ウエスト大陸には、とある1つの絵本が子供たちの間で流行している。その絵本は所謂おとぎ話。誰もが空想の物語だと思うが、この絵本の内容は昔ウエスト大陸で実際に起きた物事を描いている。子供たちはこの絵本を通して、世界に対して冒険心を募らせる。
タイトルは『勇者オアシスとドラゴン』。
昔々あるところに、1人の農民と1人のお姫様がいました。農民の名は“オアシス”。とても小さい村で暮らしていました。オアシスは毎日せっせと畑を耕し、収穫した作物を近所の老夫婦に分け与えて、時間さえあれば子供たちと遊んであげる、とても優しい人でした。
そんなオアシスの姿に心を打たれた1人のお姫様がいました。お姫様は時々、平民の格好をしてオアシスに会いに行きました。オアシスが収穫した作物を一緒に食べたり、一緒に楽しくお話をしたり、一緒に村の中を散歩したりと、2人はすぐに仲良くなりました。
しかし、そんな2人の姿をよく思わない人がいました。それはお姫様のお父さんにして国の王様であった。これ以上お姫様に近付けさせないようにと、王様は適当な理由でオアシスを国の地下の牢屋に閉じ込めてしまいました。お姫様は助けてあげられない自分の無力さに、捕らわれているオアシス姿に涙を流しました。一方、オアシスは特に抵抗せず、ただ牢屋の中でじっと耐えました。きっと神様が助けてくれると信じて待ち続けました。
オアシスが牢屋に閉じ込められた数日後、突如として国が大きく揺れた。地震である。この国では珍しい事だ。オアシスは思いもよらない自然現象に大慌てしました。その時、幸運にも地震で牢屋の鍵が破壊されて扉が開きました。オアシスはすぐに牢屋から脱出して外へ出ました。
空を見上げるとなんと、国の上空に1匹の巨大なドラゴンが飛んでいました。ドラゴンは国のお城を攻撃して、大きな風穴を空けて中へと侵入しました。お姫様が心配になったオアシスはすぐさまお城へ走り出した。
難なくお城へ入り込めたオアシスは、ドラゴンがいるであろう1つ部屋に入る。何とドラゴンの手にはお姫様が捕まっていました。
「この国で一番美しい者を頂いた!返してほしければ我が住処へ来い!そして我を倒して見せろ!!」
ドラゴンはそう言い放つと、その大きな翼で羽ばたき出して、お姫様を掴んだまま遥か彼方にある『ドラゴンの巣』へと飛んでいきました。お姫様が連れて行かれて王様はショックを受けてその場に倒れこんでしまいました。そんな王様を心配になりオアシスは声を掛けた。
「頼む、娘を助けてくれ!あの子だけがわしの生き甲斐なんじゃ!だから頼む!!」
王様は泣きながらオアシスに強くお願いをした。オアシスの中で断ると言う選択はありません。王様の言葉に頷いた後、すぐにお城にある剣と盾、そして防具を身に着けて、ドラゴンの元へと走り出した。
『ドラゴンの巣』までの道中、オアシスに様々な試練が降り注ぎました。盗賊に襲われている商人、水が枯れてしまった村、川が汚染された街、大量に現れたモンスター。度重なる困難にオアシスの身はボロボロになっていきました。それでもオアシスは諦めようとせず、その剣や盾、そして魔法で次々と解決していき、歩み続けました。
そして遂に、オアシスは『ドラゴンの巣』へと辿り着きました。中には宿敵でアルドラゴンと、牢屋に閉じ込められたお姫様がいました。オアシスはドラゴンの前でも怖気づくことなく剣を構える。
「よくぞ来た、勇敢な戦士よ!お主が負ければ姫共々その命、我が食ってやる!いざ尋常に……勝負だ!」
ドラゴンがそう合図を出すと戦いが始まりました。ドラゴンの攻撃は一撃一撃が重く、オアシスは手を出すことが出来ず防戦一方でした。しかも一度剣で攻撃をしてみたがドラゴンの皮膚が異常に固く、逆に剣が折れてしまった。残された武器は盾のみ。
しかし、それでもオアシスは諦めませんでした。気力が続く限り、何度もドラゴンの攻撃を受けて、耐えて、勝利をつかめるチャンスを待ち続けた。
そんな時、天から一筋の光がオアシスの盾に降り注ぎました。光を吸収した盾は大きく発光して、変形したのであった。
「オアシスよ、私はあなたのどんな苦難にも立ち向かうその“勇気”に感激しました。今ここで、あなたに勇者の力を託します。あなたの手に持つそれは“あなたが真にまもりたいものをまもってくれる”神器……『五芒星の盾』です。さあ、その盾で邪悪なるドラゴンを退治するのです」
五芒星の盾を手に入れたオアシスはドラゴンとの戦いを再開しました。ドラゴンの攻撃を五芒星の盾で受けると、衝撃が全くというほど感じられなかった。攻撃を吸収したのです。オアシスには全く傷が付かなかった。
勝利への光が見え始めたオアシスは更にドラゴンの攻撃を受け続けた。ドラゴンは少しずつ疲れ始めていき、そしてついに嵐の如く続いた攻撃が止みました。
千載一遇のチャンスをオアシスは見逃さなかった。攻撃手段である剣を失ってもオアシスにはまだ魔法がある。全魔力を込めて打ち放たれたオアシスの魔法はドラゴンの心臓を貫き、見事ドラゴンを討伐に成功した。
ドラゴンとの激しい戦いによるオアシスの身はこれ以上の無いほどボロボロになりました。しかしまだやらなれればならないことがある。牢屋に閉じ込められたお姫差の下に近付き、その頑丈な鍵を破壊してお姫様を救出しました。お姫様は歓喜のあまり涙を流しました。
「あなたが来てくれるのを信じていました。本当に、ありがとう。私の……勇者様」
こうしてお姫様を無事に助け出したオアシスは王様に認めてもらい、2人は結婚しました。その後、五芒星の盾に選ばれたオアシスは後に『初代星盾の勇者』として呼ばれるようになりました。
めでたし、めでたし。
◇
<ナエナ視点>
私の名前はナエナ・マーシェナ。
パパとママと3人でペレーハ村に暮らしている女の子。そんな私の夢は冒険者になること。
冒険者になろうと思ったのは幼少の頃、よくママにおとぎ話の絵本を読ませてもらいました。本の内容に簡潔すると「悪いドラゴンに攫われたお姫様を助けるため、1人の勇者がドラゴンに挑む」というお話。数々の試練を乗り越えて、最終的に勇者はドラゴンを倒してお姫様を助け出したという、何ともめでたい終わり方で完結する。
なんてロマンチックな話だろうか。私もこの頃は、物語に出てくる勇者のような素敵な男性に助けられたいと夢を見ていた。しかし現実はそんな幻想的ではないとすぐに学んだ。
この世には1人でドラゴン、いや龍に勝てる者など存在しない。“龍”というモンスターは人々の平和を破壊する厄災。何百人以上で挑んでも、討伐できるかどうか分からない程の強大な存在。ましてやご丁寧に女性を1人だけ攫って、自身を討伐しにやって来る勇者を悠長に待つわけがない。現実的にあり得ない。
それを理解した時、夢を壊された人生初の絶望を感じた。龍を倒して助けてくれるような勇敢な人なんて存在しないと。だけどそんな時、私はとある事を思った。
龍を倒せる人はいない……なら、私が物語の主人公の様に強くなればいいんだ!
突然の閃きの発想であった。いないのであれば自分がなればいい。助けられる側になれないのは至極残念だけど、それでもおとぎ話の様なロマンチックな物語が描ける。そこから私の行動は早かった。すぐに両親の下に向かい自身の意思を伝えた。
「パパ、ママ!私、冒険者になりたいっ!!」
この時、私の知る中で最も勇者の様に冒険してモンスターと戦う職業と言えば、一番に冒険者と言う言葉が浮かんだ。しかも幸運にも私の両親は元冒険者。歳をとって引退したが、その腕は今も健在と言う。なんて自分はついているんだ。これならすぐに龍を倒せるほど強くなれると思った。
だけど両親はすぐさま反対した。経験者だからなのか、それとも一人娘を危険な目に合わせたくないのか、両親は懸命に私を説得し続ける。何度も何度も諦めるように祈願し続ける。
私は諦めなかった。幼少にして現実に出来るかもしれない夢が出来たのだから、諦めたくなかった。この夢に対して真剣。これだけは譲れない。
長く続いた冒険者についての口論の末、先に折れたのは両親だった。どうやら私の熱意に負けたようだ。ようやく首を縦に振ってくれたことに私は歓喜した。だけど今すぐには冒険者にはなれないそうだ。
最低10歳にならないと冒険者になれないらしい。しかもそれまでに身体を強くなくてはいけない。なら訓練するのみ、今すぐに。だけど今はダメだそうだ。まだ私は小さい。6歳になったら先生を呼んで訓練してくれるそうだ。
今すぐにできないことに対して駄々をこねたけど、あと数年経てば訓練が出来ると両親に説得されて、涙を流しながら渋々承諾した。今思うと私って結構わがままだったな。
因みに両親に冒険者になりたい動機を聞かれた時、おとぎ話関連を伏せて適当に話した。何となく馬鹿にされると察していたから。意外と私って策士だと思う。
◇
星暦2023年 春の50日 無の日 夕
神の恩恵を終えて、王都ウルンストから帰ってから数週間が経ったある日、私の家である事故が起きてしまった。
事の発端は、私が普段農業で忙しい両親に現段階での私の魔法の進行具合を見せようと考えた。私の得意な魔法は火魔法。驚かそうと思いあえて何も言わないまま夕食前にテーブルの席に着く両親の前で、最大火力で魔法を発動した。しかしそれが思わぬ事故を起こしてしまった。
【火魔法:フル・ファイア】
両掌から勢いよく火が噴出して、それを目にした両親は予想以上の驚いた反応を見せてくれた。しかしそれは私が予想していた驚きとはまた別の方向性だった。
両親は大きな声を上げながら急いでバケツに水を注ぎ、それを魔法発動中の私に向かってぶっかけた。当然、魔法の日は鎮火、私もびしょびしょになった。突然の両親の行動に呆然と立ち尽くした。そんな私に向かって両親は声を上げた。
「ナエナっ、あなたは何を考えているのっ!?もう少しで火事になるところだったじゃないっ!!」
「全く、魔法を覚えたからって調子に乗るんじゃないッ!!いいか、まだ慣れていないくせに、そう易々と人前で魔法を発動するんじゃない!!」
これが人生初のお説教だった。両親は大激怒だった。雷が落ちてきたかのような両親の怒気ある声に私は硬直する。
どうやら両親が驚いたのは、私が魔法を暴発させてしまい家が火事になってしまう、と危惧したという理由のようだ。濡れてしまった服で寒さを感じながら、何故両親がここまで激怒しているのか、それをようやく理解できた。
頭ごなしに説教されて私は涙目になってしまう。火事にする気なんてもちろんなかった。ただ純粋に魔法を見てもらいたかった、褒めて欲しかった、喜んでほしかった、笑ってもらいたかった。
だけど現実は予想とは間反対。私を見る両親の眼は今までにないほど鋭く睨み、とてつもない不快感を与えてくる。体温が下がっているせいなのか、それともそんな眼で見る両親のせいなのか、私は今、小さく、弱々しく、震え始めている。
その後、母に言われてもう一度風呂場で身体を温めて、静かに寝室入って就寝した。夕食は抜きにされた、あそこまで激怒にさしたのだから仕方がない。当然、空腹により中々眠れなかった。だがそんなのは小さな問題。これからどう両親と接していけばいいのか分からず困惑している。暗い部屋の中、静かに涙を流しながら私はようやく眠れた。
◇
星暦2023年 春の51日 光の日 昼
今日は訓練が無い日。いつもならアスタくんや他の子と一緒に遊んでいるけど、今日はそんな気になれなかった。原因は昨晩の事故。結局起床した後、先に起きている両親とは何も会話できずにそのまま朝食を済ませた。場の空気を重く何も言えずに、私は逃げる様に外出した。
現在私は草原に来ている。もちろんお気に入りの丘の上だ。そこで反省する様に三角座りをして草原の景色を眺めている。いや、正確には視線の先は草原でも考えている事は別にあった。
家に帰って両親に何を言えばいいのか、何をするべきなのか、どうすれば前のように楽しく会話が出来るのか、解決策を講じている。しかし答えは思いつかない。生き詰まった現状に、私は再び涙目になりそうだった。
もう……何でこうなったんだろう……。
「……どうしたの、ナエナちゃん?」
横から聞き覚えるある声が聞こえて顔を向けると、そこには青髪の幼馴染であるアスタくんが立っていた。彼が丘の上に来ているなんて全く気付かなかった。そこまで考え込んでしまっていたという事なのだろう。
良いタイミングで来てくれた。アスタくんと会話をすれば、少しはこの気持ちも和らぐかもしれない。すぐに暗い表情を隠して、いつも通り元気いっぱいな雰囲気を出して返答する。
「ううん、何でもないよ!アスタくんこそどうしたの?珍しいね、1人で草原にいるなんて!」
「……今日はただの散歩。最近、家にこもりっぱなしだったから、たまにはね」
いつも通りのアスタくんとの会話。しかしどこか違和感を覚える。彼は私とは対極的に静かでマイペースに話してくれたけど、何故か変な間があったような気がした。
別に気にする必要はないと思い次の話題を言い出そうとした時、先にアスタくんから言葉を出す。
「ナエナちゃん……本当に大丈夫?」
質問の意味が全く分からなかった。とりあえずいつも通りに返答しよう。
「……?別にどうにもないけど?」
「何か元気がないって言うか……明らかに無理しているような……」
アスタくんの言葉に私は驚愕した。なんと彼は少しの話し方の変化だけで今の心境を察してくれた。的中されてしまい思わず口を閉じてしまう。
私が黙り込んだせいで場の空気が自宅と同じように重くなってしまう。もちろんそんなつもりはない。だけどここから何と返答すればいいのか分からない。
「……俺なんかでよければ、話を聞くけど……」
アスタくんは少し距離を置いて座り、そう語りかけてくれた。普段の彼とは思えない発言に、顔には出さなかったけど内心は少し驚いている。
口を閉じてしまい言葉に出せない私は、代わりに小さく頷いて了承したが場の空気は変わらず沈黙のまま。なんと言いかければ分からない。唯一私たちの耳に入ってくるのは風の音だけ。そんな空気に耐えられなかったのか、先に彼から言葉を発してくれた。
「もしかして昨日ナエナちゃん……お父さんとお母さんに怒られた?」
「……ッ!?……すごいね、何で分かったの?」
「結構大きな声だったからね……。俺の家まで聞こえてきたよ」
えっ、あれ全部聞かれていたの?
アスタくん曰く、昨晩の両親の大声が近所である彼の家まで響いていたそうだ。丁度その時、彼も食事をしている最中だったらしく、唐突に聞こえてきた両親の怒鳴り声に大きく驚いたそうだ。それもそうだろう、いきなりあんな大声が聞こえて来たら。
だけどこれでアスタくんが、こうも都合よく私の心境を察して話しかけてくれたのは納得できる。会話だけとはいえ、昨晩の出来事を何となくだが理解していたのだろう。他の子より頭が良い彼ならそれくらい容易だろう。
その後、私は何故普段温厚な両親があそこまで怒鳴り声を上げたのか、昨晩に起きた原因は包み隠さず全て話した。言い訳も虚偽も含まず全て話した。途中から自分でも何故そのような行動をしてしまったのか、今になって大きな罪悪感を覚え始めてしまい、無意識に話す声が徐々に小さくなってしまう。
「……そうだったんだ」
「私、ただ見て欲しかっただけなんだ。ほんのちょっとだけでもいいから、褒めてもらいたかったんだ。なのにいきなり水をかけられて……」
昨晩の出来事を概ね話すと、次に私の動機について語りかけた。何故それも話しているのか分からない。勝手に話してしまう。同情してもらいたかったのか、賛同してもらいたかったのか、それとも苦慮してもらいたかったのか。どれが意図なのかは分からないけど、どれにしても最低な理由には変わりない。
話し続けていくにつれて、いつの間にか三角座りも少し力を入れてより小さくなってしまっていた。心身ともに辛くなっていく一方だった。
「ナエナちゃん……1ついい?」
場の空気も悪くなってしまいアスタくんの声も小さくなってしまっている。いや、彼の場合これが元々だったかもしれない。顔を彼の方へ向けて質問を静かに待った。
「怒られた後に、ちゃんと謝ったの?」
「……えっ?」
昨晩の自信の行動を振り返ってみると、完全に忘れていた。思考が完全に停止してしまい、両親の言う事だけを聞いて大人しくしていた。
「……忘れていた」
「じゃあこれから家に帰って謝ればいいじゃない?」
「でも……」
それが今さらどうしたという話だ。もうあれから半日近くの時間が経ってしまった。もう謝っても遅い気がする。
「何も言わないより言った方がいいと思うよ。それにナエナちゃん、本当に火事なんか起こす気なんかなかったんでしょ」
「も、もちろんっ!」
「どうして魔法を使ったのか、ちゃんと伝えるべきだよ。ナエナちゃんのお父さんとお母さん……2人とも優しいから絶対に信じてくれるよ、絶対に」
まさか相談に乗ってくれているとはいえ、アスタくんがここまで口数多く話してくれるなんて。そういえば私が昨晩の事を話している時も、彼は静かに私の横顔を見ながら聞いてくれていた。話の腰を折ることなく真摯に聞いてくれ続けた。
そんなアスタくんの言葉にやるべき事が決まった。今すぐに帰宅して謝罪をする。しかし気持ちが滅入てるせいですぐに行動に移せない。本当に大丈夫なのか不安になり、今度は私から彼に質問する。
「ねぇねぇ~……どう話せばいいと思う?」
「まずはちゃんと謝って、それから本当は何て言って欲しかったのか話す。でも後半はすぐに言っちゃダメ。ちゃんと謝罪を受け入れてもらってからじゃないと」
「……勇気が出ない」
「(こんなに気弱になっているナエナちゃんを見るのは初めてだな。それ程、今回の件は効いたってことか。)……このまま何も言わないとナエナちゃんのお父さんとお母さん、ずっとナエナちゃんのこと“いたずらに魔法で放火する危ない子”って思われちゃうよ?」
「そんなの……嫌だっ!」
「だったら早く言わないとね。大丈夫、まだ半日しか経っていないんでしょ?まだ間に合うから、ね?」
挑発気味に、だけど優しく誘導された私は思わず立ち上がってしまう。しかし何故だろう、罪悪感は残っているけど、滅入でていた気持ちが無くなっている。今なら、ちゃんと言葉にして謝れる気がする。
「ありがとう、アスタくん!私、今日はもう家に帰るね!」
「役に立当てて良かったよ。じゃあね」
「うん、バイバイ!」
その言葉だけ残して私は走り出した。その場に残されたアスタくんは手を振りながら見送ってくれた。
◇
星暦2023年 春の61日 光の日 昼
あれから一週間が経ち、私は現在アスタくんを誘って草原に来ていた。もちろんいつもの丘の上にいる。普段ならいつものようにかけっこ等をして遊んでいるけど、今日はまた別件でアスタくんを誘った。
「先週はありがとう!アスタくんのおかげでパパとママにちゃんと謝ることが出来たよ!」
先週、アスタくんに相談した後、颯爽と家に帰宅した私は、ちょうど居間で休憩していた両親に向かって頭を下げて深く謝罪をした。何故あんなことをしたのか、本当はどうしてほしかったのか、説教する両親を見てどう思ったのか、全て話して謝罪をした。
頭を下げたまま謝罪し続ける私を見て、両親は歩み寄り始めた。また怒られてしまうのだろうか、謝罪を受け入れてくれないだろうか、なにかされるのだろうか、歩み寄る足音による恐怖感で再び体が震えてしまいそうだった。しかしそんな悪い予想は無意味であった。両親は私に近付くと、そっと頭を撫で始める。
何でも両親も自らの行動に非を感じていたらしく、私同様に罪悪感を覚えていたらしい。両親は私の謝罪を受け入れて、今度は2人から謝罪されてしまった。これには大きく目を見開いた。まさか逆に謝られるとは思いもしなかったから。当然私も両親の謝罪を受け入れた。
その後は、お互いに悪い所を言い合い、これからは気を付けていこうと話し合った。つまりは仲直りが出来た。本当に良かった。これには溜まりに溜まっていた涙が一気に溢れ出てしまった。
こうして無事に両親との仲を取り戻せたのは全てアスタ君のおかげである。本当になら直ぐに彼の元へ行ってお礼を言いたいところだったけど、平日はお互い訓練と仕事で中々時間が取れずに会うことが出来なかった。強引に会おうと思えばあえたけど、それではただの迷惑。だから休日の今日、彼をここへ誘ってそのお礼を言いたかったのだ。
「俺は話しただけ、実際は何もしていなよ」
「ううん、そんなことないよ!この一週間、またいつも通りパパとママと楽しく過ごすことが出来た……全部アスタくんのおかげで!だから、本当にありがとう!」
「……どういたしまして」
満面の笑みでお礼をいうと、アスタくんは少し照れながらも素直に受け入れてくれた。なんとも彼らしい対応だろう。
自分の言いたいことを言い終わった私は座っていた体勢から立ち上がって、隣にいるアスタくんに手を差し出す。
「ねぇねぇ~、せっかく草原に来たんだし、何か遊ばない?」
「俺は……何でもいいよ」
「じゃあさぁ……かけっこでもする!」
「本当に走ることが好きだね……。別にいいよ」
アスタくんはそう言いながら私の手を取らずに自力で立ち上がって、遊びの提案を承諾してくれた。少し渋々感があるけど、彼は決して否定的ではなかった。
晴天の空の下、私たちは村に出入口をゴールとして、かけっこもとい競争を開始した。先陣切って走る私、それを後ろから必死に追いかけるアスタくん。どうしてだろうか、私はこうして彼と遊んでいる今、とてつもない幸福感に浸っている。
今思えばこの時だったからだろうか。私がアスタくんを優しい人だと認知し始めたのは。
私の言う事のほとんどを聞き入れてくれて、決して己の主張を出そうとしない。だけど私の身が危ないと感じてくれた時、性格に合わない程の大声で制止させてくれた。
アスタくんにはパパやママ、他の村の住民にはない、また別の優しさや思いやりが感じる。だからだろうか、そんな彼とつい一緒に居たいと思ってしまうのは。
彼の名はアスタ・サーネス。私の幼馴染で友達。いや、もう親友と呼んでもいい。まだ子供の私には、彼をそう認知することしかできなかった。