英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第43話 ユニークスキル

<アスタ視点>

 何も見えない……眼を閉じているから当然か。でも何でだ……眼が開けない、力が入らない。それに眼だけじゃない、身体も……動かない。意識はある。寝起きみたいに少し朦朧としているけど、ちゃんと意識はある。でも……身体が動かない。腕や脚どころか指先すら動かせない。……本当に何でだ?

 この感覚、前にもあった気がする。何時だったかな……あぁ、思い出した!あの日だ、初めて【狂人化】を発動して重傷を負ってベッドに寝込んでいた時と同じだ!ってことは……またアレを発動したのか?何時だ、いつ発動したんだ?……よく思い出せない。確かナエナちゃんがペレーハ村に帰ってきて……。

 そして……そうだ、ゴブリンたちに村が襲われていたんだ!それで母さんと一緒に逃げて、それから……思い出せない。

 

「……」

 

 何か……聞こえる、誰かの話し声だ。

 男の声……こんな声は初めて聞いた。……一体誰だ?

 

「……」

 

 今度は女の人の話し声が聞こえた。

 この声は……ナエナちゃん?近くにいるの?!いや、それはおかしい。ナエナちゃんは今、俺たちを逃がすために村に残って、侵入してきたゴブリンと戦っているはず。一体どういう状況なんだ?

 

 耳に入ってくる2人の話の内容はよく聞き取れなかった。会話は何故か互いに遅くテンポが悪い。しばらく経つとナエナちゃんの声を最後に会話が終わった。それと同時に、俺の腹部に何かが乗ってきた。

 

 お、重い……苦しい。でも今の感触のおかげで身体の感覚が戻ってきた。指先、手、腕、脚……よし、少しずつ感覚が戻ってきた。眼はまだ開けないけど……まあいい、先に腹に乗っている何かを退けよう。

 ……なんだ、これは?ふさふさしている……草、いや毛か?意外に大きい、感触的に少し柔らかい……。

 

 動かせるようになった右手で腹部に乗ってきた何かを触れていると、瞼にも力を入られるようになり、ようやく光を見ることが出来た。眉間にシワを寄せながらも何とか眼を開くと、最初に視界に映ったのは雲に覆われた暗い夜空だ。そして光の発生源は視界の端で見えている燃えた民家だった。

 その光景を見た瞬間、俺はいつの間にか【狂人化】を発動してしまい、村に戻ってゴブリンたちが侵入してきた北東門付近へ向かったということを察した。記憶にはないが、恐らく間違いない。もっと状況を確認したい、何故か重い自分の身体をなんとか起こしてみる。

 次に視界に入ったのは、腹部に乗っている何かだ。その正体を知って俺は目を疑った。

 

 ……えっ?ナ、ナエナちゃん……?

 

 眼を閉じている間、右手で触り続けていた何かの正体は、ナエナちゃんだった。

 触っていた右手には、ナエナちゃんの額から流れる血が付いて赤色になっている。彼女の姿を見て脳内大パニックになるが、その血を見た瞬間、まるで停止したかのように何も考えられなくなった。固まった俺はずっと彼女だけ見た。眠るように俺の腹部に倒れている彼女だけを見続けた。

 

「くくく……起きた、か。生きて、いて、よかった。死んで、いたら、契約、果たせぬ、からな」

 

 横から何者かが声をかける。声色からしてナエナちゃんと話していた者だ。思考停止したまま自然とその声に反応してゆっくりと横を向く。

 頭部から生えた鋭利な3本角、全てを薙ぎ払えそうな剛腕、鉄色の皮膚、民家を越える巨漢を持つモンスターが俺たちの横に鎮座していた。幻でも夢でも作り物ではない、まさに本物のモンスターが俺たちの村に入っていた。

 

「……貴様、本当に、さっきの、(オス)、か?雰囲気、まるで、別人、だな」

 

 何を言っているのか全く理解できない。歪で聞き取りづらい言葉使いのせいか、まだ頭が朦朧としているせいか、それともナエナちゃんが死にかけているという現実に直面しているせいか、全く理解できない。

 今どうすればいいのか分からない。怒ればいいのか、驚けばいいのか、泣き叫べばいいのか、問いかければいいのか、逃げればいいのか、整理のつかないこの状況に俺は何をすればいいのか分からない。

 

「……理解、不能、か。まあ、良い。こちらで、勝手に、やらせて、もらう」

 

 巨大モンスターは鋭い爪を俺の額に当てる。そこから血が流れ始めるけど、硬直した俺は何も反抗しなかった。いや、反抗する気が起きなかった。

 

「まず、貴様の、記憶も、見せて、もらう、か」

 

【ユニークスキル:覗く魔眼】

 

「……なんと、貴様、転生者、だったの、か!?」

 

 巨大モンスターは明らかな動揺を見せる。

 何故今まで隠していた秘密がバレたのかは分からないが、今はそんなこともうどうでもいい。もう理解しようという気力すら残っていない。

 

「くくく、くくく、クハハハハハ!!これは、良き!今まで、多くの、村、町、襲撃して、きたが、今宵は、大収穫!まさか、こうして、転生者に、出会える、とは!これは、運命、はたまた、神の導き、か?……くくく!どちらでも、良い、か!これで、後、必要なのは、時間だけ、か」

 

 巨大モンスターは大きく笑い出した。一方で、今も額に爪を当てられ続けられている俺は少しずつ意識が薄れ始めてきた。俺自身は気付いていないけど、身体は意識が失いほどの重傷を負っている。体中からにじみ出てくる血の量から心拍が停止するのも時間の問題。

 現実逃避するかのように瞳を閉じようとしながら、少しずつ額に当てられた爪に自分から深く食い込みに行った。

 

「……おっと。感激して、いる、場合では、なかった。危うく、死なせて、しまうところ、だった。……その、(メス)との、契約を、果たせ、ねば」

 

【スキル:スキル伝授】

 

 俺の体は突如光りだした。いや、俺だけじゃない。俺の腕の中にいるナエナちゃんも光りだしている。発光を確認した巨大モンスターは、俺の額に押し当てていた爪を引いた。

 

「くくく……!(メス)の時は、失敗した、が、今回は、成功の、ようだ。……いや、この(オス)だけ、でも、成功して、良かったと、言うべき、か」

 

 光が徐々に弱くなっていき、ほんの数秒で光は無くなった。その瞬間、俺の意思とは無関係に何故かステータスウィンドウが勝手に表示された。

 

==============================

ヴァリベラから以下のスキルの伝授に成功しました。

『ユニークスキル一覧』

・【運命の相方 (対象:ナエナ・マーシェナ)】

・【無限転生 (血縁関係者に限る)】

・【冥界への道連れ】

・【免れぬ余命 (満20歳)】

・【来世能力伝授】

==============================

 

 ステータスウィンドウには初めて見る名前やスキルが載っていた。だけど1つだけ知っている名前がある。ナエナちゃんだ。その文字を見て、薄れた意識を保ちなおすことが出来た。

 

 ……はぁ?どういうことだよ、これ……?

“スキルの伝授に成功しました”?“ユニークスキル”?“ヴァリベラ”?一体何なんだ……?いや、それより……何で俺のウィンドウに、ナエナちゃんの名前が載っているんだ?!一体俺は……何をされたんだ……。

 

「……これで、契約は、果たし、た。貴様、その(メス)に、感謝、しろ。もう一度、この世界で、生きることが、できる、のだから、な。長生き、出来ぬが、な。くくく……」

 

 独り言が多い巨大モンスターに俺は色々と問いかけようとした。しかし声を発することが出来ない。何とか眼で訴えて巨大モンスターと意思疎通を図った。

 

 俺に……いや、俺たちに何をした!?

 何でナエナちゃんはこんなに状態なんだ?!お前がやったのか?!そもそもお前は何なんだ!?何で平然とこの村に入ってきている?!あのゴブリンの集団はどこに行った!?契約だの、ユニークスキルだの、一体何なんだ?!

 答えろッ……。全部……答えろォォォォォッ!!

 

「くくく……良き、眼だ。これは、期待できる、な。精々、その、(メス)共々、この世界で、生き、続け、ろ。次、会う時が、楽しみ、だ。……さらば!」

 

 巨大モンスターは俺の問いかけを答えることなく、岩のように大きい手を強く握りしめながら天高く上げて、俺たちに向けて大きく振り下ろした。

 虫のように押しつぶされた俺たちは当然、呆気なく絶命。この瞬間をもって、俺の第2の人生が閉幕した。

 

「くくく、くくく、クハハハハハ!!これほど、高揚したのは、いつぶり、だろう、か!実るのは、早くて、100余年、という、ところ、か!くくく、楽しみ、している、ぞ!……貴様たちが、我が野望の、糧になるまで、熟すの、を!」

 

 今宵、1つの小さな村がゴブリンの集団によって壊滅された。拳の下からにじみ出る赤い液体に、巨大モンスターはもう一度大きく笑い出した。緑豊かな大自然に囲まれているせいで、ペレーハ村の騒動を気付く者はいなかった。巨大モンスターが俺たちを叩き潰した後、タイミング良くゴブリンたちが帰ってきた。

 ペレーハ村の北東門から多くのゴブリンたちが中へ入ってきた。北東門から出てすぐの森林にて、無残に殺された住民たちの遺体を持っていた。本隊と合流するとゴブリンたちは嬉しそうに遺体を何度も往復して運んだ。子供から老人、村長、常連の奥様方、そして身体が冷たくなったヨスナもいた。数分後には西門前にて住民全員の遺体の山で積み重ねられた。否、約1名だけはまだ息を吹き返していた。

 

「ぐふッ……」

 

「ほほう……。まだ、生きていた、のか。人は、存外、タフなだな」

 

 地面に這いつくばるポスロ・サーネスだ。

 今も意識が飛びそうだが、なんとか耐えながら体を起こして必死に眼を開く。一方で巨大モンスターは、念の為にとさっきと同じ様にポスロの額に爪を突き当ててスキルを発動する。自分が何されているのか分からないまま、ポスロは巨大モンスターを睨む。

 

「……うむ。どうやら、ただの、人族か。だが、そこそこの、力があるな」

 

「お前は……一体……」

 

「喜べ、貴様は特別、我が血肉と化して、やろう。貴様が、培った、力、我が存分、使ってやろう」

 

 付き付けた爪でポスロの首根っこを掴み、巨大モンスターは顔の上まで持ち上げる。全てのモノを飲み込んでしまいそうな闇の様に大きく開いた口に、放り込まれた。闇の中に呑まれたポスロも静かに絶命してしまう。幸い、巨大モンスターにしか意識していなかったおかげで、山積みにされた村の住民たち、そして愛する妻の亡骸を目視しなかったのは、一種の幸いだったのかもしれない。

 

 巨大モンスターが1人の人族を食した途端、全員集合したゴブリン達も遺体を食べ始める。占領されたペレーハ村はゴブリン達の宴で大いに賑わられた。傷を負った者、後方で待機していた者、全員が人族の肉を片手に大いに騒いだ。しかし巨大モンスターはゴブリンたちに2つの遺体だけは手を出すのを禁じた。その遺体は巨大モンスターが不器用ながらも自らの手で埋葬して、不気味な笑みを浮かべながら自分も宴に参加する。

 

 宴は日の出が昇るまで続き、正午になる頃にはゴブリンたちはペレーハ村を去っていた。民家はまるで証拠を全て消すかのように、巨大モンスターは魔法によってほとんどが燃やされてしまい、約2名を除いた村の住民たちの遺体は、骨も血肉も全て残さず完食された。村に残ったのは全て焼き尽くされた民家、無数のモンスターの足跡、そして2つの歪な墓だけ。

 

 星暦2032年 冬の44日 水の日 真夜中

 ペレーハ村は廃村と化した。

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