日 光の日 早朝

 

 またもカーテン全開にしたまま寝たせいで、朝日の光が部屋に差し込み、それに目覚めた。こんなこと数年前にもあったな。だけど、あの時とは違って今回はやけに目覚めがいい。久々の気持ちのいい起床をした。

 せっかく早起きでも何かをするわけでもない。やることはあるのだが、やりたくない。両親に何か役に立ちたいのだが何もできない。今日も今日で情けない1日が始める。

 ベッドから起き上がってカーテンを閉めようとした。その時、誰かが自室の扉にコンッコンッとノックする。

 

「もしも~し、起きてますか~?」

 

 扉の方へ振り向くと、扉越しで女の人が自室に響く。声から泊まった来客だとすぐに察せた。昨晩は意識していたが、今は寝起きのせいで頭が働かない。正直に言ってどうでもよく思えてきた。返答せずに無視しよう。

 

「……んっ?起きてるぅ~?もう朝だよ~。」

 

 ……そもそも何しに来たんだ、この人は?母さんたちから俺のこと聞いていないのか?まあいい、黙っていたらどっか行ってくれだろう。

 

 そう思い無視を通すが、女の人はその後も何度もコンッコンッとノックを繰り返す。更にはリズミカルにノックをして、遊び感覚で呼び続ける。

 

「……はぁ」

 

 予想外な行動とあまりのしつこさに思わずため息をついてしまった。大きな声ではないはずだが、扉越しで女の人の耳に入ったようだ。

 

「あぁ~、やっぱり起きてた!もぉ~、何で無視するの~!……部屋に入ってもいい?」

 

「入らないでッ!」

 

 即座に返答してしまった。数年ぶりの人との会話だ。まさか両親以外で話すとは思わなかった。せっかく口が動いたのだ、このまま勢いで自分の意思を伝えよう。

 

「だ、誰かは、知りませんけど……もう、関わらないで下さい。お、俺は……1人がいい……」

 

 自分で言うのもあれだが意外に伝えられた。

 女の人は拒絶されたことに悔しかったのか黙った。俺にとっては好都合。そのまま何処かへ行ってほしい。

 

「……あっそぉ。……ねぇねぇ~、扉の前から離れてて……アスタくん」

 

「えっ……」

 

 俺のこと君付け、それに今の言い方は……まさかッ!?

 

 その刹那、女の人は力強くバコーンッと自室の扉を蹴り破った。扉はその勢いで、窓際にいる俺の所まで飛んできた。なんとか咄嗟で横に倒れたことで回避できたが、かなり危なかった。

 

「うわぁぁぁぁぁあああああ!!ごめんアスタくん、ケガしていない!?」

 

 女の人はそう言いながら自室に入って来た。それに対する返答をせず、俺はただ無心に体を起こして女の人の方へ顔を向ける。その瞬間、俺の心臓は大きく鳴った。

 肩まである長めの髪。大人の雰囲気のある整った容姿。耳なじみのある声色。視界に映ったのは前世の初恋の人、その人だった。

 

 何でこの世界に……いや、違う。

 

 目の前にいる女の人の顔をよく見ると、最後に見た初恋の人と少し違った。目前の女の人の髪色は綺麗な赤色で、その容姿も少し幼さが残っている。そして何より、この歳になってこんな乱暴な真似をするわけがなかった。

 

 何故昨晩、すぐに気付かなかったんだ?……そうだ、ここ数年あの記憶のせいで忘れていたんだ。そのせいで声だけで気付かなかったんだ。でも自分の眼で見てわかる。この人はもう何年も前に、この村から離れたあの子だ。髪色に話し方、間違いない……。

 

「……ナエナちゃん?」

 

「……うん!久しぶり、アスタくん!!」

 

 俺に名前を当てられると、女の人は屈託のない笑みを浮かべて返事をする。

 女の人の名前はナエナ・マーシェナ。この世界で唯一の親友だった女性(ひと)だ。

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