英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第53話 夢への意思

星暦2019年 冬の96日 木の日 昼

 

 勉強を訓練に導入してから1週間が経った。

 メンバーは不慣れない筆使いに困惑して、なかなか勉強が捗らない。それでも全員が真面目に取り組んでいることだけでも関心。今日も美文字と算数を練習している。

 

「……あっ!カナタちゃん、またクアルくんがカンニングしてくる!」

 

「ち、違う!?カンニングじゃない、確認(カクニン)グだ!」

 

「そんな言い訳が通用すると思っているの?新しい問題を出すから、クアルくんはそれ解いて」

 

 訓練の手順としては、朝から昼まで勉強にして、昼食を取ってからアクロバットの指導をすることにしている。前世のニュースで、朝は脳が最も働く時間帯で勉強に集中しやすいっていうのを聞いたことがある。あまりそう実感したことはないけど、他に良い参考が思いつかないからこの情報に頼って朝は勉強をさせるようにしている。そのおかげなのか勉強方面も着実に成長ができている。

 後は勉強に対してもモチベーションがもう少し高くなってくれれば文句はない。そう思いながらメンバーに教えていると、唐突に誰かのお腹が鳴る。どうやらケマくんのようだ。

 

「……腹減った」

 

「じゃあ勉強はここまでにして一旦家に帰ろうか」

 

 私がそう言うとメンバーは筆代わりの枝を手放して、各自で背伸びをして体をほぐす。全員やり切った感溢れる表情を浮かべる。

 

「あぁぁぁ、やっと終わった……!ようやく身体を動かせる……!」

 

「クアルくん、今度から自分で解いてよね。毎回私の答え見て……それじゃあ勉強の意味ないでしょ?」

 

「ケマく~ん、ご飯をドガ食いしてこないでよぉ~?またこの前みたいに吐かれたら困るんだからぁ~!」

 

「うん、善処する!……この言葉、今の使い方で合っている?」

 

 談笑するメンバーを見ながら、今日までの訓練を通してメンバーの能力値を改めて再分析をする。

 仮とはいえパーティリーダーとしてメンバーの実力を把握しておかなきゃいけないからね。

 

 まずは鬼人族のキーちゃん。

 運動面から話すと、もともと得意意識があるおかげで訓練に対しても誰よりも楽しんで取り組んでくれている。運動神経もかなり良い方で、体力は私含めてメンバーの中で一番ある。教える技も練習量をこなして日に日に精度を上げている。そして筋力は女子とは思えないくらい強い。単純な腕相撲で男子のクアルくんやケマくんに圧勝できる程に。これは鬼人族が筋力に優れている、というのもあるのかも。

 逆に勉強面は、かなり絶望的。ハッキリ言って物覚えが悪すぎる。10回以上も復讐させているのに、未だに「上」と「下」が逆だし、足し算はなんとかできても引き算は全問間違える等、メンバー内で一番の赤点の常習犯だ。冒険者以前にこれじゃ私生活が普通に心配になるレベル。親友としてキーちゃんには勉強方面を徹底的に鍛えていこう。

 

「クアルく~ん。前から思っていたのだけどぉ、その羽ぇ~、鬱陶しくなぁ~い。私がもいであげようかぁ~?」

 

「絶対にッ、止めろッ!髪の毛1本1本みたいに神経があるからめちゃくちゃ痛いから!」

 

 次は鳥人族のクアルくん。

 運動面は、背中から生えた翼のせいでバランス感覚が一番悪い。簡単な側転にさえ苦労するほど。でも走る時のフォームとかを見る限り、身体能力は決して悪くないと思う。今はまだメンバーと同じ技をしてもらっているけど、後々彼に合った練習を見つける必要がある。なにより彼には空を自由に飛べるという強い長所を持っている。せっかく翼があるのだから、そこを伸ばさなかったら損でしかない。

 勉強面は、意外にもメンバーの中では優秀な方に位置する。逆に一番、字は汚くて拙く読みづらいこともあるけど、教えたことを着実に覚えていけている。最近はケアレスミスが目立つようになってきたから、ちゃんと復讐させるように促さないと。それにしても本当に意外ね。ザ・男の子っぽい活発な性格しているのに。

 

「それにしてもケマ。お前が一番動いているのに、一向に痩せないよな」

 

「まだ太っているって言いたいの?失礼だね、これでも少しは痩せている方なんだよ」

 

 次に獣人族のケマくん。

 運動面に関しては文句の付けようがないくらいの優等生。流石は運動能力に恵まれた獣人族だけあって、メンバーの中で身体能力が高く、教えた技を誰よりも早くに習得している。最近では私が個人で練習する技も見て覚えようとしている。欠点を上げるとすれば、練習に夢中になって自分の体力の限界に気付かないところ。訓練中、度々倒れることもあり、そのせいで訓練が滞ることがある。そしてクアルくんが言うように、ケマくんの体型は子供ながらやや肥満体型。まだ子供なんだし、今は少しぽっちゃりでも問題ないでしょ。この体型がもし数年続いたら、無理矢理にでも痩せさせるけど。

 勉強面は、キーちゃんに次いで遅れている。ケマくんの場合は単純な計算はできるけど、書き間違いによるミスが多い。キーちゃんみたいに「人」と「入」、「右」と「左」、たまに「る」と「ろ」など似たような文字を間違えるなど多々ある。美文字はギリギリ及第点というところかな。あとはしっかりと覚えてもらうだけ。

 

「それにしてもコルルちゃんは本当に頭が良いね。なんで毎回、全部わかっちゃうの?」

 

「そんなことないよ、ケマくん。私なんてまだまだだよ。それに運動がダメな分、ここでも頑張らないと」

 

 最後は妖精族のコルルちゃん。

 運動面は、体力も身体能力もメンバーの中で最下位。それでも、めげずに毎日食らいつく様に連いて来てくれる。それに短距離走に限ると、キーちゃんとケマくんに負けず劣らず速く走れることも最近知った。この俊敏力は妖精族ならではの長所なのかもしれない。このまま頑張ってくれればきっと他のメンバーに負けず劣らず良い逸材になれると思う。

 勉強面は、運動が劣る反面かなり学習が早い。私が教える文字をすぐに吸収して、算数の計算も早い。単純に地頭が良いからだろう。訓練に参加してくれているけど元々は大人しい性格だから、それも相まって勉強に対して得意意識が芽生えている。前世の学校の生徒で例えるなら、運動が苦手なインドア女子って感じかな。

 

「じゃあみんな、1時間後くらいにまたここに集合ね」

 

「「「「は~い!」」」」

 

 欠点だらけのパーティだけど、一歩一歩ちゃんと成長しているのが分かる。この調子で私がしっかりとメンバーを導いてあげないと。

 そういえば……私の長所って何だろう?……ヤバい、人のことばっかり気にして自分のことをちゃんと把握できない!?今後は私もメンバーに追い付かれないように自主練でも始めようかな。

 

 

星暦2019年 冬の100日 無の日 昼

 

 お昼休憩として自分の家に帰るために一度解散。

 みんなを見送った後、私も自分の家に帰宅すると母が昼食を用意して待っていてくれていた。自宅ではメンバーの前とは違って今も年相応な子供の態度で振舞っている。

 

「ただいま~!ママ~、ご飯食べた~い!」

 

「あらおかえりカナタ。ご飯の前に手を洗ってきなさい」

 

「は~い!」

 

 食卓の間に入ると、なんと平日にもかかわらず父がテーブルの席に座っていた。思わず驚きの表情を見せる。

 

「おかえりカナタ。今日はいつも少し遅かったな」

 

「えっと……ただいまパパ。今日仕事はどうしたの?」

 

「あれ、言っていなかったっけ?昨日で仕事納めだから今年はもう休みだよ。」

 

 あっ、そうか。今日は地球でいう大晦日か。……毎日訓練続きで全然気付かなかった。みんなは何もそんなこと言っていなかったけど、もしかしてみんなも忘れたいたのかな?

 

「へ~、そうだったんだ~!」

 

「カナタ、早く手を洗いなさい」

 

 母に言われ、すぐに手洗い場に向かう。

 軽く手を洗った後、再び食卓に戻って母が用意してくれた昼食をいただいた。母は育ち盛りの私のことを考えて毎日飽きないようにメニューを考えながらも精がつく物を作ってくれる。そんな母の料理を黙々と食べ続ける。

 

「……カナタ、少しいいか?」

 

「なに、パパ?」

 

 頬杖立てていた父が唐突に問いかけてきた。その表情は何やらいつもより真剣みを感じさせられた。

 

「俺の仕事の仲間に娘がいる奴がいてなあ、そいつから聞いたんだけど、お前……最近よその子に勉強を教えているらしいな。俺が教えていないはずの計算や文字の書き方なんかを……お前、それどこで覚えたんだ?」

 

 おっと……またしても想定外なハプニング。まあそりゃ当然思う疑問だよねぇ。……ああ、いい口実が思いつかない!事前に考えておけばよかった!?

 

 父の問いかけに箸を止める。嫌な汗をかきながら必死に思考を巡らせる。その間、気まずい沈黙の間が長く続いてしまう。

 

「……まあいい。お前は父さんと母さんの子だ。昔からよく周りを見たりしていて、人より観察力はあると思っていた。恐らく人のやり方を見て独学したんだろ?」

 

 おっと、これは都合のいい流れになってきた。変に言い訳を考えるより、こっちに便乗した方がいいわね。

 

 父の言葉にすぐ首を縦に振った。因みに父の言う“よく周りを見ていた”とは、この世界に心躍らせながら街並みを見渡していたことを言っているのだろう。そういう意味では確かに観察していたことになる。

 

「やっぱりな、さすがは俺の子だ!……じゃあ、何で勉強をよその子に教えているんだ?聞いた話じゃあ嫌々教えられているらしいじゃないか」

 

 うわぁ、質問攻めとかうざぁ……。疲れるなぁ、そう何回も聞かなくてもいいのに。まあそれほど真剣に聞いてくれているんだ、私も真剣に答えないと。

 

「私たち将来、冒険者になりたいの!そのためにも力だけじゃなくて多少の勉学が必要だと思って、みんなに教えているの!確かに最初こそは勉強を強制して嫌がっていたかもしれない……けど、今はみんな少しずつ理解してくれているの!」

 

 最初はメンバーに対して頼りないと思っていた。だけど今は違う。みんなに何かを教えるのが段々楽しくなってきた。一緒に居るだけでも楽しくて仕方がないと思えてきた。あの子たちの成長を見て、私も一緒に成長したいと思えてしまった。いつの間にかあのパーティで冒険したいと心から願うようになっていた。

 

「カナタ……お前、急に眼の色変えて……今まで化けていたのか……!?」

 

「あっ……」

 

 真剣に熱く父に語りかけたせいで、今までかわい子ぶっていたイメージが崩れてしまった。だけど私たちの真剣な思いを伝えるためだから仕方がない。父は私の急変に少し驚きを見せるがすぐに冷静になる。

 

「冒険者、か……。いつの間にか夢を見るような年になったんだな。夢に向かって努力するのは立派なことなんだが、冒険者はお前たち子供が思っている程、楽しくてカッコイイ職ではない。お前なら理解しているんじゃないのか?」

 

「……実際の冒険者さんたちの仕事ぶりを見たことがないから分からない。正直に言って不安はあるよ。……でも、そんな知らない不安だけでみんなが一緒になって考えた夢を壊したくはない!今できる精一杯の努力で、そんな不安打ち消したい!」

 

 私の返答に父は黙った。

 表情は驚いているわけでもなく、怒っているわけでもなく、ただ何か思うような表情だった。詰まった何かを吹き飛ばすかのように深いため息をつく。

 

「お前は……いや、お前たちは本気なんだな?」

 

「うん、本気だよ……!そのために今、みんなで頑張っているの……!」

 

「そうか……。そういえばカナタ、お前時間大丈夫なのか?母さんの話しじゃあ、いつもならもう出かける時間だろ?」

 

 言われて家にある時計を見てみると、メンバーと約束した時間まで分針があと残り15分を切っていた。自宅から遊び場まで徒歩で10分くらい掛かるから今から走って向かわないと間に合わない。

 

 ヤバい、もうこんな時間!?まだ全然食べ終わっていないのに!しょうがない一気に食べて向かわないと!

 

 右手でスプーンを鷲掴みして、左手で料理の乗った皿を口元に運んで、流し込むように料理を頬張る。

 

「うぅ!?……ごちそうさま。パパ、お皿の片付けお願いしてもいい?」

 

「お、おう、いいぞ」

 

「ありがとう!行ってきます!」

 

 口元に片手を置いて静かに扉を閉める。やや急ぎ足で集合場所へと向かった。

 着席したまま私を見送った父は、未だに何かを思うような表情を浮かべたままであった。そんな父の背後から台所からきた母が近付く。

 

「ふふっ、何を考えているのかしら?もしかして、あの子の夢の邪魔の仕方でも考えているの?」

 

「……あの子は活発な子だからな、いつかは冒険者になりたいって言いだすのではないかと思っていた」

 

「それは私もよ。少し早いって思うけど、子供の成長はあっという間なのね。で、実際あの子と対面して話してどう思ったの?」

 

「まさかあんな真剣な眼で答えてくるとは思わなかった。しかもちゃんと先のことを考えた答えを言いだすとは思わなかった。あの子の夢は邪魔したくない……今、父親として何ができるのか考えていた所さ」

 

 父は母と会話をすると少し満足気な表情に変わり、席から立ち上がって私の食後の皿を後片付けし始める。

 

「無理に考えなくても大丈夫よ。私たちはいつも通りにあの子に接することが、あの子にとって一番よ」

 

「……いいや、それだけじゃ少し不安だ。真剣なあの子に陰ながら応援したいんだ」

 

「相変わらずの生真面目さんね。ほら、そのお皿ちょうだい」

 

 母は父が重ねた皿の山を受け取り、もう一度台所に戻ろうとする。だけど父は一つ気がかりなことがあり、母を止めて問う。

 

「そういえば……あいつ、いつから俺たちに対して猫被っていたんだ?あいつの眼の変化には驚かされたぞ」

 

 どうやら父は私の冒険者になるという夢よりも、熱く語る瞳の方に驚愕していたようだ。

 

「女ってのは男よりも早く成長するものよ。流石は私の娘……でしょ?」

 

「女、怖ッ」

 

 母は少し誇らし気にそう答えると、髪を大きくなびかせて父の前から立ち去る。母の返答に父は軽く身震いをする。

 

 

星暦2019年 冬の100日 無の日 夕方

 

 遊び場に集合した私たちはいつものように訓練を始めた。

 内容は前回に引き続き、私の知っているアクロバットの伝授。勉強とは打って変わってメンバーは楽しそうに教えを乞う。やっぱり身体を動かす方が好きなんだね。そして全員が全身汗でびしょびしょなった頃、いつの間にか空はオレンジ色の夕方になっていた。今日は今年最後だから少し早めに切り上げよう。

 

「じゃあみんな、今日の訓練はここまでにしよう」

 

「えぇ~、もう終わりぃ~?」

 

「今日は少し早いねカナタちゃん、この後何かあるの?」

 

 予測通り、やはりみんなも忘れていたみたい。

 

「何って……今日は今年最後だから早く終わろうと思っただけだよ?」

 

「「「「あっ、忘れてた……!」」」」

 

 まあ毎日訓練に意識して他のことに目が向いていなかったのだろう。私もそうだけど、このパーティ少し政情に疎いとうか周りに関心とかがない気がする。この世界にも新聞は存在しているから、後々全員に読む癖をつけさそう。

 

「カナタちゃん、次の訓練いつにするの?」

 

「そうね……5日後ってのは?」

 

「それじゃあ休み過ぎだよ!」

 

 ケマくんが文句を言う。他のメンバーも少し不満そうな顔をしている。正月休みのつもりだけど、どうやらみんなは早く訓練したいらしい。

 

「じゃあ3日後にしよう。みんなにもそれぞれ家の事情とかありそうだし……どうかな?」

 

「「「「全然いいよ~」」」」

 

 どれだけ訓練したいんだと思いつつ、何とかみんなを説得できた。これにて今年最後の訓練が終了した。

 メンバーは遊び場から解散して各々帰宅しようとする。

 

「さてと、今日も飛んで帰るか。みんな、またね!」

 

「僕はまだ全然動けるんだけどな~……せっかくだし走って帰ろう!じゃあねえ~!」

 

「私はもうヘロヘロ……ゆっくり歩いて帰る。じゃあまたね」

 

「私は特に問題ないから普通に帰るぅ~!じゃあねぇ~!」

 

「あっ、ちょっと待ってキーちゃん!?」

 

 少し気になることがありキーちゃんを引き留める。

 

「どうしたのカナタちゃん?」

 

「確かキーちゃんのパパって私のパパと同じ仕事をしているんだったっけ?」

 

「うん、そうだよぉ~。毎日重い荷物運んで頑張っているんだぁ~!」

 

 鬼人族は他種族の中で一番の怪力だから、そういった力仕事などに向いている。いずれキーちゃんもパーティの中で一番の怪力になってくれるのかな。

 まあそれとは関係なく、念の為に逃がさないようキーちゃんの両肩を掴み聞いてみる。

 

「へ~、そうなんだ~。実はねえ、今日ねえ、私のパパからねえ、キーちゃんのパパからキーちゃんが私に嫌々勉強を教えられているって聞いたらしんだ」

 

「げっ!?」

 

 キーちゃんはたちまち笑顔から不都合な表情へと変える。

 さっき父が言っていた仕事仲間とは、キーちゃんの父親だったみたい。私は少し暗い笑顔のままキーちゃんに問い続ける。

 

「へ~キーちゃん、私に嫌々勉強させられていたんだ。ごめんね~全然気づかなくて」

 

「えぇ~っとぉ~、違うよぉ~、聞いてぇ~!?確かに最初は嫌々だったけどぉ~、最近は勉強も悪くないなぁ~って思えて来たんだよぉ~!?本当だよぉ~?」

 

「でもあの言い方は良くないんじゃないの?まるで私がいじめているみたいな言い方じゃないの?」

 

「あの、その……ごめんなさぁ~い!!」

 

 キーちゃんはそう言いながら私の胸に抱きついて謝罪する。また額の角が私の胸に刺さすけど、いつものスキンシップとは違って今回は強く抱きついて来ているため角が深く刺さる。あまりの激痛に私は悶え苦しむ。

 

「イタイイタイ、刺さっている刺さっているよ!?キーちゃん、角が刺さっている!!」

 

「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 

「分かった、分かったから!私も言い過ぎたよ!?だから離れて!!」

 

 キーちゃんを引き剥がそうとするけど、鬼人族の力のせいで一向に離れない。子供とはいえ流石は鬼人族、同い年の人族の力じゃビクともしない。

 しばらく抱きつくとキーちゃんはようやく落ち着き、私の胸から角を放してくれた。あまりにしつこく問い続けたせいで彼女は少し涙目になっていた。子供相手に少しやり過ぎてしまった。そう反省して彼女の頭を撫でながら他のメンバーに遅れて私たちも帰宅する。

 

 泣きじゃくるキーちゃんを家まで送るまでの間、私は何とか機嫌を戻してもらおうと必死に会話を盛り上げた。彼女は私にとって親友のような存在、私の意地悪したせいで絶縁なんかしたくない。

 そう思いながら話していくと次第にキーちゃんは泣くのを止めて、やがていつものように笑顔を見せてくれるようになった。この喜怒哀楽の変化に流石は子供。無事に笑顔のままキーちゃんを家まで送った後、私も自宅へ帰った。

 

 

星暦2019年 冬の100日 無の日 夜

 

 家に帰った私はお風呂と夕食を済ませて居間で寛いでいる。母は私のそばでお茶を飲みながら新聞を読んでいる。そして父は、今は不在であった。

 

「パパ、帰って来ないね……」

 

 家に帰ってきた時にはすでに父は出かけていた。母曰く、何やらやり残したことがあると言って出掛けたらしいけど、空が完全に暗くなった時間になっても帰って来ない。今までの年末でこんなことはなかった。

 

「そうね。きっとやり残したものが大きかったんじゃないのかしら?さて、私たちはそろそろ寝ましょうか。初日の出を見なきゃいけないし」

 

 母は新聞紙を折りたたみながらそう言って寝室へと向かう。

 ファンタヘルムにも日本のように寺や神社へ初詣に行くという、似たような習慣がある。だけど、それは教会がある王都や他の街に限った話で、そんな施設がないキキラの街はそういったことはできない。その代替案ということで私たちは毎年、初日の出で祈願する。

 この7年間、親同伴で連続初日の出を見てきた。私にとっては毎回無理矢理起こされて、苛立った状態で祈願をしていた。もう寝不足で新年を迎えるのは嫌なので母に続いて寝室へと向かう。

 

「……パパは今日中に帰ってくるかな?」

 

「さあねぇ、こんなことママも初めてだから分からないけど、きっと初日の出までには帰ってくるわよ」

 

 母はそう笑うだけであった。

 その顔に何も言えず黙々と準備が終わり、私と母は父の帰りを待たず先に布団を羽織る。

 

「お休み、カナタ」

 

「おやすみなさい……」

 

 そう言って部屋の明かりを消して就寝した。

 瞼を閉じてもう1時間近くは立っただろうか、一向に眠気が来ない。原因は明白、父がいないというこの状況が気になり、頭が考えるのを止めようとしないから。

 

 もしかして、パパが返って来ないのはお昼の時にした私との口論が原因ッ!?思い当たることと言ったらそれしかない!でも何がいけなかったの……。私が冒険者になるのが嫌だから?でもあの時は何も言わなかったしそれが原因とは……いや、可能性はある。それにあの言い方も良くなかった、あんなに強く言ったら誰だって不機嫌になる。……私って本当にバカ。何で前にも犯した過ちを、また繰り返してしまうの……。

 

 静かな暗い部屋の中、不安を募らせる。頭ではすぐに原因を導くことができないのに、ひたすらに思案を巡らせ続ける。そうしていくうちにようやく睡魔が襲い始めて、母に遅れてようやく眠りにつくことができた。偶然にもその瞬間に、時計の時針分針秒針が12時に同時に刺して、年を越した。

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