英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第4話 モンスター料理 実食

 グリーンウルフの死体を血抜きして、俺は1匹で叔父さんは2匹を担いで持って帰っている。今の心境をはっきり言うと、獣臭がかなり鼻に効く。背負って運んでいるから鼻の穴を塞ぐ手段がない。ちなみになぜ3匹だけかというと、流石に6匹まとめて持って帰るのは無理と判断したからだ。本当は俺にもう1匹持たせたかったようだが、俺の負担を考え1匹にしてくれた。

 

 俺が非力なせいで……叔父さんに申し訳ない。

 

 残り3匹は道具で火をおこして焼却した。もちろん火事にならないよう考えて、草木がない平地まで運んでからである。わざわざ燃やす理由を叔父さんに聞くと、何でもモンスターの死体はそのまま放置するとアンデッド化して、更に狂猛なモンスターへと化すそうだ。だからモンスターを討伐した冒険者は責任取って処理するという暗黙のルールがあるらしい。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「アスタ、大丈夫か?無理しなくても良いんだぞ?」

 

 息を荒立てて運ぶ俺に叔父さんは気を使ってくれた。子供体型のせいなのか俺より大きさのグリーンウルフがとても重く感じる。だけど妥協して1匹にしてくれた叔父さんにこれ以上の迷惑はかけられない。

 

「大丈夫……です。俺も……男……なんで」

 

「えらい、よく言った!頑張って運ぼうぜ。こいつの肉は本当にうまいぞぉ!」

 

 叔父さんは笑顔で褒めてくれるが、俺にもっと力があればと考えてしまう。俺たちはゆっくりと森の中を歩き、村に帰った。

 

 

星暦2019年 夏の32日 闇の日 夕方

 

 俺の歩くペースが遅いせいで村の北東門が見えるまでこんな時間がかかってしまった。俺の体力がないせいで休憩を5、6回ぐらいした。昨日のナエナちゃんとの遊びといい、連続で体を酷使している。もう膝を伸ばすのもつらい状態だ。

 

「ふぅ~、ようやく村に着いたなぁ。アスタ、よく頑張ったな!」

 

 なんだかその言葉を聞くと、すごく嬉しく感じる。門番の人に死体だと確認してもらい、俺たちは数時間かけてようやく村に入った。

 家に着くと、ちょうど父さんがお店を閉めていた。父さんが俺たちに気付くと歩み寄り、俺が抱えているグリーンウルフを軽々と持ち上げる。

 

「おかえり、アスタ。お疲れ様」

 

 どうやら疲れた顔で悟ってくれたようだ。背中にあった重りが無くなり体が軽くなった。

 

「兄さん、俺には~?」

 

「はいはいおかえりなさい。ったくいい歳になっても甘えてきやがって」

 

「おいおい、俺も家族だぜ。そのおかえりの一言で生きている心地がするんだよぉ」

 

 横にいる叔父さんが笑いながら迫り、それに父さんが愛想の無く適当な返事をする。叔父さんの意外な一面を見た。父さんはそのまま肩でグリーンウルフを担ぎ、俺と手を繋いで家に入る。疲れているせいか、父さんの手が温かく感じる。

 帰宅してしばらく待つと母さんがお風呂を用意してくれた。獣臭が少し染みついた体を洗い流すため、俺はすぐに湯船に浸かった。重労働した後だからか、お風呂の湯が全身に染み渡ってくる。これには思わず年寄り染みた声を上げてしまう。

 

「はぁ~~~……疲れたぁ……」

 

「おうアスタ!俺も入れてくれ~」

 

 そう言いながら叔父さんもお風呂に入ってきた。うちのお風呂は広さなら子供と大人が1人ずつ入ることが可能。当然拒否する理由はなく、俺は叔父さんと共に湯につかった。

 お互いの背中を洗い合って風呂をすませて、服を着て食卓に向かった。居間に着くと俺は目を疑った。テーブルの上に用意されてあったのは、今まで見たことがない程の肉料理の山盛りがあった。前の世界でもこれほどの量を自分の目で見るのは初めてだ。

 

 ヤバい、何この美味しそうな肉!?色とかめちゃくちゃ綺麗!それに量もすごい!まさかこんなに……んっ?まさか3匹分一気に使ったのか?!

 

「おお~、美味そう!アスタ、料理が冷めちまう前に早く座ろうぜ!」

 

 そう言いながら用意されていた来客用の椅子に叔父さんが座った。父さんもその隣に座っており、母さんも残りの料理が出来上がりそうだったので俺も自分の席に座った。最後の料理を作り終え、隣に座った母さんにこの量について聞いてみた。

 

「クミル叔父さんがどうしても全部食べたいって言うのよ。それに今日はアスタも頑張って運んだみたいだし、たくさん食べるでしょ?」

 

 どうやら叔父さんの提案らしい。叔父さんの方へ見てみると良い笑顔でサムズアップしてきた。確かに俺の身体は食べ物を求めてはいるけど、これほどの量を食べきれるのだろうか、少し不安になってきた。別に肉料理が嫌いなわけではない。ただ見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。

 

「そんじゃあみんな揃ったわけだし、いただこうか!」

 

「「「「いただきます」」」」

 

 食事の挨拶をした瞬間、1つのテーブルにいる三人の大人たちはすぐさま箸で肉を取って口まで運んだ。とても速い、しかもそのまままた肉を口に運ぶ。美味そうに食べる大人たちにつられてしまい、俺もまずは一口と肉を食べる。

 

「……おいしい!?」

 

 思わず口で言ってしまった。癖のない味にもう一度肉を食べた。

 

 うん、おいしい!母さんだから美味いのか、グリーンウルフの肉だから旨いのか……。理由はどうであれ本当においしい!

 

「クミル!お前その肉の取りすぎだ!」

 

「いいじゃないか!狩ってきたの俺たちだぜ!」

 

「やかましい!宿代としてこの肉か金どっちか寄こせぃ!」

 

「弟から金取るの?!」

 

 父さんと叔父さんは一つの部位を取り合っていた。どうやらあれが一番美味い部位のようだ。まぁ俺はどれもおいしく感じるからどこでもいいけど。そう思いながら一口食べる。

 

 うん、おいしい……。異世界での初めての肉……ヤバいって言うほどおいしい。こうして俺たちはグリーンウルフの肉を淡々と食べ、いつの間にか無くなっていった。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 食事を終えて満腹になり、俺たちはしばらく世間話を始めた。主に叔父さんは明日どうするかという話だ。それ以前にまず何故叔父さんが急に家に来たのか俺はまだ知らない。話の腰を折って聞いてみた。

 

「たまたま近くに通ったから」

 

 なんでも冒険者ギルドの依頼で、モンスター討伐のため隣の町まで来たらしい。仕事を終えてギルドがある街に帰る前に立ち寄ってくれたそうだ。当時は仕事仲間と来たらしいが先に帰ってもらった。叔父さんが言っていた町は確かにペレーハ村の隣だが、大人でも歩いて半日かかる距離はある。身内に会いにためとはいえすごいと思う。

 俺の質問は終わり叔父さんの明日について話を戻すと、どうやら明日の早朝に家を出るらしい。来るのも急であれば去るのも急である。明日の昼頃に、叔父さんが住んでいる街行きの馬車が隣の町にあるから、それに乗って帰るらしい。一応この村にも街町と往復する馬車はあるが、その馬車が次にここに来て出発するのは三日後、それだと遅い。仕事仲間を待たせるわけにはいかないだそうだ。

 

 叔父さんの仕事仲間か……ってことは当然冒険者だよね?一体どんな人たちだろう……。他の冒険者も見てみたいなぁ……。

 

 世間話が終わると4人は各々の自由にした。父さんは売り上げの計算、母さんは皿を洗い、俺は皿を運んでからテーブルを雑巾で拭いた。叔父さんは朝と同じ本をまた読んで寛いでいる。一体何を呼んでいるのか少し気になり、テーブルを拭きながら覗き込んだ。

 

 いったい何の本を読んでいるんだろう?……『ウエスト大陸 英雄詩』?いかにも中二病が考えそうなタイトルだな。ウエスト大陸って確かこの大陸のことだよな……本になっているから昔英雄がこの大陸にいたってことか?そもそも英雄って……何だ?また冒険者とは違う職業なのか?

 

 屋根裏にある母さんの本には英雄に関する物はない。だから英雄という単語を目にするのは初めだ。是非読んでみたいと思ったが、今は叔父さんが集中して読んでいるからまた別の機会に読ませてもらおう。

 

「アスタ、テーブルの掃除が終わったら部屋に戻っていいわよ」

 

「分かりました」

 

 叔父さんの本に気を取られてしまい掃除の手を止まっていた。母さんの一言のおかげで掃除をすぐ再開して終わらした。

 

「ふぅ~……終わりました」

 

「ありがとう、もう部屋に戻っていいわよ。その雑巾も洗うからお母さんにちょうだい」

 

 母さんに言われ雑巾を手渡し、俺は部屋に戻ろうと階段に向かった。階段を上がろうとするがその前に言わなければいけないことがある。

 

「それじゃあ俺はここで、おやすみなさい」

 

「おう、おやすみ」

 

 叔父さんに軽く頭を下げた。続いて両親にも言い頭を下げてから階段を上り自室に入った。部屋に入ると俺は昨日と同じように吸い込まれるようにベッドに倒れる。

 

 今日は本当に疲れた……。いや、今日もかぁ……。

 

 仰向けになると今日動いた分の疲れが一気に来た。だけど今日は外に出てよかったと思う。だってようやく魔法らしい魔法が見れたのだから。

 それに叔父さんの剣を使った戦い……あれも見れてよかった。両方ともファンタジー感あってカッコよかった。疲れるのは嫌だったけど、それでも今日はその甲斐はあった。……それにしてもここの世界の人間はあんなに速く動けるなんて、冒険者だからか?それともあれも魔法を使ったのか?……分からないことを考えてもしょうがない、今日も本当に疲れたしそろそろ寝るか……。

 

 

星暦2019年 夏の33日 火の日 早朝

 

 早く寝たおかげか今日は早朝に目が覚めた。カーテンを開けて外を見るが、朝日はまだ昇っていなかった。昨日とは極端な差だなと、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 早起きは三文の徳という言葉が前の世界にあったが、この世界の子供は当てはまらない言葉だ。毎年春の10日で10歳になった子供は王都という都市にある教会に行き、神の恩恵を受けて初めてそれぞれの進路が決められる。恩恵を受けた子供は“とある事”ができるようになる。うちの両親は10歳までのお楽しみと言って教えてくれないが、残念ながら屋根裏の本で俺はすでにそれを知ってしまっている。とにかくこの世界で早起きしても特にやることがないのであまり意味がない。

 とりあえず喉が渇いたため、何か飲もうと思い一階へと向かう。

 

 そういえば叔父さん早朝に家を出るって言っていたな。家を出る前に別れの挨拶がしたい。まだ家に居るといいんだけど……。

 

「おおアスタ!早いなあ、もしかして起こしちまったか?」

 

 そう思いながら一階に着くと、叔父さんは家を出ようとしていた。申し訳なさそうに言うが、当然違うため俺は首を横に振った。一階には叔父さんだけ、テーブルには置手紙のような紙がある。起こすのも悪いと思って静かに出ようとしていたようだ。

 

 それにしても今そんなに早い時間なのか?一階にある時計を見ると……5時前、確かに早いな。

 

「もう……出るの……ですか?」

 

「まぁな。流石にスキル使っても、この時間からじゃあないと間に合わないからな」

 

 スキル?……そうか、この世界にはスキルというのもあった!?

 

 スキルとは別名【無魔法】のこと。【無魔法】は人族なら誰しもが使える魔法。主に身体強化、状態異常などの補助的な魔法がほとんどである。一説によると、これといった目立った攻撃的な魔法が発見されていないため魔法と呼ぶのは不適切と言われスキルと言い換えられている。

 スキルについては本で知っていたが、魔法に気を取られていたせいで全然気付かなかった。どうやら昨日のあの異常な素早さはスキルによるもののようだ。

 

「なんて……言う……スキル?」

 

「【俊敏化】だ!魔力を使い続けることで足がものすごく速くなるスキルだ!」

 

 名前からして使い勝手がよさそうなスキルだ。俺もぜひ覚えたいな。使う機会が見当つかないけど……。

 

「んじゃ俺は王都に戻るわ。じゃあな、元気でな」

 

 そういうと叔父さんは玄関のドアノブを握って出ようとした。別れる前に叔父さんにどうしても言いたいことがある。

 

「あ、あの……」

 

「んっ?」

 

 緊張してまた言葉が詰まった。次会えるのはいつか分からない。叔父さんは良い人だった、もっと話がしたい。だから今、言わなければ。

 

「また……き、来て……くれます……か?」

 

 不慣れな言葉を言って恥ずかしくなった。顔が熱い、たぶん赤くなっているのだろう。だけどこれを言わないと次いつ叔父さんが来てくれるのは分からない。

 

「おう、また来るぜ!そん時もまた2人で出かけような!」

 

 俺の頭を撫で、それを言った叔父さんは最後に家を出た。クミル叔父さんは本当に気さくでいい人であった。

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