英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第50話 クミル・サーネスの人生譚

<クミル視点>

 最愛の妻ユシアと出会ったのは俺が30の時だった。最初は冒険者と依頼主として接していたけど、時が経つにつれてお互いに惹かれ合い、そして俺から告白をした。

 そこから約6年の長い時間をかけて交際を続けて、お互い認め合って結婚した。その翌年には俺たちの子供アムヌが生まれて、俺は37で妻子を持った。俺は本当に恵まれている。こんな人生に満足していないわけがない。

 

 いや、実は1つだけ心残りがある。俺とユシアが結婚して新たな新居に引っ越して、新たな家庭を築き上げようとしていた時、一通の悲報の手紙が届いた。

 その内容とは俺の兄弟、兄ポスロ・サーネス一家が死を迎えたことであった。兄さんたちが住んでいたペレーハ村に突如、近年冒険者ギルドの上層部で話題になっているゴブリンの集団に襲われたらしく、住民は誰1人生き残っていなかったそうだ。当然信じられなかった。信じることが出来なかった。

 翌日、俺はペレーハ村の調査隊として冒険者ギルドに志願して、3日の移動の時間をかけて村へ向かった。いざ村に着くとそこは、俺が来た時にあった緑色が溢れるほどの綺麗な村ではなかった。鼻につく悪臭が村中を覆い、民家はほとんどが燃やされて、多数のモンスターの痕跡が複数発見し、住民の遺骨らしき骨の山があり、そして何故か不思議に村の中で建てられた歪な2つの墓があった。

 

 そんな……嘘だろ……?何で、どうして……。

 

 面喰う俺はペレーハ村の北東門で硬直する。見るも無残な村の光景に、今にも泣きそうだった。

 

「……そうだ!まだあそこなら!」

 

「んっ?おいクミル、どこに行く!?おいッ!?」

 

 調査隊と別行動をとった俺は、とある一軒家に向かった。呼び止める声が聞こえるが構いはしなかった。目的地は北東門から近くてすぐにたどり着いた。その一軒家とは、かつて何度か宿泊した兄さんたちの家である。その家も同様に燃やされた後。家の支柱ごと燃やされており、建物は崩れ落ちている。誰がどう見ても人がいるとは思えない。

 

「おーい、誰かいないか!?俺だ、クミルだ!兄さん、義姉さん、アスタ、誰でもいいから返事してくれー!!」

 

 それでも俺は諦めなかった。木材を引っ張り出して、建物内を必死に探索し始めた。しかしどんなに燃え残りの木材を取り払っても、更に上から木材が流れ込み、作業に滞っていく。

 

「クソッ、邪魔だ!!」

 

【スキル:破城水掌】

 

 山積み状態だった木材を一掃するため、【水魔法】と【体術】を統合して創ったスキルを発動。掌型の正拳突きによって現れた水の衝撃波は山積みの木材の上半分を吹き飛ばす。これで探索がスムーズに出来る。後はひたすら手で木材は取り除いて、建物内にいるかもしれない兄さんたちは探し始める。

 

 一軒家だった木材の山を模索し始めて2時間以上の時間が経過した。建物内が見える程木材は取り除き、更にはかつて商品として花を育てていた中庭まで探したが、兄さんたちの姿は見つからなかった。どれだけ探してもあの3人家族は見つけられなかった。俺は1人ぽつんと、かつて一緒に食べていた食卓の間で立っている。

 

「兄さん、義姉さん、アスタッ……!!頼む、頼むから……だれか返事してくれよ……」

 

 そう呟く俺に、後ろから誰かが肩を軽く叩く。振り向くとそこには、同じ調査隊としてこの村に来た、獣人族・犬人種の冒険者だった。この村のありさまを見たせいか、それとも俺に同情しているのか、その獣人族も辛そうな表情になっていた。

 

「この建物は……お前の親族か友人が住んでいた所か?」

 

 獣人族は恐る恐る尋ねる。俺はもう一度変わり果てた建物を見つめてから、ゆっくり首を縦に振る。

 

「そうか……ちょうど今、この村の調査が終わったところだ。俺達獣人族の【索敵】のスキルを使って生存者を確認してみたんだが……残念だが、反応はなかった」

 

 【索敵】というスキルは、生物を探知ができるとても優秀な代物。その使い手である彼らでも見つけられなかったという事は、この村には本当にもう誰もいない。隣の村からもこの村の生存者が現れたという報せもない。つまり冒険者ギルドの報告通り、ペレーハ村の住民はゴブリンの集団に食い殺されたということになる。そう頭の中で理解し始めると、俺はショックのあまりその場に座り込んだ。

 

「そんな……こんなのっ……。う、うぅ……」

 

 当時36歳、大の大人にもなって俺は大粒の涙を流した。いつも優しかった兄さんにもう会えない。いつも明るかった義姉さんにもう会えない。いつも真面目で、礼儀正しくて、“意外な才能”を持っていたアスタにもう会えない。そう考えるだけで涙は止まらなかった。獣人族は俺に気を遣ってくれたのか、いつの間にかこの場から去って行った。

 その後、調査隊はペレーハ村の住民であろう骨の山を全て、歪な2つの墓のように村の中で埋葬した。淡々と作業を進めて、終わる頃にはすっかり日が沈み空は暗くなっていた。最後に調査隊一同で北東門から村に黙祷をして、この事を報告するために王都へと戻った。

 

 

星暦2040年 秋の77日 氷の日 朝

 

 冒険者として活動してから早くも26年の時が経った。今や俺は44歳になり、とうとうおっさんと呼ばれる年になった。別に悲観しているわけではない、むしろ冒険者という命がけの仕事に就いているのに長生きしていることに恵まれていると思っている。

 そんな冒険者のおっさんになった俺は、自宅のとある部屋の前に立っている。

 

「アムヌ、いるか?父さんだ、開けてくれないか?」

 

 個室の扉を軽くノックして中にいる人を呼んだ。扉はゆっくりと開いくと、今年で7歳になる俺の可愛い息子、アムヌが返答してくれた。

 

「おはようございます……父さん。どうかしましたか?」

 

 アムヌは俺の子とは思えないほど礼儀正しく育ち、隣人、知人、はたまた親にも敬語で話す。少し大人びているが自慢の息子だ。

 

「いや、別に大した用ってわけではない。ただお前のその顔が見たかっただけだ」

 

 そう言いながら少ししゃがみアムヌの頬を両手でつねたりし始める。こういう自分の息子が愛らしく感じるのは親バカというのだろうか。そう思っても思われようとも止める気はない。

 

「それにしても……やっぱり似てきたな」

 

 アムヌの顔を見ながらそう呟いた。それを聞いたアムヌは何故か少し目の色を変えて反応した。

 

「それは……俺の従兄のアスタという人の事ですか?」

 

「ああ、そうだ。本当に段々似てきているぞ。流石は従兄だな!」

 

「……」

 

 俺がそう言った途端、アムヌは何故か視線を逸らした。あっちに何か気になるものでもあったのだろうか。俺は気にせず会話を続けた。

 

「アムヌ、お前は冒険者になりたいか?」

 

「……なりたくありません」

 

「あはは、そんなところもアスタにそっくりだな。そこまで似ていたら、あいつが持っていた意外な才能、もしかしたらお前も持っているかもしれないな」

 

「“意外な才能”?何ですかそれは?」

 

 それを聞くとアムヌは今まで以上に話しに食いついてきた。普段は内気でなかなか会話が弾まないから、この反応は父親として嬉しかった。

 

「そうだな……お前の部屋で話さないか?」

 

「えっ……なんでわざわざ?」

 

「いいじゃないか。それとも見つかったらまずい物でもあるのか?」

 

「……分かりました。どうぞ……」

 

 アムヌは渋々俺を部屋に招き入れる。まさかそこまで不機嫌な表情になるとは思わなかった。部屋の中に入ると、驚くほどの量の本が置かれてあった。しかも内容は『モンスター図鑑』や『ウエスト大陸の歴史』など面白そうな物が1つもない。

 

「久々にお前の部屋に入ったけど……お前こんなにも本を集めていたのか?しかもどれもつまらなそう」

 

「古本屋で買いました。気になる本は少しずつ買い集めました。……それで、俺……じゃなく、アスタって人の意外な才能って何ですか?」

 

 ベッドに腰を掛けるアムヌは話の続きを聞いてきた。これほど自分と似ている人物と言われているせいなのか、アスタに興味を持ってくれたようだ。対面して話せるように部屋にある椅子をアムヌの前において座り、その意外な才能について語った。

 

「意外な才能……というのも、俺があいつに魔法を教えている時にそう感じたって言った方が正しいかな。アムヌ、1つの魔法を習得するのにどれくらいの期間が掛かると思う?」

 

 アムヌは俺との視線を外して、顎に手を置いて真剣に考える。返答までの間はそこまで長くなかった。

 

「……丸一日?」

 

 アムヌの返答に思わず吹き笑う。

 

「あはははは!そんな短期間で魔法を覚えられたら冒険者は皆苦労しないっての!それこそ出来たら本物の天才だわ!?あはははは!」

 

 はぁ~久々に笑った!俺の息子ならではの良いボケだわ!このネタ、他の連中にも使えるかもな!でも仕方がないか……アムヌはこういう魔法関連については疎いんだからな。

 

 1人で笑い続ける俺に対してアムヌは首を傾ける。気持ちを落ち着かせて会話を続けた。

 

「あぁ~すまんすまん、つい笑ってしまった。いいか、1つの魔法を覚えるのには人それぞれだが、早くても1週間はかかるんだ」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「ああそうだ。魔法の習得で何が一番大変だと言うと……イメージだ。自分が今まで見たことがないモノを想像するのだから、誰だってこの段階でつまずくんだ。だけどな……アスタは、俺が魔法を教えたその日でその魔法の原型まで発動できるようになったんだ!」

 

 あの時は本当に驚いた。当時、俺が教えた【アクア・ピストル】をまるでどういうモノなのか最初から知っていたかのように、平然とイメージが出来てしまい発動したのだ。俺が見様見真似で会得しようとした時、アスタと同じ段階まで15日の時間をかかった。だけどアスタは、俺という見本があったとはいえ初日にして【アクア・ピストル】の原型をイメージ出来た。

 教えてから5日後、アスタは殺傷力のある【アクア・ピストル】を完璧に会得した。当時、本人はあまり自覚を持てなかったみたいだけど、俺は今でも本当にすごい事だと思っている。

 

「……つまり、父さんの言うアスタの意外な才能とは“想像力が優れている”……と言ことですか?」

 

「その通り!想像力、いわば魔法使用者にとって欠かせない必要な要素なんだ。今思うとアスタはそういう方面では“天才”だったかもしれないな」

 

「そう、ですか……。……そんなことか」

 

「んっ、何か言ったか?」

 

「いいえ、何も」

 

 アムヌは俺に聞えないくらいの小さな声で何かを呟くと、まるで興が冷めたかのように気落ちし始める。何か不味い事でも言ってしまったのだろうか。そう疑問に思いながら考えているとアムヌは立ち上がった。

 

「話してくれてありがとうございます、父さん。あの……そろそろ読書の続きがしたいので、外に行ってもらってもいいですか?」

 

「えっ、あ、ああ。こっちこそありがとうな、話聞いてくれて。また興味がわいたら、いつでも話してやるからな」

 

 そう言うとアムヌは小さく首を縦に振った。そして俺を部屋の出入り口まで誘導して、ドアノブを握って徐々に閉めようとした。

 

「あっ、そうそう。今晩は久々に外食にでもしようと思うんだが、アムヌもそれでいいか?」

 

「……いいですね。出かけられるように準備しておきます」

 

「それじゃあ……また後で呼びに来るわ」

 

「はい、ありがとうございます……」

 

 何とか会話を続けたいと思い適当に話題を振ったけど、呆気ない返答ですぐに終わった。これ以上邪魔をするのはまずいと思い、俺はアムヌの意思を尊重しておとなしく部屋を出た。

 

「……本当に天才だったらどれほどよかったか……」

 

 扉を閉めるとドアの向こうでアムヌは何か呟いた。しかしドア越しのせいか小さな声で言っているせいか、よく聞き取れない。一体アムヌの中で何を思ったのか分からないまま、俺は部屋の扉から離れた。

 

 アムヌの奴、一体どうしたんだ?あんなにアスタの事を興味津々に聞いていたのに、まるで期待が外れたような態度をとって。……死人の話はよくなかったのかな?まあいい、今のがダメだったら次の和気藹々とした話題を考えればいい!今晩外で食べながら話す内容を考えておこう!

 

 そう思いながらヨスナのもとに向かい、今晩外食することを伝えてから、一緒に盛り上がりそうな話題を考えた。

 

 

 クミル・サーネス 享年57

 職業:冒険者 (ランク7)

 

 星暦2053年 冬の4日 水の日

 最愛の妻と子と共に馬車で王都へ向かう際に山道を通っている中、唐突な雷に打たれて無抵抗のまま命を落とす。馬車に同席していた妻のユシア・サーネス、子のアムヌ・サーネス、そして御者の赤髮の人族の女性も共に命を落とした。

 この騒動に関して交友関係者たちは不運な事故(・・・・・)として話をつけて、彼らを埋葬した。

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