英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

43 / 72
第42話 黒幕登場

 冒険者育成学校に通った6年、冒険者になって2年、計8年間で私は多くのモンスターと対峙して戦ってきた。時には容易に尚且つ簡潔に討伐したことも、時には苦戦しながらも討伐に成功したこともあった。出会った中で最も大きかったのはせいぜい私より一回り二回りデカい程度だった。だけど今宵、私たちが目前しているモンスターは、その程度とは比べ物にならないほど体が大きく勇ましかった。

 

「……なるほど。……あの、人族、2体の、せいで、侵略が、遅れて、いるの、か」

 

 燃えている西門越しで巨大モンスターは私たちを目視するとそう呟く。私は驚愕した、モンスターが喋ったことに。学校で言語を発せれるモンスターは存在することは知っている。だけど、そのほとんどが上級モンスター、つまりはゴブリンとは比べられない程、能力や知能が高く、数多いモンスターの生態系で上位にいる存在。分かりやすく言うと完全回復している私が挑んでも絶対に負けるということだ。

 

 最悪……最悪だッ!!まさか最後の最後で上級モンスターが出てくるなんて!?

 

「……この壁、邪魔。……壊す、か。……“離れろ”」

 

 私たちを囲っていたゴブリン達は巨大モンスターの言葉を聞くと、すぐさま向けていた武器を下ろして西門から離れるように村へ走り出した。まさかゴブリンの集団が素早く指示に従うなんて。そんな一種の関心に近い感情を襲えて、私は直ぐに事の重大さに目を向ける。恐らくゴブリン達はこのついでに、民家に人が残っていないか物色するつもりだろう。

 どうすればいいのか分からない。突如として変化した状況に戸惑いゴブリンの対応を遅れてしまった。だけど、そんな私とは違って【狂人化】を発動しているアスタくんが動いた。

 

 背後を見せたゴブリンたちを見て好機と思い、倒したゴブリンからまた剣を奪い、ゴブリンたちを追いかけるように走りだす。1体のゴブリンに追いつくと、その背中に深い一撃を入れる。

 攻撃を受けたゴブリンは奇声を上げながら倒れるが、アスタくんの攻撃はまだ続いた。彼は倒れたゴブリンの背中を逃げないように踏みつけて、剣の持ち方を変えて突き刺し始める。ゴブリンは刺される度に叫ぶ奇声が徐々に弱まり、5回ほど刺すと声を出すのを止めて絶命した。流石にここまでされると他のゴブリンたちも黙っていないと思い、私は急いで彼の下へ向かおうとした。

 だけど予想は見事に外れた。他のゴブリンたちは全く見る気もせず、ただ淡々と走り続けた。まるでさっきの命令を優先しているかのように、そのゴブリンを見捨てて自分たちだけ離れて行った。

 

 離れていくゴブリンたちとは反対に、バキバキッと何やら聞きなじみのない音が聞こえてくる。間違いなくあの巨大モンスターが何かしたのだろう。私は後ろへ振り返り剣を向ける。

 

「う、うそ……」

 

 振り返った先の光景で私は言葉を失った。

 巨大モンスターは西門を地面ごとえぐり取り、その豪腕な両腕で持ち上げていた。無理矢理動かされた木造建築は、悲鳴を上げる様に崩壊の音を鳴らす。燃えている西門を素手で持っているにもかかわらず、巨大モンスターはまるでその熱さを感じていなかった。

 

「ギィィィィァァァァァアアアアア!!」

 

 巨大モンスターは咆哮と共に西門を粉々に握りつぶした。

 どんな豪腕な冒険者やスキル持ちでも決してできない壊し方に、私はただ呆然となる。鼓膜が破けそうな咆哮よりも、ありえない現実に全身の力が無意識に抜けていく。

 

 3メートルはある西門をあんな簡単に……。

 ダメだ……。これに勝てるヴィジョンどころか、どう立ち回ればいいのか、頭が回らない……。

 

 今にも倒れてしまいそうな程の絶望感を覚えた。こんな感覚、今までにない。

 そんな私とは逆にアスタくんは、民家の方へ走り去ったゴブリンたちを追うのを止めて、ペレーハ村に侵入してきた巨大モンスターだけを見つめている。彼が一体何を考えているのか、もはや想像するなんて無理に等しい。だけど、次に起こす行動は、嫌でも予想ついてしまう。

 

「……何だ、貴様」

 

 巨大モンスターはアスタくんの視線に気付く、視線があった瞬間、彼は剣の持ち手を変えて全力で走り出す。

 

「アスタくんダメ!止まって!」

 

 押し倒してでも止めようとした。攻撃される覚悟で止めようとした。だけどアスタくんの足は想像以上に速く、私が服を掴もうとするよりも速く横を素通りして、巨大モンスターへ真っ直ぐに向かってしまった。

 

「……向かって、来る、か」

 

「止まってッ!お願い、止まってぇッ!!」

 

 アスタくんは走りながら装備した剣を後ろに振りかぶり、敵の片足に十分に近付いて剣を力いっぱい横に切りかかる。

 その刹那、カキーンッとまるで金属同士がぶつかり合うように音が響いた。アスタくんの剣が折れた。刃こぼれや彼の手から離れたのではなく、巨大モンスターの片足の強度に負けて折れてしまった。折れた刃は彼の頭上を通って後方の地面に刺さり、【狂人化】した彼は一体何が起きたのかまるで理解できていないように固まる。

 

「……次は、儂じゃな」

 

 巨大モンスターが足元にいるアスタくんを見下しながらそう呟くと、モンスターの片手が彼を襲った。真正面からきた手は、すくい上げるように張り手で攻撃して、彼を天高く空に飛ばす。彼が私の頭上を通るまで、今まで起きた出来事を理解できずに、ただ傍観していた。

 そして彼はそのまま、まだゴブリンに攻撃されていない一軒家の屋根に落下する。その際に聞こえる木材が折れたような音を聞いて、私の脳はようやく正常に働きだし、全て現実だと実感した。

 

「ア、アスタくん……」

 

「……ふぅ、ただの、阿呆、か。……いや、ただの、間抜け、とも、言うべき、か。……期待損、だな」

 

 ……は?今……何て言った?

 

「……次、そこの(メス)、掛かって、来い。……動くのは、面倒、お前から、来い。……先手、くれてやる。……早く、しろ」

 

 アスタくんが……間抜け?私より頭が良くて、強くて、勇気があって、そして優しいアスタくんが……間抜け??そんなこと……ないッ!アスタくんは、本当は戦うことを嫌っているのに、戦いに来てくれた!そんなアスタくんのことを間抜けって言うなんて……。

 

「……許さない……」

 

「……は?」

 

「絶対に許さない!この化け物ッ!!」

 

 我を忘れそうになるほど怒りが高まり、人生で一番の大声を出した。勝ち目が分かっていたけど今はもう関係ない、巨大モンスターに勝負に挑んだ。もう後なんて考えない。今は巨大モンスターだけを仕留めたい気持ちでいっぱいだ。

 剣を一旦鞘に納めて紐で硬く固定して、そのまま鞘ごと剣先を巨大モンスターに向けて狙いをつける。残っている全魔力を使って、とっておきのスキルをお見舞いする。

 

【スキル:レッド・フル・ペレーハ】

 

 鞘の中で大量の魔力を帯び続ける剣は、その密閉した空間で耐え切れず鞘を爆発させて、刃が柄から折れて巨大モンスターの首元目掛けて飛んで行った。

 このスキルは敵との距離があっても問題ないなく、まさに不意を衝くにはうってつけの奥の手。だけど爆発の衝撃で後方に飛ばされながら、魔力枯渇の現象である吐き気や頭痛に襲われてしまう。飛ばされた際に出た土煙で周りの視界が遮られてしまう。

 

 気持ち悪い……それに腕も痛い、上手く受け流すことが出来なかった……!でも、あのスキルは私の切り札、武器破損覚悟の奥義、まさに一撃必殺!いくら剣より硬い皮膚を持っていても、あの火力なら首の骨を突き破って倒せたはず……。

 

「……うぅ……やる、な。……驚いた、ぞ。……まさか、武器を、飛ばすと、は」

 

 土煙が晴れると、視界には巨大モンスターが立っていた。首にはスキルで飛ばした刃が深く刺さっている。それなのに、化け物は平然と話していた。ありえない、急所である首に刃物が深く刺さっているのに、生物としてありえない。

 

「……儂は、切られ、ようが、刺され、ようが、簡単に、くたばらん。……さて、次は、儂だ」

 

 巨大モンスターはその鋭利な爪で器用に首に刺さった刃物を引き抜き、徐々に私の方へ近付く。1歩、また1歩と巨大モンスターは歩み寄る度に地面が揺れる。その揺れが感じる度に私の心が折れていった。

 もう無理だ。武器もない、魔力もない、体力もない、もう抵抗する手段がない。人生の終わりを察したこの瞬間、ただ迫ってくる死を待った。

 

【水魔法:アクア・ピストル】

 

 私の頭上に水の玉が5発通った。弾は真っ直ぐ巨大モンスターの胸部の中央、心臓付近に着弾する。攻撃されたことに気付いた巨大モンスターは静止した。

 

「……ほう?……生きて、いた、か。……良き、魔法だ」

 

 命中できても巨大モンスターに血を流させるどころか、傷一つできなかった。巨大モンスターの胸部は見るからに生身とは思えないほど屈強なもの。だから、さっきのスキルも心臓を諦めて首を狙った。だけど、そんなことはどうでもいい。

 私は今の魔法に見覚えがある。あの魔法を発動した者を何とか見ようと地面に這いつくばる自身の体を無理矢理起こして振り返る。振り返った先には、頭から血を流しながらも落下した一軒家の屋根で立っている、アスタくんの姿があった。

 

 あの高さから落下して生存していたアスタくんの姿に私は嬉しかった。大切な人、守りたかった人が生きていたことに、心の底から歓喜した。だけど、それと同時に絶望もした。今の私には、もう戦う力が尽きてしまった。巨大モンスターから彼を守れる手段がないことに心の底から絶望した。この何とも言えない心境に涙を流してしまう。涙は嬉しさによるものなのか悲しさによるものなのか自分でも分からない。

 

「ア……アスタ……くん……」

 

【水魔法:アクア・ピストル】

 

 アスタくんは屋根の上から攻撃を続けた。彼の様子は先と変わらないところを見るとまだ【狂人化】が発動中なのだろう。彼は攻撃方法を変えることなく、何度も巨大モンスターの心臓に目掛けて魔法を発動し続ける。だけど巨大モンスターを傷付けることはできなかった。

 

「……うっとお、しい。……ふんッ!」

 

 巨大モンスターがついに動いた。

 ゴブリンたちによって燃やされた家を両手でつかみ、アスタくんが立っている一軒家に目掛けて投げた。2つの木製の家は衝突し跡形もなく無くなった。そして、アスタくんの姿もなくなった。衝撃の際に吹き飛ばされたのだろうか。それとも2つの家の下敷きにされたのだろうか。どちらにしても先のようにただでは済んでいないことには間違いない。

 

「あっ……あぁっ……」

 

 私は過呼吸になるほど焦った。こんな現実受け入れたくない。受け入れられるわけがない。冒険者になって、力があるはずの私が何もできないまま、アスタくんを見殺しにしてしまった現実を。

 

「……素晴ら、しい!……何という、生存、本能!」

 

 巨大モンスターの言葉は誰を指しているのか理解できなかった。彼が消えてしまった現実に、理解しようともしなかった。2つの家が衝突して少し経つと、ダンッと何かが落下した音が耳に入り、そこから足音が近付いてくる。最初はゴブリンが戻ってきたのかと思った、だけど違った。

 顔を上げて足音の正体を確かめると、なんとアスタくんだった。まさかのあの状況から生きて、倒れている私の前に立っていた。

 

 投げられた家で視界が遮られて見えなかったけど、アスタくんは家がぶつかる寸前に自分から投げられた家に飛び移り、そのまま上空へ避難するように飛んだ。しかし巨大モンスターによって飛ばされた時と同様に上手く受け身ができず、彼の片足も含めて左半身は酷い重傷を負っている。ううん、よくそれだけで済んだと言うべきだ。当たり所が悪ければ死んでいたのだから。

 アスタくんはその骨折した片足を引きずりながらも巨大モンスターの方へ歩き出した。まだ【狂人化】が解かれていない彼は、まともに動いてはいけない身体なのにまだ戦い続けるつもりだ。私は最後の力を振り絞って抱き着いて、彼の足ふみを止めさせた。

 今のアスタくんはもうボロボロだ。私以上に戦って、抗って、倒して、だから今ボロボロになっている。もうこれ以上彼が傷つくのは見たくない。吐き気と頭痛で普通に声を出すこともできない私には今、こうして彼を止めるしかなかった。

 

 お願いアスタくん、もう……動かないで……。もう……いいから……。

 

【水魔法:アクア・ピストル】

 

 アスタくんは私に抱き着かれたまま、巨大モンスターに向けて魔法を発動する。1発だけ放たれた水の玉は巨大モンスターに命中するけど、全く傷つけられなかった。ここで彼に変化が起きた。魔法を発動した瞬間、彼はまるで魂が抜かれたかのように力と意識が無くなり、後ろにいる私の方へ倒れた。どうやらさっきの魔法で、彼の魔力量が【狂人化】の解除条件の一定値まで下がったようだ。

 私はすぐアスタくんの脈拍を確認する。魔力枯渇などもう関係ない。意識が飛びそうでも身体を動かす。そっと触れる片手に彼の鼓動がはっきりと伝わっている。気を失っているだけ、とりあえずは生きている。それが分かった瞬間、私はほっと胸を撫で下ろす。この現状を忘れて小さな涙を流した。

 

「……大した、人族、だ。……最後まで、急所、狙い続け、た。……素晴ら、しい!」

 

 再び顔を上げると巨大モンスターが目の前まで迫って来ていた。アスタくんのことばかり意識していたせいで、近付いてくる足音さえ気付かなかった。

 巨大モンスターと目が合った瞬間、私は死を覚悟した。命乞いする声も出ない、仲間のゴブリンを多く倒したのだから見逃してくれないだろう。私は寝ている彼の体に優しく抱きついて、深く謝罪をする。

 

 ごめんね、アスタくん……全然守れなくて。私が弱くて……本当にごめんね……!

 

「くくく……おい、人族の、(メス)。……貴様と、その(オス)、助けて、やろう、か?」

 

 そんな時、まるで考えを察したかのように巨大モンスターは不気味に笑うと、悪魔の誘惑のように私に囁く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。