英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第51話 開幕 強欲な淑女

 ファンタヘルム。

 

 それは地球とは別次元に存在する、もう1つの青い惑星の名前。その文明の発展や大陸の形や色などは地球と大きく異なる。

 ファンタヘルムには頭の中でイメージをすれば誰でも発動できる“魔法”、巨大な体を持つ者や水中に生きられる者や大空を自由に舞う者などがいる“他種族”、自身の現状を文字化して確認できる“ステータスウィンドウ”が存在する。それらを駆使して、この世界ならではの日常を送っている。

 

 ファンタヘルムには、“五芒星勇者(ごぼうせいゆうしゃ)”と呼ばれる、選ばれし5人の勇者が存在する。

 全ての悪をも切り裂く“星剣の勇者”。

 魔の手から人々を護る“星盾の勇者”。

 闇から救いの光明を掲げる“星槍の勇者”。

 あらゆる邪を打ち砕く“星槌の勇者”。

 絶望の中に希望を打ち放つ“星弓の勇者”と呼ばれ、各大陸に人類の平和と安静を遂行しようと日々貢献し続けている。

 勇者の存在はまさに、厄災と相対する人類の光である。

 

 舞台はイースト大陸の北部のキキラ砂漠にある街、キキラの街。

 そこは多くの他種族が共同で暮らしている集落である。人口は約20万人以上、環境のせいでもあって王都ほど豊かな暮らしをしているわけではないが、住民同士で協力し合って平和に暮らしている。

 この街なら大丈夫だろうと考えた転生の神は、ある1人の魂をこの街に転生させた。

 

「カナタちゃ~ん。いっしょに遊ぼ~う」

 

 キキラの街にある、外へ出られる門を見つける1人の少女がいた。暇そうに呆然としている背中から、友人たちが声を掛ける。名前を呼ばれ、少女は砂が混じった風が長い赤髪をなびかせながら振り返る。

 

「うん!……砂が眼に入っちゃった」

 

 そう、彼女こそが神によって転生した者である。

 後、この者が果てしない遠い将来にて、“勇者殺し(ブレイヴスレイヤー)”という禁忌の称号を手に入れることは、誰も予想していなかった。それまでの続く非常な運命もまた、神すら予期していなかった。

 

<カナタ視点>

 

星暦2019年 夏の23日 火の日 朝

 

 私の名前はカナタ・タユーリ。

 来週の火の日で7歳になる、ごく一般的な家庭の1人娘。

 

 前世は神那樹愛二として地球で生きていたけど、なんか寝ている間に死んじゃった。だけど転生の神様のおかげで、こうして異世界で第2の人生を送れるようになった。

 神様から異世界に転生すると聞いて時は心躍らせていたけど、自分の足で出かけられるようになって、あの時以上に高揚している。アニメとかでしか見たことない他種族、誰にでも扱える魔法、そしてモンスターと対峙する冒険者。まさに私が思っていた通りに世界だ。だけどこの世界で生活をし始めて早くも7年近く経過し、私の心境は少し変化していた。

 

「はぁ~……外の世界も見てみたなぁ……」

 

 キキラの街は高い石垣で囲まれており、外の景色が全く見えない。敷地は多分、広い方だと思う。だけど7年も在住すれば、街の隅々まで歩きつくして街並みにも見飽きていた。

 私の種族は人族と呼ばれ、パッと見の外見は前世の人間と大して変わらない。それ以外の種族を見た時はもちろん嬉々として気持ちが高ぶったけど、正直毎日外出することでそれも見飽きていた。ここしばらくは魔法などの使用で気持ちを紛らわせていたけど、そろそろ他の景色が見たくなってきた。

 

「はぁ~、せめて街の外が砂漠じゃなかったらなぁ。毎日毎日服に砂は付くし、話しているだけで口の中に入るし、何でこんな場所に転生させられたんだろう……」

 

 ぶつぶつと愚痴をこぼし始める。

 年相応の態度ではないけど、こんなことしないと溜まった鬱憤は晴らせない。いや、強いというならもう1つ方法はある。

 

「ね~、あれカナタちゃんじゃない~?」

 

「あっ、ほんとだ!お~い!」

 

「そんな所で何しているの?」

 

「カナタちゃん、こっちに着て一緒に遊ぼ~!」

 

 今日も門の外を見つめると、後ろから同い年の子供たちが来た。

 その子たちは鬼人族、鳥人族、獣人族、妖精族とそれぞれ種族が異なっている。子供たちは手を振りながら呼び掛けて、それに満面の笑みで振り返って答える。

 

「行く~!私も遊びた~い!」

 

 今後は年相応の態度を見せながら、誘ってくれた子供たちの方へ駆け寄った。こうして子供たちと一緒に遊びに行くことで、私の鬱憤も発散させられる。子供の様な振る舞いをしているのは、変に大人びた雰囲気を見せるより親しみやすくするため。なにより、こうしている方がよほど楽しく感じるから。

 

 

星暦2019年 夏の32日 闇の日 夕方

 

 空の色が赤色になると遊ぶのを止めて、私たちは解散して各々の自宅へ真っ直ぐに帰った。自宅に到着した私は、家の扉前で軽く服に付いた砂を掃ってから家に入る。

 

「ただいま~!」

 

 引き続き年相応の態度で家の入ると、今生の私の両親が対応してくれた。

 

「おかえり、カナタ」

 

「おかえりなさい、カナタ。ご飯までまだ時間が掛かるから先にお風呂に入っときなさい」

 

「は~い!」

 

 私より先に仕事から帰って来ていたパパは椅子に座って休んでいて、少し前から調理を始めていたママが明るく話しかける。私が子供の様に可愛らしく接しているおかげか、両親はいつも笑顔で接してくれる。

 こんな無駄に広い砂漠にある町に生まれたのは確かに嫌々に感じるけど、この両親の下で生まれたことは何よりの幸福である。この家庭で生活を送れれば、小さな鬱憤ぐらい我慢できる。

 

 軽く湯船に浸かった後、私たちはママ手作りの料理を食べ始めていた。

 日本食みたいな生モノはないけど、生まれてからずっと食べてきたおかげで、この食生活にも慣れた。それにママの料理は手間をかけているおかげで、毎日味に飽きない。

 

「あぁ~、今日の仕事も疲れた~。俺ももう年かな……」

 

「ふふっ、何を言っているの。これから頑張ってもらわないと困るんだから。ほら、たくさん食べて明日も頑張って」

 

 パパの仕事は貿易の役所で荷物の整理、商品の点検、積み荷の移動などの主に力仕事をしている。

 ファンタヘルムは地球と違って化学が進んでいなくて機械などの、効率的尚且つ楽に作業できる道具が存在しない。だから、そういった作業はすべて手作業だから、パパは毎日重労働をしてきている。魔法が存在するのとは反面、そういった文明が進んでいないことは考え物だね。

 

「他の街町から人を雇いたいけど……砂漠のど真ん中のせいか、なかなか来てくれる奴がいないんだよなぁ」

 

「そうよね~、ここに来る人なんてよっぽどのもの好きくらいかしら」

 

「……そういえばさ~、パパって元々他の所から来たんでしょ?何でここに暮らそうと思ったのぉ~?」

 

 聞いた話ではパパはもともと王都バースという、キキラの街とは比べようがない程の都会に住んでいたそうだ。王都については詳しくは知らないけど、きっと周りの環境面でも仕事の待遇もこの街よりかいいはず。今まで聞く機会がなかったけど、話題的にちょうどいいから聞いてみた。因みにママは私と同様にこの街に生まれて、ずっと住み続けているそうだ。

 

「パパは最初この街と前に住んでいた所との交易契約をしに使者としてここに来たんだ。無事契約成立した後、俺は交易所の仕事周りのアドバイザーとして残ったわけだ。んで、気付いたらここの住民になっていたわけ」

 

「……それってつまり左遷じゃないの?」

 

「んなわけないだろ!?ちゃんとした仕事で……って、お前よくそんな言葉知っているな?」

 

 ヤバい、素の反応しちゃった!前世の職のせいでそう言ったことに少し敏感だからなぁ。子供のように振舞わないと……。

 

「コホンッ……へ~、そうなんだ~。じゃあパパとママはどうやって出会ったの~?」

 

「こらこら、子供がそんなこと聞くんじゃありま……」

 

「当時交易所の役員として雇われた母さんが働く俺の姿を見て一目惚れしたらしく、仕事初日の夜に告白されてそのまま結婚した」

 

 えっ、なにそれ、ママの行動早過ぎない!?えぇー今までのママの印象が一変したんだけど、てっきりパパの方から告白したのかと思っていた!人には意外な一面があるって言うけど本当なんだ。

 

「お父さんっ!?」

 

 パパがそう言った瞬間、普段物静かなママが机を叩きながら叫んだ。娘に知られたくなかった過去が暴露されたからだろう。余程恥ずかしかったのだろうかママの顔は赤面だ。

 

「カナタにはもう少し大きくなってから話すって言うって約束だったじゃない!」

 

「す、すまん、つい口を滑らせた……」

 

 ママは頭を抱えながら席につき、呆れた表情を浮かべながらため息をつく。ママにとって相当恥ずかしい事なんだ。私はとてもそうとは思わない。寧ろ女性として敬意を払いたくなる。

 

「はぁ~、言っちゃったもんは仕方がないわ。……そういえば、お父さん。私ずっと思っていたんだけど、カナタの神の恩恵を受ける場所、王都バースにしない?」

 

「……本気で言っているの?」

 

 ママの提案にパパは食事の手を止めて明らかに嫌そう表情を見せる。

 

 神の恩恵?……あぁ~、ステータスウィンドウを表示できるようになるって言うあれか!パパやママのを何度か見せてもらったけど、ゲームみたいですごかったなぁ。

 早く私も出来るようになりたいなぁ……確か10歳の時にその恩恵を受けられるんだっけ?今すぐに欲しい!

 

「ええ、本気よ。久々にお父さんのご両親に挨拶したいし、それに大きくなったカナタも会わせてあげたいでしょ?」

 

「別に挨拶する必要も会わせる必要もないだろ。わざわざ遠いし、王都メラルフの方に行った方がいいだろう。あっちの方が近いし」

 

「駄目よ、ここ最近会っていないんだし。それにお父さんの昔の友人たちに会えるのかもしれないのよ?」

 

「そいつらに会いたくないから言っているんだよ……」

 

 なんかまた新しい地名が出てきた。まあ今の私はまだ子供だから知らない(てい)でいても問題ないでしょ。これから色々と学んでいけばいいし。

 

「……カナタ、お前は王都バースに行きたいか?あそこは夜でも明るくて、何処にいてもうるさくて、食べ物は全部ウェルダン……それでも行きたいのか?」

 

 すごい貶すなぁ、何でそんなに行きたくないの?っていうかパパのプレゼンで逆にもっと行きたくなってきた!これはあれかな、やるなって言われたら逆にやりたくなる心境と同じかな?

 

「うん!パパの故郷なんでしょ?すごく行ってみたい!」

 

 満面な笑みでそう答えた。それは見たパパは心を打たれてママの提案を承諾した。

 

「はぁ~……分かった、いいぞ行こう。カナタのためにも一度くらい行った方がいいかもな。……あ~、また行くのかぁ」

 

「ふふっ、ありがとうお父さん。ほら、カナタも」

 

「ありがとう、パパ!」

 

 本当に何がそんなに嫌なんだろう?強く止めないところを見る限り、私やママに何かしら害はないって考えた方がいいかな?まあ実際行ったら分かるか……っていうか、さっきからずっと笑って話していたせいか、頬が痛くなってきちゃった。子供ってこんなに笑う者だったっけなぁ……当立ちの雰囲気とか見て私も子供についてもう少し勉強しておこう。

 

 その後も何気ない談笑を続けながら夕食を食べ続けて、いつの間にか皿にあった料理がなくなった。何か特別に言い方をしているけど別に今日はいつも通りの日常だ。他者から見ても本当に何気なく、一般的な家庭のやりとりだけど、私はこんな風に家族全員で食事するのが大好きだ。こんな一般的な生活が前世の私は欲しかった。

 もう……失いたくない。

 

 

<??視点>

 

 ファンタヘルムの自然現象には、モンスター活性化……スタンピードと呼ばれるものがある。

 数十年に一度、何かの拍子で大半のモンスターが普段では見せない凶暴さを見せる。スタンピードによる被害は、農作物や街町の策の破壊、集落に侵入と略奪なんてザラな話だ。大勢の死傷者の続出なんてことも当たり前。ファンタヘルムの歴史上、何度も訪れて災害を経験してきた。だけど時代の変化なのか、襲ってくるモンスターの手口や規模は変化しているため、万能な対策は思いつかずにいる。

 

「じゃあ僕は全大陸の王都騎士団と冒険者ギルドにスタンピードのことを伝えておくよ」

 

 今回スタンピードの前兆の報告があったのはイースト大陸とウエスト大陸。まだ然程の被害は出ていないみたい、早いうちに警戒するように伝えておかないと。残り3つの大陸も発見されていないだけで、密かにスタンピードが起きているのかもしれない。

 当面の活動はイースト大陸とウエスト大陸のスタンピードの抑制を優先にしつつ、他大陸の警戒というところかな。

 

「……うん。……それで、いいと、思う。……私、何をすれば、いい?」

 

 隣にいる親友はやる気に満ちているご様子。

 相変わらずマイペースな口調だけど、彼女以上に頼れる存在はいないと思っている。

 

「そうだね……。それぞれの大陸の様子を見て来てくれないかな?主にどのモンスターが暴れているのか、根城にしているとかを」

 

「……討伐は?」

 

「大丈夫そうなある程度の間引きをしてくれたら助かるかな。だけど、そこまで深追いはしなくてもいい。スタンピードの規模が解らない以上、単独での戦闘は避けてほしい」

 

 別に彼女の実力を過小評価しているつもりはない。なんだったら誰よりも彼女の力量については熟知しているつもりだ。だけどスタンピードは何が起こるのか予想もつかない。もしも彼女の身に何かがあうという未来だけは避けたい。

 そんな心配とは裏腹に、無表情のままの彼女は心なしか少しウキウキとしている。

 

「……旅行。……嬉しいな」

 

 どうやら久々の遠出に心躍らせている様子。緊張感を持てとは言わないけど、もう少し事の重大さを認識してほしいものだね。思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「……そうだ!せっかくだし、2つの大陸に生まれた転生者たちの様子も見て来てくれないかな?」

 

 正直、スタンピードより転生者たちがどんな人なのか興味がある。本当は僕の眼で直接確認したいけど、今はこの場から離れることはできない。彼女なら転生者だからという理由で差別的な扱いはしないって信じている。

 

「……分かった。……すぐ?」

 

「いや、そっちは余裕があればでいいかな。ただへさえ、この事態だからね。……念のために、これを渡しておくね」

 

【スキル:虚空の引き出し】

 

 スキルを発動して、僕は何もない所から空間を曲げる様にして、2枚の地図とコンパスを彼女に手渡す。

 地図は大まかなイースト大陸とウエスト大陸のもの。彼女はこの2つの大陸には何度も往来したことがあるけど、それはもう昔の話。流石に土地勘が鈍くなっていると思うから、ある程度の位置がわかるものがあれば旅も楽だろう。コンパスの方は、ちょっとした仕掛けがある。これについては彼女も使い方を知っているから深く聞くこともなく、同じスキルを発動してこの2つをしまう。

 

「……うん、ありがとう。……行って、くる」

 

「もう行くのかい?のんびりとは言わないけど、そんな急がなくてもいいよ」

 

「……問題、ない」

 

 相変わらずの行動力が凄いな。まあ、それが彼女の長所でもあるけど。

 一度でも決意したら、僕でも彼女を止めることはできない。だから毎回、僕は笑顔で見送ることにしている。

 

「そうか……。じゃあ、気を付けて!」

 

「……うん。……そっちも、がんば」

 

【スキル:影移動】

 

 そう言い残して彼女は得意なスキルを発動して、影の中に沈んで立ち去った。

 なんともあっさりとした旅立ち。親友同士ならもう少し、何かしらのやり取りがあると思うけど、ある意味、僕ららしい別れ方でもある。次に会うのが何年後か分からない親友を見送り、僕もこの場を後にする。

 

 スタンピード……毎回、多くの死傷者を出してしまっているが、申し訳ないけど……これはまだマシな方だ。確かに無残に人々の命が散って逝くのは悲しい話。だけど最悪なケースは、それらではない。

 スタンピードで一番恐れている最悪なケースとは……この活性化がきっかけでモンスターが突然変異して、魔王が生まれてしまうことだ。魔王1体の存在だけでも、その大陸だけじゃなくファンタヘルム中の人々にとって脅威でしかない。例えスタンピードが収まったとしても、魔王が生き残ってしまえば、それは災害が続いているのも同義。

 

 古来より魔王に対抗できるのは勇者のみとされているけど……現在、その勇者側にも少し問題が起きている。はぁ……なんでよりにもよって、勇者が欠けてしまっている時に起きてしまったのだろうか。

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