英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第52話 パーティ結成

星暦2019年 夏の37日 氷の日 昼

 

 ファンタヘルムの通貨は統一されていて、“ストン”と呼ばれている。

 通貨は硬貨と紙幣ともに5種類ずつある。硬貨は1ストン、10ストン、50ストン、100ストン、500ストンある。紙幣は1000ストン、5000ストン、1万ストン、5万ストン、10万ストンがある。日本の円と少し似ているけど最高紙幣額が想像できないほど高い。

 

 例え異世界でもお金は人々から求められる物。何故なら、お金は己の欲を満たせられるから。

 人は誰しも大小なりの欲はある。手っ取り早く欲を満たしてくれるのがお金である。それを前世で必死になって働いて身に染みている私は、現在建物と建物の隙間にある硬貨を、必死に手を伸ばして拾おうとしている。

 

「うごおおおおぉぉぉぉぉ!!届けええええぇぇぇぇ!!」

 

 傍から観たらかなり無様な格好だけど、そんなことはどうでもいい。僅かながらの隙間に肩まで入れると、中指の爪の先が硬貨に届いた。なんとか爪に引っ掛けて少しずつ引っ張り、数分間による闘いにて見事1枚の硬貨を手にした。

 

「よっしゃぁ!」

 

 拾ったのは1ストン。日本で言う1円と同じ価値だけど、私にとっては1ストンでも大事なお金だ。言っておくけど私は別に守銭奴ではない。ただ単に将来のためだと考えてこうしてお金を集めている。言うなれば貯金だね。

 私の日課は基本、子供の権利を最大限利用してお昼過ぎまで熟睡して、軽く朝ご飯のような昼食をとり、外に出てキキラの街を徘徊しながら落ちてある金銭を見つけて拾う。拾った硬貨を軽く服で汚れを掃いてからポケットにしまって、また徘徊する。

 

「ん~~~!!」

 

 この世界……最高!毎日お昼まで寝られるし、学校に行って嫌な宿題しなくていいし、まさに私が求めていた幻想的な世界!しかも前世の記憶があるおかげで人生経験がある分、他の同年代より少し有利に物事を運べられる。ああ、これで私もステータスウィンドウが使えられたら文句がないんだけどな~。

 

 街の大通りを歩きながら背筋を伸ばし、地球と比べてファンタヘルムの気楽な生活に満足していた。思わず頬が緩み1人にやけ顔になるほど。そんな私の後ろから他の子供たちが駆け寄って来て話しかける。

 

「カナタちゃ~ん、おはよぉ~!」

 

「あっ、キーちゃん!おはよう……ってもうお昼だからこんにちはだよ?」

 

「アハハハ、そうなのぉ~?やっぱりカナタちゃんは頭が良いねぇ~」

 

 黄色の髪の毛を持つ彼女は鬼人族のキーちゃん、私の親友だ。

 人当たりが良く同年代の中で男子に負けない程の元気がある。スキンシップで私によく抱きついてくる。その際に姿勢を低くしてくるから、額に生えた小さな一本角が刺さってかなり痛い。まあ子供のじゃれ合い出し、これくらいは我慢できるから別にいいけど。

 キーちゃんの後ろから、鳥人族のクアルくん、獣人族ケマくん、妖精族コルルちゃんもやって来た。みんな私の友人である。

 

「カナタちゃん、うぃっす」

 

「うぃっす、クアルくん!今日もみんなで遊んでいるの?」

 

「うん、そだよ~。これからいつも所に行くところなんだ。カナタちゃんも一緒に遊ばない?」

 

「行く行く~!私も遊びた~い!」

 

 毎度の様に年相応な態度で誘いを受ける。

 前世でもそうだが誰かとこうして体を使って何かを遊ぶのか一番好きだ。私は友人たちと一緒にいつもの遊び場へと向かった。

 

 数分後、街の端にある街の柵と建物の間にある場所に到着。

 ここは人気がなく遊んでも他の人に迷惑が掛からないから、私たちはいつもここに集まって遊んでいる。

 

「カナタちゃ~ん、またあれやってぇ~!」

 

「キーちゃん本当に好きだね。いいよ、ちょっと待ってて」

 

 遊び場に着くとキーちゃんがまたいつものを頼んできた。別に悪い気はせずに喜んで承諾をして準備する。みんなも私が動きやすい様に空間を作ってくれて、とある技を始めようとした。

 

「よ~し、いっくぞ~!」

 

 私は全速力で走り出して、空いた空間で側転ひねり、2回連続後転飛び、最後に猫宙をする。ピクリとも揺るがない着地を決めた後、両手を上にあげて胸を張った。

 

「タッタララ~ン!」

 

「「「「おおおおおーーー!!」」」」

 

 友人たちは私のパフォーマンスにたちまち拍手を送る。

 誰かからこうして称えられることにより出る高揚感にひたる。私も思わず満足気な表情を浮かべる。

 

 ふふんっ、今日も決まった!前世ではあんなに苦労したのに、まさかこの年でできるとはね。まあ、その前世の記憶があったおかげで大体の感覚は覚えていたけど。それでも7歳でこの技を習得するのは早い方よね?……もしかして私、天才!?

 

「何回見ても本当にすごいねぇ~!」

 

「それ誰に教えてもらったの?」

 

「僕もやってみたい!」

 

「私も私も!教えて!」

 

 友人たちは我先にと私に迫る。

 それもそうだろう、目前であんな大技を見せられたら自分も覚えてしたくなる。その気持ちすごくわかる。私もこれらの技を見て真似をしたいという動機で練習して身に付けたんだから。

 みんなの要望を叶えるため、まずは側転から教えることにした。いきなり派手な技をして大怪我でもさせたら申し訳ないからね。簡単な技から徐々に身体を鍛えていかないと。

 

 指導を始めて20分くらい経つと、みんな連続でぐるぐると側転していたせいで休憩をとっている。加減を知らない辺り、流石は子供だ。

 

「うぇ……気持ちが悪い……」

 

「頭が回る……あれ、空が回っているように見える?」

 

「なんだよみんな、僕はまだまだできるよ!早くやろうよー!」

 

「「「無理~~~」」」

 

 唯一、平然と立っているのは獣人族のケマくんだけ。

 頭部に熊の耳を生やして、誰よりも俊敏に動けている。獣人族は基本、身体能力が高いって聞いたことあるから、こうも平気な様子なのも納得。

 

 動物って基本、乗り物酔いしやすいってイメージだったけど、獣人族には関係ないみたい。やっぱり半分に人だから三半規管とかが強いんかな?……っていうかあの丸耳触りたい。

 

「うぅ~……カナタちゃ~ん。気持ちが悪いよ、何とかしてぇ~」

 

 キーちゃんが縋る様に私の背中に抱きついてくる。またも彼女の額の角は背中にグスッと当たる。しかも強めに抱きついてくるから角もより深く刺さってくる。

 

「痛い痛いッ!?キーちゃん痛いよッ!!離れて、ねー離れてってば!!」

 

 思わず大きな声を出してしまった。流石にこれは我慢できなかった。

 キーちゃんを何とか背中から離して、とりあえず仰向けに寝かせた。この中で一番側転を回り続けたのだから、酔いも人一倍だったみたい。

 

「カナタちゃん、カナタちゃん、早く次の技教えて!」

 

「落ち着いてよケマくん。みんな疲れているし、一旦休憩しよう。それにケマくんもそろそろ限界なんじゃないの?」

 

「僕は全然平……あれ?」

 

「ほらね」

 

 話している最中にケマくんは誰かに押されたかのように尻もちをつく。

 表情から見るにあまりにも楽しすぎて無意識に酔いに堪えてみたい。だけど獣人族でも人の子、耐えにも限度があり、それがついに来たって感じ。ケマくんが尻もちをつくと休憩していた友人たちと一緒に大きく笑った。

 

 それにしてもこの世界……いや、この街は人間関係に恵まれていてよかった。親に学校に行かなくてもいいって言われた時はすぐに気付かなかったけど、後々どうやって友達作ればいいのか本当に真剣に考えてた。普通は親同士の横の関係があったわけでもないのに、こんな風にたくさんの友達はできないよね?あぁ~、この世界に来て正解だった!

 

「……そういえばさぁ、みんなって将来の夢って決めているの?」

 

 ふと思った疑問を休憩中の友人たちに聞いた。

 ファンタヘルムは前世の日本の様な義務教育は存在しない。つまり地球の子供と比べて、この世界の子供は将来の安定性が高いというわけではない。むしろ比べられないほどの格差はあると思う。教養を得ていないことで自分の知る情報が少なすぎて“将来の夢”という対象が地域だけに限られてしまう。

 友人たちは互いに見合った後に返答してくれた。

 

「「「「冒険者ッ!!」」」」

 

「だよねぇ~。何となく分かっていた」

 

 少なくともこの街の中で聞いてみて最もカッコいいと思える職業は冒険者しかない。みんなの親はそれぞれ立派な仕事をしているけど、誰一人その仕事をやりたいとは思わないそうだ。

 

「ちなみに理由は?」

 

「カッコいいからぁ~!」

 

「色々な物や場所を見てみたいから」

 

「色んな食べ物を食べてみたい!」

 

「誰かの助けになりたい……とか」

 

 四者四様で返答。どれも立派な動機だと思う。

 

「カナタちゃんは何になるの?」

 

「そうだね……。私も冒険者になろうかなって思っているの」

 

 実は転生して冒険者という言葉を聞いた時から、ずっとなりたいと思い続けてきた。

 動機は当然、前世のアニメの様な幻想的で刺激的な体験をしてみたいから。何より、仕事内容によっては6桁以上の報酬金が手に入るのだから。パートの給料でコツコツと稼いできた私からしたらまさに夢のような職業だ。そりゃ命懸けで危険な仕事だってのは百も承知。それでも私は冒険者になってみたい。

 

「それじゃ私たちぃ~、みんなで冒険者になったらパーティを組もうよぉ~!絶対に楽しいと思うよぉ~!」

 

 私の返答を聞くとキーちゃんはたちまち起き上がり、テンションを上げて提案を出す。その表情はさっきまで酔っていたとは思えないほど満面の笑みだ。

 

「キーちゃん、パーティって何?」

 

「えっとねぇ~、大勢の人で一緒に依頼を受けたりぃ~、一緒にキャンプをしたりぃ~、一緒に冒険をする集まりのことぉ~!」

 

 なるほど、いわゆるチームというやつかな?確かに知らない人たちより見知った人達と組んでも良いかもね。……ただ、もしパーティを組むとしたら自分より強い人たちだといいかな。別にみんなと一緒に居たくないというわけではないけど……まだ子供だからか、どうしても頼りなく見えるんよね~。

 

「私は戦う担当だねぇ~!今はまだ筋肉ないけどぉ~、大きくなったらパパみたいに強くなるんだぁ~!」

 

「それいいね!俺たちで組めば最強なんじゃないの!俺は翼があるから空中戦は任せて」

 

「じゃあ僕は地上での探索!モノを探すの得意だし、それにクアルと一緒にすれば無敵だね!」

 

「私は……回復かな?私たち妖精族は魔力が多いから、いつでも傷ついたみんなを治したいな」

 

 あれ、意外と綺麗に役割分担ができている?ほぼ毎日会って気付かなかったけど、そういえば全員、見事に種族がバラけているよね。鬼人族、鳥人族、獣人族、妖精族、そして人族。

 そういえば前にパパから人族は他種族に比べて身体的能力は平均的に恵まれていないって聞いたことがある。……もしかしてこの子たち、大きくなったら種族的に私より強くなっちゃうって可能性があるってこと?

 

 ってことは……もし今から私がこの子たちを育成すれば、将来私の想像以上の有能な冒険者になったりするかも!?強い人を探すよりも自分の手で1から育てた方が色々と良いかもしれない!

 

「みんなでパーティを組む。……いいかも!」

 

「でしょでしょ~!絶対にその方が楽しいもぉ~ん!そうと決まれば、全員集合~!」

 

 キーちゃんは休憩しているみんなを起こして、唐突に私たちで和を作らせる。

 

「じゃあみんな手を出してぇ~!今ここでパーティを組みますっていう~、結成の合図でもしよぉ~う!」

 

「おお、いいね!……でもパーティ名はどうする?カッコいい奴が良い!」

 

「“ケマ小隊”っていうのはどう?カッコいいと思わない!」

 

「冒険者って言うより騎士団みたい。というよりも何でケマくんの名前が入っているの?もっと他の名前が良い」

 

「名前なんか後でいいじゃん。それよりもこうしてみんなでパーティを組んだ方が大事でしょ」

 

「「「「確かに!」」」」

 

 和の中心の私たちはそれぞれ片手を出して交互に重ねて、ここに子供だけの1つのパーティが結成された。

 みんなで冒険者になって旅をするのが待ち遠しく感じる。

 

 

星暦2019年 冬の86日 木の日 昼

 

 砂漠の気温はどの季節にも関係なくとにかく極端だ。

 夏はとにかく暑くて夜になっても30度下回らないなんてざらにある。冬に至ってはその真逆でとにかく寒くて快晴のお昼でも気温が普通にマイナスである。普通だったらそんな所に生活なんかしたくはないんだけど、キキラ砂漠に唯一ある街、キキラの街は別だ。

 

 キキラの街はかなり年季が経っているけど立派な外壁に囲まれている。その外壁には、ただ外敵からの防衛だけじゃなく、別の役目も果たしている。それは外壁に埋め込まれている魔石による街内の気温調整だ。埋め込まれているのは火の魔石と氷の魔石の2種類で、壁の外の気温に対応して内側の街の気温を快適にしてくれている。

 つまり、どんなに砂漠が暑くなろうと寒くなろうと、街は常に一定の気温を保っているというわけ。だから毎日、私たちは熱中症を気にすることもなく外で遊べられるというわけ。いや、今日は遊んでいるというより、特訓と言った方が正しいかも。

 

「ほらほら、みんなもっとペース上げて!先に行っちゃうよ!」

 

「カナタちゃ~、待、待ってよぉ~……」

 

「翼さえ……使えれば……!」

 

「こんなの軽い軽い!ほら、コルルちゃんも速く!」

 

「ひぃ、ひぃ、ひぃ……!」

 

 パーティ結成から二季節経った今、私たちは街の中を走りこんでいる。

 結成した後、今後の方針についてどうするのか話し合った。満場一致でみんな「強くなりたい!」という意見が出た。だけど私も含めて全員、冒険者についての知識が浅くて具体的にどういう風にすれば強くなればいいのか分からない。自分たちの親は仕事で忙しくて指導してもらえる時間もそれほどなく、さっそく問題に直面した。全員が何をすればいいのか考える中、キーちゃんが何か案を思いついたのか私に質問をする。

 

「カナタちゃ~ん、今日やったみたいな技以外にぃ~、他にも何かできるぅ~?」

 

「アクロバットのこと?うん、あるにはあるよ。練習すれば他にもたくさんの技を習得できると思うけど……」

 

「その技ぁ~、私たちにも教えてぇ~!今日のカナタちゃんの教え方すっごい上手かったからぁ~、カナタちゃんの技なら私たち強くなれるかもぉ~!」

 

 キーちゃんの提案に他のみんなも強く賛成した。

 確かにアクロバットは全身運動で体力の消耗は激しいけど、全身くまなく筋力を付けられる。しかも私たちの歳から数年間やり続けると、大人になった頃には身体能力が抜群になっているかもしれない。やって損はない。

 

 というわけで私がパーティの仮リーダーとして、メンバーにある程度のアクロバットの訓練を行っている。ここしばらくは走り込みで基礎体力の底上げと脚力強化を試みている。それぞれ何か呟いているけど毎日頑張ってついて来ている。私としても教え甲斐がある。

 

「ほら頑張って!ラストもう一周!」

 

「「「「は~い」」」」

 

 走り込みが終わって遊び場で少し休憩した後、次はそれぞれにアクロバットを指導し始める。

 それにしても、みんな頑張ってくれるね~。成長が嬉しすぎてなんか感動しちゃうな。メンバーの著しい成長に思わずにやけてしまう。今日もメンバーは訓練を平常にこなす、そろそろハードな技を教える頃合いかもしれない。いや、どんなに身体能力が高くてもまだ子供。焦らずじっくりと育成していこう。

 

「余裕余裕~……あっ」

 

「カナタちゃん、またケマくんが倒れた」

 

「よし、みんな休憩にしよう。キーちゃん、私がケマくんの上持つから足持ってもらえる?」

 

「任されたぁ~!」

 

 今日も全力で動き回るケマくんが訓練中に倒れた。

 最近はケマくんの体力消耗で休憩のタイミングを計っている。私はキーちゃんに協力してもらってケマくんを日陰まで運ぶ。

 

「またケマが倒れたのか?いい加減に加減ってもんを覚えればいいのに」

 

「それがケマくんの良い所だけどね。……悪い所でもあるかな」

 

「私それ知っているぅ~!一長一短って言うでしょ~!」

 

「キーちゃんよく知っているね、そんな難しい言葉」

 

 訓練にはこんな風に楽しい息抜きも必要だとつくづく感じさせられる。もし前世(あのとき)に無駄なオーバーワークさえしてなければ、あの結果は変わっていたかもしれない。変えられない過去なのに、そう思うことも度々ある。

 

「カナタちゃ~ん、ちょっと聞いてもい~?」

 

 らしくもなく少し考え事をしていると、隣のキーちゃんが問いかけてきた。

 

「んっ、何?」

 

「カナタちゃんってさぁ~、字の読み書きとかもできるのぉ~?」

 

 ファンタヘルムは本当に都合がよく、言語と文字の全てが日本語で使われている。だから前世の義務教育である程度の字の読み書きができる私はこの世界でも当然、苦なく文字を読み書きができる。

 

「まぁね。ある程度ならできるよ」

 

「そうなんだぁ~!よかったぁ~!」

 

 キーちゃんは何故か安心したような表情を見せる。

 その顔は何の意味なのか気になり、今度は私から問う。

 

「よかったって……何が?」

 

「私ができないからカナタちゃんも出来なかったらどうしよと思ったけどぉ~、カナタちゃんは出来るなら問題ないねぇ~!」

 

「……えっ?キーちゃん!?キーちゃんは何ができないって?」

 

「だから字の読み書きがぁ~」

 

「……全く?」

 

「うん、全くぅ~!」

 

 とんでもない返答に思わず硬直してしまった。

 最初はキーちゃんの軽い冗談かと思ったけど、長い付き合いの中、今までこんな冗談は言わなかった。そして何故、彼女が字の読み書きができないのかすぐに理解できた。

 

 あああああッ!!そうよこの子、学校に行ったことないから字とか学ぶ機会がないんだ!?

 

 両親から聞いた話では、貴族の子供は幼少期から勉学をさせられるらしいけど、私の様な平民の子供は特にする必要がないらしい。正確には10歳に時に王都や街にある教会で“神の恩恵”を受けることで、初めて大人たちの労働に参加や貴族の様に学校に通い勉学に参加できる。

 つまり10歳になるまでの間は、大人の労働を観察しようが独学で勉強しようが何もせずに怠けようが自由ということ。だけど、それが逆に7歳になっても字の読み書きができないという惨劇が起きている。普通は親が教えたりするものだけど、キーちゃんの両親は共働きで忙しくて教える時間がないみたい。

 

 しまった、盲点だった!じゃあこの子、大人になったらどう生活していくの!?冒険者どころじゃないじゃん!はっ、もしかして……。

 

「ね、ねぇみんな、この中でキーちゃんみたいに字の読み書きができない人、手を上げてもらってもいいかな……」

 

 私以外の全員が手を上げる。横になっているケマくんに至っては誰よりも高く手を伸ばして上げる。予感が的中した。

 

 全員できないのかい!!

 まあ、でしょうね……。でしょうねとしか言いようがない……。

 

「ああでも、俺、数なら全部言えるよ」

 

「おおすごいじゃん!」

 

「クアルくん、勉強できたんだ」

 

 クアルくんの自信あり気な一言にメンバーは褒める。一方で私は、彼の中の数の範囲が不安でしかたがなかった。

 

「クアルくん、何桁まで言えるの?」

 

「……桁って何?」

 

「あぁ……」

 

 思わず嘆くような声を出しながら頭を抱える。

 純粋な疑問を持った瞳で見つめるメンバーを見ながら、今世初めて思案を巡らせた。

 

 あぁ、どうしよう……。まさか字が書けないなんて、想定外すぎるでしょ。私がバカだった……普通に考えていれば分かることじゃん。

 

「えっと……キーちゃん、全く字が読めないの?」

 

「全部じゃないも~ん!?ただ読むのも書くのも苦手って言っているだけだも~ん!」

 

「それじゃあ、少しは分かるってことなんだ。……他のみんなもそれくらいまでならできるの?」

 

「「「うん」」」

 

「……それじゃあ、試しに自分の名前を書いてみてよ。数も書けるなら1から10まで書いてもらえる」

 

 近くに落ちている枝を拾って、筆代わりとしてメンバーたちに持たせる。一同は筆を手に取ると私を見ながら嘲笑する。

 

「もしかしてバカにしているぅ~?自分の名前くらい書けるよぉ~?」

 

「数は……まあ、多分書けると思うけど……」

 

「まあカナタちゃんが一応リーダーなんだから、言うこと聞こうよ」

 

「……名前忘れた……」

 

 メンバーに足元で名前と書けるだけの数を書いてもらった。

 少し経つと全員の手は止まり、その回答を覗くように拝見する。メンバーの回答よりも字の汚さだけを見て絶望する。

 

 うわぁ……想像以上に字が汚い……。なんて書いてあるのか分かって見ればギリ読めるけど。

 キーちゃんは汚いけど、まあ合格かな。ケマくんは……乱れすぎて“クマ”に見えるんだけど。クアルくんとコルルちゃんは数が書けているね。コルルちゃんはすごいちゃんと全部かけて……んん?!ああ、5がSになっている、惜しい!クアルくんは……おお、言うだけあって全部かけて……ちょっと待って!?4が何故かΣになっている!?逆にどこでそれ覚えたの、すごいんだけど!その前に名前が滅茶苦茶……さては書けなかったな?

 

「どぉ~?パパやママに教えてもらったんだぁ~!」

 

 自信満々で見つめるメンバーに言葉を失う。このメンバーは将来有能になると思っていたけど、まさか私より阿呆とは思わなかった。

 

 うぅ、どうしたものか。……切り捨てる?いやでも、他の平民だって教育を受けていないんなら、この先に出会う冒険者もそこまで学力には期待できない!……もういい、ここまで来たんだ!ここで諦めてたまるもんか、まだ方法がある!確かに私もバカだけど子供に教えられる程度の学問なら教えられるはず……!!

 

「明日から……やるわよ……」

 

「んっ、何か言った?」

 

「明日から全員!!運動だけじゃなくて!!勉強も同時進行でやるよ!!」

 

「「「「ええええぇぇぇぇ!!」」」」

 

 この日から新たに1つの訓練が導入された。それは勉学。

 50音、美文字、算数、漢字等の私が教えられる基礎を徹底的に叩き込む。メンバーは今まで行ってきた全身運動よりも、慣れない脳の運動に日々苦しみを感じる。気持ちは分かるけど、これも頑張ってもらわなきゃいけない。

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