英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第38話 思わぬ増援 ポスロ・サーネス

 石橋は私の頭上を通り、そのままゴブリンたちに激突。ゴブリンたちと共に地面に落ちても勢いは止まることなく、石橋は燃え続けている西門にも衝突した。その際、西門はベキベキと鳴りながら一気に崩れる。

 巻き込まれたゴブリンたちの半分近くが倒れる。運良く攻撃を受けなかった者たちは、突然のことに唖然とした表情で立ち尽くしている。

 

「えっ……何、今の……!?」

 

「いや~、案外届くもんだな!」

 

 再び声のする方へ振り返ると、そこにはアスタくんのお父さんが立っていた。しかも自分の村が襲われているとは思えない程、良い笑顔を浮かべていた。

 

「おじさん!?なんでここに?!」

 

「んっ?そりゃナエナちゃんの手伝いに決まっているだろ?」

 

「なに言っているんですか!?私のことなんていいので、おじさんも速く……」

 

「あらよっと」

 

 近くにあったシャベルを拾い、私の言葉を無視して呑気な声を出しながらこっちに歩み寄ってくる。

 

「いやぁ~ナエナちゃん、マジで助かったよ!ナエナちゃんが時間を稼いでくれたおかげでほれっ!ここら辺に住んでいた連中みんな、無事に避難が終わった!」

 

 確かにさっきまであった住民たちの悲鳴が聞こえない。戦闘に夢中で気付かなかったけど、みんな北東門まで逃げ切ったみたい。

 

「……まあ、手遅れになっちまった連中もいるみたいだけどな」

 

 声のトーンが若干下がり、アスタくんのお父さんはすでに亡くなっている住民たちを見る。その言葉が、未熟な私に強く突き刺さる。

 

「ごめんなさい……私がもう少し速かったら!間に合っていたかもしれない……!」

 

「あっ、いや、違うよ?別にナエナちゃんを責めるつもりで言ったんじゃねぇよ?ただ改めて……許せねぇなぁってな。……あのクソ緑共をッ!」

 

 吞気な口調は一気になくなり、荒々しい言葉遣いでアスタくんのお父さんはゴブリンたちを睨む。それにゴブリンたちは後退りしながらも武器を構える。

 ただの農民なら恐怖を抱くものだけど、アスタくんのお父さんはその逆。寧ろゴブリンたちの様子に鼻で笑う。

 

「ハッ!一丁前に構えやがって。冒険者に憧れてんのか??」

 

「……おじさん、お願いだから逃げて。手伝いに来てくれたのは嬉しいし、さっきのはすごかったけど、相手は武装したモンスターの軍隊。冒険者の私でも全部片付けられるのか怪しいレベル。住民たちの避難ができたなら、私も少ししたらすぐに逃げるから」

 

「ナエナちゃん……少しいいか?」

 

 ゴブリンたちに視線を向けたままアスタくんのお父さんは語りかけてきた。

 

「そりゃただの農民の俺とナエナちゃんとはもうめちゃくちゃ実力差はあるし、助けられる身からしてそんな聖人みたいなことしてくれるのは心の底からありがたいって思っている。でもよぉナエナちゃん……この村のために心中するつもりか?この戦いのために、今日までの努力を費やして死ぬつもりか?」

 

「……っ!」

 

 なんて意地悪な質問。

 ペレーハ村のためにどんなに傷付いて構わないと思って、ゴブリンたちに立ち向かっていた。だけど、こう正面から死ぬ気で戦えるかと問われると、即座に返答ができない。

 はっきり言って、死にたくない。まだ冒険者として達成したい事も、観てみたい景色も、そしてアスタくんと語った新しい夢とか、やりたい事はたくさんある。故郷であるペレーハ村の危機なのは分かっているけど、ここで私の10年以上の努力を終わらせたくない。

 

 だけど……それだと私の意味は?

 せっかく冒険者になって帰ってきたのに、大好きな村を何とかしたい気持ちはあるのに、村で誰よりも強いはずなのに、戦わない訳には……。

 

「ハハッ!若い子らしくていい反応じゃないか!」

 

 一向に返答しない私の表情を見てアスタくんのお父さんは笑う。

 

「いいか?この村とナエナちゃん、どっちかを取れちゅうこの状況だが……俺はきっぱり村の方を切り捨てるッ!!」

 

 まさかの豪語に私は目を丸くしてしまう。

 さっきまでの私の努力を全否定された気分だ。それと同時に、私のためにそう堂々と言ってくれることに嬉しさも感じている。

 

「村は人さえいれば、いつかまた再建できる。だけどな、人は違う。代わりもやり直しもできねぇ。冒険者だろうと、今この村の中で戦いに向いているだろうと、ナエナちゃん……キミを失うようなことは絶対にしたくない」

 

「おじさん……」

 

「別にナエナちゃんの実力を軽んじている訳じゃない。もう立派な大人、しかも一人前の冒険者だっていうのは承知している。だが、辛いや苦しい時はそんなの関係ねぇ。俺たちに村の奴らの避難の先導を任せてくれたのは嬉しかったが、もう少し頼ってくれよ?もう少し巻き込んでくれよ」

 

 私は……愚かな選択をしていたみたい。

 誰も傷付けたくはないために、私の身を案じてくれる人の気持ちを、知らず知らずに無下にしていた。冒険者としての経験は培っても、そんな配力ができないなんてまだまだ子供だな……。

 

「まあとっくに巻き込まれているがな?ガハハッ!」

 

「ねぇねぇ~、おじさん」

 

「んっ?どした?」

 

「どれくらい戦えるの?」

 

 そう聞くと、まるで待っていましたかの様にニヤリと笑う。

 

「老いてはいるが、ゴブリンの10体だろうと20体だろうと全然余裕だッ!」

 

「相手はただのゴブリンじゃない。しっかりと武装した知恵のあるモンスター。時間稼ぎとはいえ、かすり傷だけじゃすまないよ?」

 

「くどいッ!一度吐いた唾は呑む時は嫁の前だけだッ!だから安心してくれ!」

 

 せっかくカッコよかったのに、その台詞のせいで台無しになった。

 その言葉で一体どう安心すればいいのだろうか。というかやっぱりアスタくんの家の上下関係、おばさんの方が上なんだ。まさかこのタイミングでそれが明確にされるなんて思わなかった。

 だけど欲しかった言葉も言ってくれたのは事実。アスタくんのお父さんの渾身のギャグのせいか、それとも本当に安心したせいなのか、緊張が少し解けて無意識に口角が上がる。

 

「加勢……お願いっ!」

 

「まいどッ!!」

 

 アスタくんのお父さんから、かなりの魔力が寝られているのを感じる。何も探っていないのに肌で感じ取れる程の魔力とは、確かにこれは戦力として期待できる。

 

「あっ、ところでおじさん。さっきのアレ……どうやったの?」

 

 それはゴブリンに向けて石橋を投げ飛ばした奴のこと。

 あんなの人族の【筋力強化】では絶対に不可能な荒業。ということは上位のスキルによるものだとしか考えられない。

 

「あぁ~さっきのか?アレは【火事場の馬鹿力】ってスキルで持ち上げた!久々にやったが、上手く発動してよかったわ!」

 

 予想通り、やっぱり上位のスキルを発動しての業だった。

 しかも【火事場の馬鹿力】って、【火魔法】と【筋力強化】を統合させて体得できる上位互換のスキル。私が前から覚えたかったスキルを、まさかアスタくんのお父さんが体得していたなんて思いもしなかった。

 

 そう話していると数体がゴブリンたちは、私たちに向けて弓矢を放ってきた。風切り音でいち早く察知したアスタくんのお父さんが咄嗟に動く。

 

【水魔法:アグア・リカーテン】

 

 アスタくんのお父さんが腕を横に大きく振ると、そこに薄い膜状の水が横広く展開される。襲ってくる矢は水に突き刺さるが、貫通できず宙に静止する。恐らく見た目に反して相当魔力が練り込まれて発動されているのだろう。この防御力には驚いた。

 

「ふぅ~……寝込みを襲うだけじゃなく、話している最中に攻撃とは本当に野暮な連中だな?いや、戦闘中にぺちゃくちゃと話していた俺らが悪いか??」

 

 魔法を解いてアスタくんのお父さんは、すでに戦闘態勢に戻っているゴブリンに笑いながら睨む。心なしか声のトーンが下がった気がする。

 

「人の言葉が分かるのか知らねぇけどよ、テメェらが景気よく燃やしたその家……チョーダさん家なんだわ」

 

 西門から最も近くにある家を指す。

 アスタくんのお父さんの言うように家はゴブリンによって全焼され、チョーダさん一家らしい遺体が痛々しく近くに倒れている。

 

「数年前アスタを殺しかけ、家族を怖い思いさせ、人の村をボロボロにしただけじゃ飽き足らず、マブダチまで奪うとは……。テメェら本当に、よくも……よくも……やってくれたなァアアアッ!!」

 

【スキル:憤怒の水蒸気】

 

 アスタくんのお父さんの表情が怒りで満ちた時、全身から湯気が溢れ出てきた。次第にそれは冬の冷たい空気に伝熱して周囲を熱くする。変化したのは体だけじゃない。練り込まれていた魔力が体の中で激しく巡り回っている。

 

 熱いっ……!?これって確か……【憤怒の水蒸気】!?【水魔法】と【火魔法】の統合スキル!まさかこのスキルも体得していたなんて……!

 

「んじゃナエナちゃん、お互い半分ずつでいこうか!」

 

「……えっ?」

 

「おら行くぞォォォォォッ!!」

 

 そう怒鳴るように啖呵を切り、アスタくんのお父さんはシャベルを片手にゴブリンの集団に突っ込む。

 シャベルを左右に振ればゴブリンは鈍い音と共に遠くに飛ばされ、下へ振り下ろすとゴブリンは地面に強く叩き付けられる。ゴブリンたちも負けじと武器で反撃をし、アスタくんのお父さんを斬りつける。それでも臆することなくアスタくんのお父さんはシャベルを振り続けて、向かってきたゴブリンたちを薙ぎ払う。技量や繊細さの欠片のない、なんとも乱暴な戦闘だろうか。だけど、この乱戦では今のアスタくんのお父さんは私より強く見えてしまう程、頼りがいのある背中をしている。

 

「す、すごい……!」

 

 【憤怒の水蒸気】の効果は、水の魔力を全身に巡らせることで身体能力や筋力を向上させる。その上昇幅は【筋力強化】や【火事場の馬鹿力】程ではないけど、怪我や打撲といった負傷を数分で自己治癒することもできる。そして何よりも強みは、発動している間、一切の疲労を感じなく。つまり魔力が続く限り、半永久的に活動し続けることができる。【火魔法】と【水魔法】、両方の適性を持つ冒険者にとって誰もが体得したスキルの1つ。

 

 そういえば、王都バリエンスに引っ越して暫く経ったある日、パパから聞いたことある。冒険者として同じパーティーで活躍していたパパとママは引退後、すぐに結婚して静かでのどかって理由でペレーハ村に引っ越して、隠居生活を始めてすぐの頃、とある事件が起きた。

 ペレーハ村から隣の町までの道に大量のグリーンウルフの群れが出没して、運送を妨げた。冒険者ギルドや騎士に依頼するも、対処するに早くとも10日近くは掛かる。そんなに待っていられないと、パパとママが防具を身に纏いモンスターの元へ向かった。走って数分の場所へ慎重に言ったけど、そこにはもうグリーンウルフの姿はなかった。一瞬、誰かが討伐もしくは追い払ってくれたのかと思ったけど、周りには争った痕跡らしきものが全く無かったらしい。周りを探索しているとグリーンウルフの走った跡を発見して後を付けてみると、その先にあった光景に2人は驚愕した。それは、倒れているグリーンウルフの群れと、その中心に立っているアスタくんのお父さんだった。

 話を聞いてみると、事件を聞いたアスタくんのお父さんは2人よりも早く解決しようとペレーハ村から出て、グリーンウルフの群れに向かっていったそうだ。元冒険者でもなければ、戦闘に関連する職業でもないのに、なんて無茶な事をしたのだと大人になって深く思う。しかもアスタくんのお父さん、隣の町までの道を汚さないために、わざとグリーンウルフの群れを挑発して森に誘い込んだらしい。森の中はグリーンの名の持つモンスターにとって好都合でしかない。そんな自殺願望のようなことは、冒険者だってしない。それでもアスタくんのお父さんはやってみせた。血に濡れたシャベルを片手にグリーンウルフの群れの討伐に成功した。そして、このことは誰にも言わないでほしいらしい。あまり目立ちなくないのもあったらしいけど、一番は危険な事をしたことがバレてアスタくんのお母さんに怒られたくないかららしい。そういう理由でペレーハ村の住民どころか、アスタくん自身もお父さんの偉業は誰も知らなかった。

 

 別にパパの与太話だと思って、信じていなかったわけではなかった。だけど、こうも目の前で力量を発揮させられると驚いてしまう。昔アスタくんから「父さんの子供の頃の夢は冒険者だったらしい」っていうのは聞いたことある。だからなのか、やけに戦闘慣れというか、農民には覚えない魔法やスキルを会得していたのだろう。

 というかおじさん、腕っぷしだけなら王都や街にいる下手な冒険者よりも強いのでは?もし私と同じ環境で育っていたら、私より早く高ランクの冒険者になっていたって思えるくらい、すごい迫力……。もし、アスタくんが冒険者になってくれたら、こんな風に戦っていたのかな?……ううん、ないかも。あのアスタくんが、こんな風に勇ましく戦うなんて想像がつかないかな。

 

「おっと、考えている場合じゃない!私も頑張らないと!」

 

 アスタくんのお父さんの豪快な戦闘に見惚れている間、私にもゴブリンたちが迫って来ている。色々と聞きたいことは増えたことだし、みんなで生き残って、また沢山、話をしないと。

 

「はぁぁぁぁぁあああああッ!!」

 

 片手剣を強く握りしめて、再びゴブリンたちを斬りつけていく。

 倒れながら響き渡るゴブリンたちを悲鳴。その次に耳に入るのはアスタくんのお父さんの笑い声であった。

 

「おっ、やっぱり筋がいいねぇ~、ナエナちゃん!どっちが多く倒せるか勝負でもするか?」

 

「面白いこと言いますね!こんな状況じゃなかったら是非、やってみたかったですよ!だけど、逃げる体力のことも考えなきゃいけないから、本気でやれなさそ~!」

 

「……ああ、そうだなッ!!」

 

 少し間を空けてゴブリンたちを吹き飛ばしながらアスタくんのお父さんは叫ぶ。

 アスタくんのお父さんは、私の言葉の意味を理解して少し気を落とすような様子を見せた。ペレーハ村からゴブリンの集団を追い出すのは不可能、村の壁や門は役目を果たせなくなり再建は困難、今は命を優先に逃げるしかない、ことを。加勢してくれたことで戦況は確かに大きく変わった。だけど、それで村が救えるかどうかはまた別のこと。

 

「おらぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 ならば、せめて大切な村をここまでボロボロにしたゴブリンたちに一矢報いぬように、アスタくんのお父さんは豪快にスコップを振り回す。負の感情でいっぱいのはずなのに、その表所には余裕そうに笑っている。少しでもゴブリンたちに威圧させたいがためなのか、それとも私に弱気を見せないようにしているのか。それ以上の詮索は野暮だと感じ、私もゴブリンを倒し続ける。

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